第139話 共有
領都西ダンジョンへ着く。
昨日と同じ入口。
でも今日は、一階から歩く必要はない。
転移石へ手を触れた。
「十階」
一瞬、視界が白くなる。
次の瞬間。
昨日、キングオーガと戦った広い部屋に立っていた。
「やっぱり便利だね」
ルナが周囲を見る。
「一階からここまで飛ばせるのは助かる」
フェリシアも頷いた。
「ワフッ!」
テリーはもう十一階へ続く階段を見ている。
「行こうか」
「うん」
階段を下りた。
◇
十一階。
通路へ出て少し進む。
《魔力感知》にいくつもの反応があった。
「前に五体」
「多いね」
「しかも大きい」
曲がり角を抜ける。
「グオオッ!」
アイアンオーガが二体。
その後ろには、両腕が大きな鎌になった魔物が三体いた。
「ブレードマンティス」
以前にも見たことがある。
「十一階からこれ?」
ルナが弓を構える。
「昨日より明らかに強いね」
フェリシアも杖を向けた。
アイアンオーガが走ってくる。
「《魔弾》!」
青白い光がいくつも飛ぶ。
一体目の顔と脚へ集中して当たった。
「グオッ!」
動きが止まる。
「今だ!」
地面を蹴り、一気に懐へ入る。
一閃。
一体目。
二体目が棍棒を横から振る。
身体を沈めてかわす。
「アレン、右!」
ルナの声。
ブレードマンティスの鎌が迫っていた。
竜爪剣で受け流す。
その瞬間。
シュッ!
矢が目へ刺さる。
「ギィッ!」
「ありがとう!」
俺はアイアンオーガへ向き直った。
棍棒が振り下ろされる。
横へかわし、そのまま首を斬る。
【アイアンオーガ二体を討伐しました】
【4,000P獲得】
【累計獲得P:365,860P】
残ったブレードマンティス三体。
「《魔弾》!」
フェリシアが一体を吹き飛ばす。
ルナの矢がもう一体の目を射抜く。
「ワフッ!」
テリーが最後の一体へ飛びついた。
「強いな」
「誰が?」
「みんな」
「今さら?」
フェリシアが笑う。
◇
十二階。
グランドリザード六体。
「来るよ!」
三体は俺。
残りはフェリシアとルナたちへ。
一体目。
首を斬る。
二体目。
横から迫る口をかわし、そのまま胴へ剣を入れる。
三体目も一撃。
【グランドリザード三体を討伐しました】
【1,500P獲得】
【累計獲得P:367,360P】
残り三体もすぐに倒された。
「次行こう」
「早いね」
◇
十三階。
通路の先に、大きな影が見えた。
「キングオーガ?」
一体。
昨日の階層主と同じ魔物が、普通に通路を歩いている。
「十階の階層主だったよね?」
ルナが聞く。
「うん」
「ここでは普通に出るんだ」
フェリシアが杖を構える。
「このダンジョン、本当に難しいんだな」
「グオオオッ!」
キングオーガが走ってくる。
でも昨日、一度戦っている。
動きも分かる。
巨大な棍棒が迫る。
かわす。
懐へ入りながら竜爪剣へ魔力を流す。
一閃。
巨体が倒れた。
【キングオーガを討伐しました】
【5,000P獲得】
【累計獲得P:372,360P】
「五千P」
「やっぱりそっちなんだ」
フェリシアが笑った。
「強い魔物だし」
「Pも高いし?」
「うん」
「素直だね」
◇
十四階。
グランドリザード。
ブレードマンティス。
十五階。
アイアンオーガ。
大型の狼型魔物。
階層を下りるたび、魔物の種類も数も増えていく。
それでも進めた。
「右!」
「分かった!」
「ルナ、後ろ!」
「見えてる!」
「ワフッ!」
俺が前へ出る。
フェリシアが《魔弾》で動きを止める。
ルナが矢で急所を狙う。
テリーが死角から飛び込む。
敵が俺に集中すれば、二人が攻撃する。
フェリシアやルナへ向かえば、俺が入る。
自然と身体が動いていた。
十五階までで、さらにアイアンオーガ一体とグランドリザード二体を倒した。
【3,000P獲得】
【累計獲得P:375,360P】
◇
十六階。
戦闘が終わったところで、ルナが大きく息を吐いた。
「ふう」
「疲れた?」
「まだ大丈夫」
ルナが弓を持ったまま、自分の手を見る。
「でもさ」
「何?」
「アレンの《共有》って、とんでもないスキルだよね」
「急にどうしたの?」
「だって」
弓を軽く引く。
「私一人だったら、こんなに戦えてないよ」
「ルナは元々弓が上手いだろ」
「それはそうだけど」
ルナが首を振る。
「前より速く動けるし、弓も引きやすい。魔物が近くまで来ても、前ほど怖くない」
少し考える。
「私自身が強くなったのもあるけど、アレンの力もかなり大きいんだよね」
「私もそう思う」
フェリシアが言った。
「もう《共有》があるのが当たり前になってるけど」
「うん」
「なかったら、こんな戦い方できてないと思う」
フェリシアを見る。
《魔弾》も以前とは違う。
威力。
数。
速度。
狙い。
でも。
「二人とも自分でも強くなってるよ」
「それは分かってる」
フェリシアが笑う。
「でも、自分の力に《共有》が加わってるから、もっと強く戦えるってこと」
「そうそう」
ルナが頷く。
「アレンが強くなると、私たちも強くなるし」
「確かに」
最初はフェリシア一人だった。
今はルナもいる。
俺自身も、以前とは比べものにならないくらい強くなった。
その力の一部が、二人へ渡っている。
「やっぱりすごいな。《共有》」
「ようやく分かった?」
「前から分かってたよ」
「ワフッ!」
二人が笑った。
◇
十七階。
十八階。
さらに下へ進む。
魔物は強くなっていた。
でも、俺達の方が強い。
フェリシア。
ルナ。
テリー。
任せられるところは任せる。
俺が倒したアイアンオーガ一体とグランドリザード二体で、さらに三千P。
【3,000P獲得】
【累計獲得P:378,360P】
◇
十九階。
《魔力感知》にいくつもの反応。
「……多い」
「何体?」
「九体」
通路の先。
アイアンオーガ。
グランドリザード。
ブレードマンティス。
それ以外にも、見たことのない大型魔物がいる。
「どうする?」
フェリシアが聞く。
「俺とテリーが中央」
「うん」
「フェリシアは右」
「分かった」
「ルナは左」
「任せて!」
「ワフッ!」
魔物たちが一斉に走り出した。
「《魔弾》!」
フェリシアの魔弾が右側へ飛ぶ。
一発。
二発。
三発。
次々と脚や顔へ当たり、動きを崩す。
左ではルナ。
矢を放つ。
一体。
二体。
続けて急所へ命中。
「行くよ!」
「ワフッ!」
中央へ走る。
アイアンオーガの棍棒をかわし、一閃。
グランドリザードが横から口を開く。
テリーが飛びついた。
「ワフッ!」
頭が逸れる。
「ありがとう!」
そのまま首を斬る。
「アレン!」
フェリシアの声。
振り返る。
ブレードマンティス。
鎌が迫る。
身体を反らす。
目の前を通り過ぎた。
「《魔弾》!」
鎌へ直撃。
腕が弾かれる。
一歩踏み込む。
首を斬った。
その後も戦闘は続いた。
でも、一体ずつ減っていく。
最後の魔物が倒れた。
「……終わった?」
ルナが周囲を見る。
「終わったみたい」
フェリシアが息を吐く。
「九体は多いね」
「でも勝てたよ」
「うん」
俺たちは顔を見合わせた。
まだまだ動ける。
少し先にある階段を見る。
次は二十階だ。
◇
階段を下りる。
大きな扉があった。
昨日の十階より明らかに大きい。
「いるよね」
ルナが言う。
「いると思う」
扉へ手をかける。
「行こう」
三人で中へ入った。
広い。
天井も高い。
中央。
「……何あれ」
ルナが呟いた。
巨大な魔物。
獅子の身体。
背中には黒い山羊の頭。
長い尾の先には、大きな蛇の頭。
三つの頭が同時にこちらを向いた。
「キマイラ?」
フェリシアが杖を構える。
でも、以前見たものより大きい。
《鑑定》。
【アークキマイラ】
【複数の魔獣の特徴を持つ大型魔物】
【獅子の爪、山羊の魔力攻撃、蛇の尾による三方向からの攻撃を得意とする】
「アークキマイラか」
「強そうだね」
ルナが弓を構える。
「グオオオオオッ!」
獅子の頭が吠えた。
空気が震える。
「来る!」
アークキマイラが地面を蹴った。
速い。
「俺が前に出る!」
竜爪剣を構える。
前脚。
受ける。
ガンッ!!
「っ!」
重い。
身体が後ろへ押される。
鎧は問題ない。
でも衝撃は身体まで届いた。
「強い!」
踏み直す。
反撃。
首へ剣を振る。
その瞬間。
「メエエッ!」
背中の山羊の口元に魔力が集まる。
「アレン!」
横へ飛ぶ。
直後。
ドンッ!
さっきまでいた地面が砕けた。
「《魔弾》!」
フェリシアの攻撃。
五発。
山羊の頭へ飛ぶ。
ドドドドドッ!
「メエッ!」
頭が大きく揺れる。
「シャアアッ!」
今度は蛇。
フェリシアへ向かう。
「危ない!」
ルナの矢。
蛇の顔へ当たった。
「シャッ!」
向きが変わる。
「ありがとう!」
三方向。
正面だけ見ていたら駄目だ。
獅子。
山羊。
蛇。
一人で全部を見るのは難しい。
「フェリシア!山羊をお願い!」
「任せて!」
「ルナは蛇!」
「うん!」
これでいい。
全部一人でやる必要はない。
獅子の頭を見る。
「こっちは俺だ!」
「グオオッ!」
再び前脚。
かわす。
もう一撃。
鎧へ当たった。
ガンッ!
「ぐっ!」
でも止まらない。
竜爪剣を振る。
肩へ入る。
「グオオオッ!」
浅い。
「硬いな」
「アレン、下がって!」
フェリシアの声。
すぐ横へ飛ぶ。
「《魔弾》!」
大きな一発。
さっき俺が斬った傷へ直撃。
ドンッ!!
「グオッ!」
アークキマイラがよろめく。
「今!」
ルナの矢。
一発。
二発。
三発。
全部、蛇の頭へ。
「シャアッ!」
蛇が大きく仰け反った。
「ワフッ!」
テリーが後ろ脚へ飛びつく。
体勢が崩れる。
「アレン!」
「分かった!」
地面を蹴る。
正面。
山羊の口元へ、また魔力が集まった。
「フェリシア!」
「任せて!」
「《魔弾》!」
五発。
同じ場所へ集中。
山羊の顔へ次々と当たる。
集まっていた魔力が散った。
「メエエッ!」
「今だ!」
一気に懐へ。
竜爪剣へ魔力を流す。
獅子の首に向けて振り抜く。
ザンッ!
大きな頭が落ちた。
巨体が揺れる。
「まだ!」
蛇が動く。
「ルナ!」
「うん!」
矢が目へ刺さる。
「シャアッ!」
「《魔弾》!」
フェリシアの魔弾が同じ場所へ直撃。
蛇の頭が大きく弾かれた。
俺はもう一度踏み込む。
竜爪剣を振る。
蛇の首を落とした。
数歩。
アークキマイラがふらつく。
そして。
ドォン!!
巨体が地面へ倒れた。
「……」
動かない。
「倒した?」
ルナが聞く。
「多分」
近づく。
反応はない。
【アークキマイラを討伐しました】
【12,000P獲得】
【保有:61,150P】
【累計獲得P:390,860P】
「一万二千P」
「高いね」
ルナが言う。
「それだけ強かったってことかな」
フェリシアがアークキマイラを見る。
「でも」
ルナが俺たちを見る。
そして笑った。
「やったね!」
「うん!」
フェリシアも笑う。
「ワフッ!」
「やった!」
俺も笑った。
一人だったら、もっと苦戦していたと思う。
三人とテリーだったから倒せた。
その時。
ゴゴゴゴゴ……。
部屋の奥で音がした。
「何?」
大きな扉がゆっくり開いていく。
その先には、青白く光る転移石。
「またある」
「二十階だからね」
さらに奥。
下へ続く階段も見えた。
「まだ続いてるね」
ルナが言う。
「二十一階」
「どうする?」
ルナが俺を見る。
階段を見る。
身体はまだ動く。
大きな怪我もない。
でも。
「帰ろう」
「行かないの?」
「うん」
もう一度、倒れたアークキマイラを見る。
「二十階でこれだけ強かったんだ。二十一階からは、もっと強くなると思う」
「確かに」
フェリシアが頷く。
「今日はここまでにしよう」
「私もそれでいいと思う」
ルナも頷いた。
「無理して行く必要ないしね」
「うん」
「また来ればいい」
「そうだね」
「ワフッ!」
アークキマイラを《収納》にいれ、転移石へ向かう。
昨日は十階。
今日は二十階。
十分だ。
転移石へ手を触れた。
【保有:61,150P】
【累計獲得P:390,860P】
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