第137話 十階層へ
領都西ダンジョンへ入る。
入口を抜けると、空気が一気に冷たくなった。
岩でできた通路。
壁には等間隔で魔石灯が置かれている。
「思ったより明るいね」
ルナが周囲を見る。
「冒険者が多いから整備されてるのかも」
「ワフッ!」
テリーが先頭を歩く。
俺は《魔力感知》を広げた。
「前に四体いる」
「もう?」
フェリシアが杖を構える。
少し進むと、岩陰から四体の魔物が姿を現した。
灰色の鱗。
地面を這うように近づいてくる。
「ケイブリザードですね」
受付で聞いていた依頼対象だ。
「俺がやっていい?」
「もちろんいいですけど……」
フェリシアが俺を見る。
「またPですか?」
「うん。Pになるからね」
「やっぱり」
ルナが笑った。
「じゃあ任せる」
「ありがとう」
竜爪剣を抜く。
一体目が飛びかかってきた。
遅い。
一歩踏み込む。
首を斬る。
そのまま剣を返し、二体目。
三体目が横から来る。
身体を半歩ずらし、そのまま斬った。
最後の一体が動きを止める。
「逃げる?」
ルナが聞く。
ケイブリザードは前進してきた。
「向かってくるなら倒すしかない」
地面を蹴る。
一瞬で懐に入り、斬る。
四体目が倒れた。
【ケイブリザード四体を討伐しました】
【320P獲得】
【累計獲得P:340,860P】
「三百二十P」
「嬉しそうですね」
「嬉しいよ」
「まだ一階ですよ?」
「一階から三百二十Pなら悪くない」
フェリシアが何とも言えない顔をする。
「素材は?」
ルナが聞く。
「もちろん持っていく」
一体ずつ《収納》する。
「依頼もあるしね」
「Pも入って、素材も持ち帰れる」
「いいですね」
「でしょ?」
「すごく嬉しそう」
否定はしない。
◇
二階へ下りる。
しばらく進むと、低いうなり声が聞こえてきた。
「グルルルル……」
六体のロックウルフ。
普通の狼より一回り大きく、身体の一部が岩のように硬くなっている。
「今度は私もやっていい?」
ルナが弓を構える。
「もちろん」
「Pは?」
「欲しいけど、全部俺が倒したらみんなの訓練にならないし」
「ちゃんと分かってるんだ」
「俺を何だと思ってるの?」
「Pが大好きな人」
フェリシアまで頷く。
「ワフッ!」
一体のロックウルフが走ってくる。
「行くよ!」
ルナが矢を放った。
前脚へ命中。
体勢を崩したところへテリーが飛び込む。
「ワフッ!」
一気に首元へ噛みついた。
「テリーもやるね!」
残りの五体が散開する。
「《魔弾》!」
フェリシアの魔法が一体を吹き飛ばした。
「俺はこっち!」
二体が同時に飛びかかってくる。
一体目を斬る。
もう一体の爪をかわし、そのまま振り返って首へ剣を入れた。
さらに一体。
最後の一体は、ルナの矢が脚へ刺さったところを俺が仕留める。
【ロックウルフ三体を討伐しました】
【180P獲得】
【累計獲得P:341,040P】
「百八十Pか」
三階。
通路の先に、見覚えのある魔物がいた。
「ストーンリザード」
「知ってるの?」
ルナが聞く。
「前に戦ったことがある」
四体。
初めて戦った時は、硬い鱗にかなり苦労した。
今は違う。
一体目。
首。
二体目。
胴。
三体目が振り返る前に斬る。
四体目も一撃だった。
【ストーンリザード四体を討伐しました】
【480P獲得】
【累計獲得P:341,520P】
「……昔は強いと思ったんだけどな」
「今のアレンが強すぎるんだよ」
「そうかな」
「そうだよ」
フェリシアが即答した。
「私もそう思う」
ルナまで頷く。
「ワフッ!」
「テリーも?」
◇
四階。
「ブオオオオッ!」
五体のオークが棍棒を構えている。
「オークも久しぶりだ」
「これも戦ったことあるの?」
「あるよ」
初めて倒した時は、フェリシアと二人で何度も攻撃した。
今は。
一体目の棍棒を横へかわす。
首を斬る。
二体目。
懐へ入り、一閃。
三体目が棍棒を振り下ろす。
竜爪剣で受ける。
軽い。
そのまま弾き返して斬る。
「早い……」
ルナの声が聞こえた。
残り二体も、ほとんど時間はかからなかった。
【オーク五体を討伐しました】
【500P獲得】
【累計獲得P:342,020P】
「五百P」
「全部倒しましたね」
「ちょうど来てくれたから」
「魔物を見つけると、少し嬉しそうになってません?」
「気のせいだよ」
「絶対違います」
◇
五階へ進む。
五階ではアーマーベアが三体現れた。
「グオオオッ!」
「これも前に戦ったことあります?」
ルナが聞く。
「ある」
「やっぱり」
「昔は硬くて大変だった」
「今は?」
「多分大丈夫」
一体目が前脚を振るう。
避ける。
肩から斜めに斬る。
一撃。
「……大丈夫どころじゃないですね」
二体目。
三体目。
どちらもほとんど変わらなかった。
【アーマーベア三体を討伐しました】
【240P獲得】
【累計獲得P:342,260P】
「アーマーベアは八十Pなんだ」
「ストーンリザードより少ないんですね」
「Pって単純な大きさとか強さだけで決まってるわけじゃないのかも」
「その辺りはまだ分からないんですね」
「うん」
《会員》について分かっていないことは、まだ多い。
◇
六階へ下りる。
ここから通路が少し広くなった。
魔力反応も強い。
「前に三体」
「何?」
「大きい」
進んでいく。
現れたのはグランドリザードだった。
「三体もいるね」
ルナが弓を構える。
「これ、一体五百Pなんだ」
思わず言ってしまった。
「アレン」
「何?」
「顔」
「え?」
「嬉しそう」
そんなことはない。
多分。
「じゃあ全部どうぞ」
フェリシアが一歩下がる。
「いいの?」
「P欲しいんでしょう?」
「欲しい」
「みんな知ってるから」
竜爪剣を構える。
三体が一斉に来た。
一体目。
横へかわし、首を斬る。
二体目はそのまま横薙ぎ。
三体目が大きく口を開けた。
踏み込む。
真正面から剣を振り下ろした。
終わり。
【グランドリザード三体を討伐しました】
【1,500P獲得】
【累計獲得P:343,760P】
「千五百P」
「やっぱり嬉しそう」
「嬉しいよ」
今度は認める。
「この調子なら結構増えそう」
「まだ下へ行きます?」
「時間は?」
「まだ昼前くらいじゃないかな」
「じゃあ行こう」
「私は大丈夫」
ルナが答える。
「ワフッ!」
テリーも元気だ。
「よし」
さらに下へ進む。
◇
七階。
通路の奥に、二体の大きな魔物が見えた。
「アイアンオーガ」
俺は足を止める。
「……二千P」
フェリシアがこちらを見る。
「もう魔物の名前よりPが先に出てない?」
「気のせい」
巨大な棍棒が振り下ろされる。
以前なら、かなり警戒する相手だった。
でも昨日、ガイルの大剣を受けたばかりだ。
竜爪剣を上げる。
ガンッ!
「軽い」
「グオッ!?」
棍棒を横へ弾く。
一歩踏み込む。
首を斬った。
もう一体が横から棍棒を振る。
それより早く懐へ入る。
胴を斬り抜く。
二体目が倒れた。
【アイアンオーガ二体を討伐しました】
【4,000P獲得】
【累計獲得P:347,760P】
「四千P」
「一気に増えたね」
「やっぱり深い階層はいいな」
「またそういうこと言う」
フェリシアが笑った。
◇
八階。
グランドリザードが二体。
アイアンオーガが一体。
「全部アレンがやる?」
ルナが聞く。
「いいの?」
「今のところ全然疲れてないから」
「私も」
フェリシアも杖を下ろす。
「じゃあ遠慮なく」
グランドリザードが左右から来る。
一体目を斬る。
振り返りながら二体目。
その後ろからアイアンオーガ。
棍棒をかわして、首を一閃。
三体が続けて倒れた。
【グランドリザード二体、アイアンオーガ一体を討伐しました】
【3,000P獲得】
【累計獲得P:350,760P】
「三千P」
「また増えたね」
「うん」
「今日はかなり貯まりそうだね」
フェリシアが言う。
「まだ九階と十階があるからね」
「完全にPのことしか考えてない顔」
「そんな顔ある?」
「今のアレンの顔だよ」
◇
九階。
魔力感知に大きな反応が三つ。
「アイアンオーガが三体」
「六千P……かな?」
フェリシアが先に言った。
「そう」
「やっぱりすぐ計算するんだね」
「大事だから」
「はいはい」
三体のアイアンオーガが並んだ。
狭い通路が完全に塞がれている。
「アレン、一人で?」
ルナが聞く。
「やってみる」
地面を蹴る。
一体目の棍棒。
かわす。
首を斬る。
二体目の横薙ぎ。
身体を沈める。
胴を斬る。
三体目。
真正面から棍棒を振り下ろしてきた。
剣へ魔力を流す。
受けない。
そのまま振る。
ザンッ!
棍棒が途中から斬れた。
「グオッ!?」
もう一歩踏み込む。
一閃。
三体目が倒れた。
【アイアンオーガ三体を討伐しました】
【6,000P獲得】
【累計獲得P:356,760P】
「……」
「どうしたの?」
ルナが聞く。
「今日だけで一万六千P以上増えてる」
「そんなに?」
「うん」
「まだ階層主が残ってるよ」
フェリシアが下へ続く階段を見る。
「そうだね」
「嬉しそう」
◇
十階へ下りる。
今までより広い空間だった。
天井も高い。
中央に一体だけ魔物が立っている。
「……大きい」
ルナが見上げた。
三メートルを超える巨体。
黒ずんだ皮膚。
太い腕。
額から伸びる二本の角。
手には巨大な棍棒。
「知ってる」
フェリシアが俺を見る。
「以前戦ったね」
「ああ」
キングオーガ。
昔、スタンピードの中心にいた魔物。
あの時は町を守るために、一対一で戦った。
「階層主がキングオーガなんだ」
「グオオオオオオッ!」
咆哮が広い空間に響く。
ルナが耳を押さえた。
「うるさい……」
「ワフッ!」
テリーまで少し嫌そうだ。
キングオーガが巨大な棍棒を肩へ担ぐ。
昔戦った時と同じ。
大きい。
強い。
あの時は、相手の一撃を警戒しながら、どうやって懐へ入るか考えた。
「アレン?」
「俺がやっていい?」
フェリシアが笑う。
「五千Pだもんね」
「うん」
「どうぞ」
「ありがとう」
竜爪剣を抜く。
「グオオッ!」
キングオーガが走り出した。
ドンッ!
ドンッ!
足を踏み出すたび、地面が揺れる。
巨大な棍棒が上がった。
以前は、あれをどうかわすか。
どう懐へ入るか。
必死に考えていた。
今は、相手の動きがよく見える。
地面を蹴った。
「え?」
ルナの声が後ろで聞こえた。
一気に間合いへ入る。
キングオーガの棍棒が振り下ろされるより早く、竜爪剣へ魔力を流す。
横薙ぎ。
ザンッ!
そのまま通り過ぎる。
「グ……?」
キングオーガの動きが止まった。
棍棒が手から落ちる。
少し遅れて、首がずれた。
ドンッ。
巨体が膝から崩れ、そのまま前へ倒れた。
「……」
静かになった。
「終わった?」
ルナが聞く。
「終わったね」
フェリシアが答える。
【キングオーガを討伐しました】
【5,000P獲得】
【累計獲得P:361,760P】
「五千P」
《会員》を開く。
【保有:32,050P】
【累計獲得P:361,760P】
「三万二千五十P」
「保有P?」
「うん」
「朝は一万くらいだったよね?」
ルナが聞く。
「一万八百三十P」
「よく覚えてるね」
「大事だから」
フェリシアが笑う。
「今日だけでどれくらい増えたの?」
「二万一千二百二十P」
「そんなに倒したんだ」
「倒したよ」
「ほとんどアレンだったね」
ルナが笑った。
「Pになるからね」
キングオーガへ触れる。
「《収納》」
巨体が消えた。
部屋の奥を見る。
青白く光る大きな石がある。
「転移石?」
フェリシアが近づく。
「十階だからかな」
「帰る時に使おう」
ルナが言う。
「本当に便利だよね」
ここまで来るのに、それほど時間はかからなかった。
身体もまだ動く。
フェリシアもルナも余裕がある。
テリーなんて、部屋の中を元気に歩き回っていた。
「まだ行く?」
ルナが十一階へ続く階段を見る。
「うーん」
少し考える。
まだ行ける。
でも、今日は最初から十階より先へ行くつもりではなかった。
依頼に必要な素材も十分集まっている。
「今日はここまでにしよう」
「え?」
フェリシアが意外そうな顔をする。
「アレンなら行くって言うと思った」
「俺も行きたいけどね」
王都へ向かうためにブランカへ来ている。
ダンジョン攻略が目的ではない。
「また来ればいいし」
「うん」
即答すると、フェリシアが笑った。
「ワフッ!」
転移石へ手を伸ばす。
朝、軽い気持ちで入ったダンジョン。
気づけば十階層まで来ていた。
以前なら、何日もかけて少しずつ進んでいた。
今は一日でここまで来られる。
強くなった。
改めて、それを実感した。
【保有:32,050P】
【累計獲得P:361,760P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




