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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第8章 アルスレイン王国

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145/200

第145話 二十四日の旅

 翌朝。


 宿を出た俺たちは、まずベイルン家の王都屋敷へ向かった。


「ミラディアへ向かわれるのですか?」


「はい」


 昨日、王宮からの返答を伝えてくれた男性が聞き返す。


「アルスレインからドラン帝国へ入るのは諦めます。聖教領ミラディアから入る方法を探してみようと思います」


「そうですか」


 男性が頷いた。


「承知しました。バルド様にもお伝えしておきます」


「お願いします。それと、色々調べてもらってありがとうございましたって」


「必ずお伝えします」


「ガイルにも、また会ったらよろしくって伝えてください」


「かしこまりました」


 これでアルスレイン王国での用事は終わった。


 屋敷を出る。


「次は買い物だね」


 ルナが言う。


「うん」


 ここからミラディア中央部までは遠い。


 地図を見る限り、二十日以上はかかりそうだった。


 保存食。


 水。


 薬。


 包帯。


 雨具。


 それから、テリーとステフ用の肉。


「肉、多めにしないとね」


「ワフッ!」


「キュ!」


 二頭が同時に声を上げた。


 必要なものを買い、《収納》へ入れていく。


 昼前。


 準備を終えた俺たちは、アルスレイン王都の東門を出た。


 ◇


 王都を離れていく。


 振り返ると、高い城壁がまだ遠くに見えた。


「結構いたね」


 ルナが言う。


「うん」


「最初はドランに行くために寄っただけだったのに」


「色々あったね」


 王都での出来事を思い出す。


「南西の掃除屋か……」


「それはいらない」


 ルナがすぐに言った。


 フェリシアが笑う。


 春の風が吹いた。


 朝はまだ少し冷える。


 でも、昼の日差しは暖かい。


 街道の両側には畑が広がり、伸び始めた草が風に揺れていた。


 ところどころに黄色や白の小さな花も咲いている。


「春って気持ちいいね」


 ルナが言う。


「うん」


「キュ!」


 肩にいたステフが浮かんだ。


 ふよ。


 ふよ。


 俺の横を飛ぶ。


「前より安定してる」


 フェリシアが言った。


「キュ!」


「ワフッ!」


 テリーが走り出す。


「キュ!」


 ステフも追いかけた。


 でも、まだテリーの方がずっと速い。


 ステフは低いところをふよふよ進み。


 しばらくすると。


 ぽてっ。


 地面へ降りた。


「ワフ!」


 テリーが戻ってくる。


「キュ!」


 ステフがまた追いかける。


「全然諦めないね」


 ルナが笑った。


 ◇


 旅を始めて四日。


 ローヴェル領へ入った。


 王都周辺ほど人は多くない。


 街道沿いに続いていた畑も少しずつ途切れ、代わりに森や低い丘が増えていった。


 朝の木々の間には薄い霧が残っている。


 若い葉の先についた水滴が、差し込んだ朝日に光っていた。


 昼になれば霧は消え、鳥の声が森の奥から聞こえてくる。


 風が吹くたび、柔らかい葉が擦れ合った。


 湿った土と草の匂い。


「王都の近くとは全然違うね」


 フェリシアが森を見上げる。


「うん」


 夜は町や村の宿を使う日もあれば、野営する日もあった。


 ◇


 六日目。


 その日は予定していた町まで辿り着けなかった。


「暗くなってきたね」


 ルナが空を見る。


「今日はこの辺りで野営した方がいいかも」


「そうしよう」


 街道から少し外れた場所を探す。


 森の近くは、昼間とはまるで違っていた。


 高い木々が空を覆い、夕方の光を遮っている。


 少し前まで聞こえていた鳥の声も、いつの間にか消えていた。


「静かだね」


 フェリシアが小さな声で言う。


「うん」


 その時。


 《魔力感知》に反応があった。


「……いる」


「魔物?」


「うん」


 立ち止まる。


 右。


 左。


 後ろ。


「たくさんいるな」


 ルナが弓を構えた。


 フェリシアも杖を持つ。


「何体?」


「六体」


 茂みの奥。


 何かが動いた。


 ゆっくりと姿を現す。


 黒い毛。


 大きな身体。


 暗い森の中では、ほとんど姿が見えない。


「何、あれ」


 ルナが呟く。


 《鑑定》。


【シャドウウルフ】


【夜間や暗い森を好む狼型の魔物】


【群れで獲物を囲み、死角から襲う】


「シャドウウルフ」


「初めて見るね」


 低い唸り声が聞こえた。


「グルルル……」


 六体が少しずつ距離を詰めてくる。


「ワフ……」


 テリーも低く唸った。


 いつもの鳴き方じゃない。


「キュ……」


 ステフがテリーを見る。


 それから俺を見た。


「ステフは後ろにいて」


「キュ」


 前を見る。


 一体が地面を蹴った。


「来る!」


 速い。


 黒い影が一気に近づいてくる。


 竜爪剣を抜く。


 一歩踏み込む。


 斬る。


「ギャウッ!」


 一体目。


【シャドウウルフを討伐しました】


【200P獲得】


 左右から二体。


「《魔弾》!」


 フェリシアの魔弾が一体を吹き飛ばす。


 もう一体へルナの矢が刺さった。


「ワフッ!」


 テリーが別の一体へ飛びかかる。


 残り二体。


 一体が俺へ。


 もう一体が横へ回る。


「アレン、右!」


「分かってる!」


 正面の一体を斬る。


【シャドウウルフを討伐しました】


【200P獲得】


 その瞬間。


「キュ!」


「え?」


 ステフが俺の前へ飛び出した。


「ステフ!」


 横から回り込んだシャドウウルフが迫る。


「キュウウウ……!」


 ステフが大きく口を開いた。


 ぷすっ。


 煙。


「キュ!?」


「下がれ!」


 ステフを抱えて横へ跳ぶ。


 牙が目の前を通り過ぎた。


 着地。


 すぐに竜爪剣を振る。


「ギャッ!」


【シャドウウルフを討伐しました】


【200P獲得】


 最後の一体も。


「ワフッ!」


 テリーが地面へ押さえ込んだ。


 フェリシアの魔弾が飛ぶ。


 静かになった。


「……終わった?」


「うん」


 周囲を確認する。


 反応はない。


 腕の中を見る。


「ステフ」


「キュ?」


「危ないだろ」


「キュ……」


「俺を守ろうとしたの?」


「キュ!」


「……」


 小さな身体。


 まだまともに飛ぶこともできない。


 火だって出ない。


 それでも俺の前へ出ようとした。


「ありがとう」


 頭を撫でる。


「でも、まだ危ないからね」


「キュ!」


 分かってるのかな。


「びっくりした」


 ルナが近づいてくる。


「私も」


 フェリシアが笑った。


「でも、ステフなりにアレンを守ろうとしたんだろうね」


「多分」


「キュ!」


 得意そうに鳴いた。


「そこは得意になるところじゃないよ」


 ルナが笑う。


【保有:87,610P】


【累計獲得P:417,320P】


 ◇


 八日目。


 ベイルン領へ入った。


 景色はまた変わる。


 柵に囲まれた牧草地。


 その向こうには牛や羊の群れ。


「あ、羊」


 ルナが指を差した。


「いっぱいだね」


「ガイルの家で肉ばっかり出てきた理由、分かる気がする」


「確かに」


 街道沿いの町では、肉を焼く匂いが漂っている。


 革製品の店。


 馬具を扱う店。


 アルスレイン王都とは違う、ベイルン領らしい景色だった。


「ガイルたち、もう目的地に着いたかな」


 フェリシアが言う。


「着いてると思うよ」


「ナッシュ、元気かな」


「元気だといいね」


「キュ?」


 ステフが俺を見る。


「ナッシュの話だよ」


「キュ!」


 羽をぱたぱた動かした。


 ◇


 十一日目。


 遠くから水音が聞こえてきた。


 街道を進む。


 木々が途切れる。


 その先に。


「見えた」


 ラグナ河。


 広い水面。


 ゆっくりと流れる大河。


 春だからなのか、以前より水量が多いようにも見える。


 陽の光が水面で細かく揺れていた。


 川を渡ってくる風は冷たい。


「戻ってきたね」


 フェリシアが言う。


「うん」


 前はセルヴァンからここを渡って、アルスレインへ入った。


 でも今回は。


「河を北へ進むんだね」


「うん」


 東へ進めばセルヴァン王国。


 北へ進めば聖教領ミラディア方面。


 渡し船へ乗る。


「キュ?」


 ステフが船の縁から水面を覗き込んだ。


「落ちるなよ」


「キュ!」


 船がゆっくり進む。


 船底へ当たる水の音。


 川の上を吹き抜ける風。


 対岸が少しずつ近づいてくる。


「今度はミラディアだね」


 ルナが言った。


「うん」


 ここまで、かなり来た道を戻ってきた。


 渡し船がミラディアの岸へ着く。


 俺たちは北へ向かう街道へ入った。


 ◇

 

 その日の夜。


 街道から少し離れた場所で野営する。


 空には星。


 昼間は暖かくても、日が沈むとまだ肌寒い。


 焚き火の近くへ座る。


「ワフ……」


 テリーはルナの横で丸くなっている。


 ステフは俺の足に身体を寄せていた。


「キュ……」


 眠そうだ。


 少し前のことを思い出す。


 俺の前へ飛び出したステフ。


「アレン」


「何?」


 ルナがステフを見る。


「ステフとは、まだ従魔契約してないじゃない?」


「うん」


 ギルドでは従魔登録した。


 でも、契約はしていない。


「そろそろ契約しても良いんじゃない?」


「俺はしたいけど」


 ステフを見る。


「ステフが嫌ならしたくない」


「聞いてみたら?」


 フェリシアが言った。


「分かるかな」


「多分」


 ステフの前へしゃがむ。


「ステフ」


「キュ?」


「俺と従魔契約する?」


「キュ?」


 首を傾げる。


「これからも、一緒に旅するってこと」


 ステフが俺を見つめた。


「嫌ならしなくていいよ」


 少し待つ。


「……キュ」


 一歩。


 また一歩。


 ステフが近づいてくる。


 そして、俺の胸へ額を押しつけた。


「キュ!」


「……いいの?」


「キュ!」


 羽をぱたぱた動かす。


「大丈夫そうだね」


 ルナが笑った。


「うん」


 ステフの頭へ手を置く。


「じゃあ、これからもよろしく、ステフ」


「キュ!」


 意識を集中する。


 手のひらから魔力を流す。


 ステフの身体が淡く光った。


「キュ……」


 光が俺の腕へ移る。


 温かい。


 ほんの一瞬。


 光が消えた。


「終わった?」


 フェリシアが聞く。


「うん」


 何かが大きく変わったわけじゃない。


 ステフも、いつものステフだ。


 でも、前より少しだけ近くに感じる。


「これで正式に従魔だね」


 ルナが言った。


「うん」


 抱き上げる。


「これからもよろしく」


「キュ!」


「ワフッ!」


「テリーもね」


「ワフ!」


 ルナが笑った。


 ◇


 十三日目。


 聖教領ミラディア南部。


 畑。


 村。


 街道。


 アルスレインと大きく変わったようには見えない。


 でも、少し進むと違いが見えてきた。


「あ!」


 道の脇。


 白い石で作られた小さな像が立っている。


 両手を胸の前で合わせていた。


 通り過ぎようとした旅人が立ち止まる。


 像へ頭を下げてから、また歩き出した。


「祈ってるのかな」


「聖教領だから?」


「神様に旅の無事を祈ってるんだよ」


 ルナが答えた。


 次に通った村。


 中央には高い鐘楼があった。


 しばらくすると。


 カーン。


 カーン。


 鐘の音が空へ広がる。


 作業をしていた人たちが手を止め、胸の前で手を合わせた。


「鐘の音を聞くのも久しぶりだな」


 ルナが言う。


「ルナの故郷だもんね」


「私の住んでたのはもっと森の中だけどね」


 ◇


 十五日目。


「キュウウウ……!」


 朝からステフが火を吐く練習をしていた。


「頑張るね」


 フェリシアが言う。


「キュウウウ!」


 ぷすっ。


「今日も煙だ」


「キュ……」


「もう一回やる?」


「キュ!」


 大きく息を吸う。


「キュウウウ……!」


 ぼっ。


「え?」


 一瞬だけ。


 本当に小さな炎が出た。


「出た!」


 ルナが声を上げる。


「キュ?」


 ステフ自身が驚いている。


「今、火出たよ!」


「キュ!」


 嬉しそうに羽を広げた。


「もう一回!」


「キュウウウ!」


 ぷすっ。


 今度は煙だけ。


「……」


「キュ……」


「一回出たんだから、そのうちできるよ」


 頭を撫でる。


「キュ!」


「ワフッ!」


 テリーが駆け出した。


「キュ!」


 ステフも追いかける。


 今度は地面を走らない。


 ふわっ。


 低いところを飛んでいく。


「あ」


「結構飛べるようになったね」


「うん」


 でも、テリーは速い。


「ワフッ!」


「キュウ!」


 あっという間に引き離される。


「まだ勝てないね」


 ルナが笑った。


 ◇


 旅は続いた。


 雨の日もあった。


 朝から細い雨が降り続き、土の街道が濃い色へ変わる。


 葉に雨粒が落ちる。


 ぽつ。


 ぽつ。


「キュ……」


 ステフは俺の雨具の中から顔だけ出していた。


「今日は飛べないね」


「キュ」


「ワフッ!」


 テリーは雨の中でも元気に走っている。


「テリー、濡れるよ!」


「ワフ!」


「絶対聞いてない」


 翌日は晴れた。


 雨上がりの森。


 葉に残った水滴。


 湿った土の匂い。


 枝の間から差し込む陽の光。


 小さな川には、昨日の雨で増えた水が勢いよく流れていた。


 また別の日。


 丘の上へ出る。


 眼下に広がる畑。


 春の緑。


 淡い黄色。


 白い花。


 その中を一本の街道が遠くまで続いている。


「ずっと先まで見えるね」


 ルナが言う。


「まだ歩くけどね」


「あと五日くらい?」


「うん。今の感じだとそれくらいかな」


「長いね」


「でも楽しいよ」


 フェリシアが言った。


「毎日景色が違うしね」


「キュ!」


「ワフッ!」


 二頭も元気そうだった。


 ◇


 二十二日目。


 街道を行き交う人が増えてきた。


 白や灰色の服を着た聖職者。


 荷物を背負った巡礼者。


 商人。


 旅人。


「中央が近いのかな」


「もうあと少しよ」


 道沿いの石像も増えた。


 小さな礼拝所も何度か見かける。


 夕方。


 遠くに高い塔が見えた。


「あ、教会だ」


 ルナが指を差す。


「教会?」


「かなり大きくない?」


 まだ遠い。


 それでも見える。


「中央部に近づくとああいう建物が増えてくるよ」


「そうなんだ。機会があれば行ってみたいな」


 ◇


 二十四日目。


 朝からよく晴れていた。


 風も暖かい。


 街道を進むにつれて、人の数がさらに増えていく。


 荷馬車。


 旅人。


 聖職者。


 巡礼者。


 そして。


「あ」


 フェリシアが立ち止まった。


 丘の向こう。


 大きな街が見えた。


 白い石造りの建物。


 いくつもの高い塔。


 そのさらに奥。


 ひときわ大きな建物がある。


「すごい……」


 フェリシアが呟く。


 巨大な聖堂。


 何本もの白い塔が空へ伸びている。


 春の日差しを受け、白い壁が明るく輝いていた。


 風に乗って鐘の音が聞こえてくる。


 カーン。


 カーン。


 遠いのに、はっきり聞こえた。


「ここが……」


 地図を見る。


 間違いない。


「ミラディア中央部だ」


「やっと着いたね」


「うん」


「ワフッ!」


「キュ!」


 アルスレイン王都を出て、二十四日。


 ローヴェル領。


 ベイルン領。


 ラグナ河。


 ミラディア南部。


 長い旅だったな。


「行こう」


「うん」


「行くよ。テリー、ステフ」


「ワフッ!」


「キュ!」


 俺たちは、聖教領ミラディアの中央部へ向かって歩き出した。


【保有:87,610P】

【累計獲得P:417,320P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
アレンの軌跡、物語がどんな風に動いてるのかイメージしやすかったです。
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