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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第9章 ドラン帝国、サハル王国侵攻

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第157話 殿

「撤退する!」


 スコッティ公爵の声が砦に響いた。


「東へ向かう! 王都から来る援軍と合流する!」


「はい!」


「動ける者は負傷者を運べ! 馬車には重傷者を優先して乗せろ! 不要な荷は捨てろ!」


 兵士たちが一斉に動き始めた。


 砦の中には、まだ多くの負傷者がいる。


 肩を借りなければ歩けない者。


 腕から血を流している者。


 横になったまま動けない者もいた。


「こっち」


 ルナが重傷の兵士の前にしゃがむ。


 傷口に手をかざした。


 淡い光が広がる。


「……おお」


 兵士が自分の腹を見る。


「痛みが……」


「まだ無理しないで」


「す、すまない」


 ルナはすぐに次の負傷者へ向かった。


「こちらにも重傷者がいます!」


「分かった」


 次々と治療していく。


 全員を治し切る時間はない。


 それでも、歩ける者が一人増えるだけで撤退は早くなる。


「スコッティ公爵!」


 砦の上から声がした。


 一人の騎士が西を見ている。


「帝国軍が動き始めました!」


 俺も壁へ上がった。


 遠くに土煙が見える。


 さっき退いた帝国兵たちが、隊列を組み直していた。


「早いな……」


「ああ」


 スコッティ公爵が隣に立つ。


 さらに西にも兵影が見えた。


「このままでは増援が来るな」


「はい」


 今のスコッティ軍に、もう一度まともに戦う力はない。


 負傷者も多い。


 補給もない。


「出発する!」


 公爵が叫んだ。


「負傷者を中央へ! 動ける者は周囲を固めろ!」


「はい!」


 門が開く。


 馬車が動き始めた。


 その後ろを負傷兵。


 さらに残った兵士たちが続いていく。


 全員が東へ向かう。


 俺も後に続こうとした。


「閣下!」


 後ろから騎士が走ってきた。


「帝国軍がこちらへ向かっています!」


「数は?」


「かなりの数です!」


 もう来たのか。


 まだこちらは砦を出たばかりだ。


 この速度では追いつかれる。


「……殿が必要です」


 騎士が言った。


 スコッティ公爵が黙る。


 誰かが残らなければならない。


 追ってくる帝国軍を足止めして、その間に本隊との距離を開く。


 俺は一歩前へ出た。


「俺がやります」


「アレン?」


「俺の足なら、後から追いつけます」


「しかし――」


「私もやります!」


 フェリシアが隣へ来た。


「フェリシア」


「私も残ります」


 迷いはない。


 スコッティ公爵が俺たちを見る。


「危険だぞ」


「分かっています」


「……すまない」


 公爵が頭を下げた。


「頼む」


「はい」


 俺とフェリシアは足を止める。


 スコッティ軍だけが東へ進んでいった。


「ルナ!」


 フェリシアが叫ぶ。


 少し離れたところでルナが振り返った。


「負傷者をお願い!」


「分かった!」


 ルナが頷く。


 俺は西を見る。


 帝国兵はもう近い。


 槍。


 剣。


 盾。


 その後ろには弓兵もいる。


 見えるだけでも数百人。


 俺は竜爪剣を抜いた。


 フェリシアも杖を構える。


 背後から聞こえていたスコッティ軍の足音が少しずつ遠ざかっていく。


 三百人は東へ。


 俺とフェリシアだけが、西を向いた。


「来るよ」


「うん」


 帝国兵が俺たちに気づいた。


「あいつだ!」


「さっきの剣士だ!」


「二人しかいない!」


「押し切れ!」


 帝国兵が走ってくる。


 俺も地面を蹴った。


「少しでも時間を稼ぐんだ!」


 先頭の槍をかわす。


 懐へ。


 竜爪剣を振るった。


【55P獲得】


 横から剣。


 受け流して踏み込む。


【45P獲得】


「囲め!」


 左右から兵士が押し寄せる。


「《魔弾》!」


 後ろからフェリシアの声。


 いくつもの光が俺の横を駆け抜けた。


 ドドドドドッ!


「ぐあっ!」


「うわっ!」


 右から回り込もうとした兵たちが崩れる。


「まだ来る!」


「任せて!」


 俺は正面。


 フェリシアは左右。


 前へ出ようとする兵を、二人で押し戻す。


【60P獲得】


【40P獲得】


【55P獲得】


 表示が視界の端を流れていく。


 何人倒したかなんてどうでもいい。


 後ろへ通さない。


 それだけだ。


「少しでも時間を稼ぐんだ!」


 さらに前へ出る。


 帝国兵たちがたじろいだ。


「なんだこいつ!」


「近づくな!」


 その時。


 ヒュッ。


「ぐっ!」


 少し離れた場所にいた兵士の肩へ矢が刺さった。


「まただ!」


「射手を探せ!」


「見つかりません!」


 遠くを見る。


 東へ撤退している兵たちの最後尾。


 小さくルナの姿が見えた。


 弓を構えている。


 矢が飛ぶ。


 帝国兵の一人が倒れた。


「どこから撃ってるんだ!」


「分からない!」


 ルナは後退しながら、もう一度弓を引いた。


 放つ。


 さらに一人。


 そして次の矢を取ろうとして――。


「……」


 手が止まった。


 ルナが矢筒を覗き込む。


「……最後だった」


 空になった矢筒を背負い直す。


「ルナ! こっちにも負傷者がいる!」


「分かった!」


 すぐに負傷兵の方へ走っていった。


 十分だ。


 ここからは俺たちでやる。


「前へ!」


 帝国兵がまた動き始めた。


 俺は竜爪剣を握り直す。


 まだだ。


 もっと時間を稼ぐ。


 向かってきた兵を斬る。


 続いてもう一人。


【50P獲得】


【65P獲得】


「くそっ!」


「近づくな!」


 帝国軍の奥から怒声が飛んだ。


「弓兵! 前へ!」


 兵士たちが左右へ開く。


 その後ろから何十人もの弓兵が出てきた。


 まずい。


「構え!」


 一斉に弓が持ち上がる。


「フェリシア!」


「分かってる!」


「放て!」


 弦が鳴った。


 大量の矢が空へ上がる。


 高く。


 低く。


 左右に広がりながら、俺たちへ降ってくる。


 多い。


 竜爪剣だけでは防ぎ切れない。


「《魔弾》!」


 フェリシアが杖を振った。


 光が生まれる。


 一つ。


 十。


 二十。


 いや、まだ増える。


「え……」


 フェリシアの周囲を、無数の魔弾が埋め尽くした。


 頭上。


 肩の横。


 腰の高さ。


 地面すれすれ。


 いくつもの魔弾が、それぞれ違う位置に浮かんでいる。


 次の瞬間。


 一斉に飛び出した。


 真上へ向かうもの。


 斜め上へ飛ぶもの。


 右へ。


 左へ。


 低い角度から撃ち上がるもの。


 すべて一直線。


 それぞれが最初から別々の矢へ向けて放たれている。


 無数の光の線が空を走った。


 バンッ!


 最初の魔弾が矢を砕く。


 直後。


 バババババババッ!


 次々と光が矢へ突き刺さった。


 正面からぶつかる。


 斜め下から撃ち抜く。


 横から矢軸を叩く。


 何十本もの光の軌跡が空中で交差していく。


 矢が砕ける。


 弾かれる。


 方向を変えて地面へ落ちる。


 さらに魔弾が飛ぶ。


 一本の光が一本の矢へ。


 別の光が別の矢へ。


 そのすぐ横を、また別の魔弾が一直線に駆け抜ける。


 ババババババババッ!


 空いっぱいに炸裂音が続いた。


 最後の一本。


 斜め下から飛んできた魔弾がぶつかる。


 パンッ!


 折れた矢が俺の前に落ちた。


「……」


 一本も届かなかった。


 地面には大量の矢が散らばっている。


 俺は振り返った。


 フェリシアが杖を構えている。


「……すごい」


 思わず声が出た。


 フェリシアは答えない。


 すでに次の魔弾を作っていた。


 帝国兵たちも動きを止めている。


「全部……落とした?」


「今の矢を全部か?」


「なんなんだ、こいつら……」


 その声が聞こえた。


 だったら今だ。


 俺は地面を蹴った。


「行く!」


「なっ!」


 懐へ飛び込む。


 竜爪剣を振るった。


【70P獲得】


「《魔弾》!」


 ドドドドドッ!


 左へ回り込もうとした兵たちが崩れる。


「右から行け!」


 右へ兵が動く。


 俺が走った。


 先頭を斬る。


 後ろの兵が止まる。


「中央を抜けろ!」


「《魔弾》!」


 またフェリシア。


 爆発音。


 進もうとする。


 止める。


 方向を変える。


 そこも止める。


「くそっ!」


「たった二人だぞ!」


「抜けないのか!」


 帝国兵の怒声が飛び交う。


 それでも通さない。


 後ろには負傷兵がいる。


 スコッティ軍がいる。


「少しでも時間を稼ぐんだ!」


 竜爪剣を振るう。


【55P獲得】


【50P獲得】


【80P獲得】


 ポイント表示が次々と流れる。


 フェリシアの魔弾が頭上を駆け抜ける。


 どれだけ戦ったか分からない。


 でも。


「アレン!」


 フェリシアが叫んだ。


 振り返る。


「もう見えない!」


 東を見る。


 スコッティ軍の姿が消えている。


 街道の先にも誰もいない。


 十分だ。


「分かった!」


 ここまで。


「下がるよ!」


「うん!」


 俺たちは同時に東へ走った。


「逃がすな!」


「追え!」


 帝国兵が追ってくる。


 その中から騎兵が飛び出した。


 速い。


「フェリシア、先に!」


「うん!」


 一度だけ足を止める。


 馬が迫る。


 直前でかわした。


 すれ違いざまに竜爪剣を振るう。


「ぐっ!」


【140P獲得】


 騎手が落ちた。


 続く騎兵も足を止める。


「アレン!」


「今行く!」


 すぐに走る。


 後ろから矢。


「《魔弾》!」


 フェリシアが振り返り、杖を振った。


 いくつもの魔弾が一直線に飛ぶ。


 飛んできた矢へ正面からぶつかり、次々と弾き落とした。


 そのまま二人で走る。


 帝国兵の声が遠くなる。


 さらに走った。


 やがて何も聞こえなくなった。


 ◇


「追撃をやめろ!」


 帝国軍の指揮官が叫んだ。


「止まれ! これ以上追うな!」


 兵士たちが足を止める。


 道には倒れた兵。


 折れた矢。


 魔法が炸裂した跡。


 たった二人を突破できなかった。


「……何なんだ」


 指揮官が東を見る。


 二人の姿はもうない。


「あの男は何者だ?」


 近くの兵士が答える。


「アレン・ヴァルディスです」


「アレン?」


「冒険者です」


 別の兵士が顔を上げた。


「待て」


「何だ?」


「アレン・ヴァルディス……」


 一瞬考え込み、目を見開く。


「前の戦いで、帝国の《剣聖》を倒した冒険者か」


 指揮官が黙った。


 そして、もう一度東を見る。


「……あれが」


 ◇


 しばらく走ると、前方に人影が見えた。


「アレン!」


 ルナだ。


 テリーとステフもいる。


 その向こうにスコッティ軍もいる。


 追いついた。


「よかった……」


 フェリシアが息を吐く。


 スコッティ公爵がこちらへ歩いてきた。


「無事だったか」


「はい」


「帝国軍は?」


「追撃をやめました」


「……そうか」


 公爵が大きく息を吐いた。


「助かった」


 周囲を見る。


 負傷兵たちもいる。


 さっきより自分で歩ける者が増えていた。


 ルナが治療してくれたんだろう。


 俺は視界の表示を見る。


【保有:22,450P】


【累計獲得P:472,160P】


 戦う前より四千三百五十P増えている。


 だけど、今はそれより。


 スコッティ公爵が東を見る。


「これで援軍のところまで行ける」


「はい」


「ああ。まずは生き残る」


 公爵は一度目を閉じた。


 そして、西を振り返る。


 自分の領地がある方向。


「そして――」


 傷だらけの拳を握った。


「必ず戻ってくる」


 帝国軍との戦いは、まだ終わっていない。


【保有:22,450P】

【累計獲得P:472,160P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
そろそろネームドになっても良いんじゃないかと 敵軍内でいちいち過去の実績(自軍の負け戦を思い起こす内容)で確認し合うのは士気に影響出るんじゃないかな
「前の戦いで、帝国の《剣聖》を倒した冒険者か」  指揮官が黙った。 ↑ 自国のことを『帝国の』って言うのはおかしいかと。 『我々の』や『我が国の』とか、もしくは『帝国の』を無くす方が違和感ないと思われ…
「フェリシア!」 「分かってる!」 こういう掛け合いあっちでもあるけど毎回ワンパターンなのが気になって仕方無い 「任せて」とかキャラに個性があっても良いのだけれど
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