第115話 初めての狩り
西街道沿いの森へ入る前。
ルナの隣を歩くテリーを見て、ふと思った。
「そういえば」
「どうしたの?」
「テリーも《共有》に入れられるかな」
「テリーを?」
「うん」
今の《共有》は三人まで登録できる。
フェリシア。
ルナ。
そして、最後の一枠。
「試してみる」
テリーへ意識を向ける。
《共有》。
――登録できた。
「入った」
「本当?」
能力を確認する。
【筋力:28+374】
【耐久:31+454】
【敏捷:51+564】
【魔力:58+702】
「どう?」
「敏捷と魔力は、元のルナとほとんど同じくらい」
「えっ、子供なのに私と同じくらい?」
「筋力と耐久はテリーの方が少し高い」
まだ幼体なのに、これだけある。
成長したらどうなるんだろう。
しかも《共有》された今は、
筋力四百二。
耐久四百八十五。
敏捷六百十五。
魔力七百六十。
Dランクの魔物が相手なら十分すぎる能力だ。
その分、俺の身体への負担もわずかに増えた。
これで《共有》の枠は全部埋まったことになる。
「テリー、変な感じしない?」
「ワフッ!」
尻尾を振っている。
本人は元気そうだ。
「じゃあ行こう」
◇
森へ入ってしばらくすると、ルナが足を止めた。
「いた。一頭」
木々の向こうで、大きな猪のような魔物が地面を掘っている。
少し近づき、《鑑定》する。
【ウッドボア】
【森林地帯に生息する猪型魔物】
【突進力に優れ、鋭い牙を持つ】
依頼対象だ。
「まず私がやるね」
ルナが弓を構え、矢をつがえる。
その瞬間。
「ワフッ!」
「あっ!」
テリーが飛び出した。
「テリー!」
ルナが慌てて弓を下ろす。
完全に射線の中だ。
ウッドボアもテリーに気づいた。
「ブモォッ!」
地面を蹴り、突進してくる。
俺も剣を抜いて前へ出た。
だが、テリーがウッドボアの周りを走り回り始める。
「危なっ!」
これでは剣を振れない。
テリーがどこへ動くか分からないからだ。
「テリー、そこにいたら撃てないよ!」
ルナも困っている。
「もう!」
フェリシアが杖を向けた。
「《魔弾》!」
威力を抑えた魔弾がウッドボアの頭部へ直撃する。
巨体が地面へ倒れた。
「…………」
テリーが倒れたウッドボアを見つめる。
「ワフ?」
自分が邪魔していたとは思っていないらしい。
「テリー、おいで」
「ワフッ!」
ルナのもとへ走って戻る。
ルナはしゃがみ、テリーと目線を合わせた。
「私が弓を向けてる前には出ちゃ駄目だよ」
「キュ?」
「ここ」
自分の正面を指す。
「ここにテリーがいると、矢が撃てないの」
「キュ……」
「それから、アレンが剣を持ってる時も近づきすぎないでね」
テリーが首を傾げる。
「すぐ分からなくても大丈夫」
ルナが頭を撫でた。
「少しずつ覚えようね」
「ワフッ!」
分かっているのかは怪しい。
倒したウッドボアを《収納》へ入れた。
◇
二頭目を見つける。
「テリー、待って」
「ワフッ!」
今度はルナの横で止まった。
「まだだよ」
ルナが弓を構える。
ウッドボアがこちらに気づいた。
「ブモォッ!」
勢いよく突進してくる。
テリーが前へ出ようとする。
「待って」
「クゥン……」
前脚が一歩だけ出た。
それでも、止まった。
「偉い」
そのまま俺が前へ出る。
テリーが来ていないことを確認して、ウッドボアとすれ違いざまに首筋へ剣を走らせた。
巨体が地面へ崩れる。
【40P獲得】
「ワフッ!」
テリーが駆け寄ろうとする。
「もういいよ」
ルナが言うと、一気に走ってきた。
「ちゃんと待てたね」
「ワフッ!」
尻尾が止まらない。
俺はウッドボアを《収納》へ回収した。
◇
三頭目。
「テリー、待って」
今度は一度で止まった。
「まだ」
「クゥン……」
行きたそうにしている。
それでも動かない。
ルナの矢が飛んだ。
首元へ突き刺さり、ウッドボアが倒れる。
「よし!」
ルナがテリーを見る。
「今の完璧」
「ワフッ!」
褒められたのが嬉しいらしい。
ルナの足元をぐるぐる回っている。
「覚えるの早いね」
フェリシアが感心したように言う。
「うん」
俺はウッドボアを回収した。
◇
四頭目。
木の陰にいて、ルナからは急所が見えにくい。
「撃ちづらいな」
「俺が行こうか?」
「ちょっと待って」
ルナがテリーを見る。
「テリー」
「ワフ?」
「あっちから回ってみて」
右側を指す。
「向こうから、ぐるっと」
「キュ?」
テリーが首を傾げる。
ルナは指で大きく円を描いた。
「こっちじゃなくて、あっち」
テリーはしばらく考えるようにルナの指先を見ていた。
そして――走り出す。
「そう!」
ウッドボアの右側へ回り込んだ。
「ワンッ!」
「ブモッ!?」
驚いたウッドボアがテリーへ身体を向ける。
その結果、ルナへ横腹をさらした。
「テリー、そのまま!」
「ワフッ!」
テリーが少し横へ動く。
ウッドボアもつられて向きを変えた。
弓弦が鳴る。
矢が首元へ突き刺さった。
ウッドボアが倒れる。
「やった!」
ルナがテリーへ駆け寄った。
「テリー、できたね!」
「ワフッ! ワフッ!」
テリーが勢いよく飛びつく。
「わっ!」
そのままルナの頬を舐め始めた。
「分かった、分かったって!」
楽しそうな声が森へ響く。
最初は邪魔しかしていなかった。
それがもう、ルナの指示に合わせて獲物を動かしている。
「すごいね」
フェリシアも笑っている。
「教えたら、すぐ覚える」
「フェンリルだからかな」
「それともテリーだからか」
「ワフッ!」
本人は得意そうだ。
四頭目も《収納》へ入れた。
◇
帰る途中。
茂みから、もう一頭のウッドボアが飛び出してきた。
「ブモォッ!」
「テリー、待って!」
「ワフッ!」
ぴたりと止まる。
今度は俺が剣を抜いても、前へ出てこない。
「……覚えたな」
一気に距離を詰める。
一閃。
ウッドボアが倒れた。
【40P獲得】
テリーはルナの隣で待ったままだ。
「もういいよ!」
「ワフッ!」
その言葉を聞いた途端、倒れたウッドボアへ駆け寄った。
「よくできたね」
ルナに褒められ、また尻尾が大きく揺れる。
最後の一頭も《収納》へ回収した。
これで五頭。
俺が二頭。
フェリシアが一頭。
ルナが二頭。
【保有:10,490P】
【累計獲得P:338,700P】
「今日はこれくらいにしようか」
「うん」
「十分だね」
「ワフッ!」
テリーも元気よく返事をした。
◇
夕方。
バレインの冒険者ギルドへ戻った。
「ウッドボア討伐の報告です」
「何頭ですか?」
「五頭です」
買い取り用の解体場へ移動する。
《収納》から一頭ずつウッドボアを取り出した。
職員が傷の位置や肉の状態を確認していく。
「全部買い取れますね。状態もかなりいいです」
「よかった」
食肉になると聞いていたので、なるべく余計な傷をつけずに倒した。
それが良かったらしい。
受付へ戻る。
「ウッドボア五頭を確認しました。依頼達成です」
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【保有:10,590P】
【累計獲得P:338,800P】
「依頼報酬が六万ジェニー。五頭の買い取りが二十万ジェニー。合計二十六万ジェニーです」
「ありがとうございます」
金額としては大きくない。
でも、今日はそれでいい。
「テリー」
ルナが呼ぶ。
「ワフッ!」
すぐに隣へやってくる。
「今日はいっぱい覚えたね」
ルナが頭を撫でた。
「ワフッ!」
最初はルナの矢を邪魔して。
俺が剣を振ろうとしても、その前へ飛び出した。
それが最後には、ルナの指示でウッドボアを動かせるようになった。
まだ戦い方を知らない。
でも、教えればちゃんと覚える。
三人と一匹の戦い方。
今日、ようやくその最初の形ができた気がした。
【保有:10,590P】
【累計獲得P:338,800P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




