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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第7章 セルヴァン王国

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第111話 契約術

 翌朝。


 朝食を済ませ、三人で従魔師組合へ向かった。


 入口へ近づくと、今日も何匹もの魔物がいる。


 屋根には青い羽の鳥。


 水飲み場の横では蜥蜴型の魔物が目を閉じている。


 昨日はいなかった、耳の長い小さな獣もいた。


「見てるだけでも飽きないね」


 ルナが言う。


「今日は見学じゃないですよ」


「うん。講習楽しみだな」


 中へ入り、受付で名前を告げる。


 案内されたのは、建物の奥にある広い部屋だった。


 椅子が十脚ほど並び、すでに何人か座っている。


 俺たちも空いている席へ座った。


 しばらくすると、前方の扉が開く。


 一人の女性が入ってきた。


 四十代くらい。


 短くまとめた茶色の髪。


 動きやすそうな服装をしている。


 その後ろから、大きな黒い塊が現れた。


「……でかい」


 思わず呟く。


 熊型の魔物だ。


 俺よりはるかに大きい。


 太い前脚。


 長い爪。


 《鑑定》。


【アイアンベア】


【山岳地帯に生息する大型の熊型魔物】


【高い耐久力と強靭な前脚を持つ】


 女性が部屋の前へ立つ。


 アイアンベアは、そのすぐ後ろで座った。


 そして。


 そのまま横になる。


「寝た」


 ルナが小声で言った。


「この子、朝は弱いのよ」


 聞こえていたらしい。


 何人かが笑った。


「私はエレナ。今日の基礎講習を担当します」


 後ろを指す。


「こっちはバル。見ての通り、今はやる気がありません」


 バルは顔すら上げなかった。


「では始めます」


 エレナが机の上へ、透明な石を並べていく。


「今日やるのは、《従魔契約》そのものではありません」


 手のひらほどの石を一つ持ち上げた。


「契約に必要な魔力操作の練習です」


 石へ指を触れる。


 中心に淡い光が灯る。


 そこから、柔らかく石全体へ広がっていった。


「これは《感応石》。細く、安定した魔力を流せれば、均一に光ります」


 エレナが手を離す。


 光が消えた。


「大事なのは強さじゃありません」


 何となく。


 俺には少し嫌な言葉だった。


 ◇


 一人ずつ感応石を試していく。


 光が途中で消える人。


 一部分だけ強く光る人。


 何度やっても安定しない人。


 思ったより簡単ではないらしい。


「次」


 フェリシアが前へ出た。


「初めて?」


「はい」


「じゃあ、ゆっくりね」


 フェリシアが感応石へ手を置く。


 少しして中心に淡い光が灯った。


 ゆっくり広がっていく。


 端までほとんど揺れない。


 エレナが石を見る。


「もう一度」


「はい」


 二度目も同じだった。


「……本当に初めて?」


「はい」


「普段から魔力操作を?」


「よく使います」


 フェリシアが石を見ながら言う。


「普通の魔法とは少し違いますね」


「どう違うの?」


 俺が聞く。


「魔法は魔力を動かすけど、これは流れを崩さないように保つ感じかな」


 もうそこまで分かってるのか。


「かなり向いてるわね」


 エレナが言う。


 フェリシアが少し嬉しそうに席へ戻った。


「次」


 俺だ。


 感応石へ手を置く。


 さっき見た。


 少しだけ流せばいい。


 魔力を送る。


 パッ!


 石全体が一瞬で真っ白に光った。


「止めて!」


「え?」


「魔力を切って!」


 慌てて止める。


 部屋が静かになっていた。


 何人かがこっちを見ている。


 後ろからルナの声。


「眩しかった」


「そんなに?」


「かなり」


 エレナが感応石と俺を交互に見る。


「今のが、少し?」


「そのつもりです」


「……なるほど」


 何か納得された。


「もう一度。今度はもっと弱く」


「はい」


 かなり抑える。


 光る。


「まだ強い」


「これでも?」


「まだ」


 三回目。


 さらに抑える。


 それでもフェリシアの時より強い。


 思っていたより難しい。


 これまで魔力を使う時は、前へ出すことばかり考えていた。


 剣へ流す時も《魔力感知》を広げる時も。


 だが今回は違う。


 押し出すんじゃない。


 ほんの少し、触れるくらいでいい。


「糸一本を意識して」


 エレナが言う。


「糸……」


 目を閉じる。


 細く。


 もっと細く。


 感応石の中心に、小さな光がつく。


 そこからゆっくり広がった。


 端まで届く。


「そのまま」


 崩さない。


 押さない。


 ただ保つ。


 淡い光が石全体を覆った。


「できた」


「うん。今のなら十分」


 息を吐く。


「剣を振る方が簡単だな……」


 思わず言うと、フェリシアが笑った。


「それと比べるんだ」


 席へ戻る。


「最初と全然違ったよ」


「そんなに?」


「最初は魔力をぶつけてるみたいだった」


「ぶつけてないよ」


「魔物からしたら同じだと思う」


 それを言われると何も言えない。


 ◇


 ルナの番になった。


「少しずつね」


「うん」


 感応石へ手を置く。


 光がついた。


 そしてすぐ消えた。


「あれ?」


「もう一度」


 二回目。


 今度は中心だけ。


 三回目。


 途中まで広がる。


「難しい……」


 ルナが眉を寄せる。


「もう少し一定に」


「それが難しいんだって」


 何度か繰り返し。


 ようやく石全体が淡く光った。


「できた!」


「基礎としては大丈夫」


 エレナが頷く。


「でも三人の中だと、一番苦手ね」


「この二人と比較しないで欲しいな~」


 不満そうな顔で戻ってくる。


 俺は何も言わないことにした。


 ◇


 講習の後半は、組合の裏庭へ移った。


 芝の広い庭に何匹かの魔物がいる。


「ここにいるのは、組合で保護している魔物たちです」


 エレナが言う。


「今日は契約しません。人間の魔力へどう反応するかを見る練習だけ」


 その中に、小さな狐型の魔物がいた。


 茶色い毛。


 尻尾が二本。


 《鑑定》。


【ツインテールフォックス】


【森林に生息する小型の狐型魔物】


【警戒心が強く、素早い動きを得意とする】


 参加者が順番に近づいていく。


 一人が手を伸ばす。


 狐が下がる。


 魔力を流すと、さらに距離を取った。


 次の人も似たようなものだった。


「フェリシア」


「はい」


 フェリシアが前へ出る。


 数歩手前で止まる。


 しゃがんで、魔力を流した。


 狐の耳が動く。


 警戒はしている。


 でも逃げない。


「上手いね」


 エレナが言う。


「魔力が安定してるから驚かせてない」


 次は俺。


 近づく。


 狐がこちらを見る。


 さっきの感応石を思い出す。


 細く。


 少しだけ。


 魔力を流す。


 狐が一歩下がった。


「まだ強い」


「やっぱり?」


「でも、さっきよりずっといい」


 さらに弱くする。


 今度は逃げなかった。


 ただ、近づいてもこない。


「まあ最初なら十分」


 難しいな。


「次、ルナ」


「うん」


 ルナが前へ出た。


 でも狐へ近づかない。


 少し離れたところでしゃがんだ。


「何してるの?」


「待ってる」


「何を?」


「向こうが落ち着くまで」


 何もせずに狐を見る。


 いや、途中から視線まで少し外した。


 しばらくすると狐が顔を上げ、ルナを見る。


 一歩、近づく。


 ルナは動かない。


 もう一歩。


「……来た」


 フェリシアが小さく呟く。


 手が届く距離まで近づいてから、ルナがゆっくり片手を出す。


 狐が鼻を寄せる。


 匂いを嗅いだ。


 逃げない。


 エレナさんが腕を組んで見ている。


「あなた、魔物に好かれやすいのね」


「元々、森で生活してたからね」


「そうなのね。でも、好かれるのも大事なことよ」


「そう?」


「どうして最初から近づかなかったの?」


 ルナが狐を見る。


「嫌がりそうだったから」


「分かったの?」


「なんとなく」


 エレナが少し笑った。


「そういう感覚も、従魔師には大事よ」


 ルナが嬉しそうに狐を見る。


 フェリシアは魔力を扱うのが上手い。


 ルナは魔物との距離を測るのが上手い。


 俺はまだ魔力を弱くする練習が必要らしい。


 三人とも、全然違う。


 それが面白かった。


 ◇


 講習が終わる。


「今日覚えたのは入口だけよ」


 エレナが言う。


「安定して魔力を流すこと。それから、相手の反応を見ること」


 一人の受講者が手を上げる。


「これで《従魔契約》は使えますか?」


「まだ無理」


 即答だった。


「次は術式そのものを覚える。でも、それを覚えたとしても」


 少し離れたところで、バルが大きな欠伸をした。


「契約する相手がいなければ始まらない」


 なるほど、まだ先は長そうだ。


 でも、昨日よりは少しだけ従魔について分かった。


 部屋へ戻ろうとした時だった。


 組合の入口が開く。


 一人の男が早足で入ってきた。


 肩から弓を下げている。


 服には草の葉や泥がついていた。


「南東の森から戻りました」


 受付の女性が立ち上がる。


「例の件ですか?」


「はい」


 その言葉に足を止める。


「白い魔物を確認しました」


 昨日、掲示板にあった未確認の魔物。


「場所は?」


「ルーメル森林の西側です。昨日より街道に近いところまで来ていました」


「姿は?」


「小さいです。白に近い毛。かなり素早い」


 男が少し言葉を切る。


「ただ……」


「どうしました?」


「怪我をしている様です」


 受付の女性の表情が変わる。


「どこを?」


「左の後ろ脚です。まともに地面へつけていませんでした」


 フェリシアを見る。


 向こうも俺を見ている。


 ルナも、さっきまで触れていた狐から視線を上げた。


 怪我をした魔物。


 昨日聞いたロウの話が頭に浮かぶ。


「助けられるかな」


 ルナが呟いた。


「行ってみよう」


 珍しいからじゃない。


 従魔にしたいからでもない。


 怪我をしているなら。


 まず、それを何とかしたい。


 ルーメル森林へ行く理由は、それで十分だった。


【保有:10,410P】

【累計獲得P:338,620P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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