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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第7章 セルヴァン王国

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第109話 バレイン

 バレインの城門をくぐる。


 最初に耳へ入ってきたのは、人の声だった。


「北から届いた干し魚だ!」


「香辛料ならこっちだよ!」


「荷車通るぞ! 道を空けてくれ!」


 石畳の上を馬の蹄が叩き、荷車の車輪が軋む。


 通りの左右には店が並び、その前を商人や旅人が絶えず行き交っていた。


「人、多いね」


 ルナが周囲を見回す。


「国境の町だからかな」


 フェリシアも興味深そうに通りを見ている。


 ミラディアでも大きな町はいくつも見た。


 でも、雰囲気が少し違う。


 白い壁の建物は少ない。


 代わりに目立つのは、灰色の石壁と赤茶色の屋根。


 店先に積まれている品物も、見覚えのないものが多かった。


 乾燥させた果物。


 色の濃い布。


 細長い瓶に入った液体。


 香辛料らしい粉が山のように盛られている店もある。


 いくつもの匂いが混ざっていた。


 肉を焼く匂い。


 甘い菓子。


 鼻の奥に残る、少し刺激の強い香辛料。


 川を一つ越えただけなのに……。


 知らない町へ来たんだと、ようやく実感が湧いてきた。


「アレン」


「何?」


 フェリシアが通りの向こうを見ている。


「あれ、魔道具のお店じゃないかな」


 看板には、杖と青い石のようなものが描かれている。


「行きたい?」


「ちょっと見てみたい」


 普段より返事が早かった。


「じゃああとで行こう」


「ありがとう」


「その前に宿じゃない?」


 ルナが言う。


「そうだった」


「泊まる場所は必要だからね」


 まずは宿を探すことにした。


 ◇


 大通りから一本入ったところで宿を見つけた。


 三人分の部屋を取り、必要な手続きを済ませる。


「それで?」


 外へ出ると、ルナがこちらを見る。


「今日はどうする?」


「俺は……」


 町へ入ってからずっと探していたものがある。


「従魔を見たい」


 フェリシアが笑った。


「セルヴァンへ来た理由の一つだもんね」


「うん」


 以前、セルヴァン帰りの冒険者から聞いた。


 この国には、魔物を従えて連れ歩く冒険者がいる。


 それがスキルなのか。


 魔法なのか。


 それとも全く別の方法なのか。


 ずっと気になっていた。


「私はさっきのお店かな」


 フェリシアが言う。


「魔道具?」


「うん。この国で使われてる物が、ミラディアと同じなのか見てみたい」


「ルナは?」


「私は町を見たい」


「ずいぶん広いですね」


「だって初めて来た国だよ?」


 ルナが通りを見る。


「服も違うし、売ってる物も違うし。せっかく来たんだから、いろいろ見たい」


 なるほど。


 三人とも目的が違う。


「じゃあ全部回ろうか」


「うん」


「賛成」


 まずはフェリシアが気になっていた店へ向かった。


 ◇


 魔道具店の中は、思っていたより狭かった。


 その代わり、壁際の棚には隙間がないくらい商品が並んでいる。


 魔石。


 小さなランプ。


 金属製の箱。


 指輪。


 腕輪。


 見ただけでは用途が分からないものも多い。


「いらっしゃい」


 奥にいた店主が声をかけてきた。


 フェリシアはもう棚を見ている。


「これ……」


 手に取ったのは、小さな金属製の筒だった。


「何ですか?」


「携帯用の魔力灯だよ」


 店主が答える。


「この部分に魔力を流せば光る」


「へえ」


 フェリシアが少しだけ魔力を流す。


 筒の先に埋め込まれた石が白く光った。


「わっ」


 ルナがのぞき込む。


「明るいね」


 フェリシアが筒を回して見る。


「へぇ~」


 ルナが店主に聞く。


「これはセルヴァン製なの?」


「それは東部で作ってるやつだ」


 店主が答える。


「こっちじゃ旅人や冒険者がよく使うよ」


 フェリシアの目が少し楽しそうになる。


「こういうの好きなんですね」


「魔法に関係するものは好きだよ」


「知らなかった」


 それからしばらく。


 フェリシアは棚の商品を一つずつ見て回った。


 魔力を蓄える小型の魔石。


 魔力で水を温める道具。


 魔力を通すことで簡単な音を鳴らす警報具。


 全部が特別珍しいわけではないらしい。


 それでも、作り方や形が違うだけで面白いようだ。


「買わないの?」


 ルナが聞く。


「今日は見るだけ」


「お金はたくさんあるんだから買っちゃえばいいのに」


 店を出る。


 フェリシアは少し名残惜しそうに、もう一度看板を振り返った。


 ◇


 次は市場へ向かった。


 こっちはさらに人が多い。


 道の中央まで露店が並んでいる。


「これ、ミラディアじゃあまり見なかったよね」


 ルナが立ち止まった。


 食べ物ではない。


 装飾品の露店だった。


 紐飾り。


 腕輪。


 小さな石を使った耳飾り。


 金や銀より、色のついた石や木を使った物が多い。


「見るだけ?」


 聞いてみる。


「もちろん」


 そう言いながら、もう一つ手に取っている。


 淡い青色の石がついた耳飾り。


「これ、きれい」


「ルナに似合いそう」


 フェリシアが言う。


「本当?」


「うん」


 ルナが少し考える。


 でも、元の場所へ戻した。


「買わないんですか?」


「今日はまだいいかな」


「ルナも買っちゃえばいいのに」


 ルナがじっとこちらを見る。


 そのまま隣の店へ移動した。


 今度は布。


 さらに隣は革製品。


 その次は見たことのない果物。


 一つの店を見るたびに、足が止まる。


 食べ物だけじゃない。


 本当に町そのものを楽しんでいるらしい。


 その様子を見ていると、こっちまで少し楽しくなってくる。


 ◇


 昼を過ぎた頃。


 市場の一角から香ばしい匂いがした。


「これは食べたい」


 ルナが足を止める。


 やっぱり最後はそこだった。


 鉄板の上で薄切りの肉が焼かれている。


 赤や黄色の香辛料。


 細かく刻んだ野菜。


 それを平たいパンで包んで渡していた。


「三つください」


「早いですね」


「アレンも食べるでしょ?」


「食べるけど」


 受け取る。


 一口。


「……辛い」


 思ったより香辛料が強い。


 でも嫌な辛さじゃない。


 肉の脂と野菜が一緒になるとちょうどいい。


「おいしい」


 フェリシアも頷く。


「ミラディアの料理より味が強いね」


「うん。でもこれ好き」


 ルナはすでに半分くらい食べている。


 町の景色。


 店に並ぶ物。


 人の服。


 料理。


 少しずつ違う。


 国を越えるって、こういうことなのかもしれない。


 ◇


 昼食を終え、また通りを歩く。


「従魔、まだ見つからないね」


 ルナが言う。


「うん」


 犬は何匹か見た。


 馬もいる。


 でも、魔物らしいものはいない。


「この町では珍しいのかな」


 フェリシアが言う。


「セルヴァンならどこにでもいると思ってた」


「そこまでは聞いてなかったですからね」


 俺が知っているのは、セルヴァンに魔物を従える冒険者がいるということだけだ。


 そもそも、どのくらいいるのかも知らない。


「ギルドで聞いてみる?」


「それが早そうですね」


 冒険者ギルドの場所を聞こうとした時だった。


「……ん?」


 通りの向こう。


 人の間から、大きな灰色の何かが見えた。


 一瞬、犬かと思った。


 違う。


 大きすぎる。


「アレン?」


 フェリシアがこちらを見る。


「ちょっと待って」


 目を凝らす。


 人混みの中を、一匹の獣が歩いてくる。


 狼に似ている。


 でも、普通の狼より一回りどころか、二回りは大きい。


 灰色の毛。


 太い脚。


 鋭い牙。


 その隣には、革鎧を着た男が歩いている。


 誰も逃げない。


 武器を抜く人もいない。


 獣の方も、周囲の人間を気にする様子がない。


「……魔物?」


 ルナも気づいた。


「多分」


 《鑑定》。


【グレイファング】


【森林や山地に生息する狼型魔物】


【鋭い牙と高い敏捷性を持つ】


 やっぱり。


 魔物だ。


 そのグレイファングが少し横道へ逸れようとする。


「おい、そっちじゃないぞ」


 男が声をかけた。


 すると。


 グレイファングが顔を上げる。


 男を見る。


 そして、何事もなかったように男の隣へ戻った。


「…………」


 本当にいた。


 魔物を連れて歩く冒険者。


「従魔だ」


 思わず声が出る。


 ずっと知りたかったものが、目の前を普通に歩いている。


 どうやって従えているんだろう。


 スキル?


 魔法?


 それとも。


「アレン」


 フェリシアが小さく笑う。


「すごく見てるよ」


「だって……」


 グレイファングと男が人混みの向こうへ進んでいく。


「やっと見つけた」


 セルヴァンまで来た理由の一つ。


 その答えが、すぐそこを歩いていた。


【保有:10,410P】

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