第147話 再びサハルへ
聖都セレディアに来てから、三週間が過ぎた。
その間も、ドラン帝国について情報を集めた。
商人。
冒険者。
聖職者。
ドランから来たという人がいれば話を聞いた。
でも、連れ去られた魔物について有力な情報は得られなかった。
ドラン帝国へ入る方法も見つからない。
「今日も駄目だったね」
フェリシアが言う。
「うん」
「明日は?」
「ダンジョン行こうか」
「そうしよう」
情報を探しているだけでは時間がもったいない。
だから、空いた日は冒険者ギルドの依頼を受けた。
セレディア近郊のダンジョン。
街道沿いの討伐依頼。
魔物を倒す。
素材を持ち帰る。
依頼を達成する。
そんな日を繰り返した。
その間に、ステフも少しずつ成長した。
「キュ!」
ふわっ。
以前より高く浮かぶ。
今では俺の頭より上まで飛べるようになっていた。
「結構飛べるようになったね」
ルナが見上げる。
「キュ!」
「ワフッ!」
テリーが走り出した。
「キュ!」
ステフも追いかける。
まだ速さでは全然かなわない。
それでも、以前よりずっと長く飛んでいられる。
火も。
「キュウウウ……!」
ぼっ。
「あ」
小さい。
でも、ちゃんと炎が出た。
「また出た!」
「キュ!」
ステフが嬉しそうに羽を広げる。
三週間で、討伐と依頼達成によって三万六千四百P。
依頼料と素材の売却で、一千二百六十万ジェニーを手に入れた。
【保有:124,010P】
【累計獲得P:453,720P】
「かなり増えたね」
ルナが言う。
「うん」
「また何か買えるんじゃない?」
「買えると思う」
「何買うの?」
「まだ決めてない」
そんな話をしながら、その日もギルドへ戻った。
中へ入ると、いつもより騒がしかった。
「何かあったのかな」
ルナが辺りを見る。
何人もの冒険者が、一つのテーブルを囲んでいる。
「またドランだってよ」
その言葉が聞こえた。
足が止まる。
「ドラン?」
フェリシアも聞こえたらしい。
近くへ行く。
「何があったんですか?」
俺が聞く。
冒険者の男が振り返った。
「知らないのか?」
「はい」
「ドラン帝国軍が、またサハルへ入ろうとしているらしい」
「……」
サハル。
胸がざわつく。
「どこですか?」
「スコッティ公爵領だ」
「……え?」
思わず聞き返した。
「スコッティ公爵領?」
「ああ」
前にもドラン帝国軍が侵攻した場所だ。
俺もそこで戦った。
「どれくらいの規模なんですか?」
「まだはっきりしねえ」
別の冒険者が口を挟む。
「でも前回の比じゃないらしいぞ」
「前回より?」
「ああ。国境沿いだけで一万を超えてるって話もある」
「それ以上って噂も聞いたぞ」
「本気で領土を取りに来たんじゃないかって話だ」
「……」
周囲でも声が飛び交っている。
「アルスレインとも揉めてるんじゃなかったのか?」
「だから驚いてんだろ」
「ドランは何考えてんだ」
どこまで本当かは分からない。
どうやら、スコッティ公爵領へ再び侵攻したらしい。
前回よりさらに大規模らしい。
そこだけは、誰の話でも同じだった。
「アレン」
ルナが俺を見る。
「うん」
受付へ向かう。
「すみません」
「はい」
「スコッティ公爵領の話、詳しく分かりますか?」
「はい。こちらにも今日、情報が入りました」
受付の女性が表情を引き締める。
「ドラン帝国軍がサハル王国へ侵入したことは確認されています」
「規模は?」
「正確な兵数までは分かっていません。ただ、前回より大規模だという報告は複数入っています」
「そうですか」
「今後、さらに詳しい情報が届くと思います」
「ありがとうございます」
受付を離れた。
頭の中に、前回のことが浮かぶ。
スコッティ公爵領。
スコッティ公爵家の人たち。
「アレン?」
フェリシアに呼ばれる。
「……何?」
「宿に戻ろう」
「うん」
◇
宿へ戻り、食堂で夕食を取った。
「ワフッ!」
「キュ!」
テリーとステフはいつも通りだった。
でも、俺はずっとスコッティ公爵領のことを考えていた。
「気になる?」
ルナが聞く。
「うん」
椅子へ座る。
「俺はもう家を出た」
二人が黙って聞く。
「ヴァルディス家の跡取りじゃない」
サハル王国のために戦わなければならない立場でもない。
行かないという選択もできる。
でも。
「放っておけない?」
フェリシアが聞いた。
「……うん」
前に戦った場所だからかもしれない。
知っている人がいるからかもしれない。
生まれ育った国だからかもしれない。
一つだけじゃない。
「前回より大軍なんだよね」
ルナが言う。
「らしい」
「アレンが戻ったからって、戦争を止められるとは限らないよ」
「分かってる」
俺一人でどうにかできるなんて思っていない。
でも、あの時より俺は強くなった。
《会員》で能力も増えた。
「俺にできることがあるかもしれない」
「……」
「何もできないかもしれないけど」
ここで噂を待っているより、自分の目で見たい。
「サハルへ戻ろうと思う」
口に出した。
ルナとフェリシアが顔を見合わせる。
「スコッティ公爵領に?」
「いや、まずはベルガントへ戻る」
「戦争に参加するの?」
「まだ決めてない」
首を振る。
「状況を見たい」
どれだけの軍が来ているのか。
サハル側がどうなっているのか。
自分に何ができるのか。
「それを見てから決める」
「分かった」
フェリシアが言った。
「え?」
「行こう」
「でも」
「一人で行くつもり?」
「いや……」
「じゃあ一緒でしょ」
ルナも頷く。
「私も行くよ」
「戦争になるかもしれないよ」
「前も一緒にいたでしょ」
「そうだけど」
「今さらだよ」
ルナが笑った。
「三人でパーティ組んでるんでしょ?」
「うん」
「じゃあ決まり」
「ワフッ!」
「キュ!」
テリーとステフまで鳴いた。
「この子たちも行くって」
ルナが言う。
「……ありがとう」
三週間。
俺たちはドランへ入る方法を探した。
でも、見つからなかった。
そのドラン帝国がまたサハルへ攻め込んできた。
しかも、前回より大きな軍勢で。
連れ去られた魔物のことと関係があるのか。
それはまだ分からない。
でも。
「明日、出よう」
「うん」
「分かった」
次の目的地が決まった。
サハル王国。
【保有:124,010P】
【累計獲得P:453,720P】
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