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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第8章 アルスレイン王国

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第134話 ベイルン家

「私はクリス・ベイルン。ガイルの姉です」


 女性が名乗る。


「アレンです」


「フェリシアです」


「ルナです」


「ワフッ!」


 テリーまで返事をする。


 クリスさんの視線が、そのテリーで止まった。


「その子は?」


「テリーです」


 ルナが答える。


「ああ、この白い犬な」


 ガイルが言う。


「ワフ?」


「昨日のドラゴンが言うには、フェンリルらしいぞ」


「……フェンリル?」


 クリスさんの顔が変わった。


「ガイル」


「何だ?」


「どうして、それを昨夜の連絡に書かなかったの?」


「ドラゴンと卵のことでいっぱいだったんだ!」


「フェンリルも十分大事でしょう」


「今伝えたんだからいいだろ?」


 クリスさんが小さく息を吐く。


「とにかく中へ入りましょう。父上も母上も待っています」


「ああ」


 俺たちはクリスさんに案内され、屋敷へ入った。


 ◇


 ベイルン家の屋敷は広かった。


 ただ、これまで見た貴族の屋敷とは少し雰囲気が違う。


 壁には剣や盾。


 廊下には甲冑。


 飾られている肖像画にも、騎士らしい人物が多い。


 軍事力で知られる家らしい。


「こっちだ」


 ガイルについて広い部屋へ入る。


 中には男女が一人ずつ待っていた。


 男性は大柄だった。


 ガイルほどではないけど、かなり大きい。


 日に焼けた顔。


 短く切られた髪。


 座っているだけなのに迫力がある。


 その隣の女性は姿勢がよく、クリスさんによく似た落ち着いた雰囲気だった。


「戻ったか、ガイル!」


 男性が大きな声を出す。


「ああ、父上!」


「無事なら何よりだ!」


「あなた。声が大きいです」


「おお、すまん!」


 全然小さくなっていない。


 ガイルのお父さんだ。


 すぐ分かった。


「そちらが?」


 女性が俺たちを見る。


「昨日、一緒に地下へ入った冒険者だ」


 ガイルが答える。


 俺とフェリシアは一歩前へ出た。


「お初にお目にかかります。アレンと申します。このたびは突然お邪魔することになり、申し訳ございません」


「フェリシアと申します。お招きいただき、ありがとうございます」


「ルナと申します。お招きいただき、ありがとうございます」


 三人で頭を下げる。


 一瞬、部屋が静かになった。


「……お前ら」


 ガイルが目を丸くする。


「そんな話し方できたのか?」


「できるよ」


「私もできます」


「そうなのか?」


「ガイル」


 クリスさんが呆れたように見る。


 大柄な男性が笑い出した。


「はははは! ガイルから聞いていたから、もっと荒っぽい連中を想像していたぞ!」


「あなた」


「おっと、失礼した!」


 女性がこちらを見る。


「私はマリア・ベイルンです」


「バルド・ベイルンだ!」


 やっぱり声が大きい。


 ベイルン辺境公。


 この領地を治める人物だ。


「どうぞ楽にしてください」


「ありがとうございます」


 フェリシアが丁寧に答える。


 マリア様だけでなく、クリスさんも俺たちを少し意外そうに見ていた。


「冒険者だと聞いていたけれど、随分きちんとしているのね」


「一応、そういう教育は受けていますので」


「私もです」


 フェリシアも続ける。


「俺も一応貴族だぞ!」


 ガイルが言った。


「あなたは今、関係ないでしょう」


「なんでだよ!」


 やっぱり姉には弱いらしい。


 バルド様が俺たちを見る。


「昨日の件は聞いている。領民を助けてくれたそうだな」


「いえ。騎士団の皆さんもいらっしゃいましたので」


「九人全員が無事に戻れた」


 さっきまで笑っていた表情が少しだけ変わる。


「領主として礼を言う。ありがとう」


「お力になれて何よりです」


 俺はもう一度頭を下げた。


「ドラゴンの卵についても聞いている」


「はい」


「その話は食事をしながら聞こう! 腹も減っているだろう!」


「父上は少し前に食べていたでしょう」


「あれはおやつだ!」


 ガイルが笑う。


 似ている。


 ◇


 食堂へ移動して、俺は目を丸くした。


「……肉だ」


 大きなテーブルに料理が並んでいる。


 厚く切られた牛肉。


 羊肉。


 骨付き肉。


 ソーセージ。


 肉の煮込み。


 大きな塊肉まである。


 一応、野菜もある。


 でも明らかに肉の方が多い。


「すごいね」


 ルナが言う。


「ワフッ!」


 テリーは嬉しそうだ。


 昨日の店も肉ばかりだった。


 どうやら店の問題ではなかったらしい。


「遠慮せず食え!」


 バルド様が言う。


「ありがとうございます」


 俺たちは席についた。


 テリーの前にも大きな皿が置かれる。


「ワフッ!」


「大きい」


 ルナが覗き込む。


 人間用より大きそうな骨付き肉だった。


「そいつの分だ!」


「ありがとうございます」


「ワフッ!」


 テリーが勢いよく尻尾を振る。


 バルド様がじっと見る。


「しかし、本当にこの子がフェンリルなのか?」


「ええ」


 ルナが答えた。


 肉を食べながらガイルが疑問を口にする。


「どう見ても犬じゃないか?」


 ゴン。


「痛っ!」


 クリスさんの拳が頭に落ちた。


「何するんだよ!」


「フェンリルを犬扱いしないの」


「白くて四本足だろ!」


「それだけで犬にしないで」


「似たような――」


 クリスさんがもう一度拳を上げる。


「分かった! もう言わない!」


 バルド様が大声で笑った。


「はははは!」


「あなたも笑わないでください」


「すまん!」


 クリスさんがテリーを見る。


「アルスレインにもフェンリルの記録は残っています」


「そうなんですか?」


 ルナが聞く。


「ええ。滅多に人前に姿を見せない魔物よ。知性が高く、成長した個体は非常に強いと言われているわ」


「強いの?」


「昔、北部に現れたフェンリルを騎士団が討伐しようとして、近づくことすらできなかったという記録もあります」


「え?」


 ルナがテリーを見る。


「ワフ?」


 本人は骨付き肉を食べるのに夢中だった。


「人に従うことも珍しいと聞いています」


 マリア様が言う。


「どうやって従魔にしたのですか?」


「従魔契約はしましたけど……」


 ルナがテリーを見る。


「ずっと一緒なんです」


「ずっと?」


「はい。だから、従魔っていうより、ずっと一緒にいる感じです」


「ワフッ!」


 テリーが顔を上げる。


 ルナがその頭を撫でた。


「そうなのですね」


 マリア様が微笑んだ。


「俺にも懐いてるぞ!」


 ガイルが言う。


「ワフ?」


「ほら」


「今のは違うと思う」


 フェリシアが言った。


「なんでだよ!」


 ◇


 食事をしながら、昨日のことを説明した。


 街道の崩落。


 地下要塞。


 取り残された人たち。


 そしてグリーンドラゴン。


 二つの卵。


「なるほどな」


 バルド様が腕を組む。


「卵は当家で責任を持って預かろう」


「ありがとうございます」


「勝手に売ったり、研究に使わせたりはせん」


「お願いします」


 あのドラゴンは俺たちを信じて卵を預けた。


 だからこそ、勝手なことはしたくない。


「それで」


 バルド様が俺を見る。


「お前たちは、このあとドラン帝国へ向かうそうだな」


「はい」


 食卓の空気が少し変わる。


「目的は?」


「セルヴァンで起きた事件を追っています」


「事件?」


「魔物が大量に連れ去られていました」


 実験施設で見たことを説明する。


 捕らえられた魔物。


 薬を使った実験。


 凶暴化。


 そして一部の魔物が、別の場所へ運び出されていた可能性。


「その行き先がドランか」


「その可能性があります」


 バルド様が黙る。


「だから確かめに行くと」


「はい」


「だが、お前は……」


 俺を見る。


「サハルでドラン帝国軍と戦っているな?」


「ご存じなのですか?」


「ああ」


 バルド様が頷く。


「アレン・ヴァルディス。帝国軍と交戦し、向こうの剣士も倒した冒険者だろう」


「はい」


「なら、普通の冒険者と同じようには考えない方がいい」


「どういうことでしょうか」


「ドラン側がお前の名前を把握している可能性がある」


「……」


 そこまでは考えていなかった。


「今は国境の警備も以前より厳しい。身元を調べられれば、簡単には通れんだろう」


「戦争になるのでしょうか?」


 フェリシアが聞く。


「そこまでは分からん」


 バルド様が首を振った。


「ただ、以前より張り詰めているのは確かだ」


 俺は手を止めた。


 ドラン。


 魔物。


 薬。


 そして昨日のグリーンドラゴン。


 頭の中で、それぞれ別だったものが少しずつつながっていく。


「……もしかすると」


「どうした?」


 ガイルが聞く。


「あのグリーンドラゴンも関係しているのかもしれない」


「昨日の?」


「ああ」


 セルヴァンで魔物が連れ去られていた。


 その一部はドラン方面へ運ばれた可能性がある。


 そして、傷ついた状態で現れたグリーンドラゴン。


「もちろん偶然かもしれない」


 俺は続ける。


「でも、あのドラゴンがどこで傷ついたのかは分かっていません」


「ドランで何かあった可能性がある?」


 フェリシアが言う。


「分からない。でも、調べる価値はあると思う」


「なるほどな」


 バルド様がゆっくり頷く。


「考えすぎとは言い切れん」


「あなた。危険なことを勧めないでください」


 マリア様が言う。


「分かっている!」


「声」


「おっと」


 バルド様が咳払いする。


「ただ、すぐ国境へ行くのは勧めん」


「では、どうすれば?」


 俺が聞く。


「まず王都へ行け」


「王都ですか?」


「ああ。国境の状況は外交の問題でもある。王都の方が詳しい」


 バルド様が言う。


「通行に許可や身元の保証が必要なら、そこで確認する方がいいだろう」


「分かりました」


「それに、セルヴァンで起きた件も王都へ伝えておいた方がいい」


「はい」


 アルスレインの王都。


 もともと興味はあった。


 でも今度は、行かなければならない理由ができた。


 ◇


 食事を終える頃には、すっかり夜になっていた。


「今日はうちに泊まっていけ!」


 ガイルが言った。


「え?」


「もう遅いだろ」


「部屋ならいくらでもあるぞ!」


 バルド様も続ける。


「もう今夜は遅いですし、そうなさってください」


 マリア様も頷いた。


「ありがとうございます」


 俺とフェリシアとルナが頭を下げる。


「また急に礼儀正しくなったな」


 ガイルが言う。


「だから普通にできるんだって」


 ガイルが立ち上がり、背を向ける。


「じゃあ俺、勉強してくる!」


「え?」


 思わず聞き返す。


「今から?」


「ああ」


「昨日は地下要塞に行って、ドラゴンとも戦ったよね?」


「だからって、勉強しなくていい理由にはならないだろ」


 少し意外だった。


「学院にいた頃は、姉上とかナディアって友達に散々やらされたけどな」


「散々とは何よ」


 クリスさんが言う。


「あなたが自分からやらなかったからでしょう」


「今は違うんだ!」


 ガイルが胸を張る。


「でも、これから領主になるんだ。剣だけ強くても駄目だろ」


 ガイルがそんなことを考えているとは思わなかった。


「だから今は、自分でやる」


 クリスさんが俺を見る。


「最近ようやく、自分の意思で勉強するようになりました」


「姉上、それ言う必要あるか?」


「本当のことでしょう」


「そうだけど!」


 俺は笑った。


「でも、すごいと思うよ」


「何が?」


「ちゃんと領主になる先のことまで考えてるんだろ」


「……まあな」


「ああ。立派だと思う」


 ガイルの顔が少し嬉しそうになる。


「そうか!」


「ああ」


「じゃあアレン!」


「何?」


「明日の朝、稽古しようぜ!」


「なんでそうなるの?」


「なんか身体を動かしたくなった!」


「意味が分からないよ」


「いいだろ!」


「まあ……いいけど」


「よし!」


 ガイルが大きく拳を握った。


「朝飯の前な!」


「早いな」


「騎士は朝が早いんだ!」


 そう言って、ガイルは部屋を出ていく。


「本当に勉強するのかな」


 ルナが言った。


「しますよ」


 クリスさんが即答する。


 少し間を置いて、


「最近は」


「そこ強調するんですね」


 フェリシアが笑った。


 ◇


 翌朝。


「眠い……」


 フェリシアが小さくあくびをした。


「朝早すぎ」


 ルナも眠そうだ。


「ワフ……」


 テリーまで同じ顔をしている。


「おーい!」


 前から声が飛んでくる。


 ガイルが大きく手を振っていた。


 昨日あれだけ動いていたのに、もう元気だ。


 俺たちはベイルン家の屋敷を出て、近くにある騎士団の訓練場へ向かう。


「早く来い!」


「元気だね」


「昨日、本当に勉強したのかな」


「したぞ!」


「聞こえてたんだ」


 訓練場へ入る。


 朝だというのに、すでに何人もの騎士が剣を振っていた。


「副団長!」


「おはようございます!」


「おう!」


 ガイルが片手を上げる。


 そして俺を振り返った。


「アレン!」


「何?」


 楽しそうに笑う。


「今日は本気でやろうぜ!」


 どうしてこうなったんだろう。


【保有:10,830P】

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