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エルダニア大戦記  作者: 志摩 伊純
第0章:小男爵家五男と二人の幼馴染

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第8話 風雲急告


 その日のヴェルカは妙に暑かった。


 気温が高い、ということはなかったのだが、湿度が高いのか、それとも僕の体温が上がっていたのか。


 異様に暑さを感じていたことは、後で思い返したときにまず思い浮かぶ一つのことだった。



 ヴェルカの朝は静かに始まる。


 港町ではないので、港都のように早朝からの漁業の成果を朝市で味わうというものもなく、必要なものが必要なだけ、こじんまりと始まるのがこの街の日常だった。


 官舎で目を覚ました僕は、まだ寝ているブルーノを起こし、朝練帰りのガレスと合流して、食堂で朝食を取っていた。


「この数日、黒い棘について、いろいろ聞き込んでみているけれど、どうにも反応が鈍いね」


 あの調査から数日が経過し、その後もできる範囲で調査を続けていた。


 街での聞き込みなどを中心に、黒い棘について、具体的な情報がないかを足で稼いでいた。


「ああ、最初はいいんだがな……」


 そう、最初はいい。


 声をかけての話し始めは、丁寧に付き合ってくれる人が多いのだが、黒い棘についての話題に移ると、とたんに口が重くなる。


「うん、何かを恐れているみたいだよね」


 黒い棘に何があるのか。


 まだ今はわからないことばかりだが、できる範囲でやれることをやるだけだ。


「そういえば、トマのやつ、なんか俺らを避けてねえか?」


 ブルーノが食べ終わった朝食を前に腕を組んで僕を見つめる。


 あの手伝ってもらった日以降、トマの様子も変わってしまった。


 嫌われている、という感じではないが、明らかに接触自体を避けられているように感じる。


「そうだね……何かあるのかもしれない」


 わからないことはわからない。


「よし、詰所に行くよ」


 僕は二人に声をかけ、今日も調査を継続するつもりだった。


 官舎を出て、妙にそわそわしているような雰囲気を感じる大通りを抜け、詰所に入る。


 朝から様子がおかしい。


 遅刻者が多いのは、いつものことだけれど、いつもなら緩い空気であまりやる気を感じない詰所内が、妙に緊張している雰囲気だ。


 夜番の比較的仲がいい担当がまだいたので、何かあったのか聞いてみることにする。


「おはようございます。 空気がぴりぴりしてるんですが、何かあったんですか?」


 夜番担当は、血走った目で僕を見つめて、立ち上がり耳打ちしてきた。


「南の旧道で、賊が商隊を襲ったらしい……。 死者も多数だとか……」



 南潟詰所の裏庭に所属衛兵全員が集められた。


 遅刻していた者は、引っ張り出され、非番の者も呼び出され、まさに全職員だ。


 壇上には、ユルゲンさんが、いつにもなく真剣な表情で参加者を見回しながら重い口を開いた。


「皆も既に聞いているとは思うが、今朝方、南の旧道で大規模な賊の活動が報告された」


 普段、だらけている衛兵たちも、この雰囲気に飲まれているのか、いつもと違い背筋を伸ばして、その報告を聞いている。


「襲われたのは、港都のドレイク商会の荷車およびその護衛だ」


 ドレイク商会?!


 久しぶりにその名を聞いたけど、僕たちがヴェルカに異動になる原因ともなった大商人だ。


「非常にまずい。 ヴェルカの商人の荷車であれば、まだヴェルカ内で処理することもできた」


 そういうものなのだろうか……?


 僕は心の中で疑問符を思い浮かべながら続きを聞く。


「ドレイク商会は、ルミナ沿海伯家の家宰カシアン様のお抱え商人でもある。 既にカシアン様の耳にも入っている可能性がある」


 なるほど……?


「今回ばかりは、いつものような誤魔化しで処理することはできん」


 何か思ったのとは違う感じの説明だが、ユルゲンさんは真剣だ。


「最悪の場合、オーレリアン様にも届くかもしれん」


 ユルゲンさんはぐっと手を握る。


「当面は、いつもとは違い見回りの強化、場合によっては残業も指示する。 当然、時間通りに出てくることもだ」


 ここで、衛兵たちがざわざわしだした。


「あ、あの! い、いつまででしょうか」


 恐る恐る、といった感じで衛兵の一人が挙手し、質問した。


「解決するまでだ」


 ざわつきが大きくなる。


「静かにしろ!」


 ユルゲンさんの一喝で、場は静まりはしたが混乱の雰囲気はまだ残っている。


「ついては、南潟詰所からも南の旧道への巡回員を出すこととなった」


 南の旧道は、確かぎりぎり西潟詰所の管轄だが、事が事なだけに、次に近い南潟詰所もということなんだろう。


「参加者は、アズール、ガレス、ブルーノ、エルヴィン、ニルスを基本とし、必要に応じて追加や変更を検討する」


 え? 僕たち?!


「アズール! 本日より、通常任務から外れ、南の旧道の巡回任務を命ずる。 お前が指揮するように」


 え?? 僕が?!


「は、はい! 拝命しました!」


 僕は、さっと起立し、敬礼を行い、なんとか体裁だけは崩さないことには成功した。



 そのあとも、ユルゲンさんから細かな指示が続いた。


 ただ、ほとんどは詰所の日常勤務に関する話で、南の旧道へ回る僕たちには直接関係がない。


 正直、あまり頭には残らなかった。


 会議が終わり、改めて僕はユルゲンさんに呼び出され、個室にいる。


「アズール、お前たちは、西潟詰所の指揮下に入るわけではないぞ」


 それはそうだろう、支援要員ではあれど、所属は南潟詰所だ。


 ただ、実質的には、西潟詰所の指示に従うことになるだろうとは思っているけれど。


「はい、そのつもりでいます」


 ユルゲンさんは、深くうなづく。


「今回は、事が事でな……。 南の旧道の巡回は、ヘンドリック衛兵隊長が直接指揮を取られることになった」


 え? 今日何度目の驚きだろう。


「ヘンドリック衛兵隊長が……ですか?」


 ヘンドリック衛兵隊長は、ヴェルカ衛兵隊すべてを取り仕切る一番偉い人だ。


「そうだ。 それぞれの詰所から精鋭を出せ、との命でな。 一番マシそうな人員にした」


 た、確かに……普段の行動を考えれば、マシではあるのかもしれないが……。


「この後、午後一番で、ヴェルカ庁舎に集合せよとの命もある。 準備を整えて、遅刻せぬようにしろ」


 話が……いろいろ急すぎて、頭が追い付かない。


「し、質問をよろしいでしょうか」


 僕は、ひとつだけ聞きたいことがあり、手を挙げた。


「構わん。 言ってみろ」


 ユルゲンさんは深く頷き、続きを促した。


「あの……恥ずかしながら、庁舎とはどこでしょうか」



 ユルゲンさんとの面談を終え、執務室に戻ると、ガレス、ブルーノ、エルヴィン、ニルスが待っていてくれた。


「アズール、話したいことは多いが、いったん準備を進めよう」


 ガレスが久しぶりに生き生きとした顔をしている。


 規律っぽいものが見え始めてるせいだろう。


「うん、午後一番で、ヴェルカ庁舎に集合って話なので、急ぎ準備を整えて、詰所前に集合で」


 僕がそう告げると、皆は頷いて、各々準備へ向かった。


 ただ一人を除いて。


 ブルーノだ。


「あれ、ブルーノは準備に行かないの?」


 あまり時間がないので、準備があるなら早くしてほしい。


 すると、ブルーノが即答で返してくる。


「ああ、特に準備するものがねえ」


 よく見ると、既に得物の鋲を打った大棍棒を担いでおり、鎖帷子も着込んでいるようで、いつでもいける風ではあった。


 ブルーノは常在戦場なのかな?


 大丈夫そうなので、肝心な自分の準備をせねば、と僕は控室へ足を運んだ。



 あの後、準備を終えた皆を引き連れて、ユルゲンさんに確認した、庁舎に移動した。


 受付担当らしき人に声をかけると、中庭で集合とのことで、場所を教えてもらい、すぐに向かう。


 少し早めに着いたようで、僕たちの他には、もう一つの衛兵の集団が見えるだけだ。


 腕章を見るに、東潟詰所の人たちのようだ。


 そのまま黙って待っていると、西潟詰所、北潟詰所も集合し、あとはヘンドリック衛兵隊長が来るのだけなのだが……。


 しばらく待っていると、奥から背は低めなのに、でっぷりと太り制服がぱつぱつに張った偉そうな人と、背は高いが異常に痩せた苦労人そうな人がやってきて、正面に立った。


「招集ごくろう。 何人か見覚えある者もおるが、一応、伝えておく。 わしがヴェルカ衛兵隊長のヘンドリックである」


 でっぷりと太った方が、妙に高い声で伝えつつ、皆を見回している。


「そして、この横におるのが、副隊長のクラウスだ。 基本的にはクラウスから様々な指示を出すでな。 では、あとはクラウスに任せる」


 細い方が、クラウス副隊長らしい。


「えー……、早速だが本日の巡回割りを伝える」


 副隊長は、見た目に寄らず、低音な良い声だ。


「南の旧道は、道幅こそ、それなりだが、左右を林に囲まれており、そこに隠れられて襲撃されると厄介な道として昔から有名で――」


 副隊長は、非常に話が長い人だった。


 要約すると、南の旧道は攻めるに易し、守るに難しといった街道で、ドレイク商会も左右に潜んでいた賊に強襲され、自慢の護衛隊もまともに機能できずにやられてしまったようだ。


「各隊はひとつの隊としてまとまり、ヴェルカからエルネ湖畔あたりまでを巡回することとする。 もし賊と会敵した際は、一人を伝令として本部へ走らせるが、基本は撃退、ないしは殲滅させる」


 なるほど。


 確かに、仮に各詰所を別々に配置して、各個撃破されるくらいなら、一度に見れる範囲は狭まるけれど、まとまるのは悪くない気がする。


「指揮は、私、クラウスが執るので、従うように」


 声は非常に落ち着いて、頼もしいのだが、非常に痩せていて、その点はちょっと不安になる。


「では、三十分後に、庁舎前に再集合とするので、各自今のうちに必要な準備を終えてくるように」


 僕たちは敬礼をし、隊長、副隊長が下がるのを見送った。



 巡回任務を開始して、三日。


 あれ以来、特に賊の姿も噂も出ることはなく、今日もエルネ湖畔まで足を延ばしていた。


 巡回任務に参加して、他の詰所の参加者とも少し距離を詰めることが出来た気がする。


 南潟詰所のような緩い雰囲気のものはおらず、割としっかりしている印象で、これは精鋭といわれる人選だからか、南潟詰所がそういうところなのか、少し考えさせられた。


 ときおり、クラウスさんとも会話する機会があり、意外と面白い人だということもわかってきた。


 初めて交わした会話なんかがいい例だ。


「君が南潟のアズールか」


「はい」


「ユルゲンからの報告書には目を通している。南潟は繁華街も近いことがあり、治安の――」


「……ありがとうございます」


「あと、隊長のヘンドリック殿についてだが、多少問題がなくはないが――」


「……はい、ご教授ありがとうございます」


「うむ、それで思い出したが、君の報告書は少々回りくどくて長いな」


「あ、申し訳ございません。 以降、意識します」


「うむ。 報告書は短く書け。長い話は私だけで十分だ」


 という感じで、話は長い。


 ただ、自覚もしているようで、それを自分から言えるというのが、この人のちょっとした強みなのかもしれない。


 そんなこと考えながら旧道を進む。


 南の旧道沿いに広がる、エルネ湖は静かな湖面を風でわずかに揺らしながら今日も穏やかに佇んでいる。


「エルネ湖畔か……。 ここまでくると実家が近いって感じるよね」


 エルネ湖を見ながら横にいるガレスにだけ聞こえるくらいの声で伝える。


「近いというほどではないが、エスター領は湖の向こう、あの森を越えたら着くくらいではあるな」


 そう、僕の実家のエスター領は、エルネ湖畔から軽装でなら歩いて三日もあれば着くくらいの距離だ。僕の感覚では十分に近い。


「実家が嫌で、港都まで飛び出したのに、だんだん近づいているのが気になるよね……」


 そんな愚痴も出るくらい何も起きず、気が緩み始めていたかもしれない。


 巡回を開始して、わかったことがある。


 自前で十分な護衛を準備できない小商隊が、僕たちを護衛代わりに同行してくるのだ。


 確かに、四つの衛兵詰所の一応、精鋭というお墨付きの護衛だ。しかも、無料。


 僕が商人でも相乗りするだろう。


 今日も、四つほどの商隊と、五名ほどの背負い袋で個人で商いをしている者が同行している。


 クラウスさんは、ちょっと嫌そうだったが、邪見にすることもできずで、しぶしぶ黙認だ。


 そんなことを考えていると、折り返し地点の目印に到達した。


「では、我々はここまでなので、気を付けて先へ進んでください」


 僕は道中、少し仲良くなった商人の一人に別れの挨拶をし、旅の無事を祈りながら見送った。


 帰りの道中も特に何も起きることはなく、ヴェルカへたどり着き、本日の巡回任務が終わろうとしたとき、一人の傭兵らしき人物が、庁舎へ駆けこんできた。


 どこか見覚えがある顔だった。


 折り返し地点で見送った商隊の護衛の一人だと気づいたのは、少し遅れてからだった。


「ぞ、賊がでた……。 あんたたちと別れた後、しばらく進んだ先で待ち伏せしていたんだ」



 急遽、僕たちは改めて、現場へ向かうと、そこには凄惨な状況が広がっていた。


 夜分なため、松明の明かりを照らさないとはっきりは見えないが、倒れている荷車、転がっている人たち、散乱した積み荷の一部が目に入ってくる。


 近づいて確認すると、最後に挨拶した商人が、苦悶の表情で亡くなっている。


「なんということだ……」


 ガレスは唇をかみ、こぶしを握り締める。


「おい、これを見ろ」


 エルヴィンが何かに気づいたようで、僕を呼ぶ。


 どうやら商隊の護衛とやり合ったであろう、賊だと思われる一人が返り討ちにあったのか、ひとり転がっていた。


 松明を近づけて詳細を確認しようとしたときに、それが目に入る。


 腰に巻き付けている帯に黒い棘の刺繍。


「黒い棘の印……」


 まさか、ヴェルカでの荷消えと、商隊襲撃の犯人が繋がっている? いや、同一の存在?


 僕は、クラウスさんに報告し、クラウスさんも黒い棘の印を確認した。


「……黒棘野盗団か」


 ぽつり、と小さくつぶやいたのを僕は聞き逃さなかった。


 黒棘野盗団。


 それがヴェルカや、旧道に跋扈している賊の名前か。


「お前たちは、ここの処理を頼む。 私は急ぎ庁舎へ戻り、上層部へ状況を報告する」


 そうクラウスさんが告げると、五名ほどの衛兵を引きつれてヴェルカへ急ぐように引き返していった。


 僕たちは、遺体や、散らばった様々なものを片付け、整理し、荷車などに載せ、できることをやりきったあと、ヴェルカへ足を向けた。


「なんだか大変なことになっちゃいましたね……」


 いつも元気なニルスも今回ばかりは顔が暗い。


「そうだね。 油断していたかもしれない」


 数日間、何も起きなかった。


 最初のドレイク商会の事件現場も人づてに状況を耳にしただけで、どこか他人事のように考えていた。


 でも、少しの間だけれど、交わった罪のない人々が、こんな酷い目にあうのを直に目撃すると、もう他人事とは思えない。


「アズール、考えすぎるな」


 ガレスが強い瞳で僕を見つめている。


「もし考えるなら、これからだ。 この先、どうするかを考えろ」


 エルヴィンも僕を見つめている。


「ああ、黒い棘のしっぽが見えた」


 そうだ、悲しんでいるだけでは何も変えられない。


 どうすれば、黒い棘に届くのか。


 それを考えないと……。


 ガレス、エルヴィン、ニルスと会話しながらヴェルカへ向かっていると、先行している東潟詰所の衛兵が何かわめいている。


 どうしたのだろう、と皆でその場へ向かう。


 同じく集まった、衛兵たちをかきわけて、前に出ると、そこには、背中に短剣を刺されて倒れ伏し、赤い血を流し、亡くなっているクラウスさんが。


「え?」


 さっきまで、あの人は命令を出していた。


 低い声で、長い説明をしていた。


 それが今は、何も言わない。


 背中に刺さった、短剣には、黒い棘の紋章。


 苦悶の表情で亡くなっているクラウスさん。


「まさか、賊が待ち伏せを?」


 しかし、違和感がある。


 クラウスさんの傷は、背中に突き立てられた短剣のみだ。


 それに、同行していた衛兵たちがいない。


 これは、どういうことだ……。


「内通者か、もしくは裏切り者か……」


 エルヴィンがぽつりとつぶやく。


「あまり良くない状況だな」


 ガレスも苦い顔だ。


「なかなか楽しくなってきたねえ」


 ブルーノは言葉は楽しそうだが、表情は厳しい。


 ニルスは僕と並んで、静かにクラウスさんを見つめている。


 状況だけ見れば、ヴェルカの衛兵には、黒い棘の手が伸びている。もしかしたら、この場の衛兵の中にもいるかもしれない。


 でも、僕にはどうすればよいのか、まったくわからなかった。


 その後、クラウスさんを収容し、ヴェルカまでは無事に到着。


 ヘンドリック衛兵隊長へは、東潟詰所が報告をあげてくれた。


 上層部で、今後の対応について協議するらしい。


 僕たちは、交代ということで、いったん解散となり、五人で官舎へ向けて歩いていた。


「黒い棘とは、どれほどの規模の賊なのだ……」


 ガレスがこぶしを握り締めて前を見つめている。


「街の有力者とも繋がりがありそうだし、衛兵にも影響力があるとなると、ちょっと想像がつかないね……」


 僕は正直、舐めていたのかもしれない。


 当然、賊と相対すれば、その場でのケガや、下手すれば命の危険がある、ということはちゃんとわかっていた。


 でも、今回の相手は、それだけじゃない。


 いろいろと蔓を伸ばし、そして、その黒い棘をこの街の様々なところに突き立てている。


「なんだか辛気臭いねえ。 向かってくるやつを片っ端から殴り倒すだけじゃねーか」


 ブルーノはブルーノだ。


 でも、極論、そうなのかもしれない。


「そうだね、難しく考えても、今の僕たちにはどうしようもない」


 ガレスは頭を振りながら僕を見る。


「ブルーノに影響されるな」


 言うわりには、ガレスは少し笑っていた。


「お前たちは面白いな」


 エルヴィンも口元を少しだけ歪めている。


「もう! そうですよ。 今はいったん難しいこと考えるのはやめて、晩御飯のことでも考えましょう!!」


 ニルスが空気を変えようと、無理して明るく皆を見回して言う。


「よし、じゃ、少し遅い時間だけど、軽く飲みにでもいこうか!」


 空元気かもしれない、でも、何もしないよりはいい。


 誰も断ることなく、足を繁華街へ向けて五つの影がヴェルカの街に消えていった。



 クラウスさんが亡くなって、一週間後。


 ルミナ沿海伯は、黒棘野盗団討伐をヴェルカおよび、その近隣の小都市へ命じ、討伐部隊が編成されることとなった。


 本体は、遅れて港都からやってくるとのことだが、ヴェルカだけでも三百名。周辺都市を含めると五百名という、賊討伐では類を見ない規模だ。


 これが、後の世で“黒棘野盗団討伐戦”と呼ばれ、アズール・エスターが乱世へ足を踏み入れる最初の事件として記録されることになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。


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