第74話 青い布の下へ
次に溝から上がってきた男は、子供を背負ったまま、空になった水袋を胸に抱えていた。
先に着いた灰衣の者たちを荷車の陰へ座らせている間にも、枯れた葦は何度も揺れた。二人に支えられた女、その後ろに小さな包みを抱えた老人、さらに少し間を置いて、布を巻いた槍を持つ男たちが現れる。
最初の五十人を数え終える前に、ノエルの前へ新しい名が並び始めていた。
「その方は、こちらへ寝かせてください。歩ける人は荷車の間へ入らず、青い布の右側へ。家族が一緒なら、離れないで並んでください」
ノエルは新しい板札へ名前を書きながら、次の者へ顔を向ける。
「食べ物は持っていますか。量ではなく、持っているかどうかだけ教えてください」
尋ねられた女は、肩から下げた袋を開いた。中には固いパンが二つと、小さな布包みが入っている。
「子供と二人で食べる分です。一度に食べず、朝と日が落ちてから少しずつ食べるよう言われました」
「水は残っていますか」
「途中で子供に飲ませました。底に少しだけです」
ノエルは札の端へ印を付けた。
「その袋は手元に置いてください。こちらで集めることはしません。水は後で一度だけ足しますから、空の器を出しておいてください」
女が荷車の方へ進むと、その後ろにいた老人も背負っていた袋を下ろした。炒った豆のようなものが入った小袋と、口を布で塞いだ水差しが出てくる。
最初に来た者だけではなかった。新しく着いた者のほとんどが、何かしら食べ物を持っている。量は多くない。子供を連れた家族でも、袋の底が隠れる程度の豆と、固いパンが数枚あるだけだった。
「向こうで配られたのですか」
僕が尋ねると、老人は水差しの口を押さえながら首を振った。
「倉から出した物もありますが、自分で持っていた分も混ざっています。ハーゲン様が、歩ける者は自分と家族が二日か三日、少しずつ食べる分を持てと。水は林まで残せと言われました」
「皆に、同じように?」
「持てる者には。持てない者の分は、家族か護衛が持っています。何も持っていない者もおりますが」
ノエルが僕の横で、その言葉を聞いていた。
「全員がすぐ飢える状態ではありません。少なくとも、今日ここへ着いた人たちへ、こちらの食料を一斉に配る必要はなさそうです」
「数日なら、何とかなるのかな」
「持っている量も家族の人数も違います。数日という言葉だけでまとめないでください。ただ、何も持たずに逃げてきた集団ではありません」
ノエルは老人の札にも印を足し、次に来た家族へ同じことを尋ね始めた。
トマは荷車の間へ積んでいた板を外側へ運び、座る場所を広げている。ニルスのところには、もう十人以上が並んでいた。自分で歩いてきた者でも、足に巻いた布を解けば血が滲んでいる。子供を下ろした途端に座り込む者もいた。
人が増えるたび、青い布の周りだけ地面が見えなくなっていく。
「アズール。次の者たちは武器を持っている」
エルヴィンの声に、僕は溝の方へ顔を向けた。
今度の集団には、槍を持った男が八人いた。穂先には布が巻かれているが、腰に短剣を差した者もいる。前を歩く家族との距離が近く、こちらへ襲いかかる様子はない。それでも、ガレスは槍を横へ構え、灰衣の者たちと荷車の間に立った。
「それ以上近づくな。武器を持つ者は、家族から離れて右へ出ろ。槍と刃物を地面へ置いてから話を聞く」
先頭の男は足を止めたものの、槍を離さなかった。
「こちらへ戦いに来たわけではありません。ただ、武器を置いた後、帝国軍へ渡されるのであれば、家族を守れなくなります」
「武器を持ったまま、こちらの負傷者と荷の中へ入れることはできない。お前たちだけを例外にはしない」
「先に着いた者たちは、どう扱われていますか」
「正式な処遇は決まっていない。武器を置いた者は別に座らせ、上へ報告を出すところだ」
ガレスの返答を聞いても、男の手は槍から離れなかった。後ろにいる女が小さな子供を抱き寄せる。ほかの武器持ちも互いの顔を見たまま、動こうとしない。
ブルーノが棍棒を肩に載せた。
「置きたくねえなら、持ったまま溝へ戻るか? こっちは、槍を持った連中を中へ入れるほど暇じゃねえぞ」
「ブルーノ、今は待って。置くかどうかを決めてもらわないと、後ろの家族まで動けない」
「待ってる間にも、後ろから増えるだろ」
「だから、今ここで話をするんだよ」
僕はガレスの横へ出た。槍を持つ男は僕の顔を見たが、誰なのか訝しんでいるらしく、警戒したまま立っている。
「僕はアズール・エスターです。この隊は、ヴェルナー子爵家の預かりで動いています」
「あなたが、ここをまとめている方ですか」
「この隊のことなら。ただ、灰衣の人たちを赦したり、自由にしたりする権限は僕にはありません。上から命令が来れば、従わなければならないこともあります」
後ろの家族がざわめいた。
男の顔が硬くなる。
「では、武器を置けば、いずれ処刑されるかもしれないと?」
「それを否定できる立場でもありません」
自分で口にすると、追い返しているのと大して変わらないように聞こえた。けれど、できない約束をして武器だけ取るわけにもいかない。
「ただ、武器を置いて僕たちへ降伏するなら、上の判断が届くまでここで預かる、この隊で預かります。少なくとも、ここへ来た人を誰かが勝手に連れ出して斬ろうとするなら、僕は止めます」
「止められるのですか」
「僕たちだけでは止められない相手もいると思います。だから、すぐ上へ報告を出します。誰の預かりか分からないまま散らばるより、僕たちへ降伏した者として名を残した方がよいと考えています」
男は僕ではなく、後ろの女と子供へ目を向けた。
「家族も、捕虜になるのでしょうか」
「その区別も、僕にはまだ決められません。ただ、武器を持っていない人まで、あなたたちと同じところで縛るつもりはありません。家族は家族のまま、こちらで名前を確認します」
返事はすぐに戻ってこなかった。荷車の側では、先に来た子供が水を飲んでいる。マルクが集めた六本の槍は、道の右側へまとめられていた。
男はそこを見てから、握っていた槍を地面に置いた。腰の刃も外し、槍の横へ並べる。
「アズール・エスター隊へ降伏します。後ろの者にも、同じように伝えます」
「分かりました。武器を置いた人から、ガレスの指示に従ってください。家族はノエルのところへ。途中で別れないよう、同じ名前を伝えてください」
僕はガレスと、ノエルを順に指さして彼に伝えた。そうしていると、残る七人も少しずつ武器を置いた。
マルクが近づき、槍の穂先に巻かれた布を見ながら一本ずつ道の端へ運ぶ。
「こちらへ刃を向けないよう、柄を街側へ揃えてください。短剣も鞘ごとで構いません。隠したまま後で見つかる方が、話が面倒になりますからね」
「すべて置きます。家族の荷まで調べますか」
「今は食料と水の有無だけです。ただ、刃物を食料袋へ隠している人がいるなら、先に出してもらえると助かります」
灰衣の男が後ろへ声を掛けると、女の一人が包みから小さな刃物を出した。パンを切るための物だと言ったが、マルクは取り上げず、ノエルに確認するよう伝えた。
武器と生活に使う刃物を、同じ扱いにはできない。だが今は、家族の名を付けて一度預かるしかなかった。
「伝令は、もう出せますか」
僕が尋ねると、エルヴィンが城壁沿いの道へ視線を移した。
「一人、ヴェルナー家の陣へ走らせる。だが、中央進撃の最中だ。オルステッド殿が門上に残っているかも分からん。返事はすぐには来ないと思った方がいい」
「それでも、出しておこう。最初は五十人余り、今は……ノエル、どれくらいになってる?」
「まだ数えている途中です。百は越えました。溝にいる人を含めれば、さらに増えます」
ノエルは顔を上げずに答えた。
「武器を置いた人の数、子供と負傷者が多いこと、食料を少量ずつ持参していることも伝えてください。それから、後続の人数は不明。ハーゲンという者が計画的に外へ出しているらしい、と」
「ハーゲン本人からの使者が来ているわけではないことも付け加える」
エルヴィンが近くの兵を呼び、伝える内容を繰り返させた。兵は一度言い直した後、城壁沿いの道を東へ走っていく。
その背中が見えなくなる前に、次の一団が溝から現れた。先頭の女は、青い布を見つけると、後ろへ振り返って指を差した。
「あそこです。青い布の荷車まで行けば、武器を置いた者は休ませてもらえます」
僕たちは、誰にもそんな目印を教えていなかった。ミケルも同じことに気づいたらしく、荷車の竿へ結んだ布を見上げた。
「もう少し高くした方が、溝から見えますかね」
「正式な旗みたいにはするなよ」
ガレスが先に釘を刺す。
「旗にするつもりはありません。ただ、こちらへ来た人が、荷車の間へ迷い込まないようにしたいだけです」
ミケルは竿を抜かず、結び目だけを一つ上へ移した。風の弱い昼でも、青い布の端が荷車の上でわずかに揺れる。
後から来た者たちは、その布を見て歩く向きを変えた。
誰かが決めた旗ではない。それでも、灰色の列は青い布の下へ集まり始めていた。
*
林から戻った護衛は、通用口の前で水を一口だけ飲んだ。
ザイデルが差し出した器を返し、まだ息の整わないまま報告を続ける。
「最初の者たちは林を越えました。途中で三つに分かれています。一つは水場を探して西へ。残りは南へ下りましたが、五十人余りが城壁の外にいる軍へ近づきました」
「接触したのは、どこの軍だ」
ハーゲンが問い返す。
「旗は分かりません。青い布を荷車へ結んでいます。帝国軍の大きな旗ではありませんでした」
「その五十人余りは、そこで捕らえられたのですか」
ザイデルは帳面を閉じず、通過済みの札を別の袋へ移していた。
「武器を持っていた者は置かされました。ですが、その場で斬られてはいません。子供と負傷者は荷車の陰へ入れられ、水も分けられたそうです」
「その場では、誰が扱いを決めている」
「アズール・エスターという若い男だと。ヴェルナー子爵家の預かりで動く隊だそうです」
ハーゲンは、その名に覚えがない様子だった。
「こちらの者を呼び込んでいるのか」
「向こうからは呼んでいません。歩いて着いた者を追い返さず、名を取っているだけです。武器を置けば、上の判断が出るまで預かると言ったそうです」
ザイデルの手が止まった。
「上の判断が出るまで、ですか」
「安全だとは考えられんか」
「捕虜を一か所へ集め、後からまとめて処分することもできます。若い隊長が善意で預かったとしても、上の命令には逆らえないでしょう」
「その通りだ。上の命令一つで、扱いが変わることもある」
ハーゲンは否定しなかった。
壁の向こうから、短い角笛が二度聞こえた。少し遅れて、人の叫びと石の崩れる音が近づいてくる。
通用口へ向かう列が足を速め、ザイデルは壁際へ寄るよう手を上げた。子供を抱いた者が先に通り、食料袋を背負った男がその後へ続く。
「それでも、林へ散らしたままでは長く持ちません」
ハーゲンは穴を抜ける者たちを見た。
「水場を知る者は先に出しました。食べ物も持たせています」
「二日、三日はな。その間に帝国軍が周囲を探せば、小さな集団から捕まる。家族が別れ、負傷者が遅れれば、逃げた先で賊になる者も出る」
「青い布の隊へ、全員を降伏させるおつもりですか」
「一度に向かわせれば、あちらが潰れる。林までは今の組で出せ。そこから動ける者は南へ下らせ、青い布を探させる」
「相手の許可も取らずに、さらに送るのですか」
「許可を取りに行かせる。だが、返事を待って列は止めん」
ザイデルは、次の組の札へ目を落とした。
「戦える者まで武器を置けば、街へ戻すことはできませんよ」
「戻すつもりはない。外へ出た者は外へ残す」
「では、街に残る兵だけで、どこまで道を持たせるのですか」
「南と東は、二つ目の角まで下がった。北はまだ三つ残っている。民を先に出し、後から兵を下げる。通用口へ寄せる数は、ここでお前が調整しろ」
ハーゲンは、通過を待つ者たちの荷を見た。固いパンを括りつけた袋、水差し、空の桶。背負えない負傷者の分を、護衛が左右へ分けて持っている。
「食料を持っていない者は、倉から一人分だけ渡せ。子供のいる家は二人分でもよい。ただし、袋ごと渡すな。外へ出た後で取り合いになる」
「残る者の分まで出せば、街は今夜を越せませんがよろしいので?」
「今夜まで街が残ると思うか」
ザイデルはすぐには答えなかった。
「残る人がいる以上、何も残さないわけにはいきません」
「分かっている。倉を空にしろとは言わん。外へ出す者が途中で飢えずに済む分だけだ。残る者の分は残せ」
「その境目を決めるのが、私の仕事になるわけですね」
「今までと変わらん。数を分け、残す分と出す分を決めろ」
「人数が増えるたび、同じことを言いますね」
ザイデルは帳面の余白へ、倉から出す分の印を足した。
通用口の向こうから戻った護衛が、青い布の位置をもう一度説明する。南門の外、荷車が六台、低い溝から見える青い布。武器を持つ者は近づく前に穂先を包み、求められれば地面へ置く。
ハーゲンは、その言葉を次の組へ伝えさせた。
「アズール・エスター隊へ降伏すると言え。家族の名を同じ札に載せろ。持っている食料は手放すな。水は途中で飲み切るな」
「そのアズールという方が、受け入れを断ったらどうしますか」
護衛の一人が尋ねた。
「その時は林へ戻せ。だが、武器を置いた者をすぐ斬らない隊なら、話をする余地はある」
ハーゲンは次の伝令を呼んだ。
「青い布のところへ行け。俺の名を出してよい。先に着いた者の扱いを確かめ、どこまで受け入れられるか聞いてこい」
「返事は、こちらへ持ち帰りますか」
「街へ戻れるなら戻れ。無理ならザイデルへ伝えろ」
伝令が穴を抜けると、また遠くで角笛が鳴った。
今度は近い。ハーゲンは通用口から離れ、街側の路地へ目を向けた。
「北の兵を、一つ下げる。次の組が出たら、護衛を入れ替えろ」
「ハーゲン殿。私は、いつまでこちらに残ればよいのですか」
ザイデルは帳面から顔を上げた。
「最後の家族が通るまで残るつもりか」
「外へ出した者の名と、残った者の名を分けなければ、誰がいなくなったのか分からなくなります。今ここを離れれば、次の組は誰が作るのですか」
「お前の下で札を扱っている者に任せろ」
「あの者たちは、施療所と倉の記録だけで手一杯です」
「なら、今ここで分け方を教えろ」
「教えれば、私がいなくても同じようにできるとお考えですか」
「同じにはできん。だが、お前が街で帳面を抱えたまま捕まれば、外へ出した者の名まで消える」
ザイデルは言い返そうとして、通用口の外へ目を向けた。穴の向こうには、もう先に出た者の姿はない。次の組も、案内役に促されて溝へ下っている。
「外へ出した人々のところへ、私が必要だと?」
「誰がどの家族か。誰が傷を負い、誰が水場を知り、誰に食料を持たせたか。向こうの隊は何も知らん。お前が行かなければ、三千人はただの数になる」
「三千人すべてが出られるとは、まだ決まっていません」
「だから、出た者を生かせ。残る者の札は、こちらで受け取る」
ハーゲンは手を出したが、ザイデルは帳面を渡さなかった。
「この帳面は、私が持っていきます。残る者の分は、別へ写します。途中までしか書けなくても、何もないよりはましでしょう」
「好きにしろ。ただし、次の非戦闘員の組と一緒に出ろ。最後まで残ることは許さん」
「命令として聞いておきます。守れるかどうかは、列が動く速さ次第です」
「守れ。お前まで、俺にできない約束をさせるな」
ザイデルは返事の代わりに帳面を開き、近くの者へ残留者用の札を集めるよう命じた。
その背後で、ハーゲンは槍を持つ兵たちを路地へ戻していった。
*
青い布の右側に、武器を置いた者を座らせる場所を作った。
最初は一列で足りた。次には二列になり、さらに後ろへ新しい者が続くと、ガレスは荷車から距離を取り、槍を置く場所そのものを街側へ移した。
「武器を置いた者は、家族の場所を確認してからこちらへ座れ。勝手に列を離れるな。水が必要なら、近くの者を通して申し出ろ」
ガレスの声に従い、灰衣の男たちは槍を並べた。穂先を包んでいた布を外す者もいれば、そのまま柄だけこちらへ向けて置く者もいる。
ブルーノは積み荷を運び終えると、今度は水桶の前に立っていた。
「一人で二杯持っていくな。飲む奴がいるなら連れてこい。歩けねえなら、器だけ持っていって戻せ」
「子供の分も一杯に入るのですか」
「お前が飲まずに子供へやるなら一杯だ。足りねえなら、ノエルのところで名前を言え。俺に家族の数まで聞かせるな」
荒い言い方でも、並んだ者たちは従った。ブルーノが桶の横へ立っているだけで、先へ手を伸ばそうとする者が減る。
その頃、ハーゲンの使いだと名乗る男が溝から上がってきた。
「先に着いた者を、どこまで受け入れていただけますか」
カインが僕の右へ寄り、男の腰と手元を見つめる。僕は、これまでと同じ条件を伝えた。武器を置き、名を告げて降伏する者なら、上の判断が来るまでここで預かる。ただし、赦免も自由も約束できない。
男はその条件を二度復唱し、ハーゲンへ伝えるため溝へ戻っていった。
僕は、次々と増える灰衣の列を見ながら、何度目か分からない人数をノエルへ尋ねた。
「今の時点で、何人くらいまで増えてる?」
「同じ質問をするたびに増えているので、答えてもすぐ古くなります」
ノエルの前には板札が積み上がり、書き終えたものと、確認途中のものが混ざり始めていた。
「少なくとも二百人はいます。ただし、子供を一人ずつ数えた札と、家族単位でまとめた札があります。正確な人数は、もう一度照合しないと出せません」
ここまで増えれば、南門側の後送兵にも見えないはずがなかった。少し離れた場所でこちらを見ていた兵が、仲間へ何か告げ、その一人を本営の方へ走らせていた。
「武器を置いた人は?」
「マルクさんの数では、四十六人です。短い刃だけ持っていた人を含めれば、もう少し増えます」
ノエルは次の札へ名を書こうとして、手を止めた。灰衣の男が、自分の名は伝えたが、妻と子供がどこへ座ったか分からないと言ったためだ。
「奥さんの名前を教えてください。子供は何人で、何歳くらいですか」
「妻はミラです。子供は二人。上が七つで、下が四つです。先の組で出たはずですが、林では会えませんでした」
「先に着いた者の札を確かめます。こちらに名前がなければ、別の道へ向かった可能性もあります。今は武器を置いた列から離れず、待ってください」
「探しに行かせてもらえませんか」
「ここで皆が家族を探して動けば、見つける前にもっと分からなくなります。名前はこちらで照合します」
男は納得していない顔をしたが、ガレスに促されて列へ戻った。
「兄上。今のままでは、同じ家族を別々の札に書いています」
「聞いた人が違えば、そうなるよね」
「分かっていることを言わないでください。先に外へ出した側の記録があれば、照合できるのですが……」
ノエルが言い終える前に、溝の方から声が上がった。
今度は、先頭に武器を持った者がいない。代わりに、一人の男が濡れた帳面を胸へ抱え、肩から木札の袋を下げている。足元は泥にまみれていたが、列の途中で何度も立ち止まり、後ろの者へ進む順を指示していた。
男は青い布を見つけても、まっすぐ荷車へは来なかった。
腰に差していた短い刃を外し、見える場所へ置く。それから両手を空けて、こちらへ歩いてきた。
「ハーゲンのもとで、街から出す者の組分けをしていたエーミール・ザイデルです。こちらの責任者と、人数を記録している方に話があります」
「僕がアズール・エスターです。人数を見ているのは、弟のノエルです」
ザイデルは僕の顔を一度見た後、すぐにノエルの手元へ視線を移した。
「先に着いた者たちは、どのように数えていますか」
「名前、家族、負傷の有無、食料と水、武器を持っていたかどうかです。ただ、別々に着いた家族が重なり始めています」
「最初の組から、こちらへ来た者は全員ではありません。林で西と南へ分かれました。こちらへ来た家族は、私の帳面では印を付けられていません」
「では、出した人の全体は分かるのですね」
「通用口を通った時点までです。途中で列から外れた者、別の道へ向かった者までは追えていません」
ザイデルは帳面を開いた。湿った頁には、名前の横へ丸や二重線が書き込まれている。家族ごとに括られた箇所もあれば、途中で別の札へ移した跡もあった。
ノエルは自分の帳面を横へずらし、空いた板の上へザイデルの帳面を置かせた。
「こちらの印と意味が違いますね。丸は何ですか」
「井戸や水場を知る者です。二重は手当てのできる者。横線は自力で歩けますが、長くは続かない者です。家族が同じ札にある場合、括りの外へ人数を書いています」
「こちらでは丸を武器持ちに使っています。印をそのまま写すと混ざりますね」
「では、別の色か形を使ってください。こちらの帳面を書き直す時間はありません」
「書き直しません。対応する印を最初の頁へ書きます。先に、もう着いている家族から合わせます」
ノエルは新しい板札を一枚取り、二つの帳面の間へ置いた。
「ミラという女性。子供が七つと四つ。夫は後から到着しています」
ザイデルは頁をめくった。
「ミラ・ハルト。子供はリオとエナ。最初の組ではなく、三つ目に出しています。夫のベルクは護衛へ残したので、別の札です」
「こちらに三人の札があります。では、夫を同じ家族へ戻せます」
「武器を置いた者の列にいるはずです。ただ、すぐ同じ場所へ座らせると、武装した者と非戦闘員の区分が崩れませんか」
「家族の位置だけ知らせます。本人は列へ残します」
二人は、もう僕を見ていなかった。
ザイデルが名前を探し、ノエルがこちらで受け取った札を抜く。食料を持てない負傷者には別の印を付け、水を使い切った家族はブルーノの桶へ回す。途中ではぐれた子供の名が出ると、トマが荷車の間を探しに走った。
ノエルは帳面を押さえたまま、ザイデルへ顔を向けた。
「ザイデルさん。今後も、こちらへ来る人の順は分かりますか」
「街を出る時点では。ですが、ハーゲンが兵を下げ始めれば、予定どおりにはなりません」
「それでも、何もないよりは助かります。次の組の特徴を先に教えてください。こちらで座らせる場所を空けます」
ザイデルは青い布の向こうへ続く列を見た。
「次は子供連れが多い組です。その後に、歩ける負傷者と手当てをする者。さらに後ろから、槍を持つ護衛が増えます。全員、武器を置くよう命じられていますが、街で戦ってきた者は、今の人々ほど素直ではないかもしれません」
「武器の場所を、もう一つ作ります。兄上、聞こえましたか」
「聞いてるよ。ガレスとマルクに伝える」
「それから、水は一度に配らないでください。各自に持たせた分が残っている者もいます。先に空の器だけ分けてもらえれば、不足している人をこちらで探します」
ノエルは少しだけ手を止め、ザイデルの顔を見た。
「こちらでも、同じように始めています」
「それなら話が早い。持っている者から集め直せば、誰の分か分からなくなります」
「食料も家族ごとに持たせたままにします。ただ、何日分かまでは、こちらで聞き取れていません」
「正確に聞いても、本人の見積もりが合うとは限りません。子供の人数と、何も持っていない家だけ先に拾う方が早いでしょう」
ノエルは、その意見をすぐ帳面の端へ書き足した。
「あなたの処遇は、まだ決まっていません」
「分かっています。短剣も置いてきました」
「捕虜として正式に登録するかどうかも、上の判断です。それでも、今はこの帳面を使わせてください。家族を別々にしたままでは、後で直す方が大変になります」
「こちらも、そのために持ってきました。座って待てと言われても、数が崩れるのを見ている方が耐えられません」
ノエルは板札の束を半分、ザイデルの側へ押した。
「では、こちらへ着いた者の名を読み上げます。あなたは街を出した札を探してください。見つからない名前だけ、別へ置きます」
「そのやり方で進めましょう。ただし、名前の似た者が何人もいます。家族か出身の地区まで聞いてください」
「分かりました。兄上、この方にはしばらく、こちらを手伝ってもらいます」
僕に決める余地があったのか分からないほど、二人の仕事はもう始まっていた。
「うん。必要なことを続けて」
「兄上は、伝令が戻る場所を空けておいてください。それから、青い布の前に人を立たせて、到着した人を直接こちらへ入れないようにしてください」
「分かった。僕も仕事を探してたところだから」
「探さなくても、もう増えています」
ノエルは次の名前を読み上げ、ザイデルが濡れた帳面の頁をめくった。
青い布の下で、二冊の帳面が初めて同じ人々を数え始めた。
*
ハーゲンが北の路地へ着いた時、退くはずだった兵がまだ角に残っていた。
盾を持つ者が二列で道を塞ぎ、その後ろから短い槍を突き出している。道の先には黒い旗そのものは見えない。ただ、角を曲がるたびに帝国兵の盾が増え、押し戻された灰衣の者が横道へ流れ込んでいた。
「なぜ下がっていない」
ハーゲンは、列の後ろで声を張っていた男の肩を掴んだ。
「次の道へ負傷者が入っています。退けば踏み潰します」
「西へ出す列と混ざったのか」
「白い椀の方から来た者もいます。中央で帝国兵とぶつかり、こちらへ押し出されました」
前列の盾へ何かが当たり、木が裂ける音がした。灰衣の男が一人倒れ、後ろから別の者が穴を埋める。
ハーゲンは横道を覗いた。負傷者を載せた戸板が二枚、壁際で動けなくなっている。その周りを家族が囲み、さらに後ろから別の兵が退いてきていた。
「戸板を先に通せ。盾列は十歩ずつ下げる。角を一つ渡したら、残るな」
「十歩も退けば、敵がすぐ角まで詰めてきます」
「詰めさせろ。次の角でまた止める。ここで全員倒れれば、後ろの道まで渡すことになる」
男は前列へ命令を伝えた。
灰衣の盾が一度に退いたわけではない。右の二枚が下がり、槍がその穴を埋める。負傷者を運ぶ戸板が横道を抜けると、左側も少しずつ後ろへ下がった。帝国兵が角へ入るたび、投げられた石と槍が動きを止め、その間にまた十歩退く。
街を守っている形ではなかった。街の一角を渡すたび、人が通る時間を稼いでいた。
そうしていると、南から来た伝令が、腕へ血を流したままハーゲンを探し当てた。
「南の二つ目を捨てました。白い椀の旗は中央広場へ入っています。こちらへ戻る者と、旗へ向かう者が分かれて、道が塞がり始めています」
「西へ退く者だけ通せ。旗へ戻る者を追うな」
「マルタ様へ、何か伝えますか」
ハーゲンは一瞬、中央へ続く道を見た。
「今さら、俺の言葉で旗は下がらん。負傷者が西へ来たなら通せ。それだけ伝えろ」
伝令を戻し、ハーゲン自身も次の角へ下がった。
通用口からは、ザイデルが外へ出たという報告が届いている。帳面と札を持ち、子供の多い組に混ざった。青い布のところへ向かったかは、まだ分からない。その後に出た伝令から、アズール・エスター隊が武器を置く者を引き続き受け入れているとも聞いた。
返事は、条件付きだった。赦免は約束しない。自由も約束しない。武器を置き、名を伝えて降伏するなら、上の判断が出るまで預かる。
それだけだった。だが、ハーゲンには十分だった。
「北の残りを下げる。通用口へ一度に寄せるな。五十ずつ、外へ出た組の間を空けろ」
「戦える者も、武器を置かせるのですか」
「青い布へ向かう者は置け。林へ残る者は、槍を包んで待て。アズールの隊へ近づく前に、勝手に列を作るな」
「ハーゲン殿も、外へ出られますか」
「最後の角が下がったら出る。先に行け」
命令を受けた男が離れる。
ハーゲンは、前へ出ていた灰衣の盾をさらに一つ下げた。
日が大きく西へ傾き、夕刻が近づいた頃、北と東の遅滞兵は通用口へ続く道まで戻ってきた。通用口は正午前から、ほとんど列を止めずに人を外へ送り続けていた。南側の者も、中央へ残った者を除いて少しずつ西へ流れ込んでいる。
狭い穴へ、千人を一度に押し込むことはできない。
先に出る者、次の角で止める者、負傷者を渡したら戻る者。ハーゲンは街の側で、その順番を何度も組み替えた。
最後に残した二つの角のうち、一つが崩れる。帝国兵の盾が路地へ入った時、ハーゲンは残っていた兵へ退くよう命じた。
「もうここへ戻るな。通用口を抜けたら、林で五十ずつに分かれろ。青い布へ向かう組は、武器を置く場所を空けて近づけ」
「あなたはどうするのですか」
「最後の組を通したら出る。俺を待って穴を塞ぐな」
兵たちは、なお何度か後ろを見たが、命令に従って西へ走った。
ハーゲンが通用口へ戻ると、通用口の内側で順番を待つ者は、百人を切っていた。護衛が負傷者を外へ受け渡し、最後の槍持ちが順に穴を抜ける。
街の奥から、白い椀の旗を呼ぶ声がまだ聞こえている。ハーゲンは一度だけ、その方向を振り返った。動かせない者一人ひとりへ、自分の口で告げるという約束も果たせていなかった。だが、戻ることはできなかった。
「戸は戻さなくてよい。土もそのままにしろ。最後の者が出たら、外へ出て散れ」
内側の護衛へそう命じ、ハーゲン自身も身体を屈めた。
狭い穴へ肩が引っ掛かり、鎧の留め具が石を擦る。剣を先に外へ渡し、両手を地面へついて進むと、外にいた兵が腕を掴んだ。
街の音が、石壁の向こうへ移った。ハーゲンは剣を受け取り、溝へ下りる。
葦の向こうには、灰色の列が南へ続いていた。
*
最初に見えたのは、人ではなく槍だった。
溝から上がる前に、槍の穂先が一つずつ地面へ置かれていく。先に来た者たちより数が多い。十本を越えても終わらず、その後ろから弓と短い剣が運ばれてくる。
「武器持ちが増えます! ガレスさん、置く場所が足りません!」
マルクの声に、ガレスが灰衣の列へ向かった。
「青い布へ近づく前に、五人ずつ武器を置け! 後ろの者は溝から上がるな。置いた者だけ、こちらの指示で進め!」
返ってきた声は、今までの避難者より揃っていた。
灰衣の兵たちは疲れ切っていた。盾の縁は欠け、服にも鎧にも乾いた血が付いている。それでも、前の者が武器を置く間、後ろの者は溝の中で待ち、勝手に荷車へ近づこうとはしなかった。
「敗走してきた連中の動きじゃねえな」
ブルーノが棍棒を持ったまま呟いた。
「命令を受けて退いてきた兵だ。列がまだ生きている」
エルヴィンは、武器を置いた後も互いの位置を確かめる男たちを見ていた。
灰衣の兵は、武器を渡すと家族を探そうとしたが、ノエルとザイデルが名前を読み上げる場所へ先に向けられる。ザイデルが知る名も多く、家族の位置や負傷の有無が次々と確認されていった。
「その者は右脚を傷めています。立たせたままにしないでください」
「こちらでは武器持ちの列へ入れています」
「座らせる場所だけ分ければよいでしょう。逃げるとは思いません。逃げる場所があるなら、ここへ武器を置きには来ていませんから」
ノエルは少し考え、ガレスへ負傷した兵を列の端へ座らせるよう頼んだ。二人の帳面の間には、もう何十枚もの板札が積まれている。青い布の下だけでなく、その外側の畑にも灰衣の人々が座り始めていた。
伝令はまだ戻らない。ヴェルナー家へ出した兵がどこまで行けたのかも分からなかった。
それでも、人と武器は増え続ける。
ノエルが僕を呼び寄せ、溝から続く兵の列を示した。
「兄上。この兵たちを率いている人が、後ろから来るそうです。ザイデルさんの話では、ハーゲン本人です」
「ハーゲン本人が、ここまで来るの?」
「街の遅滞兵を下げ終えた後、こちらへ向かうと聞いています。ただ、何人を連れてくるのかは分かりません」
ザイデルは帳面を閉じずに続けた。
「今ここへ着いているのは、外へ出した者の一部です。林へ残っている者も、別の道へ向かった者もいます。戦える者も、まだ後ろから来ます」
「全部で、どれくらいになるんですか」
僕が尋ねると、ザイデルは数字を口にする前に、青い布の周囲を見た。
「街を出せると考えていたのは、家族と歩ける負傷者が二千ほど。戦える者が千ほどです。全員がこちらへ来るか、全員が街を出られたかは、まだ分かりません」
三千という数を聞くと、今目の前にいる人々が急に増えたわけでもないのに、荷車六台がひどく小さく見えた。
「僕たちの隊は、百人もいないんだよ」
「九十七名です。全員の現在地確認は、まだ終わっていません」
ノエルが訂正する。
「今、その正確さは必要かな」
「三千人を預かる話をするなら、こちらの人数を曖昧にはできません」
その通りだった。けれど、三千人をどうするか考える前に、溝の中からまた人が上がってくる。
灰衣の兵たちが左右へ分かれ、その間を一人の男が歩いてきた。
大柄な男だった。肩に掛けた灰色の布は裂け、鎧には土と煤がこびりついている。手にした剣にも乾いた血が残っていたが、こちらへ近づく前に鞘ごと腰から外した。
男は地面へ剣を置いた。その後ろで、残っていた兵たちも武器を下ろしていく。
エルヴィンが、小さく息を吐いた。
「鋼守のハーゲン……」
男はその声を聞いたのか、こちらへ目を向けた。
「その名で呼ぶ者が、帝国側にもまだいたか」
低い声だった。
エルヴィンは槍を下ろさずに答える。
「昔の話を聞いただけです。あなた本人を見るのは、今日が初めてだ」
「なら、話ほど立派なものを想像していたかもしれんな。見てのとおり、街を失って出てきた敗将だ」
男は僕の前まで来ると、もう一度、地面へ置いた剣を確かめた。
「ローデリヒ・ハーゲンだ。お前が、アズール・エスターか」
「そうです。こちらへ来た人たちを、あなたが外へ出したのですね」
「出せた者だけだ。街に残った者もいる。別の道へ向かった者もいる」
ハーゲンの視線が、青い布の周囲へ集まった人々を動いていく。子供、負傷者、武器を置いた兵。ノエルとザイデルの前へ並ぶ者たち。
ザイデルが帳面から顔を上げた。
「遅かったですね。こちらは、もう数え方を合わせています」
「お前が外へ出たなら、それでいい」
「よくありません。予定と違う順で兵が来ています。家族と別になった者も増えました」
「街の道が崩れた。予定を守って全員残すよりはましだ」
「その説明は、後で一人ずつしていただきます」
「外へ出ても、それか」
ハーゲンはわずかに顔をしかめたが、それ以上は言い返さなかった。
ノエルが二人の間へ口を挟む。
「話をする前に、後ろから来る人数と、武器を持つ者のまとまり方を教えてください。こちらの置き場所が足りません」
「戦える者は、まだ数百が林にいる。後から小さく分けて来る。全員、青い布へ近づく前に武器を置かせる」
「食料と水は、各自に持たせていますか」
「二日か三日をしのげる分を、持てる者へ持たせた。水は途中で補うつもりだったが、十分ではない」
「それなら、何も持っていない家族と負傷者を先に分けます。武器を置いた者は、ガレスさんの指示に従ってください」
「分かった。兵には従わせる」
「それから、あなた自身も武器を置いた者として名前を取ります。正式な処遇は、上の返答が来てからです」
「好きにしろ。名は今、伝えた」
ノエルは新しい札へ、ローデリヒ・ハーゲンと書いた。
その文字を見てから、ハーゲンは僕へ向き直る。
「先に出した者から聞いた。お前は、武器を置いた者を上の判断まで預かると言ったそうだな」
「僕に約束できるのは、そこまでです。赦すとも、自由にするとも言えません」
「十分だとは言わん。だが、今はそれしかない」
ハーゲンは地面へ片膝をついたわけでも、頭を深く下げたわけでもなかった。ただ、置いた剣から手を離し、僕の後ろに集まる人々を示した。
「ここにいる者と、後から来る者を預かってもらいたい。戦える者には武器を置かせる。逃げ出さぬよう、こちらでもまとめる」
「後から来る人を合わせると、どれくらいになりますか」
「すべて出られていれば、三千ほどだ」
ザイデルから聞いた数字と同じだった。
それでも、本人の口から告げられると、重さが違った。
「僕たちには、三千人を養う食料も、正式に受け入れる権限もありません」
「食料は、数日分を分けて持たせた。十分ではないが、今日明日で全員が飢える量ではない。権限がないことも聞いている」
「それでも、僕たちのところへ?」
「散らせば、家族から崩れる。武器を持った者は賊として追われ、持たない者も道で死ぬ。名を取って預かる者がいるなら、そこへ降伏した方が、まだ人は残る」
ハーゲンの後ろで、灰衣の兵が次の槍を地面へ置いた。金属と石のぶつかる音が、一度では終わらない。
長い列の中で、武器が次々に手から離れていく。
「すぐに答えを出せとは言わん。だが、後ろの列はもう動いている。戻せば、街へは入れず、林にも収まらん」
僕はノエルを見た。ノエルは帳面から顔を上げたが、助けを求めるような表情はしなかった。
「兄上。正式な受け入れはできません。ですが、今ここで追い返した場合、武器を置いた人と家族を、もう一度ばらばらにすることになります」
「この人数を座らせる場所は、まだ作れる?」
「足りません。だから、畑の縁まで広げます。水も食料も、持っている分を先に使ってもらいます。こちらから出せる量は、後で数えます」
ザイデルも口を挟んだ。
「家族と負傷者の整理は、こちらで続けます。戦える者はハーゲンにまとめさせてください。今の命令が届くうちは、その方が早い」
ガレスは、地面へ並ぶ武器を見たまま答える。
「預かるなら、武器を置く場所と人の座る場所は完全に分ける。見張りも増やす必要がある。こちらの兵だけで足りなければ、武器を置いた灰衣の中から、家族の誘導だけをする者を選ばせろ」
「武器を返すのではなく、誘導を手伝ってもらうんだね」
「三千人を九十七人だけで動かすつもりか。命令を聞く者がいるなら使う。ただし、こちらの兵を必ず付ける」
ブルーノが後ろから声を上げた。
「話が決まるなら早くしろ。溝の中で、また列が詰まってるぞ」
僕は青い布を見上げた。正式な旗ではない。僕たちが戻る場所を見失わないよう、荷車へ結んだだけの布だ。
その下へ、五十人が来た。
五十人を座らせる前に百人を越え、今は畑の縁まで灰色の人々が続いている。さらに溝の向こうには、まだ次の列がいる。
「正式なことは、上の返答を待ちます」
僕はハーゲンへ告げた。
「それまでは、武器を置いて僕たちへ降伏する人を、この場所で預かります。家族を散らさず、負傷者を先に休ませます。こちらから自由や赦免を約束することはできません。それでもよければ、後ろの人にも同じように伝えてください」
「分かった。俺の兵には、そう命じる」
ハーゲンは立ち上がり、後ろを振り返った。
「槍を置いた者から、青い布の右へ進め! 家族の名を伝え、勝手に列を離れるな! 後ろの者は五十ずつ上がれ。前が動くまで溝で待て!」
声が灰衣の兵たちへ伝わり、さらに後ろへ繰り返されていく。
ノエルは次の板札を取り、ザイデルは濡れた帳面の頁を開いた。
ガレスとマルクが武器を置く場所を広げ、ブルーノは水桶の前へ戻る。トマは畑側へ新しい通路を作り、ニルスは横になれる場所を探して荷車の間を歩いた。
僕が預かったのは、五十人余りの避難者だったはずだ。けれど、青い布の下では、一つの組を数え終える前に、次の列が着いていた。
地面へ置かれる槍の音が続く。
その向こうから、ハーゲンが残した人々が、まだこちらへ歩いてきていた。




