第153話 風のように
「急ごう」
俺たちは助け出した村人たちを連れ、東へ向かった。
地図には【東街道封鎖】と書かれていた。
クロードさんたちは、この先を進んでいる。
老人。
怪我人。
子供。
走れる人ばかりじゃない。
思うように進めない。
「……」
何度も東を見る。
「アレン」
フェリシアが俺を見る。
「うん」
分かってる。
焦っても仕方がない。
でも、もし本当に帝国兵が待っているなら……。
その時。
「……待って」
ルナが足を止めた。
「どうした?」
耳を澄ませる。
「音がする」
「どっち?」
「北から東に向かってる」
俺も《魔力感知》を広げる。
「……そうだね」
「帝国兵?」
「たぶん。かなり多い」
さらに。
「戦ってる」
「クロードさんたち?」
「多分」
ルナの表情が変わる。
「悲鳴も聞こえる」
「……」
村人たちを見る。
このまま全員で進めば遅い。
「ルナ」
「うん」
「この人たちをお願い」
「分かった」
「テリーとステフも」
「任せて」
「フェリシア」
「行こう」
俺とフェリシアは走り出した。
◇
近づくほど、音が大きくなっていく。
剣。
怒鳴り声。
悲鳴。
そして煙が上がっている。
「……また」
フェリシアが呟いた。
街道沿いの小さな集落。
何軒もの家が燃えている。
住民が逃げていた。
「急げ!」
「走れ!」
老人。
子供。
荷物を抱えた人。
その後ろから帝国兵。
「待て!」
逃げる住民を追っている。
一人の老人が転んだ。
「おじいちゃん!」
少女が振り返る。
「来るな!」
老人が叫ぶ。
帝国兵が近づく。
剣を振り上げた。
「……っ!」
地面を蹴る。
一瞬。
身体が前へ飛んだ。
帝国兵がこちらを見る。
「な――」
竜爪剣。
一閃。
帝国兵が倒れた。
【人間討伐を確認しました】
【55P獲得】
「え……」
老人が俺を見る。
「早く逃げて!」
「は、はい!」
「止まらないで!」
フェリシアが後ろから叫ぶ。
「《魔弾》!」
白い光。
別の帝国兵を吹き飛ばす。
「行こう!」
「うん!」
さらに奥へ走った。
◇
「右だ!」
クロードさんの声。
「おう!」
ボルクさんが大盾を構える。
帝国兵の剣を受けた。
ガンッ!
そのまま盾を前へ押し出す。
「ぐっ!」
兵士がよろける。
そこへクロードさん。
一閃。
「次!」
「来るわ!」
リディアさんが魔法を放つ。
爆発。
帝国兵の進路が崩れた。
その後ろではセシルさんが負傷した住民を治療している。
でも。
「多い……」
帝国兵は百人どころじゃない。
百五十。
いや、さらにいる。
一部はクロードさんたちと戦っている。
別の兵は逃げる住民を追っていた。
「逃がすな!」
「東へ行かせるな!」
「……」
クロードさんたちだけでは全部は止められない。
「行くよ!」
「うん!」
地面を蹴った。
◇
「左から来る!」
クロードさんが叫ぶ。
帝国兵が五人。
住民へ回り込む。
「くそっ!」
その時。
一人。
倒れた。
「……?」
二人目。
三人目。
帝国兵たちが振り返る。
「何だ!?」
「どこだ!」
俺はもう、その横を抜けていた。
四人目。
一閃。
【45P獲得】
次。
【60P獲得】
さらに。
【40P獲得】
「なっ……」
一人が俺を捉えようとする。
でも。
遅い。
剣を振る前に、その横へ。
一撃。
「敵だ!」
「囲め!」
帝国兵が集まってくる。
十人。
十五人。
さらに後ろから。
でも、数は関係なかった。
右から剣。
左から槍。
正面。
背後。
全部見える。
かわしながら斬る。
槍を弾く。
踏み込む。
また斬る。
【70P獲得】
【55P獲得】
【45P獲得】
視界の端を表示が流れていく。
「な、なんだこいつ!」
「速すぎる!」
声だけが後ろへ流れる。
住民へ向かう兵を次々と斬っていく。
次。
さらに次。
立ち止まらない。
風のように帝国兵の間を抜けていく。
一人。
二人。
三人。
斬る。
踏み込む。
また斬る。
そのたびに【P獲得】【P獲得】【P獲得】と表示が次々に重なっていく。
「弓兵!」
奥で男が叫んだ。
「撃て!」
十人以上が弓を構える。
「……」
地面を蹴る。
「え?」
弓兵の一人と目が合った。
もう目の前。
一閃。
横へ。
二人目。
三人目。
さらに奥。
「撃て!」
遅い。
矢が放たれるより早く。
弓兵の列を駆け抜ける。
【P獲得】
【P獲得】
【P獲得】
【P獲得】
弓が次々と地面へ落ちた。
「弓兵は!?」
「やられました!」
「何人だ!」
「ぜ、全員です!」
「馬鹿な!」
次は指揮官らしい男。
「こいつを止めろ!」
二十人ほどが前へ出る。
その向こうに隊長。
「……」
なら!
一直線に踏み込む。
「来るぞ!」
一人目。
二人目。
剣を弾く。
一撃。
三人。
四人。
五人。
止まらない。
敵の間に一本の道ができていく。
「消え――」
隊長の声が途中で止まった。
一閃。
倒れる。
「隊長が!」
帝国兵の列が乱れた。
「アレン!」
クロードさん。
一瞬だけ目が合う。
驚いている。
でも、すぐに剣を構え直した。
「前よりも、はるかに強くなってるな!」
「はい!」
それだけ。
また戦闘へ戻る。
「ボルク!」
「おう!」
ボルクさんが盾で帝国兵の剣を受ける。
前へ押し返す。
体勢を崩した兵をクロードさんが斬った。
「リディア!」
「任せて!」
火球。
爆発。
帝国兵が散る。
「フェリシア!」
「分かってる!」
「《魔弾》!」
白い光。
一発。
二発。
三発。
俺のすぐ横を抜けていく。
後ろから迫っていた帝国兵だけを撃ち抜いた。
「ぐあっ!」
「うっ!」
俺も止まらない。
右。
左。
正面。
次。
さらに次。
【P獲得】
【P獲得】
【P獲得】
もう表示を確認している余裕もない。
ただ、倒すたびに視界の端で数字だけが増えていく。
◇
「こっち!」
少し遅れて。
ルナが来た。
村人たちを街道から離れた場所へ誘導する。
「ここから動かないで!」
「はい!」
「テリー!」
「ワフッ!」
「ステフ!」
「キュ!」
二匹もそばにいる。
ルナが弓を構えた。
「アレン!」
「うん!」
矢。
俺へ向かっていた兵の腕。
次。
住民へ向かおうとした兵の脚。
さらに家の陰から回り込む兵。
正確に射抜いていく。
「くそっ!」
「こいつら何なんだ!」
帝国兵たちが混乱する。
最初は百五十人以上いた。
しかし、見る間に減っていった。
その大半を俺が倒している。
五十。
六十。
もう数えていない。
ただ、剣を振るたびPの数字だけが積み上がる。
「撤退!」
ついに一人が叫んだ。
「退け!」
「逃げろ!」
帝国兵が西と北へ逃げ始める。
「アレン!」
クロードさんが叫ぶ。
「こいつらは逃がすな!」
「はい!」
俺も同じことを考えていた。
こいつらは逃げる住民を追っていた。
倒れた人にも剣を向けていた。
ここで逃がせば、また別の場所で同じことをするかもしれない。
走る。
「ひっ!」
逃げる帝国兵へ追いつく。
一閃。
【P獲得】
次。
さらに次。
【P獲得】
【P獲得】
「ま、待て!」
まだ剣を握っている。
一撃。
その奥。
一人の兵が剣を投げ捨てた。
「降参する!」
「地面に伏せろ!」
「は、はい!」
武器を捨てた兵は斬らない。
でも、武器を持ったまま逃げる兵は止める。
一人。
二人。
三人。
風のように追いつく。
斬る。
次。
また次。
やがて、剣の音が減っていった。
◇
「……」
静かになった。
聞こえるのは、燃える家の音。
泣いている人の声。
荒い呼吸。
周囲を見る。
帝国兵のほとんどが倒れている。
残った者は武器を捨て、地面に伏せていた。
「終わった?」
フェリシアが言う。
「うん」
《魔力感知》。
近くに大きな敵の反応はない。
竜爪剣についた血を払う。
《会員》を開いた。
「……」
表示を見る。
【今回の討伐数:100】
「百人……」
自分で口にして改めて数字の大きさに気づく。
そして。
【獲得:5,400P】
【保有:11,300P】
【累計獲得P:461,010P】
「五千四百P……」
フェリシアが聞いてくる。
「そんなに増えたの?」
「うん」
これだけの人数を倒した。
当然といえば当然なのかもしれない。
でも、嬉しいとは思えなかった。
顔を上げる。
ここはPを稼ぐために来た場所じゃない。
「アレン」
クロードさんが歩いてきた。
「はい」
俺を見る。
倒れている帝国兵を見る。
そして、もう一度俺を見る。
「前よりも、はるかに強くなってるな」
「はい」
「百人近くを、ほとんど一人でか」
「……はい」
クロードさんは短く頷いた。
それ以上は何も言わない。
俺も集落を見る。
「それにしても」
フェリシアが言う。
「この人たち、どこから来たんだろう?」
「ああ」
俺も気になっていた。
さっきの帝国軍。
西だけじゃない。
北側からも次々と流れ込んできていた。
クロードさんが北を見る。
「どうやら状況が変わったらしい」
「状況?」
「ああ」
クロードさんの表情が険しくなる。
「ドレイモンド公爵領を知ってるか?」
「スコッティ領の北ですよね?」
「そうだ」
クロードさんが頷く。
「俺も少し前に騎士から聞いたばかりだ」
少し間を置く。
「帝国軍は北のドレイモンド公爵領にも侵攻したらしい」
「北にも?」
「ああ」
「じゃあ、この部隊は」
「おそらくそっちから南下してきた」
ルナも近づいてくる。
「ドレイモンド公爵軍は?」
クロードさんが黙る。
表情がさらに険しくなった。
「壊滅したらしい」
「……」
「公爵軍が?」
フェリシアが聞き返す。
「ああ」
クロードさんが頷く。
「帝国軍はドレイモンド公爵軍を壊滅させ、そのまま南へ入った」
「スコッティ領へ?」
「そうだ」
さらに。
クロードさんが東を見る。
「どうやら、そのままベルガントを目指してるようだ」
「ベルガントを……」
「ああ」
西からスコッティ領へ入った帝国軍。
さらに北からドレイモンド公爵領を突破した帝国軍。
その両方が東を狙っている。
「だから、こんなにいろんな場所に帝国兵がいるんだ」
ルナが呟く。
「おそらくな」
クロードさんが答える。
「……」
スコッティ公爵軍。
壊滅状態。
今度はドレイモンド公爵軍まで。
「これ以上、ここで考えていても分からん」
クロードさんが剣を鞘へ戻す。
「一旦、ベルガント伯爵の陣へ行くぞ」
「伯爵のところへ?」
「ああ」
「前線が今どうなってるのか、確認した方がいい」
「分かりました」
「うん」
フェリシアとルナも頷く。
まだ、戦争の全体が見えていない。
帝国軍はどれだけいるのか。
どこまで進んでいるのか。
そして、ベルガント軍は今どうなっているのか。
「行こう」
俺たちはベルガント伯爵の陣へ向かった。
【保有:11,300P】
【累計獲得P:461,010P】
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