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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第7章 セルヴァン王国

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第112話 フェンリル

 ルーメル森林へ向かう途中。


 街道を外れ、木々の間を進んでいると、ふと思った。


「なんか変な感じだな」


「何が?」


 ルナが振り返る。


「俺たち、今まで魔物をかなり倒してきただろ?」


「うん」


「なのに今日は、怪我した魔物を助けに行ってる」


 ルナが少し考える。


「でも、魔物だから倒してたわけじゃないでしょ?」


「え?」


「襲ってくるなら戦う。人を襲ってるなら止める。でも、逃げてるだけなら追いかけて倒す必要ないじゃん」


 フェリシアも頷く。


「ロウみたいに、人と一緒に暮らしている魔物もいるしね」


「……確かに」


 言われてみればそうだ。


 ダンジョンでは向こうから襲ってきた。


 街道の魔物も、人や馬車を襲っていた。


 討伐依頼を受けたこともある。


 でも、ただ森で暮らしている魔物を見つけて、片っ端から倒してきたわけじゃない。


 魔物かどうかより何をしているか。


 これからは、そこを見るべきなのかもしれない。


「じゃあ今日は助ける」


「うん」


「それでいいと思う」


 三人で森の奥へ進んだ。


 ◇


 ルーメル森林は、街道から見たよりずっと深かった。


 頭上で枝葉が重なり、昼なのに地面まで届く光は少ない。


 湿った土の匂い。


 鳥の声。


 時折、茂みの奥で何かが動く音がする。


「報告だと、この辺り?」


「もう少し奥だったと思う」


 ルナが足を止めた。


 耳がわずかに動く。


「……待って」


 俺とフェリシアも止まる。


「何か聞こえる?」


「うん」


 ルナが目を閉じた。


 風が枝葉を揺らす。


 その音に混じっている何かを探しているらしい。


「右の奥」


「動いてる?」


「小さい音。多分」


 俺も《魔力感知》を広げる。


 いくつもの小さな反応。


 鳥。


 小動物。


 その中に、一つだけ周囲より強い魔力があった。


「俺も見つけた」


「どこ?」


「右奥。ルナと同じ方向」


「行こう」


 枝を避けながら進む。


 やがて。


「あっ」


 ルナが声を上げた。


「いた!」


 木々の隙間。


 白いものが動いた。


 一瞬しか見えなかった。


 それでもルナは見失わない。


「あの木の向こう!」


 俺も《魔力感知》で追う。


 小さい。


 でも身体の大きさに比べて魔力はかなり強い。


 三人が近づいたことに気づいたらしい。


 白い影が身体を翻した。


 逃げる。


「待って!」


 ルナが呼ぶ。


 当然、止まらない。


 かなり速い。


 ただ。


「左脚をかばってる!」


 ルナが言う。


 報告通りだ。


 左の後ろ脚がまともに使えていない。


 それでも森の中を駆けていく。


「襲ってくる気はなさそうだね」


 フェリシアが言う。


「うん。ただ逃げてる」


 このまま逃がせば、治療もできない。


「追いついて止める」


「怪我させないでね!」


「分かってる」


 地面を蹴った。


 木々が左右へ飛んでいく。


 白い魔物も速い。


 怪我をしているとは思えない。


 でも、今の俺には追いつける。


 一気に距離を詰めた。


 白い魔物が振り返る。


 「キャンッ!?」


 目が合った。


 驚いたように耳が立つ。


 逃げる方向へ回り込み、身体を傷つけないように両腕で抱き上げた。


「捕まえた!」


「キャン! ガウッ!」


「うわっ!」


 猛烈に暴れる。


 小さいのに思った以上に力が強い。


「大丈夫! 何もしないから!」


「ガウッ!」


 牙を見せ、腕の中で必死に身体をよじる。


 全然伝わっていない。


「アレン!」


 ルナたちが追いついてきた。


「下ろして」


「逃げるよ?」


「追いかけられるでしょ?」


「まあ」


「じゃあ下ろしてあげて」


 そっと地面へ下ろす。


「キャンッ!」


 すぐ逃げようとした。


 だが。


 左の後ろ脚をついた瞬間、身体が傾く。


「キュゥ……」


 小さな声が漏れた。


 やっぱり痛いらしい。


 ルナが少し離れた場所でしゃがんだ。


「大丈夫」


 近づかない。


「もう捕まえないよ」


 白い魔物がルナを見る。


「脚、痛いんでしょ?」


「ウゥ……」


 低く鳴く。


 耳は伏せられている。


 警戒している。


 でも逃げなかった。


 俺は少し離れた場所から《鑑定》を使う。


 表示された文字を見る。


 一瞬。


 読み間違えたのかと思った。


【フェンリル】


【極めて希少な狼型魔物】


【高い知性と強大な魔力を持つ】


【成体は極めて高い身体能力を有する】


「……フェンリル」


「え?」


 ルナがこっちを見る。


「この子、フェンリルだ」


「フェンリル!?」


 ルナの声が森へ響く。


 白い魔物がびくっと身体を震わせた。


「あ、ごめん!」


 慌てて声を小さくする。


「そんなに珍しいの?」


 フェリシアが聞く。


「珍しいなんてもんじゃないよ」


 ルナは信じられないものを見るようにフェンリルを見つめている。


「ミラディアでは、神様の使いだって伝えられてるの」


「神の使い?」


「うん。エルフの森でもフェンリルを見たことがある人なんて、ほんの数人しかいないよ」


「ルナは?」


「ないよ。初めて」


 それほどの魔物なのか。


 改めて見る。


 白い毛。


 少し大きめの耳。


 今は怪我をした脚をかばいながら、小さく身体を丸めている。


「まだ子供なのかな」


「そうね」


 ルナが言う。


「成体なら、もっとずっと大きいはず」


 少しずつ身体を近づける。


 途中で止まる。


 また少し。


「キュゥ……」


「怖いよね」


 ルナが手を地面へ置いた。


「でも、脚を治したいだけ」


 フェンリルの耳が動く。


 ルナを見ている。


「触ってもいい?」


「…………」


 返事はない。


 当然だ。


 でも逃げもしない。


 ルナがゆっくり手を伸ばす。


 フェンリルが鼻を近づけた。


 匂いを嗅ぐ。


「キュ……」


「大丈夫?」


 そっと頭へ触れる。


 身体が少し強張った。


 それでも逃げなかった。


「いい子」


 そのまま傷ついた後ろ脚を見る。


 毛に乾いた血がこびりついている。


「切れてる。でも骨は大丈夫そう」


 ルナが傷の周りを確認していると。


「あれ?」


「どうした?」


「首」


 白い毛を指でかき分ける。


 皮膚に赤い擦れ跡が残っていた。


 一部分ではない。


 首を一周するように。


「これ……首輪の跡じゃない?」


 フェリシアもしゃがみ込む。


「そう見えるね」


「野生のフェンリルが首輪?」


 ルナの表情が曇る。


「誰かに捕まってたのかな」


「可能性はあると思う」


 フェンリルほど珍しい魔物なら、高値で売れるのかもしれない。


 どこかで捕まえられた。


 セルヴァンへ運ばれてきた。


 そして逃げた。


 それなら、こんな場所にいることにも説明はつく。


「ラグナ河を自分で渡ってきたとは思いにくいよ」


 ルナが首元を撫でる。


「まだこんなに小さいし」


 詳しいことは分からない。


 首輪の跡だけでは断定もできない。


「とりあえず脚を治そう」


「うん」


 ルナが両手を傷口の近くへ添える。


「少し温かくなるよ」


「キュ?」


 淡い光が灯った。


 回復魔法。


 傷の周りを柔らかな光が包む。


 最初、フェンリルは身を固くした。


「大丈夫」


 ルナが静かに声をかけ続ける。


「痛くしないからね」


「キュゥ……」


 次第に身体から力が抜けていく。


 鼻先がルナの腕へ触れた。


 傷口が塞がる。


 乾いた血の下にあった裂け目も消えていく。


「これで大丈夫」


 ルナが手を離した。


 フェンリルが立ち上がる。


 左の後ろ脚を地面につける。


 一歩。


 もう一歩。


「治ったみたい」


 その瞬間。


「キュッ!」


 フェンリルが飛びついた。


「わっ!」


 ルナの胸へ前脚をかける。


 白い尻尾が勢いよく左右へ動く。


「キュウッ!」


 ぺろっ。


「ちょっ!」


 さらに舐める。


「テ、待って! くすぐったい!」


「キュッ! キュウッ!」


「すごいな」


 さっきまで逃げ回っていた魔物とは思えない。


 フェリシアも笑っている。


「治してくれたのが分かったのかな」


「多分……分かってると思う」


 ルナがフェンリルを抱きながら答える。


「分かるの?」


「言葉が聞こえるわけじゃないよ」


 フェンリルの耳へ目を向ける。


「でも、耳とか目とか鳴き方とか……なんとなく気持ちが分かる気がする」


「キュッ」


「今のは?」


「嬉しい」


「本当に?」


「だから言葉じゃないって」


 ルナが笑う。


 フェンリルはまた顔を舐めた。


「キュウッ」


「はいはい」


 完全に懐いている。


「お母さんはいるのかな」


 俺が言う。


 ルナの表情が少し変わった。


「そうだね」


 フェンリルの頭を撫でる。


「お母さんのところに帰らないとね」


「キュ……」


 それまで激しく動いていた尻尾が止まった。


 耳も下がる。


 ルナがフェンリルを見る。


「お母さん?」


「キュゥ……」


 白い身体がルナへ寄る。


 胸元へ顔を押しつけた。


「…………」


「分かる?」


 フェリシアが聞く。


「ちゃんとは分からない」


 ルナが小さく答える。


「でも……お母さんのところへ帰りたい、って感じじゃない」


「いないってこと?」


「分からない。でも」


 優しく白い背中を撫でる。


「帰る場所がある子の反応には見えない」


 それ以上は聞けない。


 フェンリルがどうやってここまで来たのか。


 親はどうしたのか、誰が首輪をつけたのか。


 今は何一つ分からない。


 ただ。


「キュゥ」


 フェンリルはルナから離れなかった。


「……ねえ、アレン」


「何?」


「私、この子と従魔契約したい」


 少し驚いた。


 セルヴァンへ来る前から従魔に興味を持っていたのは、俺の方だった。


 目の前を見る。


 ルナへ身体を寄せている白いフェンリル。


 この二人なら。


「もちろん」


「いいの?」


「俺が止めることじゃないから」


 ルナが笑った。


「ありがとう」


「ただ、ちゃんと調べないとね」


「何を?」


「フェンリルが何を食べるのか。どういう場所で育つのか。どのくらい大きくなるのか」


「あ」


「《鑑定》じゃそこまでは分からないし」


「そうだね」


 ルナが真面目な顔で頷く。


「ちゃんと調べる」


「従魔師組合なら何か資料があるかもしれないね」


 フェリシアが言う。


「戻ったら聞いてみよう」


「うん」


 ルナがフェンリルを見る。


「その前に」


「キュ?」


「名前がいるよね」


「もう決めるの?」


「いつまでもフェンリルって呼べないでしょ」


 少し考える。


「……テリー」


「テリー?」


「うん」


 ルナが白い頭を撫でる。


「今日からテリー。どう?」


 一瞬。


 フェンリルがルナを見た。


「ワフッ!」


 尻尾が大きく振られる。


「気に入った?」


「キューン」


 甘えるように鳴き、再びルナの顔を舐め始める。


「わっ! テリー!」


 ルナが笑う。


「どうやら気に入ったみたいだね」


 フェリシアも笑っている。


 ◇


「でも」


 そこで一つ思い出した。


「ルナ、まだ《従魔契約》の術式を習ってないよね」


「あ」


 ルナの動きが止まる。


「今日やったの、魔力を流す練習までだった」


「そうだった……」


 嬉しそうだった顔が少し曇る。


「じゃあ契約は組合に戻ってからかな」


「キュ?」


 テリーが首を傾げた。


「ごめんね。もうちょっと待って」


「キュゥ……」


 テリーがルナの手へ鼻先を押しつける。


「どうしたの?」


 次の瞬間。


 ルナの表情が変わった。


「……あれ?」


「どうした?」


「テリーから何か……」


 俺も《魔力感知》を使う。


 確かに。


 テリーの魔力が、触れている鼻先からルナへ伸びていた。


「魔力?」


 フェリシアも気づく。


「ルナ、受け取ってみて」


「どうやって?」


「今日やったのと同じ。押し返さないで、細く魔力を返してみて」


「分かった」


 ルナが目を閉じる。


 テリーの魔力を受ける。


 そして、ゆっくりと自分の魔力を流した。


「キュゥ……」


 テリーが目を閉じる。


 ルナからテリーへ。


 テリーからルナへ。


 二つの魔力が行き来する。


 最初は別々だった。


 でも、何度か往復するうちに、境目が分からないほど自然に馴染んでいく。


 しばらくして、ルナが目を開けた。


「……すごい」


「何が?」


「分かる」


「何が?」


 ルナがテリーを見る。


「テリーがここにいるのが分かる」


「見えてるからじゃなくて?」


「違う」


 胸元へ手を当てる。


「目を閉じても、少し離れても、多分分かる」


 フェリシアが二人の魔力をじっと見ている。


「……繋がってる」


「やっぱり?」


「うん。昨日説明してもらった《従魔契約》の状態にすごく近いと思う」


「でも私、術式知らないよ?」


 三人でテリーを見る。


「キュ?」


 当の本人だけが首を傾げていた。


「もしかして」


 フェリシアが言う。


「テリーの方から繋いだのかな」


「フェンリルだから?」


「分からない。組合で聞いてみないと」


「……そっか」


 ルナがテリーを見る。


「私を選んでくれたの?」


「ワフッ!」


 テリーが嬉しそうに尻尾を振り、勢いよくルナへ飛びついた。


「わっ!」


 頬を舐める。


「ワフッ! ワフッ!」


「ちょっと、テリー! くすぐったい!」


 ルナが笑う。


 テリーの尻尾も止まらない。


 契約が本当に成立しているのかは、まだ分からない。


 帰ったら従魔師組合で確認しないといけない。


 でも、少なくともテリーは嬉しそうだった。


「まさか」


 思わず笑う。


「俺が従魔を見たくてセルヴァンまで来たのに」


「うん?」


「ルナに先を越されるとは思わなかった」


 ルナがテリーを抱いたまま笑った。


「ごめんね?」


「謝らなくていいよ」


「キュッ!」


 森へ来た時は三人だった。


 帰りは。


 どうやら一匹増えそうだった。


【保有:10,410P】

【累計獲得P:338,620P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
テリーって言われるとバトルウルフしか出てこないな…
口調が変わって、読みづらくなってしまった。 丁寧に話している二人の方が冒険者らしからぬ特異性があって良かった。 よくあるエピソードが続くけど、スピード感(更新頻度)があるので、読みやすいです。 ただ…
主人公以外と契約した人語を喋らないフェンリルって初めて見るかも、手垢まみれのフェンリルさんだけどこれはこれで有りだな
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