第155話 残された騎士たち
ベルガント伯爵から受け取った地図を頼りに、西へ進む。
スコッティ公爵が最後に確認された場所へ近づくほど、戦いの跡が増えていった。
壊れた荷車。
捨てられた槍。
倒れた馬。
焼けた天幕。
「……」
フェリシアが辺りを見る。
「ここまで押し込まれてるんだね」
「うん」
街道の脇には、誰も使っていない武器がいくつも落ちている。
兵士たちは持っていく余裕もなかったのかもしれない。
「アレン」
ルナが前を見る。
「何か聞こえる?」
「まだ何も」
「俺も見てみる」
《魔力感知》を広げる。
「……いる」
「帝国兵?」
「分からない。でも近い」
反応は二十人以上。
街道から少し外れた場所だ。
「慎重に行こう」
「うん」
俺たちは速度を落とした。
◇
「止まれ!」
森の中から声が飛んできた。
同時に何人もの兵士が姿を現す。
剣。
槍。
弓。
でも帝国兵じゃない。
鎧にはスコッティ家の紋章があった。
「スコッティ軍?」
「何者だ!」
前に出てきた騎士が剣を構える。
「冒険者です」
「冒険者?」
「ベルガント伯爵の依頼で来ました」
「伯爵の?」
「スコッティ公爵を探しています」
「……」
騎士たちの表情が変わった。
「公爵閣下を?」
「はい」
前にいた騎士が剣を下ろす。
「閣下は生きておられる」
「本当ですか?」
「ああ」
よかった。
まずは生きている。
「どこに?」
騎士が西を見る。
「セイル大橋の東側だ」
「橋の東?」
「ああ。大橋の少し北に古い砦がある」
「砦?」
「昔、この辺りを守るために使われていたものだ。今は常設の兵こそ少ないが、石壁と門は残っている」
「そこに公爵が?」
「ああ。残存兵を集めているはずだ」
「どれくらい?」
「おそらく三百ほどだ。ただ、まともに戦える兵はもっと少ないはずだ」
怪我人。
疲れ切った兵。
武器を失った者。
「帝国軍は?」
フェリシアが聞く。
騎士の顔が険しくなる。
「少なくとも千。さらに増えている」
「千……」
三百対千。
それだけでも厳しい。
「どうして公爵はそこに残ってるんですか?」
ルナが聞く。
「兵と住民を逃がすためだ」
騎士が答える。
「帝国軍がセイル大橋を越えてきたあと、各地から敗走した兵や住民が東へ逃げてきた」
「それを逃がすために?」
「ああ。公爵閣下は砦に残られた。一人でも多く逃がすためだ」
「……」
古い砦で帝国軍を止め、その間に兵や住民をベルガント方面へ逃がしている。
「今も戦ってるんですね」
「ああ」
「どれくらい持ちますか?」
俺が聞く。
騎士が黙った。
「……」
「どれくらい?」
もう一度聞く。
騎士が顔を上げた。
「次に総攻撃でもあれば厳しいだろう」
「……」
フェリシアとルナを見る。
二人とも何も言わないが、顔を見れば分かる。
「案内してください」
「行くのか?」
「はい」
「千以上いるぞ」
「分かってます」
騎士が俺を見る。
「ベルガント伯爵から、公爵を連れて戻るように頼まれています」
「そうか」
「だから行きます」
騎士が頷いた。
「分かった。ついてこい」
◇
森を抜けると、少し高い場所へ出た。
「……」
見えた。
セイル川。
その上に架かる大きな石橋。
セイル大橋。
「ここが……」
以前見た時とは、まるで違う。
橋の周囲には帝国兵がいる。
そして橋の東側、少し離れた場所に古い砦があった。
大きくはないが、石壁と門は残っている。
「おそらく公爵閣下はあそこだ」
騎士が指差した。
砦の周囲を帝国兵が埋め尽くしている。
「……千?」
ルナが呟く。
「もっといるかも」
フェリシアが言う。
俺も《魔力感知》を広げる。
「多い」
「どれくらい?」
「数えきれない」
砦の中にも人の反応はある。
でも外の方が圧倒的に多い。
「やつらはセイル大橋から何度も部隊を送り込んできた。そのたびに戦って、少しずつ押し込まれた」
「今はあの砦が最後?」
「そうだ」
その時。
ゴーン。
「!」
遠くで鐘が鳴った。
「何?」
ルナが耳を澄ませる。
もう一度。
ゴーン。
ゴーン。
騎士の顔色が変わった。
「始まる」
「何が?」
「総攻撃だ」
次の瞬間。
「オオオオオオッ!」
帝国軍から大きな声が上がった。
地面が震える。
「まずい!」
スコッティ公爵の騎士が叫ぶ。
帝国兵が一斉に砦へ向かって動き出す。
「弓兵!」
矢が飛ぶ。
砦の壁。
盾。
屋根。
次々と刺さった。
「門へ!」
何人もの兵が大きな丸太を運ぶ。
ドンッ!
砦の門へぶつかった。
もう一度。
ドンッ!
門が大きく揺れる。
「公爵閣下!」
騎士が叫ぶ。
砦の上に人影が見えた。
傷だらけの鎧を着て、剣を持っている。
「下がるな!」
声が響く。
「門を守れ!」
周りの兵士が動く。
「スコッティ公爵!?」
生きている。
今も戦っているんだ。
ドンッ!
再び門が揺れた。
木が割れる音。
「まずい」
フェリシアが言う。
「うん」
さらに。
ドンッ!
バキッ!
門の一部が壊れた。
「アレン」
ルナが俺を見る。
「行こう」
竜爪剣を抜く。
「フェリシア」
「うん」
「ルナ」
「うん」
「テリーとステフは後ろ」
「分かった」
「ワフッ!」
「キュ!」
砦を見る。
押し寄せる帝国兵。
その向こうにスコッティ公爵がいる。
「行くよ」
地面を蹴った。
俺たちは帝国軍の大群へ飛び込んだ。
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