第105話 盗賊団
町へ着いたのは、日が傾き始めた頃だった。
石壁に囲まれた町の入口には、槍を持った衛兵が二人立っている。
俺たちと一緒に来た商隊が門の前で止まった。
「どうした?」
衛兵が御者へ声をかける。
「街道で盗賊に襲われた」
「盗賊?」
衛兵の表情が変わった。
「どこだ?」
「ここから北へ半日くらいの場所だ。林の近くで五人に襲われた」
「被害は?」
「護衛二人が怪我をした。でも、この三人に助けてもらった」
商人が俺たちを見る。
衛兵の視線もこちらへ向いた。
「盗賊は?」
「三人倒しました。残り二人は東側の森へ逃げています」
俺が答える。
「三人……」
衛兵が少し驚いた顔をする。
「遺体と武器も運んできています」
「分かった。確認する」
衛兵が隣の男を見る。
「応援を呼んできてくれ」
「ああ」
一人が門の奥へ走っていった。
残った衛兵が小さく息を吐く。
「またか……」
「また?」
ルナが聞く。
「ああ。最近、この辺りの街道で盗賊の被害が増えてる」
「そんなに多いんですか?」
「詳しいことはギルドか騎士団へ聞いてくれ。ただ、今月に入ってから何度も報告が来てる」
昨日の五人だけではないらしい。
「逃げた二人はどちらへ?」
「街道の東側」
ルナが答える。
「森に入ってからは南東へ走ってたよ」
「そこまで見えたのか?」
「うん」
衛兵が少し驚いたあと、頷いた。
「助かる。騎士団にも伝えておく」
ほどなく何人かの兵がやってきた。
盗賊の遺体と武器を引き渡す。
これで、ひとまず俺たちにできることは終わった。
◇
「本当にありがとう」
町へ入ったところで、商人がもう一度頭を下げた。
「君たちがいなかったら、荷物どころか命まで取られていた」
「間に合ってよかったです」
荷台で休んでいた冒険者も身体を起こす。
「俺からも礼を言わせてくれ」
「まだ休んでいた方がいいですよ」
「それでも言わせてくれ。命を助けてもらったんだ」
冒険者が頭を下げる。
「ありがとう」
「ルナが治療してくれたからです」
「私は傷を塞いだだけだよ」
ルナが言う。
「でも、本当に無理しないでね。傷は塞がっても、体力までは戻ってないから」
「ああ。分かった」
商人が俺たちを見る。
「俺たちは明日また南へ向かう。そのあと東へ進む予定だ」
「アルスレインですね」
「ああ」
「気をつけてください」
「そっちもな」
商隊と別れる。
三台の荷馬車が町の中心へ進んでいった。
「私たちも宿を探そうか」
フェリシアが言う。
「うん。お腹空いた」
「ルナはそればっかりですね」
「今日は結構走ったんだからいいでしょ?」
「ご飯も行くけど、その前に宿を探そう」
俺たちも宿を探すことにした。
◇
宿は町の中心近くですぐに見つかった。
一階が食堂になっている。
部屋を取ってから三人で下へ降りると、店内はかなり賑わっていた。
商人。
旅人。
冒険者。
街道沿いの町だけあって、人の出入りも多いらしい。
「何食べる?」
席へ座るなり、ルナが品書きを見る。
「肉の煮込みにしようかな」
フェリシアが答える。
「私もそれ」
「じゃあ俺も」
「全員同じじゃん」
「別にいいでしょう」
しばらくして、大きな皿に入った肉と野菜の煮込みが運ばれてきた。
ルナがパンを浸して食べる。
「おいしい」
「今日は昼も落ち着かなかったもんね」
「盗賊が出ましたからね」
「本当に何があるか分からないね」
そんな話をしていた時だった。
少し離れた席から声が聞こえた。
「聞いたか? 今日も北の街道で盗賊が出たらしいぞ」
手が止まる。
フェリシアと目が合った。
ルナもパンを持ったまま隣の席を見る。
男が三人、酒を飲みながら話していた。
「商隊が襲われたんだろ?」
「ああ。でも今回は運が悪かったらしい」
「商隊が?」
「盗賊がだよ。通りかかった冒険者に三人やられて、残りは逃げたって話だ」
ルナがこちらを見る。
フェリシアも俺を見る。
「……それ、私たちだよね?」
ルナが小声で言った。
「多分」
「もう広まってるんだ」
「門でかなり騒ぎになってましたからね」
向こうの会話はまだ続いている。
「今月に入って、これで五件目だろ?」
「ギルドへ届け出があっただけでな」
「まだあるのか?」
「荷物を取られただけで、届けてない商人もいるって話だ」
「じゃあ実際はもっと多いのかよ」
一人の男が酒を飲む。
「前はここまで多くなかったよな?」
「ああ。噂じゃ《黒狼団》がこっちへ流れてきたらしい」
「《黒狼団》?」
ルナが小さく呟いた。
知らない名前だ。
「西の方で暴れてた連中か?」
「そう。騎士団に追われて、拠点をこっちへ移したって話だ」
「本当なのか?」
「知らん。でも、この辺りで盗賊が増えた時期と重なるらしいぞ」
別の男が声を落とす。
「ギルドも動いてるらしい」
「冒険者ギルドが?」
「ああ。騎士団と一緒に討伐するって話も出てる」
「拠点は見つかったのか?」
「まだだ。東の森にいるんじゃないかってところまでらしい」
「じゃあ、まず探さないと話にならないな」
「そういうことだろ」
しばらくすると、男たちの話題は別のものへ移った。
俺は食事へ視線を戻す。
「東の森……」
昨日、盗賊二人が逃げた方向だ。
「あの二人もそこへ向かったのかな」
ルナが言う。
「可能性はありそうですね」
フェリシアも少し考え込んでいる。
「届け出があっただけでも五件か……」
「今日みたいに怪我する人がまた出るかもしれないね」
「うん」
ルナの表情が真剣になった。
「ああいう連中、放っておきたくない」
「俺もだよ」
「明日、ギルドへ行ってみる?」
フェリシアが聞く。
「うん。盗賊に関する依頼が出ているか確認しよう」
「私も賛成」
ルナがすぐに答えた。
セルヴァンへ向かう途中ではある。
でも、急いでいるわけではない。
もし昨日の五人が、大きな盗賊団の一部だったなら。
このまま放っておくのは気になった。
◇
翌朝。
朝食を終え、三人で冒険者ギルドへ向かった。
この街のギルドはそこまで大きくない。
それでも、中には何人もの冒険者がいる。
「まず掲示板?」
「うん」
依頼が貼られている場所へ向かう。
採取。
護衛。
魔物討伐。
順番に見ていく。
「あ」
ルナが一枚の依頼書を指した。
「これじゃない?」
見る。
【東部森林・盗賊団拠点調査】
【対象ランク:B以上】
俺とフェリシアも近づく。
【依頼内容:東部森林に潜伏していると見られる盗賊団の痕跡確認】
【拠点位置・構成人数・武装状況の調査】
【盗賊との遭遇時は、状況に応じて捕縛・討伐を許可する】
【可能であれば構成員を生け捕りにし、情報を持ち帰ること】
「やっぱり依頼が出てる」
ルナが言う。
「昨日聞いた話と同じだ」
「これ、受けようよ」
「即決するんだ」
ルナが俺を見る。
「昨日、あの冒険者たちが怪我してるところ見たでしょ?」
「うん」
「また同じことが起きるなら、放っておきたくない」
フェリシアも頷いた。
「私も賛成」
調査なら、俺たちにも向いている。
俺とフェリシアには《魔力感知》。
ルナには遠くまで見える目と《風読み》がある。
「じゃあ受けよう」
依頼書を掲示板から外し、受付へ持っていった。
「こちらをお願いします」
受付の女性が依頼書を見る。
「東部森林の盗賊団調査ですね」
「はい」
俺たちの冒険者証を確認する。
「Aランク二名、Bランク一名……」
女性が俺たちの顔を見る。
「問題ありません」
依頼書へ印が押された。
「昨日、北街道で盗賊に襲われていた商隊を助けたのも皆さんですね?」
「もう伝わってるんですか?」
「衛兵から正式な報告が来ています」
受付の女性の表情が引き締まる。
「逃げた二名が東部森林へ入ったことも確認しています。
今回の盗賊団と関係している可能性は高いと見ています」
「《黒狼団》という名前を聞いたんですが」
俺が聞く。
「その可能性があります」
「本当に?」
ルナが反応する。
「まだ確定ではありません。ただ、西部で活動していた《黒狼団》が最近姿を消したことは確認されています」
受付の女性が机の上へ地図を広げた。
「そして、ほぼ同じ時期からこの周辺で盗賊被害が増え始めました」
「それで東の森を?」
「はい」
女性が地図の一帯を指す。
「被害が集中している街道と逃走方向から考えて、拠点があるならこの辺りだと見られています」
「人数は?」
「分かっていません」
「数十人いる可能性もある?」
ルナが聞く。
「あります。それ以上の可能性も否定できません」
「騎士団は?」
フェリシアが聞いた。
「拠点と規模が確認でき次第、ギルドと合同で討伐隊を編成する予定です」
昨日、食堂で聞いた噂は本当だったらしい。
受付の女性が俺たちを見る。
「本来、この依頼の目的は調査です」
「本来?」
ルナが首を傾げる。
「皆さんの場合は、少し話が変わります」
女性が俺とフェリシアの冒険者証を見る。
「Aランクが二人。それにBランクが一人」
「はい」
「危険だと判断した場合は、もちろん撤退してください。
ただし、現地の戦力を確認した上で対処可能だと判断した場合は、捕縛や討伐を行っても構いません」
「倒してもいいんですか?」
「はい」
受付の女性が頷く。
「盗賊を放置すれば、また街道で被害が出ます。こちらとしても数を減らせるなら助かります」
「全部倒しても?」
ルナが聞く。
「それが可能なら止めません」
「ルナ」
「確認しただけだよ」
受付の女性が少し笑った。
「ただし」
表情を戻す。
「できれば一人か二人は生け捕りにしてください」
「情報を聞くため?」
「はい」
拠点の全容。
他に仲間がいるのか。
別の拠点があるのか。
盗品をどこへ流しているのか。
捕らえた盗賊から聞けることは多い。
「分かりました」
「皆さんが強いのは承知しています。ただ、人間相手は魔物とは違います」
受付の女性が続ける。
「罠を使う者もいますし、人質を取っている可能性もあります」
「人質……」
ルナの表情が変わる。
「行方不明になっている商人や旅人もいます。盗賊に殺されたのか、捕らえられているのかも分かっていません」
「それも確認すればいい?」
「可能ならお願いします。ただし、無理はしないでください」
「分かった」
ルナが頷く。
俺も地図を見る。
昨日、東の森へ逃げ込んだ二人。
その先に、本当に《黒狼団》がいるのか。
何人いるのか。
どんな武器を持っているのか。
そして、捕まっている人はいるのか。
「行きましょうか」
フェリシアが言う。
「うん」
「行こう」
依頼を正式に受ける。
目的は盗賊団の調査。
ただし、俺たちで対処できる相手なら。
その場で終わらせてもいい。
【保有:7,580P】
【累計獲得P:335,790P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




