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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第8章 アルスレイン王国

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第132話 託されたもの

「……マテ……ニンゲン……」


 低く、掠れた声。


 三人とも動けなかった。


「今……喋った?」


 フェリシアがグリーンドラゴンを見る。


 俺も聞き間違いかと思った。


 でも、違う。


 グリーンドラゴンは確かに俺たちを見ている。


「話せるのか?」


「……スマヌ……」


「謝った?」


 グリーンドラゴンがゆっくり頭を下げた。


「オ前タチヲ……追手ト、思ッタ」


「追手?」


「……ドランノ、人間ダ」


 ドラン。


 俺とフェリシアが顔を見合わせる。


「ドラン帝国から来たのか?」


「ソウダ」


 苦しそうに息を吐く。


「卵ヲ……奪ワレルト、思ッタ」


 視線が後ろの二つの卵へ向いた。


 なるほど。


 ドランで人間に襲われた。


 その後、突然武器を持った俺たちが現れた。


 追手だと思ったのか。


「こっちも事情を知らずに戦ったからな」


「……スマヌ」


「もういいよ」


 剣を鞘へ戻す。


 ガイルも大剣を下ろした。


 改めてグリーンドラゴンを見る。


 さっき見えた脇腹。


 黒ずんだ大きな古傷が残っている。


 それだけじゃない。


 翼の付け根。


 後ろ脚。


 よく見れば身体のあちこちに傷があった。


「もしかして……」


「どうしたの?」


 フェリシアが聞く。


「前にレッドドラゴンと戦ったことがあるんだけど、あの時より少し動きが鈍い気がしたんだ」


 種類が違うからだと思っていた。


 でも。


「最初から万全じゃなかったのか」


「……万全デモ…勝テナイダロウ」


 そんなことを言うけど、これだけの傷を抱えたまま俺たち三人と戦っていたんだ。


 もし傷がなかったら、もっと手強かったかもしれない。


「アレーン!」


 突然、頭上から声が聞こえた。


「ルナ?」


 見上げる。


 崩落して地上まで開いた穴から、ルナが顔を覗かせていた。


「大丈夫ー!?」


「大丈夫!」


「ルナ!」


「何ー?」


「戻ってきてくれないか!」


「どうしたの?」


「このドラゴンを治療してほしい!」


 しばらく返事がなかった。


「……ドラゴンを?」


「ああ!」


 ガイルも上を見る。


「俺からも頼む! もう戦う必要はない!」


「分かったー!」


 ルナの顔が引っ込んだ。


「来るまでに、俺たちもできることをやろう」


 《収納》を開く。


「ポーション?」


 フェリシアが聞く。


「ああ」


 買っておいてよかった。


 何本か取り出す。


 グリーンドラゴンがこちらを見る。


「回復用だ」


「……我ニ?」


「そう」


 大きな身体へ近づく。


「飲める?」


「……アア」


 瓶を口元へ運ぶ。


 一本。


 もう一本。


 さらにもう一本。


 人間用のポーションだから、この巨体には効果も小さいはずだ。


 それでも何もしないよりはいい。


「俺のも使え」


 ガイルも持っていたポーションを取り出した。


「準備いいね」


「騎士がポーション持ってなくてどうする」


「それもそうか」


 フェリシアは傷口についた土や小石を取り除いていく。


 さらに何本か使ううちに、グリーンドラゴンの荒かった呼吸が少し落ち着いた。


「……感謝スル」


「まだ礼は早いよ」


 しばらくすると、通路の奥から足音が聞こえてきた。


「アレン!」


 ルナが走ってくる。


 その後ろにはテリーもいた。


「ワフッ!」


 俺たちを見つけ、嬉しそうに鳴く。


 でも、すぐにグリーンドラゴンへ気づいた。


「ワフッ」


 ルナの前へ出て、白い毛を逆立てる。


「大丈夫だよ、テリー」


 ルナがしゃがむ。


「もう戦わないから」


 首元を優しく撫でる。


「クゥン……」


 テリーがルナを見上げる。


 それからまだ少し警戒しながら、足元へ身体を寄せた。


 グリーンドラゴンの目がテリーへ向く。


「……フェンリル……?」


「知ってるの?」


「無論……」


 グリーンドラゴンがテリーをじっと見る。


 そして。


「……驚イタ」


「何が?」


「フェンリルガ……コレホド、人ニ心ヲ許ストハ」


 ルナがテリーを見る。


「テリー?」


「ワフッ!」


「私の大事な従魔だよ」


 ルナが笑って、頭を撫でる。


 テリーは嬉しそうに目を細め、その身体をルナへ押しつけた。


 グリーンドラゴンは黙ってその様子を見ている。


「……ソウカ」


 何か考えているようだった。


「それより傷を見せて」


 ルナがグリーンドラゴンへ近づく。


「……頼ム」


 脇腹を見る。


「これはひどいね……」


「治せそう?」


「完全には無理だと思う。身体も大きいし、傷も古いから」


 ルナが両手を向けた。


「でも、できるだけやってみる」


 淡い光が傷を包んでいく。


 しばらく治療を続ける。


 少しずつグリーンドラゴンの呼吸が落ち着いていった。


「どう?」


「……楽ニ、ナッタ」


「よかった」


「感謝スル……小サキ、エルフヨ」


「半分だけだけどね」


 ルナが笑った。


「それで」


 ガイルが聞く。


「何があってこんな所にいたんだ?」


 グリーンドラゴンがしばらく黙った。


 やがて、口を開く。


「我ハ……ドランノ山ニ、住ンデイタ」


「ドラン帝国に?」


「ソウダ」


 後ろの卵を見る。


「卵ヲ産ミ……守ッテイタ」


 そこへ、人間たちが来るようになったという。


「襲われたのか?」


「何度モ」


「何のために?」


「分カラヌ」


 グリーンドラゴンが首を振る。


「我ヲ捕ラエヨウトスル者。卵ヲ持チ去ロウトスル者モイタ」


 その言葉で、リゼルの施設を思い出した。


 強い魔物。


 珍しい魔物。


 捕らえられ、どこかへ送られていた。


 ただ、同じ連中だと決まったわけじゃない。


「最後の襲撃で、その傷を?」


「ソウダ」


 重傷を負った。


 それでも卵を置いていくことはできなかった。


「卵ヲ抱エ……南ヘ飛ンダ」


「傷を負ったまま?」


「何度カ、身ヲ隠シナガラ……ココマデ来タ」


 飛べるとはいえ、深手を負っていた。


 途中で休みながら追手を避け、ようやくここへ辿り着いたらしい。


「コノ洞窟ヲ見ツケ……卵ヲ隠シタ」


 どうやら奥の天然洞窟側から入ったらしい。


「傷が治るまで、ここに隠れてたんだ」


「ソウダ」


 グリーンドラゴンが大きく息を吐く。


「ダガ……傷ハ深カッタ」


 翼を見る。


「今ハ……長ク飛ベル状態デハナイ」


 ようやく全部つながった。


 傷ついた身体でドランから逃げてきた。


 卵を守るため、この洞窟へ身を隠した。


 そして今日、崩落によって地下要塞と洞窟がつながり俺たちと遭遇した。


 グリーンドラゴンの目が、またテリーへ向く。


 ルナの足元で座っている。


「キュン」


 撫でられ、気持ちよさそうにしていた。


「……本当ニ、不思議ダ」


「そんなに?」


「フェンリルハ……誇リ高イ」


 グリーンドラゴンがルナを見る。


「ソノフェンリルガ、オ前ヲ信ジ切ッテイル」


 ルナが少し照れたようにテリーを見る。


「私もテリーを信じてるから」


「ワフッ!」


 グリーンドラゴンはしばらく二人を見ていた。


 それから俺とガイルを見る。


「……頼ミガアル」


「頼み?」


「我ヲ……シバラク、ココデ眠ラセテホシイ」


「眠る?」


「傷ヲ癒スニハ……深ク眠ル必要ガアル」


 ガイルが周囲を見る。


「ここに残りたいってことか」


「ソウダ」


 ガイルは少し考えた。


「分かった」


「いいの?」


「ここはベイルン領だ」


 ガイルが答える。


「この区画は騎士団で封鎖する。誰も入らせないようにする」


「……感謝スル」


「ただ、もう一つ問題がある」


 ガイルが崩れた天井を見る。


「今日の崩落で、この洞窟の存在は知られた。前みたいな隠れ場所じゃない」


「……ソウダ」


 グリーンドラゴンの目が卵へ向いた。


「ソレガ……我ノ、モウ一ツノ頼ミダ」


「まさか」


「卵ヲ……預カッテホシイ」


 俺たちは二つの卵を見る。


 近くで見ると、卵にしては大きい。


 人の頭ほどの大きさ。


 両手なら十分抱えられそうだ。


「俺たちが?」


「我ハ……長ク眠ル」


 グリーンドラゴンの声が弱くなる。


「眠ッテイル間……卵ヲ守レナイ」


 そして、もうこの場所は安全ではない。


「でも、どうして俺たちを?」


 グリーンドラゴンが俺を見る。


「オ前タチハ強イ」


 ガイルを見る。


「卵ヲ見ツケテモ……我ヲ殺サナカッタ」


 そしてルナを見る。


「傷マデ治シタ」


 最後にテリーを見る。


「何ヨリ……」


 少し間を置いた。


「フェンリルガ、コレホド信頼スル者ナラ……我モ信ジヨウ」


「……」


 なるほど。


「もし俺たちが悪い人間だったら?」


「ナラバ……我ハ、判断ヲ誤ッタ」


 グリーンドラゴンの黄色い目がまっすぐ俺を見る。


「ダガ……ソウハ思ワヌ」


 ガイルが小さく笑った。


「そこまで言われたら断れないな」


「預かるの?」


 フェリシアが聞く。


「ああ」


 ガイルが頷く。


「この領地で起きたことだ。俺も責任を持つ」


 俺も卵を見る。


「俺たちも手伝うよ」


「……感謝スル」


「孵るまで守ればいい?」


「ソウダ」


 一度目を閉じる。


 それから、弱々しく続けた。


「モシ……我ガ目覚メル前ニ孵ッタナラ……」


「その時は?」


「少シノ間……世話ヲ、頼ミタイ」


 ルナが卵を見る。


「分かった」


「ワフッ!」


 なぜかテリーまで返事をした。


 グリーンドラゴンの目が少し細くなる。


「……安心シタ」


 大きな身体から力が抜けていく。


「我ガ……目覚メルマデ……頼ム」


「ああ」


「任せて」


 ルナも答える。


 フェリシアも頷いた。


 グリーンドラゴンがゆっくり目を閉じた。


 しばらくすると、呼吸が一定になっていく。


「寝た?」


「うん」


 《魔力感知》を使う。


 大きな魔力は残っている。


 でも、さっきまでとは違って穏やかだった。


「大丈夫そうだ」


「よかった」


 ルナがほっとする。


 その直後。


「でも、私たちは早く出た方がいいよ」


「毒?」


「うん。まだ残ってる」


 床近くには薄い緑色の霧が漂っている。


 少しずつ外へ流れているけど、長居する理由はない。


「行こう」


 二つの卵へ近づく。


 一つを両手で持ち上げた。


「これくらいなら普通に持てるな」


 見た目より少し重いけど、問題ない。


 ガイルももう一つを持ち上げる。


「お前と俺で一個ずつか」


「なんか変な感じだね」


 フェリシアが笑う。


「何が?」


「さっきまでドラゴンと戦ってた二人が、今度はその卵を抱えてる」


「言われてみれば」


 ガイルも卵を見る。


「本当に何が起きるか分からねえな!」


 俺たちは地下要塞を戻った。


 ◇


 地上へ出ると、騎士たちが一斉に駆け寄ってきた。


「副団長!」


「ご無事でしたか!」


「ああ」


 ガイルが卵を抱えたまま答える。


 当然、騎士たちの視線はその卵へ集まった。


「副団長……それは?」


「説明すると長い」


「は、はい……」


 まあ、そうなるよな。


 救助した六人も近くで休んでいた。


 全員、無事に外まで戻れたようだ。


「ルナ、ありがとう」


「うん。みんな大丈夫だったよ」


「ワフッ!」


 テリーも得意そうに鳴く。


 ガイルが騎士の一人を呼んだ。


「ギルドへ行ってくれ。救助は完了したと伝えろ」


「承知しました」


「それと、地下要塞の奥は立入禁止だ。俺の許可なしで誰も入れるな」


「何かあったのですか?」


「後で説明する」


「は、はい!」


 騎士が馬へ向かって走っていく。


「報酬については、こっちからギルドへ話を通しておく」


「ありがとう」


「礼を言うのは俺の方だ」


 ガイルが俺たちを見る。


「今日は助かった」


「こっちも助けてもらったよ」


「それでもだ」


 ガイルが笑う。


「そうだ。お前たち、この後どうするんだ?」


「とりあえずバイソンに戻るつもりだけど」


「なら、明日ブランカに来ないか?」


「ブランカ?」


 ルナが聞き返す。


「領都だよ」


 そういえば、船の中で聞いた。


 ベイルン領の領都は北にあるブランカだ。


 ガイルが抱えている卵を見る。


「こいつのことも父上に説明しないといけないな」


「父上?」


「ベイルン家の当主だ」


 そりゃそうか。


 領内にグリーンドラゴンが住みついて、しかもその卵を預かることになった。


 嫡男一人で決めて終わり、というわけにもいかないだろう。


「それに」


 ガイルが俺たちを見る。


「今日は本当に助かった。よかったら家で飯でも食っていけ」


「家って……」


「ベイルン家の屋敷だ」


「えっ」


 フェリシアが目を丸くする。


「俺たちが行っていいの?」


「俺が誘ってるんだからいいだろ」


「でも、領主様の家だよ?」


 ルナが言う。


「気にするな。父上も母上も、そんな細かいことは言わない」


 少し間を置いて。


「姉は……まあ、分からんけど」


「お姉さんもいるの?」


「ああ」


 さっきまでグリーンドラゴンを相手に笑っていたガイルが、なぜか少しだけ嫌そうな顔をした。


「怖いの?」


 ルナが聞く。


「怖くはねえ」


「今、ちょっと間があったよ」


「怖くはねえって」


 何だろう。


 少し気になる。


「じゃあ、行ってみようか」


「私も行ってみたい」


 フェリシアが頷く。


「私も!」


「ワフッ!」


 テリーまで元気よく鳴いた。


「決まりだな」


 ガイルが笑う。


「明日の朝、バイソンを出る。俺たちと一緒に来ればいい」


「分かった」


 アルスレインへ来て、まだほとんど時間も経っていない。


 それなのにグリーンドラゴンと戦って、卵を預かることになった。


 そして、今度はこの領地を治めるベイルン家へ行くことになった。


 冒険者って何が起こるか分からないな。


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