第124話 発送先
階段から大勢の足音が近づいてきた。
「アレンさん!」
最初に地下へ降りてきたのは、昨日ギルドで話をした職員だった。
その後ろから武装した冒険者や職員たちが続く。
男は地下を見渡し、目を見開いた。
「これは……」
拘束された男たち。
並んだ檻。
大量の薬品。
気絶したまま横たわる魔物。
「犯人たちは全員ここです」
「皆さんが?」
「はい。まだ他にいないかは分かりませんけど」
「分かりました。ここからはこちらで引き継ぎます」
職員たちがすぐに動き始めた。
拘束した男たちを確認する者。
地上を含め、施設全体を捜索する者。
薬品や書類に触れないよう周囲を封鎖する者。
「まだ何があるか分かりません。皆さんも一度こちらへ」
俺たちは邪魔にならない場所へ移動した。
◇
施設全体の安全が確認されたのは、それからしばらく後だった。
連絡を受けた飼い主たちも、ギルド職員に付き添われて地下へ入ってくる。
「ゼグ!」
聞き覚えのある声。
「レスバ」
レスバが俺たちの横を駆け抜けた。
向かった先は、大型のブラックハウンドが入れられた檻。
「ゼグ!」
檻の中では、ゼグがまだ横になっていた。
薬が残っているのか、身体に力が入っていない。
レスバが檻の前へ膝をつく。
「俺だ。分かるか?」
「……クゥン」
閉じていた目がゆっくり開く。
「ゼグ……」
尻尾が、ほんの少しだけ動いた。
それを見たレスバが大きく息を吐く。
「……心配させやがって」
ギルド職員が檻を開ける。
レスバがゼグの首へ腕を回すと、ゼグも弱々しく身体を預けた。
「よかったね」
フェリシアが小さく言う。
「ああ」
他の檻でも同じだった。
「ミリー!」
鳥型の従魔を抱きしめる女性。
「無事だったか……!」
何度も蜥蜴型の従魔へ声をかける男。
力の入らない身体で、それでも飼い主へ顔を擦りつける従魔もいた。
「ワフ……」
テリーがルナの横から見ている。
「みんな、会えてよかったね」
「ワフッ」
ルナが優しく頭を撫でた。
間に合ってよかった。
俺もそう思った。
でも。
「……おかしいですね」
少し離れたところで、ギルド職員が呟いた。
「どうしました?」
近づく。
職員は一冊の帳簿と、檻につけられた番号を見比べていた。
「数が合わないんです」
「数?」
「はい」
帳簿を見せてもらう。
十七。
十八。
十九。
さらに先まで個体番号が続いている。
「ここへ運び込まれた魔物は、今いる数より多いんです」
「死んだ魔物もいるんじゃ?」
「その記録は別にあります。それを除いても足りません」
職員の表情が険しくなる。
近くに拘束されていた男へ向かう。
「他の個体はどこだ?」
「……」
「ここにいた数と合わない」
男は黙っていた。
職員がもう一度聞く。
「どこへやった?」
「……送ったよ」
男がようやく口を開いた。
「送った?」
「何頭かは、もうここにはいねえ」
「どこへ?」
「知らねえよ」
ルナが眉を寄せる。
「知らないって?」
「俺たちは指定された日に荷車へ載せて、受け取りに来た奴へ渡すだけだ。
そこから先なんて聞かされてない」
「誰に渡した?」
「毎回違う」
職員が帳簿を見る。
「少なくとも数頭は、すでにここから運び出されていますね」
「……そうか」
助けられた。
でも、全員ではなかった。
◇
その後も施設の調査は続いた。
薬品。
実験記録。
捕獲された魔物の一覧。
一つずつギルド職員が確認していく。
「アレンさん」
調査を担当していた男性職員が俺たちのところへ来た。
「今回は本当にありがとうございました」
深く頭を下げられる。
「皆さんが荷車を追ってくださらなければ、この施設を見つけることはできませんでした」
「俺たちだけじゃないですよ」
テリーを見る。
「こいつが荷車に気づいて、ルナが追ってくれたからです」
「ワフッ!」
「もちろんです」
職員が笑う。
「依頼の報酬については、ギルドへ戻ってから正式にお渡しします。
今回の内容なら追加報酬も出るでしょう」
「分かりました」
「アレン」
振り返ると、レスバが立っていた。
「本当にありがとう」
「無事でよかったです」
「ああ」
レスバがゼグを見る。
職員たちが慎重に地上へ運び出そうとしている。
「もう会えないかと思ってた」
「これから治療してもらえば大丈夫ですよ」
「ああ……ありがとう」
他の飼い主たちからも次々に声をかけられた。
「本当にありがとうございました」
「助かりました」
「この子を取り戻せるなんて……」
ルナが少し困った顔で笑う。
「こんなにお礼を言われると、照れるね」
「ワフッ!」
「テリーは嬉しそうだけど」
フェリシアが笑う。
「ワフッ! ワフッ!」
尻尾を大きく振るテリーを見て、俺も笑った。
とりあえず。
ここに残っていた従魔たちは助けられた。
◇
「アレンさん、少しいいですか?」
しばらくして、別のギルド職員がやってきた。
「何か見つかりました?」
「はい。少し気になるものが」
俺とフェリシア、ルナも一緒に施設の奥へ向かう。
小さな部屋だった。
棚には何冊もの帳簿。
机の上にも紙が積まれている。
「ここは輸送関係の記録を保管していたようです」
職員が一冊の帳簿を開く。
個体番号。
種類。
捕獲日。
実験結果。
そして。
【発送】
「これ……」
「はい」
いくつかの番号には日付とともに、
【発送済】
と書かれていた。
「さっき足りなかった魔物?」
「おそらくそうです」
ルナの表情が曇る。
「行き先は?」
「それを今調べています」
職員が別の書類を広げた。
そこにはいくつもの商会名と町の名前が並んでいる。
「ずいぶん多いな」
「一つの業者が最後まで運んでいるわけではないようです」
「途中で渡してる?」
「はい。何度も荷を受け渡しています」
フェリシアが書類を覗き込む。
「追いかけにくくするため?」
「そう考えるのが自然でしょうね」
地図が広げられる。
職員が記録に残された町を一つずつ確認していく。
「こちらの便は西へ向かっています」
指が国境を越えた。
「ミラディア?」
「はい」
さらにその先。
いくつもの中継地点を経由している。
「最後までは残っていませんが、別の取引記録と合わせると、ドラン帝国方面へ流れている可能性が高いです」
「ドラン帝国?」
フェリシアが聞き返す。
「こちらを見てください」
職員が別の紙を出す。
そこには受け渡す個体についての指示が残されていた。
【大型個体を優先】
【戦闘能力の高い個体を優先】
【希少種は別途報告】
「強い魔物を選んでる?」
ルナが言う。
「そのようです」
「誰からの指示なんですか?」
「直接の名前はありません。ただ……」
別の取引証を見せられる。
「この商会はドラン帝国内に拠点があります。
ほかにも、帝国内の受け取り先と思われる記録が複数残っています」
「じゃあ、ドラン帝国がやらせてるってこと?」
「そこまでは言えません」
職員が首を振る。
「帝国政府なのか、商人なのか、それとも別の組織なのかは分かりません。ただ――」
帳簿を見る。
「ドラン帝国側で、強い魔物や希少な魔物を集めている者がいる可能性は非常に高いです」
さっき見た光景を思い出す。
赤黒い薬。
理性を失って暴れた魔物。
「何のために……」
フェリシアが呟く。
答えは出なかった。
ただ捕まえて売るだけなら、あんな実験をする必要はない。
何か目的がある。
帳簿をめくる。
【大型蜥蜴型】
【戦闘能力:高】
【発送済】
次。
【大型狼型】
【希少度:高】
【状態:良好】
【発送済】
さらに何頭もの記録。
すでに、この場所から消えている。
「ミラディア以外にも経路があるんですよね?」
俺が聞く。
「あります」
職員が地図へ視線を戻す。
「こちらです」
別の記録をたどる。
今度はミラディアとは違う方向へ伸びていた。
「この便は、セルヴァンを出たあと一度ここへ入っています」
指が一つの国で止まる。
「アルスレイン王国です」
「アルスレイン?」
「はい」
そこからさらに別の商会へ。
そして別の業者へ。
記録をたどる限り、ドラン帝国方面へ流れた可能性が高い。
「ミラディアとアルスレイン。二つのルートを使ってるのか」
「おそらく。同じ道ばかり使えば、いずれ怪しまれますから」
国まで変えている。
何度も業者を挟み。
行き先を隠しながら。
強い魔物をどこかへ集めている。
「ただ、こちらはミラディア側より記録が残っています」
職員がアルスレイン王国を指した。
「追うとすれば、こちらの方が可能性はあります」
俺は地図を見る。
リゼルで起きた、小さな従魔の失踪事件。
以前、戦ったドラン帝国が出てきた。
そして。
「アルスレイン王国か……」
【保有:10,630P】
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