第138話 領都ブランカ
転移石へ触れる。
一瞬、視界が白くなった。
「わっ」
ルナの声。
次の瞬間には、ダンジョンの入口近くに立っていた。
「戻ってきた」
「便利だね」
フェリシアが周囲を見る。
十階から一気に入口まで戻れる。
これなら深いところまで進んでも、帰りはかなり楽だ。
「ワフッ!」
テリーも元気そうだ。
「ギルド行こうか」
「うん」
まだ日は高い。
俺たちはそのままブランカへ戻った。
◇
冒険者ギルドへ入る。
朝より人は少し減っていた。
受付へ向かう。
「お帰りなさい」
朝と同じ受付の女性だった。
「依頼はどうでしたか?」
「終わりましたよ」
「もうですか?」
「はい」
依頼証を渡す。
「討伐対象の素材もあります」
「では、こちらへ――」
「あ、その前に」
「はい?」
「かなり数が多いから、解体場に案内してもらえますか?」
「かなり、ですか?」
「ここで出すのは無理だと思います」
大量の魔物を持ち込むのも初めてじゃない。
受付前で全部出したら邪魔になることくらい分かる。
「分かりました。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
俺たちはギルドの奥へ案内された。
◇
裏手には大きな解体場があった。
中には何台もの作業台が並び、何人もの職人が魔物を解体している。
血の匂いが強い。
「ここでしたら大丈夫です」
「じゃあ出しますね」
「お願いします」
「《収納》」
ケイブリザード。
「え……?ちょっと待ってください。どこから出したんですか?」
受付の女性が俺を見回す。
「ああ、《収納》ってスキルで保管してるんですよ」
「そ、そんなスキルがあるんですね……」
どうやらこの国でも《収納》は珍しいらしい。
「まだまだありますよ」
《収納》から次々と魔物の死体を出す。
ロックウルフ。
ストーンリザード。
オーク。
アーマーベア。
グランドリザード。
次々と床へ出していく。
「……多いですね」
「まだあります」
「まだですか?」
今度はアイアンオーガ。
一体。
二体。
さらに続けて出す。
「アイアンオーガがこんなに……」
近くにいた職人たちも手を止め始めた。
「全部今日?」
受付の女性が聞く。
「はい」
「何階まで行ったんですか?」
「十階です」
「十階……」
最後にキングオーガを出す。
ドンッ。
巨大な身体が床へ横たわった。
周囲が静かになった。
「キングオーガ……」
「十階の階層主でした」
「これも今日?」
「はい」
「朝、初めてこのダンジョンへ行かれましたよね?」
「そうですけど」
「……」
受付の女性が黙った。
「アレン」
フェリシアが小声で言う。
「何?」
「多分、普通じゃないんだと思う」
「そうかな」
「そうだと思う」
ルナも頷く。
「ワフッ!」
「テリーもそう思うのかな?」
受付の女性が我に返った。
「依頼対象についてはすぐ確認できます。ただ、買い取り分はこれだけの量ですと……」
「今日中は無理ですよね?」
「はい。申し訳ありません」
「明日で大丈夫です」
「ありがとうございます。査定が終わり次第、お支払いします」
「お願いします」
しばらく待つ。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【保有:32,150P】
【累計獲得P:361,860P】
「百P」
「また増えたね」
ルナが言う。
「うん」
「嬉しそう」
「Pだからね」
「知ってる」
依頼報酬は金貨三枚だった。
「こちらが報酬です」
「ありがとう」
金貨一枚で、およそ十万ジェニー。
三枚だから三十万ジェニーくらいになる。
「素材の買い取りは明日だね」
フェリシアが言う。
「うん」
「じゃあ今日はどうする?」
外はまだ明るい。
「せっかくだし、街を見てみようか」
「いいね」
「私も行きたい」
「ワフッ!」
テリーも賛成らしい。
◇
ギルドを出て、大通りを歩く。
改めて見ると、ブランカはかなり大きな街だった。
道幅が広い。
馬車が何台も行き交っている。
荷物を積んだ荷車も多い。
「すごい人」
ルナが周囲を見る。
「サハルでも、ここまで大きい街はそんなにないね」
フェリシアが言う。
「うん」
市場へ向かう。
昨日は買い物が目的だったから、街全体までは見ていなかった。
今日は少し違う。
肉屋。
乳製品。
革製品。
馬具。
鍛冶屋。
武器屋。
食料品店。
宿。
通りの両側に、いくつもの店が並んでいる。
「やっぱり肉多いね」
ルナが笑う。
「ベイルン領だからかな」
牛肉や羊肉を扱う店が特に多い。
でも肉だけじゃない。
革製品も多い。
乳製品もある。
馬具を扱う店も目立つ。
家畜を育てて、肉だけでなく皮や乳も利用しているらしい。
大きな鍛冶工房の前を通る。
中では何人もの職人が働いていた。
「武器屋も多いね」
「騎士団が大きいからかも」
道の向こうを騎士が歩いていく。
その横を商人の荷車が通り過ぎた。
騎士は多い。
でも、街全体が堅苦しい感じはしない。
商人の声。
子供たちの声。
店から聞こえる笑い声。
活気がある。
少し先には大きな倉庫も並んでいた。
「……ちゃんとしてるな」
「何が?」
ルナが聞く。
「街」
「大きいよね」
「それもあるけど」
道を見る。
荷馬車がすれ違えるくらい広い。
路面も大きく崩れていない。
排水用らしい水路も整えられている。
市場には次々と商品が運び込まれている。
店が多いだけじゃない。
物も人も動いている。
少なくとも、領地はかなり上手く回っているように見えた。
「どうしたの?」
フェリシアが聞く。
「ガイルとバルド様ってさ」
「うん」
「最初は、力で何でも解決しそうに見えた」
「ああ」
フェリシアが笑う。
「それは分かる」
「でも、この街を見ると違うなって」
ガイルは騎士団をちゃんと指揮していた。
勉強もしている。
バルド様も、国境や王都との関係まで考えていた。
「領地経営もかなり上手いのかもしれない」
「じゃなきゃ、ここまで栄えないよね」
ルナが言う。
「うん」
それに、二人だけじゃない。
マリア様。
クリスさん。
マリア様も領内のことをよく把握しているように見えた。
クリスさんは騎士団の訓練内容や人員配置まで分かっていた。
ガイルへの指摘も的確だった。
「ベイルン家って、家族全員で領地を動かしてるのかな」
「どうだろう?」
フェリシアが首を傾げる。
「でも、クリスさんはかなり仕事してそうだったよね」
「うん」
ベイルン家だけなのか。
それとも、アルスレインでは女性が領地経営に関わること自体、それほど珍しくないのか。
まだ分からない。
「王都へ行けば、その辺も見えてくるかな」
「分かるんじゃない?」
「楽しみだね」
ルナが言う。
俺も頷いた。
◇
その後も街を歩いた。
大きな広場。
何軒も並ぶ宿屋。
冒険者向けの武器店。
遠方から来た商人が使うらしい倉庫。
ブランカは思っていた以上に栄えている。
領都だから大きい。
それだけではなさそうだった。
夕方。
俺たちは宿へ戻った。
「結構歩いたね」
ルナがベッドへ座る。
「ダンジョンより疲れた?」
「それはない」
「ワフッ!」
テリーもまだ元気だ。
「明日はどうする?」
フェリシアが聞く。
「もう一回ダンジョンに行こう」
「やっぱり?」
「うん」
「何階まで?」
「二十階」
ルナが目を丸くした。
「十階じゃなくて?」
「今日は十階まで行けたからね」
「じゃあ次は二十階?」
「うん」
「分かりやすいね」
フェリシアが笑った。
◇
翌朝。
朝食を済ませ、冒険者ギルドへ向かった。
「おはようございます」
昨日の受付の女性がいた。
「おはようございます」
「昨日の素材ですが、査定が終わっています」
「本当ですか?」
「はい」
受付の女性が紙を見る。
「ギルドでの買い取り総額は、金貨四十二枚です」
「四十二枚?」
ルナが聞き返した。
「はい」
金貨四十二枚。
四百二十万ジェニーくらい。
「そんなに?」
フェリシアも驚いている。
「アイアンオーガが複数ありましたし、キングオーガも状態が非常に良かったので」
「なるほど」
「依頼分を除いた素材もすべて含まれています」
金貨の入った袋を受け取る。
ずっしりと重い。
「一日で四十二枚……」
ルナが袋を見る。
「ダンジョンって稼げるんだね」
「深いところまで行ければ、だと思う」
「昨日はPもかなり増えたしね」
フェリシアが言う。
「うん」
それも大きい。
「それで」
受付の女性が聞く。
「今日はどうされますか?」
「また西ダンジョンへ行きます」
「またですか?」
「はい」
「今日は何階まで?」
掲示板の依頼書を見たけど、二十階に関する依頼はなさそうだ。
でも。
「二十階を目指します」
受付の女性の表情が変わった。
「二十階ですか?」
「はい」
「現在、依頼は出てないのですがよろしいのでしょうか?」
「はい」
「……少々お待ちください」
受付の女性が奥から資料を持ってくる。
「西ダンジョンは、十階を越えるとさらに魔物が強くなります」
「どれくらいですか?」
「十一階からはBランク以上を推奨しています」
「Bランク」
「はい。そして二十階の階層主へ挑む場合は、Aランク冒険者を含むパーティが推奨されています」
「Aランク……」
ベルガントのダンジョンを思い出す。
あそこでは、Bランクなら二十階まで行けた。
Aランクが必要になるのは、その先だった。
でも、ここは違う。
昨日も七階でアイアンオーガ。
十階ではキングオーガが出た。
「ここって、ダンジョンの難易度高いんですか?」
「高い方ですね」
受付の女性が頷く。
「同じ階層でも、ダンジョンによって出現する魔物はかなり違います」
「なるほど」
ベルガントより浅い場所から強い魔物が出ていたのは、気のせいじゃなかった。
「二十階はもっと強そうだね」
ルナが言う。
「多分」
「どうする?」
フェリシアが俺を見る。
「行こう」
「だと思った」
フェリシアが笑った。
「私も行く」
ルナも頷く。
「ワフッ!」
「テリーもね」
受付の女性が少し困ったように笑った。
「十分お気をつけください」
「ありがとうございます」
ギルドを出る。
昨日は十階まで。
今日は、その先。
目標は二十階だ。
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