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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第6章 南への旅

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第108話 ラグナ河

 翌朝。


 一階の食堂へ降りると、焼いたパンと肉の匂いが漂っていた。


 窓から入る朝の光の中で、ルナはすでに二つ目のパンを食べ終えようとしている。


「早いね」


「何が?」


「食べるの」


「昨日あれだけ動いたんだから、お腹空くでしょ」


 そう言って、三つ目へ手を伸ばす。


 フェリシアが笑った。


「昨日の夜も結構食べてたよね」


「昨日は昨日。今日は今日」


「便利な言葉ですね」


「アレンも食べた方がいいよ。今日も歩くんでしょ?」


「うん。そのつもり」


 黒狼団の件も、あとはギルドから報酬を受け取れば終わりだ。


 それが済んだら、また南へ向かう。


 俺たちも朝食を済ませ、宿を出た。


 ◇


 まずは市場へ向かった。


「干し肉はこれくらい?」


「もう少しあってもいいんじゃない?」


 ルナが言う。


「《収納》に入れてもらえば邪魔にならないでしょ」


「それもそうだね」


 干し肉。


 硬いパン。


 乾燥させた果物。


 水。


 次の町がどれくらい離れているか分からないので、少し多めに買っておく。


「あとは……」


 ルナが自分の矢筒を見る。


「矢ですね」


「うん。昨日かなり使ったから」


 武具を扱う店へ寄る。


 矢を百本。


 それに予備の弦も買った。


 矢筒をいっぱいにし、残った矢はフェリシアの《収納》へ入れてもらう。


「これで大丈夫」


「じゃあギルドへ行こう」


「うん」


 ◇


 冒険者ギルドへ入る。


 昨日とは少し雰囲気が違った。


 中にいた冒険者たちの視線が、一斉にこちらへ向いたからだ。


「あいつらだ」


「黒狼団の?」


「三人でやったって話、本当なのか?」


「六十人以上いたらしいぞ」


 声を潜めているつもりなんだろうけど、普通に聞こえる。


「広まってるね」


 ルナが小さな声で言った。


「昨日の今日なのに」


「こういう話は早いんでしょうね」


 三人で受付へ向かう。


 昨日の女性が、俺たちを見るとすぐに立ち上がった。


「お待ちしていました」


「確認は終わりました?」


「はい。昨夜のうちに騎士団とギルドから先発隊を出しています」


 受付の女性が書類を取り出す。


「皆さんの報告通り、東部森林の砦が《黒狼団》の拠点だったことを確認しました」


「盗品も?」


「かなりの量が見つかっています。今も回収作業を進めています」


 昨日持ち帰った帳簿についても、すでに調査が始まっているらしい。


「人の名前と金額が並んでいる記録も確認されました。

 人身売買については、騎士団が団長たちから詳しく事情を聞く予定です」


「そうですか」


「それと、皆さんが倒した盗賊についても身元の確認が進みました」


 女性が別の紙を出す。


「団長グレン・ローデン。副団長レムス・ドーン。

 この二名は以前からミラディア国内で指名手配されています」


「やっぱり?」


「はい。それだけではありません」


 紙の下を指す。


「砦で討伐された者のうち、さらに三名が指名手配犯でした」


「三人も?」


「黒狼団は、西部でも長く強盗や誘拐を繰り返していた盗賊団ですから」


 思っていた以上に大きな集団だったらしい。


「ということは、懸賞金も?」


 ルナが聞く。


「もちろん支払われます」


 受付の女性が少し笑った。


「今回の報酬はかなり大きくなりました」


「いくらですか?」


「総額で、一千二百万ジェニーです」


「……一千二百万?」


 思わず聞き返した。


「はい」


 ルナも目を丸くしている。


 フェリシアまで少し驚いた顔をしていた。


「内訳をご説明します」


 受付の女性が指で書類を追う。


「当初の調査依頼と、黒狼団の拠点壊滅、人質救出を含めた特別討伐報酬が四百万ジェニー」


 次。


「団長グレン・ローデンの懸賞金が四百万」


「団長だけで?」


「殺人、強盗、誘拐など多数の事件に関与しています」


 さらに続く。


「副団長レムス・ドーンが二百万ジェニー。残る指名手配犯三名の懸賞金を合わせて二百万ジェニー」


 合計。


 一千二百万ジェニー。


「三人で分けるなら……」


「四百万ずつですね」


 フェリシアが言った。


「すごいね」


 ルナが嬉しそうに笑う。


「昨日一日で四百万かあ」


「正確には昨日だけの成果じゃないですけどね」


「でも四百万は四百万でしょ」


 確かに。


 ドレイクに作ってもらった武器ほどではないとはいえ、一人分としてはかなり大きい。


 その時。


「少しいいか?」


 奥から男が歩いてきた。


 五十代くらい。


 短い灰色の髪に、冒険者だったと言われても納得できるがっしりした体格。


 受付の女性が姿勢を正す。


「ギルドマスター」


 男が俺たちの前で足を止めた。


「この町のギルドマスター、バルガスだ」


「アレンです」


「フェリシアです」


「ルナです」


 バルガスさんが一人ずつ顔を見る。


「直接、礼を言っておきたくてな」


「礼?」


「黒狼団のことだ」


 ギルド内のざわめきが少し静かになった。


「この周辺で被害が増え始めてから、騎士団とは何度も話をしていた」


「合同で討伐する予定だったんですよね?」


「ああ。ただ、拠点も人数も分からなかった」


 だから先に調査依頼を出した。


「昨日の確認では、構成員は六十人を超えていた」


 バルガスさんが続ける。


「あの人数が事前に分かっていれば、騎士団とギルドから数十人規模の討伐隊を出していたはずだ」


「数十人……」


「それを、君たちは三人で終わらせた」


 周囲がまた少しざわついた。


「団長と副団長は生け捕り。人質三名を救出。さらに帳簿まで確保した」


 バルガスさんが小さく息を吐く。


「正直、最初に報告を聞いた時は確認を取り直させた」


「そこまでですか?」


「当たり前だ」


 少しだけ苦笑する。


「調査に出した三人が、その日のうちに六十人以上の盗賊団を壊滅させて戻ってくるなんて、普通は考えん」


 それはそうかもしれない。


「だが、おかげでこの街道を使う商人も旅人も助かる」


 バルガスさんの表情が真剣になる。


「ギルドマスターとして礼を言う。ありがとう」


「はい」


 受付から報酬を受け取る。


 その直後。


【依頼達成を確認しました】


【100P獲得】


【保有:10,410P】


【累計獲得P:338,620P】


 表示が消える。


「もう町を出るのか?」


 バルガスさんが聞く。


「はい。今日からまた南へ向かいます」


「セルヴァンか」


「その予定です」


「ラグナ河までは、ここから四日くらいだ」


 バルガスさんが南を見るように顎を上げた。


「南街道は比較的落ち着いている。それでも油断はするなよ」


「ありがとうございます」


 ギルドを出る。


「四百万かあ」


 ルナがまだ言っている。


「何か欲しいものでもあるんですか?」


「まだ決めてない」


「でも使う気ですよね」


「稼いだんだからいいでしょ」


 フェリシアが笑う。


「必要なものが見つかったら考えればいいよ」


「うん!そうする」


 そのまま南門へ向かった。


 黒狼団のいた町をあとにする。


 ◇


 それから四日間、南へ歩いた。


 何も起きない旅だった。


 でも、景色は少しずつ変わっていった。


 最初に減っていったのは、街道沿いの白い礼拝堂だった。


 ミラディアでは町や村へ入るたびに見かけた白い壁が、一日歩くごとに少なくなっていく。


 代わりに、南から来る荷馬車をよく見かけるようになった。


 積まれているのは木箱や樽。


 御者の服も、これまで見てきたものとは少し違う。


「セルヴァンから来た商人かな」


 フェリシアがすれ違う荷馬車を見る。


「多分」


 南へ進むほど街道も広くなった。


 車輪の跡が何本も重なり、道端には馬を休ませる場所まである。


 荷物だけじゃない。


 人も増えている。


 国境が近い。


 地図を開かなくても、景色の変化がそう教えてくる。


 さらに進むと、空気にも少し湿り気を感じるようになった。


「水の匂いがする」


 ルナが言った。


「分かるの?」


「なんとなく」


 俺にはまだよく分からない。


 でも、それからしばらくすると遠くから低い音が聞こえ始めた。


 風の音とは違う。


 途切れず、ずっと続いている。


「……あれかな」


 フェリシアが言う。


 街道を進むにつれて、周囲の木が少なくなっていった。


 道は緩やかに下っている。


 遠くから聞こえていた低い音も、少しずつ大きくなる。


 やがて視界が開けた。


「……すごい」


 足が止まった。


 目の前いっぱいに、水が広がっている。


 右を見ても左を見ても端が見えない。


 水面は陽の光を細かく反射しながら、西へ流れている。


 対岸には木々や建物が見えている。


 でも、思っていたよりずっと遠い。


「これが……川?」


 ルナも立ち止まっている。


「大きいね」


 フェリシアが呟いた。


 地図を開く。


 ラグナ河。


 ミラディアとセルヴァンを隔てる大河。


 目の前の水は東から西へ流れ、さらに先で大きく南へ折れていく。


 地図の上では一本の線だった。


 でも、目の前にするとまるで違う。


 その一本の線だけで、一つの国と一つの国が分かれている。


 川面にはいくつもの船が浮かんでいた。


 細長い小舟。


 荷を積んだ帆船。


 岸近くには、馬車まで載せられる大きな渡し船が行き来している。


 船着き場からは人の声。


 綱を引く掛け声。


 荷車の車輪が板を打つ音。


 さっきまで歩いていた静かな街道とは、まるで別の場所だった。


「あれに乗るみたいですね」


 フェリシアが渡し船を見る。


「向こうがセルヴァン?」


 ルナが対岸へ目を凝らした。


「うん」


「じゃあ行こう」


 ◇


 渡し船には、俺たち以外にもかなりの人が乗っていた。


 商人。


 旅人。


 冒険者。


 馬。


 荷車も二台。


 太い綱が外される。


 船が岸からゆっくり離れた。


 ギィ、と船板が軋む。


 すぐ横では、流れる水が船腹に何度もぶつかっている。


「結構速いね」


 ルナが水面を見下ろす。


 岸で見るより、流れの強さがよく分かる。


 船頭たちは慣れた様子で帆と舵を操り、流される分まで計算しながら対岸を目指しているらしい。


 川の中央へ近づく。


 振り返った。


 ミラディア側の船着き場が、さっきよりずっと小さくなっている。


 何日も歩いてきた土地が、少しずつ遠ざかっていく。


 反対側を見る。


 セルヴァンの岸は、もうさっきより近い。


「国境って、もっと何かあるのかと思ってた」


 ルナが言う。


「何か?」


「越えたら急に景色が変わるとか」


「川の真ん中で変わったら怖いですよ」


「そういう意味じゃないって」


 フェリシアが笑う。


 一つの河の上。


 後ろはミラディア。


 前はセルヴァン。


 景色そのものはつながっているのに、俺たちは今、その境目を進んでいる。


 少し不思議な感じがした。


「セルヴァンって何がおいしいんだろ」


 ルナが言う。


「結局それなんですね」


「国が変わるんだから料理も変わるでしょ?」


「それはまあ……」


「楽しみじゃない?」


 確かに興味はある。


「楽しみですね」


 そんな話をしているうちに、対岸の船着き場が大きくなってきた。


 人の顔まで分かる距離になってきた。


 積まれた荷物。


 セルヴァンの旗。


 岸で待っている兵士。


 やがて船が桟橋へ横付けされた。


「着いたぞ!」


 船頭の声が響く。


 板が渡され、人と荷馬車が順番に船を降りていく。


 俺たちも人の流れに続いた。


 桟橋の先には、石造りの建物があった。


 入口にはセルヴァンの旗。


 その前には武装した兵士が立ち、船を降りた人たちを順番に確認している。


「やっぱり、そのまま入れるわけじゃないんだね」


 ルナが言う。


「国境ですからね」


 商人たちは荷車を止め、書類を見せている。


 積み荷を確認されている者もいた。


 俺たちの番になる。


「次」


 兵士がこちらを見る。


「身分証を」


 三人で冒険者証を出す。


 兵士が最初に俺のものを確認する。


 少し手が止まった。


「Aランク?」


「はい」


 次にフェリシア。


 また止まる。


「こちらもAランク……」


 そしてルナ。


「Bランクか」


 兵士が三人の顔を順番に見る。


「三人とも冒険者だな?」


「はい」


「セルヴァンへの入国目的は?」


「旅です。これから南へ向かう予定です」


「仕事ではないのか?」


「今のところは」


「分かった」


 冒険者証を返される。


「武器の携帯は冒険者証があるなら問題ない。ただし、町の中で抜けば当然処罰の対象になる」


「分かりました」


「それと、セルヴァン国内でも各地の冒険者ギルドは利用できる。

 ただ、依頼によっては国内での登録確認が必要になる場合がある。

 その時はギルドで聞いてくれ」


「はい」


 兵士が俺たちの後ろへ視線を向ける。


「問題なし。通っていい」


「ありがとうございます」


 詰所を抜ける。


 その先には、南へ続く街道が伸びていた。


「入った?」


 ルナが聞く。


「入ったみたいですね」


「セルヴァン?」


「うん」


 振り返る。


 ラグナ河の向こうに、ミラディアの岸が見えている。


 距離にすれば、それほど離れていない。


 でも今立っている場所は、もう別の国だ。


 冒険者証をしまう。


「行こうか」


「うん」


 ◇


 船着き場を離れ、街道を南へ歩く。


 ラグナ河を背にすると、前には広い平原が続いていた。


 国境の交易路らしく、道はかなり広い。


 荷馬車が何台も行き交っている。


 遠くには畑。


 その向こうには低い丘が連なっている。


 ミラディアでよく見た白い建物は、もうほとんどない。


 代わりに、街道沿いには赤茶色の屋根をした建物が点々と見えた。


「やっぱりちょっと違うね」


 フェリシアが言う。


「うん」


 船の上では、景色はつながって見えた。


 でも実際に歩いてみると、少しずつ違いが見えてくる。


 街道を走る荷馬車。


 道沿いの建物。


 畑の形。


 行き交う人の服。


 国境を越えた実感が、ようやく出てきた。


 しばらく進む。


「あ」


 ルナが足を止めた。


 目を細める。


「見えた」


「町?」


「うん。大きいよ」


 俺にはまだ見えない。


 そのまま歩き続ける。


 やがて平原の先に、一本の灰色の線が見えてきた。


 近づくほど、それが高い城壁だと分かる。


「……あれか」


 さらに進む。


 壁の上にはいくつもの塔。


 大きな城門。


 門の前には荷馬車と人の列が続いている。


 城壁の上では、さっき国境詰所で見たものと同じセルヴァンの旗が揺れていた。


 地図を見る。


 セルヴァン王国北部。


 ラグナ河を行き来する商人たちが集まる国境の交易都市。


 バレイン。


「ようやく着いたね」


 フェリシアが城壁を見る。


「うん」


「まず宿?」


 ルナが聞く。


「まず町に入ってからですね」


「そのあとご飯~」


 三人で城門へ向かう。


 背後にはラグナ河。


 その向こうには、今まで旅してきたミラディア。


 目の前には、初めて歩くセルヴァンの町。


 俺たちの旅は、また新しい国へ入った。


【保有:10,410P】

【累計獲得P:338,620P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

一点、補足です。

サハル、ミラディア、セルヴァンでは「ジェニー」という統一通貨を使用している。

現実社会で言うユーロに近いイメージです。

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― 新着の感想 ―
この物語の場合、冒険者って国や領主に尽くさないとランクが上がらない設定ですよね。 その状態で他国から入ってくる高ランク冒険者って国とズブズブなので工作員やスパイとか二重スパイっていう可能性が高いですよ…
あれ? イヤリングは??
なんでAI使う人って推敲とかしないんですかね。 団長グレン・ローデン。副団長レムス・ドーン。 が直後に 団長ガド・ヴァルハン 副団長レムス・ガルド になってるし、唐突に生えてきたフェリシアの食いしん坊…
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