第68話 落ちる門
斧が門板へ食い込み、抜けなくなった。工兵は柄を捻り、片足を門に当てる。黒ずんだ木の表面が裂け、欠けた木片が盾兵の肩を越えて落ちた。穴と呼ぶにはまだ浅い。だが、その傷へ次の斧が振り下ろされる前に、門の向こうから槌の音が返ってきた。
灰衣も、内側から板を打ちつけている。
「同じ場所だ! 継ぎ目を広げろ!」
工兵隊の指揮官が、大盾の間から腕を伸ばす。斧を持つ者が二人に増え、一人が門板を削り、もう一人が裂け目へ鉄の楔を差し込む。門上から落ちた石が大盾を叩き、受けた兵の膝が沈んだ。後ろにいた盾兵が肩を入れ、倒れる前に支える。
門前の帝国兵は、ほとんど動けない。壕と門扉の間に作った足場は狭く、正面には灰衣の盾兵、頭上には門上の弓兵がいる。その間で工兵だけが斧を振らなければならなかった。
「右、下がるぞ!」
壕の向こうから声が飛んだ。額から血を流す槍兵が板へ戻ろうとする。だが、一枚きりの板には新しい大盾兵が足を載せており、二人とも止まった。
「前に進むのを止めて!」
僕が腕を横へ出す。
「今は戻る人が先! 盾の人は、板の手前で待って!」
「前から早く寄越せと言われている!」
「板の上でぶつかったら、どっちも落ちます!」
大盾兵は門前を見てから、足を板の外へ戻した。負傷した槍兵がこちら側へ渡りきる。ニルスがその腕を受け取り、青い布の右へ引いた。
「次、行ってください!」
僕が手を下ろすと、大盾兵が板へ乗る。青い布の左では、新しい板が人足の肩に載せられている。壕へ落とした木束の上へ、もう一本の道を作るつもりらしい。
「それ、そのまま載せる気か?」
トマが板の端を叩いた。
「先に枝を足せ。今の束は真ん中が沈んでる。横へ載せたら板同士が寄るぞ」
「門前から、もっと兵を寄越せと来ている!」
「だから道を増やすんだろうが。急いで二本とも壊したらどうする!」
工兵が壕の底を覗き込む。
トマは壊れた荷車の車台を指した。
「こちら側は、あの車台の枠に一本。向こう側は新しい杭に一本だ。板の真ん中じゃなく、端を留めろ。人が乗れば勝手に中央へ沈む」
工兵は後ろの指揮官を見た。
「やれ! 枝を足せ!」
人足が細い枝を抱えて壕際へ出る。
その頭上へ矢が落ちた。ガレスが盾を差し入れ、矢を受ける。革紐の切れた盾は腕に固定できず、衝撃のたびに縁を握る手が下がった。それでも人足が枝を投げ終えるまで、盾を退かさない。
「ガレス、交代して!」
「まだ持てる」
「盾の方が持たないだろ」
ブルーノが横から口を出した。
ガレスは盾に刺さった矢を一瞥した。
「お前と代われば、板ごと前へ出る」
「俺を何だと思ってやがる」
「考えなしの乱暴者だ」
「ひでえ言いざまだぜ」
「だから渡せんな」
二人の横で、新しい板が壕へ出された。板の先を受け取るため、対岸の兵が盾列から一人だけ下がる。人足が押し、こちら側の工兵が縄を引く。板の腹が木束へ載ったところで泥水が跳ね、最初の板へぶつかった。
「離せ! 間を作れ!」
トマが縄を引く者の間へ入り、板の端を蹴った。
人の腕一本ほどの隙間が開く。
「これ以上は広げるな。足を落とすぞ。前へ行く方を左、戻る方を右だ!」
青い布で分けていた流れが、壕の上でも二つになった。板は細く、どちらも一人ずつしか渡れない。それでも、戻る負傷者を待たずに次の兵を送れる。門前の盾列へ大盾兵が加わり、倒れた者が反対の板から戻ってくる。
人の流れが少し速くなると、門を叩く音も増えた。
一度、二度、三度。途中から数えられなくなった。
門の内側でも槌が鳴っている。外から裂けば、内から板を当てる。帝国工兵が楔を深く打ち込むと、灰衣側の槍が門の隙間から突き出し、斧を持つ男の脇を掠めた。
「隙間へ盾を入れろ!」
小盾が門板に押し当てられる。その陰から工兵が楔を打つ。
木が軋む。裂け目の奥に、暗い隙間ができる。
「開いたぞ!」
工兵が楔を捨て、鉄の鉤を押し込んだ。門の向こうから手が伸びる。鉤の柄を掴もうとした指へ、盾兵の槍が突き込まれた。灰色の袖が引っ込み、代わりに別の槍が穴から出る。
見えない相手と、門板一枚を挟んで槍がぶつかった。
「縄を寄越せ!」
鉤に縄が結ばれる。
壕のこちら側まで伸びてきた縄を、十人ほどの帝国兵が掴んだ。僕たちの前進路を横切っている。
「そのまま引いたら、左が全部止まります!」
「門を剥がす!」
「先に人を下げて!」
僕が叫ぶと、近くにいた帝国兵が縄の周りから人足を退かせた。
ミケルは青い布を一歩後ろへ移す。前進する兵の列が、縄を避けて外側へ膨らんだ。
「今だ、引け!」
門前と壕外の兵が同時に縄を引く。鉤が木へ食い込み、門板が外へ膨らむ。内側から槌が鳴り、誰かが押し返している。縄を持つ兵の足が泥を滑った。
「ブルーノ!」
「待ってたぞ!」
ブルーノが縄の最後尾へ入り、両腕で巻き取った。
「走るなよ!」
ガレスが盾の向こうから怒鳴る。
「どこへ走るんだよ!」
「門までだ!」
「縄が切れなきゃな!」
ブルーノが後ろへ体重を掛ける。門板の裂け目が広がった。打ちつけられていた内側の板が一本、釘を残したまま外へめくれる。穴の向こうで灰衣の顔が見え、すぐ盾の陰へ消えた。
次の瞬間、鉤が外れた。縄を持っていた兵が何人も後ろへ倒れ、ブルーノも片足を滑らせたが、すぐに踏みとどまった。
「もう一度だ!」
工兵隊の指揮官が叫ぶ。別の鉤が穴へ入った。
門扉はまだ立っていた。
*
南門の内側には、割れた板の隙間から細い光が差し込んでいた。
その前へ新しい板を運ぼうとした男が、横から押されて転ぶ。別の者が板を拾い、門へ立てかけるが、釘を持つ者が来ない。槌を持つ者はいる。横木を押している者もいる。誰もが目の前の穴を塞ごうとして、互いの場所を奪っていた。
「板を立てるな! 横木を先に入れろ!」
ハーゲンの声が門下へ落ちる。
聞こえた者が繰り返し、二人がかりで横木を運ぶ。だが、門扉の前には盾兵と負傷者が詰まり、一本の木を真っ直ぐ通す道さえ残っていなかった。
門外で縄を引く掛け声がそろう。
扉が軋みながら門外側へ撓み、横木を押していた者たちが一斉に肩を入れた。
「押せ! 押し戻せ!」
マルタの声が下から上がった。
待っていた者たちが門へ寄ろうとする。
「寄せるな!」
ハーゲンは石段を下り、門下の人波へ入った。
「前にいる者だけで押せ! 後ろは道を空けろ!」
「人がいれば、まだ持ちます!」
「立てない人間を増やしてどうする!」
マルタは口を開いたが、東側から走ってきた伝令が二人の間へ割り込んだ。
「東門、帝国軍の弓が前へ出ました!」
「いつもの射撃か」
「違います。大盾が動いています。木束も、旗の後ろではなく門へ向けて運ばれています!」
ハーゲンは伝令の背後を見た。東へ続く道には、南門へ石を運ぼうとする者と、東門へ戻ろうとする灰衣がぶつかっている。
「東の予備を南へ回すな。向こうは向こうで持たせろ」
「ですが、南門が――」
「東が開けば、南を守った意味がなくなる」
門扉がまた鳴った。今度は、板の一部が内側へ折れた。裂けた穴から帝国兵の槍が入り、横木を押していた男の肩を突く。男が倒れると、その場所へ次の者が入ろうとして、後ろの板とぶつかった。
「穴へ寄るな! 盾を前へ!」
ハーゲンが門前盾兵へ叫ぶ。
盾兵が三列に分かれ、第一列が裂け目へ盾を向ける。第二列はその後ろから槍を出し、第三列が負傷者を引いた。
まだ形は残っている。だが、外から聞こえる斧の音は、朝より近い。
板札を持った兵が石段を駆け下りてきた。
「クラマー殿からです! 南門へ兵を集め、開いたところで押し潰すべきだと!」
「東門から動かすな」
「北からも回せると――」
「北も動かすな」
「南門が落ちます!」
「分かっている!」
ハーゲンが声を張ると、門下の者たちまで一瞬だけ手を止めた。
その間にも、穴から鉤が入る。盾兵が槍で叩き落とし、外から別の鉤が伸びた。
ハーゲンは板札を兵へ押し返した。
「クラマーへ返せ。南へ集めれば、東と北が開く。門一つを守るために、町を三つに裂く気か、と」
「北方軍は、まだ外柵を取っていません」
「取らないから、南へ回せると思うのか」
兵は答えない。
「南が開けば、あの男は来る。東の帝国軍も同じだ。各門の兵を動かすな」
ザイデルが空の水桶を二つ持った者を連れ、門下へ来た。人の壁を見て立ち止まり、脇の細道へ桶を回す。
「負傷者の道が消えています」
「広げろ」
「人を下げなければ無理です」
マルタが門扉を見た。
「今、下げれば、逃げたと思われます」
「逃げ道がなければ、退ける者まで死にますよ」
ザイデルは門下の広場を指した。
「門へ来られない者は、第一の柵へ回してください。屋根へ上がれる者には石を。ここへ増やしても、槌を振る場所もありません」
「まだ門は立っています」
「立っているうちに、次を作るのです」
門外から、低い掛け声が聞こえた。
縄を引いている。
ハーゲンは門前の三列を見た。第一列の盾は欠け、第二列の槍は穴へ向いている。第三列は負傷者を抱えたまま、下がる先を失いかけていた。
「門前は、合図で第一の柵まで下げる」
マルタが振り向く。
「まだ戦えます」
「ここで死ぬことと、戦うことは違う」
「退けば、帝国兵が入ります」
「入らせろ」
門下の何人かが、ハーゲンを見た。
「入ったところを止める。門前へ全部詰めれば、帝国の矢と槍へ人を積むだけだ。第一列から順に下げろ。左右の路地へ兵を分けろ。屋根の者は、門をくぐった先を狙え」
ザイデルはすでに、負傷者を奥へ運ぶ者を集めている。
マルタはしばらく門を見ていたが、石を抱えた者たちへ向き直った。
「門へ行けない者は、柵へ。若い者は屋根へ上がって。石を一度に投げないで、下の合図を見なさい!」
声が門下から街路へ広がっていく。荷車が横向きに倒され、木材が車輪の間へ差し込まれる。樽と屋台が運ばれ、人一人が通れる隙間だけを残して積まれた。
南門の内側に、もう一つの壁が作られ始めた。
東から、帝国軍の太鼓が聞こえる。それまで一定だった音が速くなり、地面の下から響くように続く。伝令がもう一人、東の道から駆けてくる。
「工兵が外柵へ着きました!」
ハーゲンは南門を振り返った。
扉の片側が、大きく門外側へ撓んでいた。
「門前、下がれ!」
角笛が鳴った。
第一列が盾を向けたまま一歩下がる。第二列は槍を出し、第三列が負傷者を引く。門へしがみついていた者の中には、聞かずに横木を押し続ける者もいた。
「下がれ! もう門は持たん!」
ハーゲンの声より先に、門板が裂けた。
*
南門の報告を受けた本営の伝令は、馬の腹まで泥を跳ね上げて北方軍へ入った。
ヴァルグラムは、新しい寄子隊が黒い旗の下へ並ぶところを見ていた。若い隊長は、先ほど戻した兵の盾を替えさせながら、次に出る隊へ杭の位置を説明している。
「南門、扉の一部が破断! 帝国兵が門内への通路を開きます!」
伝令が馬を止める。
「本営より、北方軍は本攻撃へ移れとのことです!」
ヴァルグラムは南を見なかった。
「若い連中を下げろ」
若い隊長が顔を上げる。
「次は、我々ではないのですか」
「水を飲ませろと言った」
「まだ動けます」
「動けることは分かった」
ヴァルグラムは黒い旗の後ろへ目を移した。古参歩兵が盾を持ち、弓兵は矢筒を前へ回している。工兵は斧と縄を確かめ、誰も杭の位置を尋ねない。
「稽古は終わりだ。次は取る」
若い隊長は自分の兵を見た。
「我々は、後ろで待つだけですか」
「見て覚えろ。さっき、お前たちがどこで止まったかを見ておけ」
ヴァルグラムが手を上げる。
先ほどまで前にいた寄子隊が左右へ割れ、その間を古参兵が通った。走らない。盾の高さも歩幅も変わらず、黒い旗が列の中央で進む。
「弓は柵の上だけを射ろ。外へ出た灰色は盾兵が受ける。工兵は右の柵を倒せ」
「北門まで押しますか」
「外営を取る。門前へ道を作れ」
「中へ入る者が出た場合は」
「戻せ。南から入る軍の背を、北から押すな」
角笛が一度、長く鳴った。
北方軍の弓が上がる。矢は新兵隊の頭上を越え、外柵の向こうへ落ちた。灰衣の弓兵が身を伏せたところへ盾列が杭を越える。先ほどは足元を探りながら進んだ場所を、古参兵は止まらず通った。
北外営の柵が開き、灰衣が出る。盾列の中央は動かない。左右の兵だけが半歩前へ出て、外へ広がろうとした灰衣を押し返した。
「追うな! 柵へ寄せろ!」
古参の隊長の声が列を走る。工兵が外柵へ縄を掛けた。斧が杭の根元へ入り、別の兵が盾で頭上を覆う。灰衣の石が落ち、一人が倒れる。後ろの兵がその盾を拾い、空いた場所へ入った。
若い隊長は、自分の兵の前で立ったまま見ていた。古参兵は、杭を越える時も列を乱さない。倒れた者へ全員が寄らず、後列の二人だけが引く。柵から出てきた灰衣を追わず、工兵の前だけを空ける。
縄が引かれた。
外柵の一角が、北方軍側へ倒れる。
「前へ」
ヴァルグラムの一言で、黒い旗が進んだ。
灰衣が外営の小屋の間へ下がる。古参兵は追い散らさず、小屋と柵の間を一つずつ埋めていく。
やがて、先ほどは杭の手前に止まっていた黒い旗が、北外営の中へ立った。
若い隊長が、その位置を見上げる。
「……あそこまで、こんなに違うのですか」
「違うところを見つけろ」
ヴァルグラムは北門へ続く道を見た。
「見つけられなければ、次も同じ場所で止まる」
北門上で、灰衣の鐘が鳴り始めた。
*
南門の片側が倒れた時、僕は縄を避けて戻る負傷者を右へ通していた。
最初は、門板がさらに裂けた音だと思った。次に、門前の帝国兵が一斉に声を上げる。壕の向こうで黒い扉が傾き、内側へ積まれていた木材と一緒に崩れた。
土煙の中から灰衣が下がっていく。
「開いたぞ!」
誰かが叫んだ。
前進路にいた兵が板へ殺到しかける。
「一人ずつだ!」
トマと僕の声が重なった。
「板は広くなってない! 押すな!」
先頭の兵が止まる。後ろから押され、また板へ足を出す。
ミケルが青い布を高く上げた。
「左からです! 前へ行く人は左! 戻る人は右!」
「門が開いたんだぞ!」
「板は開いてません!」
ミケルの返事に、近くの人足が一瞬だけ笑った。
すぐ頭上を矢が通り、全員が身を低くする。門上の灰衣はまだ残っている。石も矢も落ち続け、門前の盾兵は崩れた門板を越えて中へ入ろうとしていた。
「走るな!」
壕の向こうで、帝国の指揮官が声を張る。
「盾を前へ! 門の中で止まるな! 左右へ開け!」
最初の兵が、崩れた木材を跨いで門内へ消える。次の兵は右へ、三人目は左へ。門扉の片側がなくなっても、広い入口にはならなかった。折れた横木と荷車が道を塞ぎ、人が二列で通れる場所だけが残っている。
門の中から石が飛んだ。先頭の盾へ当たり、帝国兵が押し戻される。屋根の上にも灰色の人影が見えた。
「門の向こうにもいるぞ!」
ブルーノが棍棒を拾い直す。
「当たり前だ」
ガレスは壕の向こうを見たまま答えた。
「開いたのは門だ。町ではない」
「なら、今度こそ俺の出番だろ」
「命令が来てからだ」
「門が開いたのが命令みたいなもんだろうが」
「違う」
「じゃあ聞いてこい!」
「お前が待てば、そのうち来る」
「俺が待たなきゃ来ねえみたいに言うな!」
東の方角から、太鼓の音が響いた。南門前の喧騒を越えて聞こえるほど、続けて鳴っている。何が始まったのか、僕には見えない。ただ、門上にいた灰衣の何人かが東を振り返り、伝令らしい男が壁の上を走っていった。
北からも、遠く鐘の音が重なる。
「青い布の隊!」
壕の向こうから帝国兵が呼んだ。
「前へ出られる者を寄越せ! 門内の左側を押さえる!」
ブルーノがすぐ板へ向かう。
ガレスが外套を掴んだ。
「まあ、待て」
「命令が来ただろうが!」
「前へ出られる者だ。お前一人ではない」
「俺は出られるぞ!」
「知っている!」
僕は板の固定縄を見た。泥に打ち込んだ杭は傾いているが、まだ抜けていない。新しく掛けた板も、人が一人ずつなら動いている。
「トマ、あとどれくらい持つ?」
「歩兵なら持たせる。荷車も馬も乗せるな。縄が緩んだら、前を止めろ」
「ミケルはここに残って。布を動かす時は、トマと一緒に」
「はい!」
「ニルスは戻る人を見て。担架が詰まったら、前を止めていい」
「分かりました。アズールさんたちは?」
「先に行く」
ニルスは壕の向こうを見た。
「戻ってくる道は、空けておきます」
「お願い」
マルクが隊の残りを寄せてくる。
「何人、前へ出しますか」
僕は門内で広がろうとしている帝国兵を見た。見えるのは入口だけで、その先の人数も道も分からない。
「ガレス、どれくらい必要?」
「狭い。多く入れれば詰まる。まず前にいる者だけでいい」
「エルヴィンは?」
「左右から来る」
エルヴィンは屋根と門脇の建物を見ていた。
「正面だけ見て入ると、上と路地から挟まれる。マルクの隊から半分。残りはここを守れ」
僕はうなずいた。
「マルク、半分だけ連れてきて。残りはミケルとトマの周りを。ガレス、ブルーノ、エルヴィン、あとカインは僕と前へ」
「俺が先だな」
「俺たちは盾兵の後ろからだ」
ガレスが言う。
「またそれかよ」
「門の中でも同じだ、いい加減覚えろ」
帝国兵の列へ入り、僕たちは板を渡った。足を置くたび、板の下から泥水が上がる。すぐ横の板では、肩を支えられた兵がこちらへ戻ってくる。互いに顔を向ける余裕もなく、肩が触れないよう身体を捻って進んだ。
対岸へ着くと、門扉を壊した斧が泥の上に落ちていた。切れた縄、外れた鉤、割れた大盾。灰衣の盾も一枚、補強材の下に挟まっている。
門をくぐった先では、帝国兵が左右へ分かれていた。
だが、その先に道はなかった。横倒しにした荷車と木材が街路を塞ぎ、樽と屋台が隙間へ積まれている。人一人か二人が通れる場所だけが残され、その後ろに灰衣の盾が並んでいた。
屋根の上で、石を抱えた人影が動く。
「上!」
エルヴィンが叫ぶ。
ガレスの盾が僕の前へ入った。
石が盾を叩き、割れた縁から木片が飛んだ。ブルーノが門脇の壁へ身を寄せ、棍棒を上へ向ける。
「届かねえぞ!」
「登るな!」
ガレスが止める。
「分かってる! 言ってみただけだ!」
正面の防柵から槍が伸び、帝国盾兵が受け止めた。左右の路地にも灰色の人影が集まり始める。
僕たちの後ろでは、まだ兵が南門をくぐっている。東では帝国軍の太鼓が鳴り、北から届く鐘の音は途切れなかった。
南門は開いていた。
それでも、門の向こうに立つ灰衣の列は、まだ道を譲らなかった。




