第116話 テリーの一週間
それから一週間。
俺たちはバレインに滞在しながら、毎日のように冒険者ギルドの依頼を受けた。
選ぶのはDランクが中心。
ウッドボア。
フォレストウルフ。
角ウサギ。
街道近くに現れた魔物の討伐だ。
俺たち三人にとって、それほど難しい依頼ではない。
今はテリーを戦いに慣れさせる方が大事だった。
◇
二日目。
「テリー、待って」
「ワフッ!」
ルナの隣で止まる。
前方には一頭のウッドボア。
「まだだよ」
「クゥン……」
行きたそうに前脚が動く。
それでも飛び出さない。
ルナが弓を構えた。
するとテリーが、少し横へ移動する。
「あ」
昨日は何度言っても射線へ入っていた。
それが今日は、自分から避けた。
弓弦が鳴る。
矢がウッドボアの首元へ突き刺さった。
「もういいよ!」
「ワフッ!」
テリーが駆け出す。
「ちゃんと待てたね」
ルナに頭を撫でられ、尻尾を大きく振った。
褒められていることは、もう完全に分かっているらしい。
◇
さらに数日が経つ。
テリーは、俺たちの動きまで見るようになった。
俺が剣を抜けば、前へ出ない。
フェリシアが杖を構えれば、その先を横切らない。
そして。
「テリー、右から!」
「ワフッ!」
白い身体が木々の間を駆ける。
前方にいたウッドボアが、テリーを警戒して身体の向きを変えた。
その横腹がルナへ向く。
「そのまま!」
「ワンッ!」
テリーがさらに横へ回る。
ウッドボアもつられて動いた。
弓弦が鳴る。
矢が首元へ突き刺さった。
一撃。
「やった!」
「ワフッ! ワフッ!」
テリーが嬉しそうに戻ってくる。
「テリー、上手だったよ!」
ルナに抱きしめられると、今度は顔を舐め始めた。
「ちょっと、くすぐったいって!」
「覚えるの早いね」
フェリシアが笑う。
「最初は邪魔しないように教えてただけなのに」
いつの間にか、テリーの方から俺たちの動きを見て、合わせるようになっていた。
◇
変わったのは戦闘だけじゃない。
最初の頃。
冒険者ギルドへ入る時は、いつもルナに抱かれていた。
人が近づけば身体を固くし、声をかけられれば胸元へ顔を隠す。
三日目。
「お、今日も来たな」
何度か顔を合わせていた冒険者が声をかけてきた。
テリーはルナの後ろへ隠れる。
でも今日は、顔だけ出した。
「無理に近づかないであげてね」
ルナが言う。
「分かってるよ」
男は少し離れたところへ、味のついていない干し肉を置いた。
「ほら。ここに置いとくぞ」
テリーがルナを見る。
「大丈夫だよ」
少し待ってから、ゆっくり近づく。
匂いを嗅いで。
ぱくっ。
「ワフッ!」
「食べた!」
なぜか男の方が嬉しそうだった。
それから本当に少しずつ、テリーはこの町の人間を怖がらなくなっていった。
◇
一週間が経つ頃には。
「テリー!」
「今日も来たな!」
「ワフッ!」
自分の足でギルドへ入っていく。
尻尾も下がっていない。
毎日顔を合わせる受付嬢や冒険者なら、名前を呼ばれると嬉しそうに返事をする。
「すっかり人気者だね」
フェリシアが笑った。
「ワフッ!」
本人もまんざらではなさそうだ。
「テリー、ちょっと得意になってない?」
「ワフッ!」
ルナが笑う。
ただ、知らない冒険者が急に手を伸ばすと。
「ウゥ……」
まだ少し警戒する。
「大丈夫。嫌なら触らせなくていいからね」
ルナがすぐ隣にしゃがむ。
「クゥン」
その声を聞くと、テリーも落ち着いた。
一週間前。
この建物へ入るだけで震えていた。
それを考えれば、大きな変化だった。
◇
俺との距離も、少しだけ縮まった。
依頼を終えた帰り道。
「テリー」
干し肉を一切れ差し出す。
以前なら、これだけでルナのところへ逃げていた。
今日は。
「…………」
俺を見る。
肉を見る。
また俺を見る。
「取ったりしないよ」
テリーが鼻先を近づける。
匂いを嗅ぎ。
ぱくっ。
「……食べた」
「ワフッ」
「ようやくか」
後ろで二人が笑っている。
「よかったね、アレン」
「長かった」
そのまま頭も撫でてみようとする。
すると。
すっ。
一歩だけ離れた。
「そこはまだ駄目か」
「ワフッ」
でも、逃げてはいかない。
前よりはずっといい。
◇
俺たち自身も、一週間きちんと冒険者として働いた。
受けた依頼は七件。
依頼を達成するたびに百ポイント。
それだけで七百ポイント。
さらに、俺自身が倒した魔物から合計七百二十ポイントを獲得した。
一週間で合計千四百二十ポイント。
【保有:12,010P】
【累計獲得P:340,220P】
ジェニーも増えた。
依頼報酬。
討伐した魔物の肉。
毛皮。
牙。
角。
使える物は、できるだけ《収納》へ入れて持ち帰った。
「《収納》って、本当に冒険者向きだね」
ルナが言う。
「今さら?」
「便利なのは分かってたよ。でも、大きな魔物を丸ごと持って帰れるのって、すごいことなんだなって」
確かに。
普通なら重さや運搬方法まで考えないといけない。
俺たちには、それがない。
一週間。
七件の依頼報酬と素材の買い取りを合わせて、パーティー全体で約二百万ジェニー。
Dランク中心でも、毎日積み重ねれば馬鹿にならない。
◇
その夜。
宿へ戻る。
昼間は魔物を追い。
ギルドでは名前を呼ばれるたび、少し得意そうに歩いていたテリーは。
「キューン」
当然のようにルナのベッドへ上がった。
「はいはい」
ルナが抱き寄せる。
「今日も頑張ったね」
「キューン」
胸元へ顔を擦りつける。
「外ではずいぶん堂々としてきたのに」
俺が言う。
「いいの」
ルナが笑った。
「ここでは甘えていいんだから」
「ワフッ」
テリーは満足そうに尻尾を一度振り、目を閉じた。
一週間。
戦い方を覚えた。
人間にも少しずつ慣れた。
俺たちの動きも見るようになった。
最初は、三人の旅に一匹増えただけ。
そんな感覚だった。
でも、今はもう違う。
テリーもちゃんと、俺たちの仲間だった。
【保有:12,010P】
【累計獲得P:340,220P】
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