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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第7章 セルヴァン王国

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第113話 テリー

 ルーメル森林を出る。


 行きは三人だった。


 今はルナのすぐ横を、小さな白いフェンリルが歩いている。


「ワフッ!」


 テリーがルナを見上げる。


「元気になったね」


「ワフッ!」


 尻尾もよく動いている。


 怪我をして森を逃げ回っていた時とは別の魔物みたいだ。


「テリー」


 呼んでみる。


 白い耳がこちらを向いた。


「こっちおいで」


 一歩近づく。


「ウゥ……」


 テリーの身体が低くなった。


 ルナの後ろへ半分隠れる。


「まだ駄目か」


 フェリシアが笑う。


「最初に捕まえたからじゃない?」


「治療するためだったんだけど」


「テリーには分からなかったでしょ」


 確かに。


 怪我をして逃げていたところへ、物凄い勢いで追いかけてきて抱き上げた。


 まぁ、怖がられても仕方がない。


「もう大丈夫だよ」


 ルナがテリーの頭を撫でる。


「アレンは怖いことしないから」


「ウゥ……」


「信用ないな……」


 無理に触ろうとするのはやめた。


 相手が嫌がるなら、待てばいい。


 ◇


 森を離れ、バレインが近づいてくる。


 街道を行き交う人が増え始めた。


 その頃から、テリーの様子が変わった。


「クゥン……」


 ルナの脚へ身体を寄せる。


「どうしたの?」


 耳が伏せられている。


 前から荷車が来た。


 二人の男が荷台の横を歩いている。


 テリーが立ち止まった。


「ウゥ……」


「大丈夫」


 ルナも止まる。


 男たちはこちらを見る。


「白い狼?」


「従魔じゃないか?」


 声が聞こえた瞬間。


 テリーがさらにルナへ身体を押しつけた。


「怖いんだ」


 フェリシアが小さく言う。


「多分」


 ルナがテリーを抱き上げた。


「人間が?」


「そうかも」


 森では、俺に捕まえられた時だけじゃなかった。


 首には、何かで強く拘束されていた跡が残っている。


 誰に何をされたのかは分からない。


 でも、知らない人間を怖がっている。


 それだけは分かった。


「無理に歩かせない方がいいね」


「うん」


 ルナがテリーを抱いたまま町へ向かう。


 テリーはルナの胸へ顔を寄せた。


「クゥン……」


「大丈夫だよ」


 ルナが背中をゆっくり撫でる。


 少しずつ身体の力が抜けていった。


 ◇


 バレインの城門をくぐる。


 昨日までなら気にも留めなかった町の騒がしさ。


 人の声。


 荷車の音。


 馬の蹄。


 店から店へ飛び交う呼び声。


 テリーには、その全部が怖いらしい。


 大きな音がするたびに耳が動く。


 知らない人間が近くを通ると、ルナの腕の中で身体を固くした。


「テリー、大丈夫?」


「キューン……」


「今日は私が抱いてるから」


 ルナは下ろそうとしなかった。


 従魔師組合へ向かう。


 ◇


 組合の入口へ着いた。


「あら、お帰りなさい」


 受付の女性がこちらを見る。


 次の瞬間。


 ルナの腕の中にいるテリーへ視線が止まった。


「……その子は?」


「森にいた白い魔物です」


 ルナが答える。


「怪我してたので治しました」


 受付の女性が近づこうとする。


「ウゥ……!」


 テリーが低く唸った。


「あ」


 女性がすぐ足を止める。


「ごめんなさい。近づかない方がよさそうね」


 テリーはルナの胸へ顔を寄せた。


「人を怖がってるみたいなんです」


「そうなの?」


「首に、何かで拘束されてたような跡もありました」


 受付の女性の表情が変わる。


「ちょっと待ってて」


 奥へ入っていく。


 しばらくして、エレナが出てきた。


「あら。講習の三人じゃない」


 そして。


 テリーを見る。


 足が止まった。


「……その子」


「フェンリルです」


 俺が答える。


「《鑑定》しました」


「フェンリル?」


 周囲にいた人たちまで振り返った。


 ざわめきが広がる。


「本当に?」


「初めて見た……」


 何人かが近づこうとする。


「ウゥ……! ガウッ!」


 テリーが牙を見せた。


「皆、下がって」


 エレナがすぐ声を出した。


「怖がってる」


 人が少し離れる。


 ルナがテリーを抱き直す。


「大丈夫」


「クゥン……」


「誰も何もしないからね」


 エレナも距離を保ったまましゃがんだ。


「私も実物を見るのは初めてよ」


「エレナさんも?」


「当たり前でしょ。フェンリルなんて、その辺を歩いてる魔物じゃないわ」


 森で何があったのか説明する。


 怪我をしていたこと。


 首輪のような跡。


 ルナが治療したこと。


 それから、二人の魔力が自然に繋がったこと。


「術式は使ってないのね?」


「はい。まだ習ってませんから」


「そうよね」


 エレナが少し考える。


「ルナ。あなたの魔力を流してみて」


「はい」


 ルナがテリーへ手を当てる。


 細く魔力を流す。


 すぐにテリーからも魔力が返ってきた。


「キューン」


 安心したように目を細める。


 エレナがじっと見ていた。


「……繋がってるわね」


「やっぱり?」


「ええ。少なくとも、私が知っている《従魔契約》と同じ状態になってる」


 ルナの顔が明るくなる。


「じゃあ、契約できてるんですか?」


「そう考えていいと思う」


「やった」


「ワフッ!」


 テリーがルナを見上げた。


 ルナも笑う。


「ただ」


 エレナが続ける。


「契約術を使わずに、魔物側から繋がった例なんて私は知らないわ」


「フェンリルだから?」


「分からない」


 即答だった。


「フェンリル自体の資料が少なすぎるの。この子だけができるのか、フェンリルならできるのか。それすら判断できない」


 テリーはルナの腕の中で首を傾げた。


「キュ?」


「本人は分かってなさそうだね」


 フェリシアが笑った。


 ◇


 テリーは従魔として登録できることになった。


 登録といっても、誰かの所有物になるという話ではない。


 誰と契約しているのか。


 町で問題が起きた時、誰が責任を負うのか。


 それを確認するためのものらしい。


「名前は?」


「テリーです」


 ルナが即答する。


「契約者は?」


「私です」


 こっちも早かった。


 少し嬉しそうに見える。


「分かったわ」


 エレナも笑った。


「それと、この首の跡なんですが」


 ルナがテリーの毛をそっとかき分ける。


 エレナは近づかず、少し離れた場所から確認した。


「確かに何か巻かれていたようには見えるわね」


「誰かに捕まってたんでしょうか」


「可能性はある」


「売るために?」


「そこまでは断定できないわ」


 エレナの顔が真剣になる。


「でも、情報は組合でも集めてみる。この辺りでフェンリルを見た人間が他にいないかも確認するわ」


「お願いします」


 テリーがどこから来たのか。


 誰に捕らえられていたのか。


 それはまだ分からない。


◇


「もう一つ聞きたいんですけど」


 ルナが言う。


「この子、何を食べるんですか?」


「そこが難しいのよ」


「分からない?」


「狼型だから肉を中心に食べるとは思う。でも、幼体のフェンリルの飼育記録なんて私は見たことがない」


「どれくらい食べるとかは?」


「分からない」


「どのくらい大きくなるかは?」


「成体はかなり大きい、としか」


 ルナが困った顔になる。


「どうしよう」


「まずは普通の狼型魔物を基準にして、様子を見るしかないわね」


 エレナが言う。


「食事量。体調。便。毛並み。そういうものを毎日確認すること」


「分かりました」


 ルナの顔が急に真剣になった。


 本当に飼い主になったみたいだ。


◇


 組合を出る。


「じゃあ市場へ行こう」


「市場?」


「テリーの物を買わないと」


「あ」


 食事。


 水。


 寝る場所。


 他にも必要な物があるかもしれない。


「まず肉」


「うん」


「水を飲む器」


「うん」


「餌を入れる器」


「それもいるね」


「寝るところも」


「宿の床じゃ駄目?」


「硬いだろ」


「森で寝てたんだよ?」


「でも今は違うし」


 ルナが笑う。


「アレン、ちょっと張り切りすぎじゃない?」


「足りないよりいいでしょ?」


 市場は人が多い。


 テリーはまだ落ち着かないようなので、ルナが抱いたまま歩く。


 人混みの少ない店を選んで回った。


 肉屋では、テリーが初めてルナの腕から顔を出した。


 並んでいる肉をじっと見る。


「食べたい?」


「ワフッ!」


「これは分かりやすいね」


 何種類か買う。


「十日分くらいあればいいかな」


「そんなに?」


「《収納》に入れておけば傷まないし」


「まあ、それならいいけど」


 次は雑貨店。


 木の器。


 布。


 毛布。


 目に入った大きなクッションを持ち上げる。


「これも」


「大きくない?」


「成長するんだろ?」


「今使うんだよね?」


「大は小を兼ねる」


 フェリシアが笑う。


「アレン、全部先回りして買おうとしてるね」


「必要になるかもしれないから」


「まだ必要かどうかも分からないよ」


「雨の日に使う布とかも――」


「アレン」


「何?」


「今日はそこまで」


 ルナに止められた。


「足りなかったらまた買えばいいから」


「……それもそうか」


 テリーを見る。


 まだ触らせてもらえない。


 それでも、ちゃんと元気に育ってほしいと思う。


◇


 店を出たところで、ルナが足を止めた。


「あ」


「今度は何?」


 布や装飾品を扱う露店。


 ルナが一枚の小さな布を手に取った。


 淡い青色。


「スカーフ?」


「うん」


 テリーの白い毛へ合わせる。


「似合いそう」


 フェリシアが言う。


「私もそう思う」


 ルナがテリーを見る。


「これ、どう?」


「キュ?」


「首に巻いても大丈夫?」


 テリーの表情を見ながら、ゆっくり布を近づける。


 一瞬。


 耳が伏せられた。


 ルナの手が止まる。


「あ……嫌?」


 首に何かを巻かれていた記憶があるのかもしれない。


 テリーは布を見ている。


「無理しなくていいよ」


 ルナが手を引こうとした。


 すると、テリーが鼻先を布へ近づけた。


 匂いを嗅ぐ。


 それからルナを見る。


「大丈夫?」


「クゥン」


「じゃあ、ゆるくするね」


 擦れ跡に当たらないように。


 締めつけないように。


 首元へ柔らかく巻く。


「どう?」


 テリーが首を振る。


 少し歩く。


「ワフッ!」


 白い尻尾が揺れた。


「嫌じゃない?」


「ワフッ!」


 ルナが笑った。


「じゃあこれにする」


 白い毛に、淡い青色がよく映える。


「似合ってるよ」


 フェリシアが言う。


「うん。かわいい」


 ルナが嬉しそうだ。


 テリーもルナの脚へ頬を擦りつける。


「キューン」


 首輪とは違う。


 締めつけるための物でもない。


 ただ、ルナがテリーのために選んだスカーフ。


 それでいい気がした。


◇


 宿へ戻った。


 セルヴァンではこの宿をはじめ動物や従魔と一緒に泊まれるところが多い。


 買った大きなクッションをルナの部屋へ運ぶ。


「ほら」


 床へ置く。


「テリーの寝る場所」


 テリーが近づく。


 匂いを嗅ぐ。


 前脚を一度だけ乗せた。


「どう?」


「…………」


 そのまま離れた。


「あれ?」


 そして。


 ルナのベッドへ飛び乗る。


「え?」


「ワフッ!」


 真ん中で丸くなった。


「そこ、私のベッドなんだけど」


「キューン」


 テリーがルナを見る。


「…………」


「キューン……」


 もう一度。


 ルナの顔が緩んだ。


「……今日だけだからね」


「今日だけで済むかな」


 俺が言う。


「分からないでしょ」


 フェリシアが笑った。


「私は毎日になると思う」


「フェリシアまで」


 床を見る。


 結構いいクッションを買ったんだけど。


「……使わないのかな」


「そのうち使うよ。多分」


「キューン」


 テリーはもうルナの横で目を閉じていた。


 青いスカーフが、白い毛の上に少しだけ見えている。


 昨日まで三人だった旅に。


 テリーという一匹が加わった。


 ただ、アレンはまだ触らせてもらえない。


 そこは、これからだ。


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― 新着の感想 ―
よくあるんやろなぁ、飼い主がうちの子のためにっていいクッションとか準備しても使ってくれないとか。
>《収納》に入れておけば傷まないし 収納に時間停止があるのを匂わす表現がやっとでた?  だいぶ流し見してたので見過ごしてただけかな??
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