第136話 領都西ダンジョン
仮設住宅の訓練が終わった頃には、昼をかなり過ぎていた。
「疲れたー!」
ガイルが地面に座り込む。
「一番元気に動いてたもんね」
「ああ、さすがに疲れた」
近くでは騎士たちも木陰に座り、水を飲んでいる。
あれだけ動けば当然だ。
「そうだ、アレンさん」
クリスさんが声をかけてきた。
「アレンさんたち、王都へ向かうのは少し待っていただくことになりそうです」
「何かあったんですか?」
「父上が王都へ持っていってもらう書状を用意しています。
皆さんのことと、セルヴァンで起きた魔物の件についても書くそうです」
「書状……」
「何もなしで行くより、その方が話は通りやすいでしょう。詳しいことは今夜、父上から説明があります」
「分かりました」
「じゃあ帰るぞ!」
ガイルが勢いよく立ち上がった。
「腹減った!」
「また肉?」
「当たり前だろ!」
やっぱりそうなんだ。
◇
その日の夕食も肉だった。
牛肉。
羊肉。
ソーセージ。
煮込み。
昨日とほとんど変わらない。
でも、ガイルもバルド様も嬉しそうに食べている。
「うまい!」
「今日はよく動いたからな!」
「父上は訓練してないだろ!」
「見ていた!」
「それで腹減るのか?」
「減る!」
似ている。
マリア様が小さくため息をついた。
「アレン」
バルド様が肉を置く。
「王都へ持たせる書状だが、明後日には用意できる」
「ありがとうございます」
「お前たちの身元についても書いておく。セルヴァンで起きた件もな」
「助かります」
「ただし、書状があるからといってドランへ入れるとは限らんぞ」
「はい」
そこは分かっている。
「二日か」
フェリシアが言う。
「何する?」
ルナが聞いた。
「街を見るのもいいけど……」
「だったら西のダンジョンに行けばいいだろ!」
ガイルが口を挟んだ。
「ダンジョン?」
「ああ!」
ガイルが肉を飲み込む。
「ブランカから西にある。領都の冒険者がよく使うダンジョンだ」
「遠いの?」
「歩いて二時間くらい」
「近いね」
「だろ?」
ガイルが頷く。
「浅い場所なら、そこまで強い魔物も出ない」
「ガイル」
クリスさんが見る。
「安全だと言い切らないの」
「言ってないだろ?」
「言い方が軽いのよ」
「でも、アレンたちなら大丈夫だろ!」
ガイルが俺を見る。
「俺も行きたいんだけどな」
「行かないの?」
ルナが聞く。
「明日も訓練がある」
少し意外だった。
「休まないんだ」
「副団長だからな!」
胸を張る。
「俺が遊びに行ってどうする!」
昨日の勉強といい、今日の訓練といい。
本当にちゃんとやっている。
「偉いですね」
フェリシアが言う。
「だろ!」
「褒めるとすぐ喜ぶ」
「いいだろ!」
クリスさんが少し笑った。
「西のダンジョンへ行くのでしたら、明日の朝にでも冒険者ギルドで情報を確認してください」
「はい」
「ダンジョンは状況が変わりますから」
「分かりました」
「よし!」
ガイルが笑う。
「じゃあ決まりだな!」
「まだ決めてないけど」
「行くだろ?」
俺とフェリシア、ルナで顔を見合わせる。
「行ってみる?」
「私は行きたい」
「私も」
「ワフッ!」
「決まりだね」
「ほらな!」
ガイルが得意そうに笑った。
◇
翌朝。
俺たちはベイルン家を出ることにした。
王都へ向かうまでは、領都の宿に泊まる。
玄関ではバルド様たちが見送ってくれた。
「このたびは、本当にありがとうございました」
俺たちは三人で頭を下げる。
「食事まで何度もご馳走になってしまって」
フェリシアも続けた。
「お気になさらないでください」
マリア様が微笑む。
「またいつでも来い!」
バルド様が大きな声を出す。
「飯ならいくらでも食わせてやる!」
「あなた」
「おっと」
全然小さくならない。
「ダンジョンから帰ったら寄れよ!」
ガイルが言う。
「時間があったらね」
「絶対来い!」
「なんで決定なんだよ」
「また稽古しようぜ!」
「そっちが目的?」
「ハハハハ!」
クリスさんがガイルを見る。
「あなたは訓練でしょう」
「分かってる!」
俺たちは笑った。
「それでは、失礼します」
もう一度頭を下げ、屋敷を出た。
◇
まずは宿を取った。
大通りから少し外れた場所にある三階建ての宿。
三人それぞれ部屋を取り、テリーも一緒に泊まれることを確認する。
「次は?」
ルナが聞く。
「買い物」
「何買うの?」
「ダンジョン用」
そのまま市場へ向かった。
ブランカの市場は大きい。
食料。
武器。
防具。
薬。
色々な店が並んでいる。
最初に入ったのは薬を扱う店だった。
「いらっしゃい」
店内の棚には小さな瓶がずらりと並んでいる。
「回復用のポーションをお願いします」
「何本だい?」
「二十本」
「二十?」
店主が聞き返した。
隣でフェリシアも俺を見る。
「多くない?」
「そう?」
「三人ですよ?」
「テリーもいるよ」
「それでも多いです」
「じゃあ、解毒用も十本」
「増えた!」
ルナが笑った。
「他には?」
「傷口を洗う薬と、包帯も多めにください」
「まだ買うんですか?」
フェリシアが呆れた顔をする。
「グリーンドラゴンの時みたいになるかもしれないからね」
「え?」
「怪我をするのが、俺たちだけとは限らない」
地下要塞では、助けなければならない人たちがいた。
騎士団にも怪我人が出た。
その奥ではグリーンドラゴンまで現れた。
予定通りにいくとは限らない。
「前は俺たちの分があればいいと思ってたけど」
棚に並んだポーションを見る。
「今は多めに持っていた方がいいと思う」
フェリシアが少し黙った。
「……そう言われると、買い過ぎとは言いにくいですね」
「でしょ?」
「でも二十本は多いです」
「そうかな」
「多いです」
「私も持つよ」
ルナが言う。
「大丈夫。《収納》に入れるから」
「便利だね」
「だから多く買える」
「やっぱり《収納》が原因じゃないですか?」
フェリシアが言った。
否定はできない。
◇
食料も買った。
水。
干し肉。
パン。
果物。
それからロープや予備の火種も追加する。
「本当にいっぱい買うね」
ルナが言う。
「足りないよりいいよ」
「《収納》がある人の考え方ですね」
フェリシアが笑う。
全部しまっても荷物は増えない。
本当に便利だ。
買い物を終える頃には、日が傾き始めていた。
「今日はもう休もうか」
「うん」
「明日は朝からギルドですね」
「ああ」
◇
翌朝。
宿で朝食を済ませ、冒険者ギルドへ向かった。
ブランカの冒険者ギルドはバイソンより大きい。
「人多いね」
ルナが辺りを見る。
「領都だからでしょうね」
中には何十人もの冒険者がいた。
依頼掲示板の前にも人が集まっている。
「まず依頼を見ようか」
「うん」
三人で掲示板を見る。
採取。
護衛。
魔物討伐。
素材回収。
「あ」
フェリシアが一枚の依頼書を指した。
「これ、いいんじゃないですか?」
見る。
【領都西ダンジョン・魔物討伐及び素材回収】
【推奨ランク:C以上】
「ちょうど行く場所だね」
ルナが言う。
「これにしようか」
依頼書を取って受付へ持っていく。
「こちらをお願いします」
受付の女性が依頼書を見る。
次に俺たちの冒険者証を見る。
目が少し大きくなった。
「……Aランク?」
「はい」
「お二人ともですか?」
「はい」
フェリシアも冒険者証を見せる。
「私はBランクです」
ルナも続いた。
「こちら、Cランク向けの依頼ですが……」
「受けられませんか?」
「い、いえ! もちろんです!」
受付の女性が慌てて首を振る。
「むしろ助かります」
「ではお願いします」
「討伐対象はケイブリザードとロックウルフです。指定素材を一定量持ち帰っていただければ達成となります」
「分かりました」
「あと」
クリスさんの言葉を思い出す。
「最近、ダンジョンで何か変わったことはありませんか?」
「今のところ、大きな異常の報告はありません」
「そうですか」
「ただし、ダンジョン内は常に状況が変わります。油断はしないでください」
「はい」
依頼を受け、ギルドを出た。
◇
ブランカの西門を抜ける。
最初は畑が広がっていた。
その先には草原。
さらに進むと、少しずつ木が増えていく。
「本当に二時間くらいなんだね」
ルナが言う。
「冒険者も多いですね」
同じ方向へ歩く人が何組かいる。
大きな荷物を背負った人。
剣を持った人。
杖を持った魔法使いらしい人。
みんな西へ向かっている。
「領都から近いから使いやすいんだろうね」
「ワフッ!」
テリーは元気に先を歩いていた。
途中で一度休憩し、さらに西へ進む。
やがて森の向こうに岩山が見えてきた。
「あれかな」
その麓に人が集まっている。
簡単な柵。
小さな詰所。
食料や道具を売る露店。
そして、その奥。
岩山にぽっかりと大きな穴が開いていた。
「着いたね」
ルナが言う。
「あれが……」
領都西ダンジョン。
入口は想像していたより大きい。
奥は暗く、外からでは何も見えない。
中から冷たい空気が流れてくる。
何人もの冒険者が、その暗闇へ入っていく。
「よし」
剣の位置を確かめる。
「行こうか」
「うん」
「はい」
「ワフッ!」
王都へ向かうまでの、ほんの二日。
ただの時間潰しになると思っていた。
でも、ダンジョンの暗い入口を前にすると、少しだけ気持ちが高ぶる。
久しぶりのダンジョンだ。
【保有:10,830P】
【累計獲得P:340,540P】
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