第140話 アルスレイン王都へ
二十階の転移石を使い、ダンジョンの入口へ戻った。
「疲れたー」
ルナが大きく伸びをする。
「さすがに今日は昨日より疲れたね」
フェリシアも肩を回した。
「ワフッ!」
テリーだけはまだ元気そうだ。
「ギルド寄って帰ろうか」
「うん」
俺たちはそのままブランカへ戻った。
◇
冒険者ギルドへ入る。
受付には今朝と同じ女性がいた。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
「今日はどうでしたか?」
「二十階まで行ってきました」
「……二十階?」
「はい」
受付の女性が固まった。
「今朝、二十階を目指すとおっしゃっていましたよね?」
「はい」
「もう戻られたんですか?」
「戻りました」
「……」
また黙ってしまった。
「あの」
「はい?」
「買い取ってもらいたい魔物がかなりあるので、今日も解体場を使わせてもらえますか?」
「あ……はい。もちろんです」
今度はすぐに案内してくれた。
昨日と同じ解体場へ向かう。
「《収納》」
十一階から二十階までに倒した魔物を出していく。
アイアンオーガ。
グランドリザード。
キングオーガ。
ブレードマンティス。
それ以外にも、深い階層で倒した魔物を次々と並べる。
「昨日より多くないですか?」
受付の女性が呟いた。
「強い魔物も多かったので」
「それにしても……」
最後。
「これもお願いします」
《収納》からアークキマイラを出す。
ドンッ。
解体場に巨大な身体が横たわった。
「……これは?」
「二十階の階層主です」
「階層主……」
受付の女性だけでなく、近くにいた職人たちまで集まってきた。
「アークキマイラ?」
「二十階のやつだぞ」
「状態もかなりいい」
周囲が騒がしくなる。
「こちらも買い取りでよろしいですか?」
「はい」
「分かりました。ただ……」
「査定は明日ですよね?」
「……はい」
受付の女性が少し笑った。
「もう慣れていらっしゃいますね」
「最近、こういうことが多いので」
「では明日までお預かりします」
「お願いします」
その日は宿へ戻った。
◇
翌朝。
朝食を済ませ、もう一度冒険者ギルドへ向かった。
「おはようございます」
「おはようございます」
受付の女性が、俺たちを見るとすぐに書類を取り出した。
「昨日の素材ですが、査定が終わっています」
「ありがとうございます」
「買い取り総額は、金貨六十八枚です」
「六十八枚?」
ルナが目を丸くした。
「はい」
金貨一枚で、およそ十万ジェニー。
六十八枚なら六百八十万ジェニーくらい。
「昨日よりずっと多いね」
フェリシアが言う。
「深い階層の魔物は素材自体の価値が高いですから」
受付の女性が説明する。
「それにアークキマイラの素材が大きいですね」
「そんなに高いんですか?」
「二十階の階層主ですから。しかも状態がかなり良かったので」
「なるほど」
金貨の入った袋を受け取る。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。またよろしくお願いします」
「はい」
袋を《収納》にしまいギルドを出ようとしたところで、入口から一人の男性が入ってきた。
「アレン様はいらっしゃいますか?」
「俺です」
見覚えがある。
ベイルン家の使用人だ。
「バルド様がお呼びです。王都へお持ちいただく書状の準備が整いました」
「分かりました」
ようやく王都へ向かえる。
◇
ベイルン家へ向かう。
案内された部屋には、バルド様、マリア様、クリスさんがいた。
そして。
「おう、アレン!」
「ガイル?」
ガイルもいる。
いつもと少し違った。
剣だけでなく、旅用らしい荷物まで置かれている。
その後ろには二人の騎士が立っていた。
一人は細身で、きっちりとした雰囲気の男性。
もう一人は肩幅が広く、少し年上に見える。
「ガイルもどこか行くの?」
「ああ!」
大きく頷く。
「俺も今日出るぞ!」
「どこへ?」
「リオンのところだ!」
「リオン?」
聞き覚えがある。
「学院の友達って言ってた人?」
「そうだ!」
「アレンより速い人だっけ?」
ルナが聞く。
「ああ! 速さだけならリオンの方が速いぞ!」
「俺も結構速い方だと思うんだけどな」
「本当だからな!」
「ガイル」
クリスさんが見る。
「先に説明しなさい」
「分かってる!」
ガイルが俺を見る。
「二日前にナディアから手紙が来たんだ」
「ナディア?」
「学院の友達だ。セルヴァンの王女だぞ」
「王女?」
思わず聞き返す。
「そうだ!」
学院の友達に王女までいるのか。
「そのナディアの聞いた話だと、リオンがかなり困ってるみたいなんだ」
「何に?」
「人が足りないらしい」
ガイルの顔が少し真面目になる。
「領地を任されたばかりなのに、働く人が全然足りないんだと」
「それで手伝いに行くの?」
「ああ!」
胸を張る。
「若い騎士を十人連れていく!」
「十人も?」
後ろにいた細身の男性が一歩前へ出た。
「若手騎士が十名です。それに副団長、私、ハガーを加えて十三名になります」
「お前は細かいな!」
「人数を正確に把握するのは当然です」
男性がこちらへ頭を下げる。
「コディ・ブッカーです。ベイルン騎士団で副団長の補佐をしています」
「アレンです。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
もう一人の男性も前へ出る。
「ハガー・ブラウンだ。今回は若手の連中をまとめることになってる」
「よろしくお願いします」
「ああ」
ハガーさんはコディさんより少し砕けた雰囲気だ。
「こいつらがいれば大丈夫だ!」
ガイルが二人の肩を叩く。
「コディは細かいこと全部やってくれるし、ハガーは若いやつらの面倒を見るのが上手い!」
「副団長にも細かいことをしていただきます」
「俺もしてる!」
「昨日、持っていく荷物を確認し忘れていましたが?」
「あれはちょっと忘れただけだ!」
フェリシアが笑った。
確かに、ガイルには必要な人らしい。
「でも」
俺はクリスさんを見る。
「ガイルが領地を離れても大丈夫なんですか?」
「今のところ、ドラン帝国に目立った動きはありません」
クリスさんが答える。
「警戒は続けていますが、ガイルが短期間領地を離れても問題ないと判断しました」
「なるほど」
「それに、今回の訪問にはベイルン家としても意味があります」
「俺はリオンを助けに行くんだぞ?」
「あなたはそれでいいの」
ガイルが首を傾げる。
「どういうことですか?」
俺が聞いた。
「リオン・ハルという名前は、今アルスレインの貴族の間でかなり知られています」
「そんなに?」
「ええ」
クリスさんが頷く。
「学院にいた頃から、何度も周囲を驚かせてきた人です。それに今は、自分の実績で爵位を得て男爵になっています」
学生だったのに、自分の力で爵位まで得た。
それだけでも普通じゃない。
「そして今度は、かなり厳しい状態の領地を任された」
「人が足りないっていう?」
「それだけではありません。資金にも余裕がないと聞いています」
「大変そうだね」
ルナが言う。
「ええ」
クリスさんが少し笑う。
「ですが、だからこそ気になります」
「どうしてですか?」
「リオン・ハルが、その状況で何をするのか」
「何かすると思ってるんですか?」
「するかもしれません」
迷いなく答えた。
「今、王国で最も話題になっている若い貴族の一人です。もし新しいことを始めるのであれば、ベイルン家としても他家より早く見ておく価値があります」
なるほど。
ガイルは友達を助けるため。
でもベイルン家としては、それだけじゃない。
これから伸びるかもしれない領地との関係を早いうちに作っておく。
「姉上は考えすぎだ!」
ガイルが笑う。
「リオンは変なやつだぞ!」
ゴンッ!
「痛っ!」
クリスさんの拳が頭へ落ちた。
「何するんだよ!」
「自分の力で爵位を得た人間に、そういう言い方をしないの」
「友達だからいいだろ!」
「よくありません」
「リオンなら気にしないって!」
「本人がいないところで決めないの」
ガイルが頭を押さえる。
でも、俺は少し興味が湧いてきた。
「そのリオンって、どんな人なの?」
「ん?」
ガイルが俺を見る。
「強いのは聞いたけど」
「強いぞ!」
「それ以外」
「それ以外か……」
少し考える。
「頭がいい!」
「それは何となく分かった」
「あと、色んなことを思いつく!」
「色んなこと?」
「そうだ!」
「説明が雑です」
コディさんが言った。
「じゃあお前が説明しろ!」
「私はリオン男爵と面識がありません」
「じゃあ無理じゃないか!」
「だから副団長がきちんと説明してください」
「うーん……」
本気で悩んでいる。
ハガーさんが横で笑った。
「まあ、会えば分かる!」
結局それか。
「お前も気に入ると思うぞ!」
「そうなの?」
「ああ!」
自分の力で男爵になった。
王国で話題になっている。
ガイルが何度も戦った相手。
そして今、厳しい状態の領地を任されている。
リオン・ハル。
どんな人なんだろう。
◇
「さて」
バルド様が机の上に置いてあった封筒を手に取った。
「こっちはお前たちの分だ」
「ありがとうございます」
受け取る。
封蝋にはベイルン家の紋章が押されている。
「セルヴァンで起きたことも書いてある」
「はい」
「お前たちの身元についても保証してある。王都でこれを見せれば、話は通りやすいはずだ」
「助かります」
「ただし」
バルド様の声が少し低くなる。
「これがあっても、ドランへ入れるとは限らんぞ」
「分かっています」
国境の警戒は強くなっている。
俺自身、以前ドラン帝国軍と戦っている。
「王都で事情を説明して、まず向こうの判断を聞きます」
「それがいい」
バルド様が頷いた。
「ガイルたちはどうやってリオン領へ?」
俺が聞く。
「俺たちもまず王都だ!」
「一緒?」
「ああ!」
「リオン領へ直接行かないの?」
コディさんが答える。
「王都を経由します。そこで必要な物資を揃え、その後リオン男爵領へ向かう予定です」
「なるほど」
「だから王都までは一緒だな!」
ガイルが俺の肩を叩く。
「よろしくな!」
「重いよ」
「ははは!」
俺。
フェリシア。
ルナ。
テリー。
ガイル。
コディさん。
ハガーさん。
若手騎士十人。
「急に大人数になったね」
ルナが言う。
「本当だね」
フェリシアも笑う。
「賑やかでいいだろ!」
ガイルだけは嬉しそうだった。
◇
屋敷の外では、すでに騎士たちが出発の準備をしていた。
若い人が多い。
荷物を馬車へ載せる人。
馬の状態を確認する人。
武器を点検する人。
役割が決まっているのか、それぞれが迷わず動いている。
「ちゃんとしてるね」
ルナが言う。
「当然だ!」
ガイルが胸を張った。
「副団長」
コディさんが呼ぶ。
「何だ?」
「副団長の荷物だけ、まだ馬車に載っていません」
「え?」
「部屋に置いたままです」
「……」
「取ってきてください」
「分かった!」
ガイルが屋敷へ走っていく。
「ちゃんとしてるのは騎士団の方みたいだね」
フェリシアが言う。
「そうかも」
俺も頷いた。
少しして、荷物を抱えたガイルが戻ってきた。
「よし! 今度こそ行くぞ!」
「はい」
コディさんが人数と荷物を確認する。
全員揃った。
「アレン!」
「何?」
ガイルが振り返る。
「お前もいつかリオンのところに来いよ!」
「俺も?」
「ああ!」
「何しに?」
「冒険したくなった時にでも来ればいい!」
「冒険?」
「今はギルドもないような領地みたいだけどな!」
「それ、冒険できるの?」
「これから何かできるかもしれないだろ!」
「適当だなあ」
「それに、リオンにも会わせたい!」
「そんなに?」
「ああ!」
そこまで言われると気になる。
「機会があったら行ってみたいな」
「よし!」
「まだ行くって決めてないよ?」
「そのうち来い!」
「強引だな」
「はははは!」
リオン領。
どんな場所なのか、まだほとんど分からない。
でも。
リオンという人間には、少し興味が湧いた。
◇
ブランカの門を出る。
前には王都へ続く街道が伸びている。
ガイルたちの馬車が動き始めた。
「アレン!」
「何?」
「王都まで競争するか!」
「しないよ」
「なんでだ!」
「馬車あるだろ」
「あ」
ガイルが馬車を見る。
「そうだった!」
コディさんが小さく息を吐いた。
「副団長。普通に進みます」
「分かった!」
ハガーさんが笑う。
「王都まで賑やかになりそうだな」
「そうですね」
俺も笑った。
俺たちは、ドラン帝国へ入る方法を探すため。
ガイルたちは、リオン男爵の領地へ向かうため。
目的は違う。
でも、王都までは同じ道だ。
こうして俺たちはガイルたちと一緒に、アルスレイン王国の王都へ向けて出発した。
【保有:61,150P】
【累計獲得P:390,860P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




