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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第7章 セルヴァン王国

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第110話 従魔契約

 灰色の大きな狼が、人混みの向こうへ歩いていく。


 その隣には革鎧の男。


 このまま行かせたら、またいつ見られるか分からない。


「すみません!」


 思わず声をかけた。


 男が振り返る。


「ん?」


 グレイファングも足を止めた。


 鋭い目がこっちを見る。


 近くで見ると、やっぱり大きい。


 四つ足で立っていても、背中が俺の腰より高い。


「その魔物……従魔ですよね?」


 男がグレイファングを見る。


「ああ」


「少し聞いてもいいですか?」


「いいけど」


「どうやって従えてるんですか?」


 我ながら、かなり直接的な聞き方だった。


 男が少し笑う。


「セルヴァンは初めてか?」


「はい」


「なら気になるか。こいつはロウ。三年前から一緒にいる」


「ロウ」


 名前を呼ばれたグレイファングが男を見る。


 そのまま身体を寄せ、鼻先で男の腕を軽く押した。


「従魔にするには、スキルが必要なんですか?」


「いや。《従魔契約》っていう契約術を使う」


「契約術……」


 聞いたことがない。


 少なくとも、今まで《会員》で見てきたスキルの中に《従魔》や《従魔契約》はなかった。


 ポイントを払えば覚えられるものではなさそうだ。


 フェリシアも興味を持ったらしく、一歩近づく。


「契約術ということは、魔力を使うんですか?」


「ああ。でも詳しい仕組みは俺に聞かない方がいい」


「そうなんですか?」


「俺は教わった通りにやっただけだからな」


 男が頭をかく。


「知りたいなら従魔師組合へ行った方が早い」


「そんな組合があるんですね」


「この町にもあるぞ」


 その前に、もう一つ聞きたい。


「野生の魔物を弱らせてから契約するんですか?」


「それは一番やらない方がいい」


 男が即答した。


「え?」


「従魔契約は、魔物を無理やり従わせるための術じゃない」


 ロウの背中を軽く叩く。


「こいつらの方にも受け入れてもらわないと契約できん」


「魔物の方にも?」


「ああ」


「ロウとはどうやって?」


「山で会った」


「野生だったんですか?」


「もちろん」


 男が笑う。


「最初は近づくだけで唸られたぞ」


 今のロウからは想像しにくい。


「何度か餌を置いてるうちに、顔を覚えられてな。そのあと怪我してるところを見つけて、薬を使った」


「それで?」


「すぐには何も変わらん」


 男がロウを見る。


「また会って。少し近づけるようになって。また会って。その繰り返しだ」


「どれくらい?」


「契約できるまで半年くらいだったかな」


「半年……」


 思っていたよりずっと長い。


 魔物を捕まえる。


 契約術を使う。


 それで従魔になる。


 もっと簡単なものだと思っていた。


 ロウが男の横に座る。


 従えているといえば確かにそうなんだろう。


 でも二人を見ていると、それだけではない気がした。


「触ってもいい?」


 ルナが聞く。


「俺じゃなくて、ロウ次第だな」


 ルナがしゃがむ。


 ゆっくり手を差し出した。


 ロウが鼻を近づける。


 匂いを嗅ぐ。


 ルナは動かない。


 しばらくして、ロウの鼻先が手のひらへ触れた。


「あ」


「大丈夫そうだな」


 ルナがそっと頭を撫でる。


「思ってたより毛が硬い」


「野生の頃よりは柔らかくなったぞ」


「これで?」


「ああ」


 ルナが笑う。


「かわいいね~」


 ロウも嫌がる様子はない。


「俺も《従魔契約》を覚えられますか?」


「人によるから何とも言えないな、さっき言った従魔師組合で聞いてみると良い」


 男が通りの先を指す。


「大通りを東へ行けば分かる。入口に従魔が何匹もいるから、見落としようがない」


「ありがとうございます」


「じゃあな」


「ありがとうございました」


「行くぞ、ロウ」


 ロウが立ち上がる。


 男が歩き出すと、当たり前のようにその横へ並んだ。


 人混みの中へ消えていく。


「行く?」


 フェリシアが聞く。


「従魔師組合?」


「うん」


「行きたい」


 思ったより早く答えてしまった。


 ルナが笑う。


「アレン、今日一番楽しそう」


 ◇


 従魔師組合は、教えてもらった通りすぐに分かった。


「……確かに、これは見落とさないね」


 ルナが言う。


 入口の横には、大きな水飲み場。


 その隣で犬ほどの大きさの蜥蜴型魔物が寝そべっている。


 屋根の端には青い羽の鳥型魔物。


 少し離れた場所では、毛の長い猫のような魔物が飼い主らしい女性の足元を歩いていた。


「すごいな……」


 冒険者ギルドとはまるで違う。


 人の隣に魔物がいる。


 しかも誰もそれを特別なことだと思っていない。


 フェリシアは入口の柱を見ていた。


「ここ、魔力が流れてる」


「どこ?」


「柱と扉の周り。薄いけど術式が入ってるみたい」


「何の?」


「そこまでは分からない」


 三人で中へ入る。


 受付と長椅子。


 掲示板。


 建物自体はそれほど変わった造りではない。


 でも、椅子に座る人間の横に鳥型魔物がいたり、床に丸くなった獣がいたりする。


 視線をどこへ向けても、魔物がいる。


「初めての方ですか?」


 受付の女性が声をかけてきた。


「はい」


「今日はどのようなご用件でしょう?」


「《従魔契約》について知りたいんです」


「契約を希望されているんですね」


「できれば」


「現在、契約したい魔物はいらっしゃいますか?」


「いません」


「でしたら、まず基礎講習を受けていただくのがいいと思います」


「講習?」


「《従魔契約》の仕組みと、契約に使う基礎術式を学ぶものです」


「受けたら使えるようになります?」


「すぐに、とは限りません」


 女性が首を横に振った。


「講習で学ぶのはあくまで基礎です。

 術式を安定させるには、その後も練習が必要です。

 魔力操作の得意不得意でも習得までの時間は変わります」


 なるほど。


 それなら《魔力操作》を持っている俺には有利かもしれない。


 フェリシアなら、さらに早そうだ。


「契約術って、どういう仕組みなんですか?」


 案の定、フェリシアが聞いた。


「簡単に言えば、人と魔物の魔力を使って繋がりを作る術式です」


「繋がると?」


「互いの存在や、大まかな状態を感じやすくなります。

 ただ、心の中が読めたり、命令が絶対になるわけではありません」


「命令はできない?」


「契約しただけで何でも言うことを聞く、というものではないんです」


 ロウと男を思い出す。


 確かにあれは、術式だけで出来上がった関係には見えなかった。


「それと、契約には魔物側の受け入れが必要です」


 受付の女性が続ける。


「拒絶されれば、術式は成立しません」


「力ずくでは無理なんですね」


 ルナが言う。


「はい」


 女性が少しだけ笑った。


「従魔は、倒して手に入れるものではありませんから」


 その言葉が妙に残った。


「じゃあ、契約する魔物はどうやって探すんです?」


「人によって違います」


 野生の魔物と少しずつ関係を作る。


 卵や幼体の頃から育てる。


 怪我をした魔物を保護する。


 人に慣れた個体を譲り受けることもあるらしい。


「組合で紹介してもらったりは?」


「事情によってはあります。ただ、組合で従魔を販売することはありません」


「どうして?」


「従魔は商品ではありませんから」


 すぐに答えが返ってきた。


「組合で保護している魔物もいます。

 でも、それは飼い主を失った従魔や、怪我をして保護された魔物が中心です。

 新しい契約相手を探す場合も、魔物の状態を見ながら慎重に進めます」


「なるほど……」


 思っていた以上に奥が深い。


 強い魔物を見つければいい。


 そういう話ではない。


 今までの旅では、強さで解決できることが多かった。


 敵なら倒す。


 魔物なら斬る。


 でも従魔は、それでは手に入らない。


「面白いですね」


 フェリシアが言う。


「術式もちゃんと見てみたい」


「フェリシアも講習受ける?」


「うん。契約するかは分からないけど、仕組みには興味あるから」


「ルナは?」


「私も受けてみようかな」


「従魔が欲しい?」


「それもまだ分からない」


 ルナが入口の方を見る。


「でも、さっきのロウみたいに魔物と仲良くなれるなら、その方法は知りたい」


 三人とも受けることになった。


「ちょうど明日の午前に基礎講習があります」


 受付の女性が言う。


「参加されますか?」


「お願いします」


 今度も答えるのが早かった。


 ◇


 登録を済ませる。


 その時。


「ねえ」


 ルナが掲示板の前で足を止めた。


「これ、何だろ」


 一枚の紙が貼られている。


【魔物目撃情報】


【バレイン南東部・ルーメル森林】


【未確認種の可能性あり】


 近づく。


「未確認種?」


「ああ、それですか」


 受付の女性も掲示板を見る。


「数日前から報告が上がっているんです」


「何の魔物なんです?」


「まだ分かっていません」


 記載されている情報は少ない。


 小型。


 白に近い毛。


 かなり素早い。


 森の奥で何度か目撃された。


 それだけだ。


「人を襲ったりは?」


 フェリシアが聞く。


「今のところ被害報告はありません。人を見ると逃げるようです」


「じゃあ何で掲示してるの?」


「この辺りで今まで確認されたことのない特徴なので、情報を集めているんです」


 白い、小さな魔物。


 しかも未確認種かもしれない。


「…………」


「アレン」


 ルナが俺を見る。


「何?」


「すごく気になってるでしょ」


「まあ……」


 否定はできない。


 でも。


「まずは明日の講習かな」


 フェリシアが言う。


「うん」


 従魔について、まだ何も知らない。


 森へ行くのは、そのあとでもいい。


 もう一度、掲示板を見る。


 ルーメル森林。


 白い魔物。


 セルヴァンへ来て、まだ二日目。


 なのに、また一つ確かめてみたいものが増えた。


【保有:10,410P】

【累計獲得P:338,620P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
今までに見た「従魔術」の概念の中で、一番納得のできるものでした。 魔術を使って「絆を育む」って、こういうことですよね。
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