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エルダニア大戦記〜敗残兵に飯と役目を与えていたら、乱世の国づくりが始まりました〜  作者: 志摩 伊純
第3章:灰衣大乱

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第44話 群狼


「親分、新入りです」


 朝から、そんな声が聞こえた。

 ブルーノは、井戸の脇で薪を割る手を止めた。手斧ではない。半分焦げた柱材を地面に立て、大棍棒で叩き割っている。薪割りというより、家の残骸を殴って細くしているだけだった。


「帰せ」


「帰る場所がないそうです」


「俺は親分じゃねえ」


「はい、親分」


 ブルーノは、割ったばかりの薪を拾い上げ、声をかけてきた丸顔の若者へ向けた。若者は慣れた様子で半歩下がる。投げられないと分かっている顔だった。


「その顔をやめろ」


「どの顔ですか」


「殴られねえと思ってる顔だ」


「違うんですか」


「……薪を運べ」


「はい、親分」


「親分じゃねえ」


 丸顔の若者は、うなずきながら薪を抱えて逃げていった。


 アズールがどこにいるか分からないまま、廃村に転がり込んでから、一週間が過ぎていた。廃村の朝は、もう静かではなかった。

 焦げた家の跡から煙が細く上がっている。屋根の残った三軒のうち、一軒は寝床になり、一軒は食料置き場になり、一軒は怪我人と寝坊した者の押し込み場所になっていた。納屋の壁には拾った短槍や棒が立てかけられ、井戸の周りには泥のついた桶が並んでいる。


 一週間前、ここにいた若い男たちは十人ほどだった。

 いまは、数えるのが嫌になるほどいる。


「おい」


 ブルーノは、井戸の縁に腰をかけていた鼻傷の若者を呼んだ。


「今、何人いるんだあ?」


「数えますか」


「なんでもいい」


「ええと……昨日の夜で、二十八でした」


「昨日だぁ?」


「今朝、三人増えました」


 ブルーノは眉間に皺を寄せた。


「なんで増えてんだ」


「親分の噂を聞いて」


「親分じゃねえ」


「殺されないって聞いたらしいです」


「それを噂にすんな」


「火をつけちゃいけない、女と子供に手を出したら潰される、飯は分ける、でも親分と呼ぶと怒られる、って」


「最後もいらねえ」


 鼻傷の若者は少し考えた。


「でも、そこが大事らしいです」


「何がだ」


「親分なのに、親分じゃないと言い張るところが」


 ブルーノは薪を拾い、鼻傷の若者は走って逃げた。それを見た廃村の端で、また笑い声が上がる。

 ブルーノは舌打ちした。笑っていられるだけ、まだましだった。だが、ましなだけで、良いわけではない。


 飯がなかった。

 鍋の中身は日に日に薄くなっている。最初は豆と芋が入っていた。次に芋が減り、豆が減り、昨日は野草のようなものが浮いた汁になった。今朝など、湯に塩を落としただけの椀をありがたがって飲んでいる者もいた。


 若い男は、食う。

 動いていなくても食う。寝ていても起きれば腹が減ったと言う。薪を割っても、見張りに立っても、喧嘩しても、転がされても、同じように腹を空かせる。


「ノエルがいりゃ、数えたんだろうな」


 ブルーノは小さく呟いた。

 何人いて、何日食えるか。何を残し、何を先に煮るか。井戸の水と薪と鍋の数まで見て、あの細い眉を寄せながら文句を言うに違いない。

 ブルーノには分からない。分かるのは、鍋が薄いことだけだった。


「親分!」


 また声がした。


「親分じゃねえ!」


「見張りが戻りました!」


「最初からそう言え!」


 廃村の南側から、二人の若者が走ってきた。一人は肩で息をしている。もう一人は、なぜか片手に干し草を握っていた。


「なんだぁそりゃあ」


「途中で落ちてました」


「いらねえ」


「食えるかなと」


「馬じゃねえ」


 干し草を持っていた若者は、少し残念そうにそれを捨てた。

 もう一人が息を整えながら言う。


「飯です」


 その場にいた者たちの視線が、一斉に集まった。

 ブルーノも薪から手を離した。


「飯?」


「あります。南の廃農家に。袋も、干し肉も、鍋も」


「どういうことだ」


「野盗です」


 空気が、少し変わった。

 笑っていた若者たちが黙る。井戸の近くでふざけていた二人も、薪を運んでいた丸顔も、屋根の下で寝転がっていた新入りも、みな顔を上げた。


「灰衣か」


 ブルーノが聞く。


「違います。灰色の布は持ってますけど、着たり脱いだりしてるみたいです」


「帝国兵か」


「それも違います。帝国兵のふりもするそうですけど」


「じゃあ、ただの野盗か」


「はい。俺らとは違って本物です」


 見張りの若者は、その言い方だけは妙にはっきりしていた。


「人数は」


「十五か、二十くらい」


「武器は」


「短槍、剣、弓が少し。荷車も一台ありました」


「飯は」


「干し肉と豆袋。あと、芋袋も見ました」


 周りの若者たちが小さく呻いた。干し肉、豆、芋。その三つは、今の廃村では宝の名に等しい。


「村から奪ったのか」


 ブルーノが聞くと、見張りの若者は少し目を伏せた。


「たぶん。縛られた男が二人いました。あと、子供が泣いてました。女物の外套も干してました」


 ブルーノの顔から、苛立ちとは違うものが消えた。


「そうか」


 短く言って、大棍棒を持ち上げる。


 鼻傷の若者が、恐る恐る尋ねた。


「親分、どうします」


「行く」


「やっぱり……」


「飯がある。武器もある。そいつらは弱い奴から奪ってる」


 ブルーノは大棍棒を肩に担いだ。


「なら、より強ぇ俺が殴っていいよなあ?」


 誰かが喉を鳴らした。


「親分、あいつら本物ですよ」


「だからどうした」


「殺す気で来ます」


「殺しに来るなら、お相子だなあ」


「俺たち、勝てますか」


 ブルーノは、質問した若者を見た。


「知らねえ」


 若者が固まる。


「でも、飯はいる」


 それだけで、なぜか納得する者がいた。笑う者もいた。顔を青くする者もいた。


 ブルーノは見回した。


「来たい奴だけ来い。残る奴は残って井戸を見てろ。飯置き場を漁るな。火ぃでかくするな。新入りに鍋を任せるな。あいつらは焦がす」


「親分、俺たちも行きます」


「親分じゃねえ」


「俺も」


「俺も行く」


「干し肉見たい」


「食うなよ」


「見てから考えます」


「考えるな」


 結局、二十数人が立ち上がった。

 棒を持つ者。錆びた短剣を腰に差す者。先の欠けた槍を肩にかける者。荷車から外した車輪止めを武器だと言い張る者までいた。


 軍ではない。隊でもない。だが、若い男たちは武器を持った。

 ブルーノは一度だけ彼らを見て、鼻を鳴らした。


「離れるな」


「どのくらいですか」


「俺が見えるとこだ」


「親分が見えればいいんですね」


「親分じゃねえ」


 そうして、廃村から南へ向かう一団が出た。出たのはいい。そこまではよかったのだが、歩き始めてすぐ、ブルーノは後悔した。


「腹減りました」


「黙れ」


「喉乾きました」


「さっき水飲んだだろうが」


「小便」


「勝手にしろ。そこで並ぶな」


 列というものがない。前へ出る者がいる。後ろで喋る者がいる。道から外れて木の実を探す者がいる。見張り役のはずの者が、見張られる側のように道の真ん中を歩いている。


「軍ってのは、どうやって歩くんだ」


 ブルーノがぼやくと、横を歩いていた鼻傷の若者が真顔で答えた。


「分かりません」


「だよなぁ」


「でも、親分が先頭なら何とかなります」


「何とかなるかどうかは、相手次第だ」


「親分でもですか」


「俺は特別じゃねえ」


「でも、みんな親分を見てます」


 ブルーノは振り返った。


 確かに、若者たちはブルーノを見ていた。

 不安そうな者もいる。腹を空かせている者もいる。妙に興奮している者もいる。怖がっている者もいる。それでも、誰も散らなかった。


 ブルーノは舌打ちして前を向く。


「見てるなら、ちゃんとついてくんだぞ」


「はい、親分」


「親分じゃねえ」


 林を抜ける少し手前で、先に出した見張りの若者が手を上げた。

 今度は、全員が少しだけ静かになった。


 林の向こうに、廃農家が見えた。

 屋根は半分落ちているが、壁は残っている。庭先に荷車が一台。軒下には袋が積まれ、煙が上がり、革鎧や外套を着た男たちが十数人ほど動いていた。

 柵の側に、縄で縛られた男が二人いる。

 その近くに、小さな子供が座り込んで泣いていた。男の一人が、その子供の前で干し肉を揺らし、笑っている。別の男は女物らしい外套を肩にかけ、大げさに腰を振って仲間を笑わせていた。


 半端者たちの顔から、笑いが消えた。


「……本物だ」


 誰かが呟いた。

 ブルーノは答えなかった。ただ、大棍棒を握り直す。


「どうします」


 鼻傷の若者が聞いた。


「決まってんだろ」


 ブルーノは林の陰から一歩出る。


「殴る」


 その一歩で、枝が折れた。

 見張りの野盗がこちらを向く。


「誰だ!」


 作戦は、そこで終わった。


「見つかりました!」


「そうだな」


「どうします!」


 ブルーノは走り出した。


「殴るっつっただろ!」


 大棍棒を担いだ巨体が、林を抜けて庭先へ突っ込んだ。

 見張りが槍を構える。遅い。槍ごと、男が横へ吹き飛んだ。


「敵だ!」


「どこの手下だ!」


「灰衣か!」


「飯だ!」


 半端者たちが後ろから雪崩れ込んだ。


「飯って叫ぶな!」


 ブルーノが怒鳴る。


「でも飯です!」


「今は敵だ!」


 庭先は一気に混乱した。野盗の一人が剣を抜く。半端者二人が棒でその腕を叩き、三人目が後ろから腰にしがみつく。倒れたところを別の一人が短槍で脅すが、持ち方が逆だった。


「刃を向けろ、刃を!」


「どっちが刃ですか!」


「尖ってる方だ!」


 別の場所では、野盗が弓を取ろうとした瞬間、丸顔の若者が芋袋を投げつけた。袋は外れたが、野盗は驚いて足を滑らせる。そこへ鼻傷の若者が体当たりした。

 強いわけではない。うまいわけでもない。

 ただ、数人がかりで押さえれば、一人の野盗は倒れる。怖くても、前にブルーノがいる。背中を見ていれば、足が止まらない。


「何だこいつら!」


「野盗か!」


「違う!」


「じゃあ何だ!」


「知らねえ!」


 知らないまま、若者たちは殴った。


 ブルーノは庭の中央を割るように進んだ。短槍を持った男を柄で打ち倒し、斧を振り上げた男の膝を蹴り、逃げようとした男は追わず、子供の方へ近づいた男だけを地面へ叩き伏せた。

 やがて、奥の家から大柄な男が出てきた。髭面。厚い革鎧。片手斧。肩にかけた毛皮は、どこかから奪ったものらしく血の染みが残っている。

 その男が出てきただけで、野盗たちの動きが少し戻った。


 頭目だ。


「何だ、てめえ」


 頭目が笑った。


「俺の庭で暴れやがって」


 ブルーノは足を止めた。


「お前が頭か」


「だったら何だ」


「聞きてえことがある」


 ブルーノは、縛られている男たちと、泣いている子供を顎で示した。


「村を襲ったか」


「ああ?」


「焼いたか」


 頭目は鼻で笑った。


「焼いたなあ」


「殺したか」


「数えきれんくらいな」


「女と子供に手を出したか」


 頭目の口元が歪む。


「それを聞いてどうする」


「決める」


「何をだ」


「お前を殺すかどうかだ」


 一瞬、庭先が静まった。

 次に、頭目が笑った。


「お前、それで野盗ができると思ってんのか。殺すな、焼くな、女に手を出すな? 馬鹿か。弱い奴から取るから食えるんだよ」


「野盗じゃねえ」


「じゃあ何だ」


「なんでもねえよ」


 ブルーノは大棍棒を下ろした。


「でも、お前は駄目だ」


 頭目が斧を振り上げる。


 ブルーノは一歩で詰めると、鈍い音がした。

 斧が地面に落ちる。頭目の身体が崩れ、二度と立ち上がらなかった。

 誰も動かなかった。野盗たちは、武器を持ったまま固まっている。半端者たちも同じだった。今まで見てきたブルーノの暴力とは、少し違っていたからだ。

 転がすのではない。黙らせるのでもない。殺すと決めて、殺した。


 ブルーノは頭目から目を離し、残った野盗たちを見た。


「逃げるなら行け。追わねえ」


 誰も動かない。……動けない。


「残るなら働け」


 武器を握る手が、少し震えた。


「また奪るなら、ああなる」


 一人が剣を落とす。次に、槍が落ちる。弓を持っていた男が、両手を上げた。


「俺は……見張りだけだ」


「俺は荷を運んでただけで」


「飯が欲しかっただけなんだ」


 ブルーノは、その男を見た。


「違う」


 男が固まる。


「飯が欲しいだけなら、村なんか焼くんじゃねえよ」


 言葉は短かった。それ以上の説教はなかった。


「働け」


 それだけだった。

 丸顔の若者が、なぜか胸を張って前へ出た。


「親分の掟を教えてやる」


「誰が親分だ」


「一つ、殺すな」


「聞けよ」


「二つ、火をつけるな。三つ、女と子供に手を出すな。四つ、飯は働いて食え。五つ、親分を親分と呼ぶと怒られる」


 新しく加わった元野盗たちは、呆然と聞いている。

 鼻傷の若者が補足した。


「でも呼ぶ」


「呼ぶのか」


「呼ぶ」


「怒られるぞ」


「怒られる」


「それでいいのか」


「慣れる」


「変な掟を増やすな!」


 ブルーノの怒鳴り声が庭に響いた。その声で、泣いていた子供がびくりとした。

 ブルーノは、子供の方を見た。


「縄を切れ」


 半端者の一人が慌てて走り、縛られていた男二人の縄をほどく。別の者が子供へ水袋を渡そうとして、水袋を落とした。鼻傷の若者がそれを拾い、無言で子供の前に置いた。


 こちらも無傷ではなかった。

 腕を切られた者が一人、額を割った者が二人、足を押さえてうずくまる者がいた。


「死んでねえなら、水で洗え。動ける奴は荷を押せ」


 ブルーノが言うと、若者たちは顔を引きつらせながらも動き始めた。


 縛られていた男が、震える声で言った。


「あ、あんたたちは……」


 ブルーノは少し考えた。


「……わからん」


「え」


「帰れるなら帰れ。道に灰色がいたら避けろ。帝国兵に会ったら、こいつらに襲われたと言え」


 倒れた頭目を顎で示す。


「俺たちのことは言うな」


 男は何度もうなずいた。だが、言うなと言われて言わない者ばかりではない。ブルーノは、そこまで考えていなかった。

 荷車には、干し豆の袋が二つ。芋袋が三つ。干し肉が少し。塩の壺が一つ。水袋、縄、鍋、桶。短槍が六本、剣が三本、弓が二張。革上着と外套もいくつかあった。

 半端者たちの顔が明るくなる。


「親分、これでしばらく食えます」


「増えた分も食うだろうが」


 ブルーノは、武器を捨てて座り込んでいる元野盗たちを見た。


「おめえらはどうすんだ」


 何人かが顔を見合わせる。


「……行く場所がない」


「戻ったら殺される」


「逃げても、また腹が減る」


「なら荷を押せ」


 ブルーノは荷車を指した。


「残るなら働け。動ける奴は荷車。怪我した奴は武器を集めろ。隠してたら殴る」


 元野盗の一人が、小さく聞いた。


「俺たちも、飯をもらえるのか」


「働けばな」


「殴られるか」


「馬鹿ならな」


 元野盗は黙った。

 古参の半端者が肩を叩く。


「大丈夫だ。痛いだけだ」


「大丈夫なのか、それは」


「殺されない」


「……前の頭より、ましか」


「だろ」


 その言葉に、ブルーノは何も言わなかった。


 夕暮れ前、荷車を押して廃村へ戻った。

 出た時よりも人数が多い。歩き方はさらに悪くなっていた。荷車は重い。新入りはびくびくしている。古参は妙に先輩面している。途中で干し肉を盗み食いしようとした者が二人いて、二人ともブルーノにはたかれた。


「親分、ここが本拠ですか」


 廃村が見えたところで、新入りの一人が聞いた。


「本拠じゃねえ。ただの廃村だ」


「親分の村?」


「俺のでもねえ」


「じゃあ誰の」


「知らねえ」


 古参が得意げに言った。


「大親分様の再起の砦だ」


「違うって言ってんだろうが」


「大親分様?」


 新入りたちがざわつく。


「親分の主だ」


「親分を使う人か」


「そんなに強いのか」


 ブルーノは振り返った。


「アズールを勝手に化け物にすんな」


「強くないんですか」


「弱い」


「え」


「剣も強くねえ。すぐ悩む。飯の数も俺よりは数えるが、ノエルほどじゃねえ」


「なのに親分の主なんですか」


「そうだ」


 新入りたちは、さらに混乱した顔をし、古参たちは、なぜか納得したようにうなずいている。


「やっぱり大親分様だ」


「だから違え!」


 廃村に戻ると、残っていた者たちが歓声を上げた。

 荷車。食料。武器。そして新しい若い男たち。人数は、五十に近くなっていた。名簿はない。隊列もない。誰がどこの出で、何をした者かも、半分は分からない。ただ、井戸のそばに鍋が置かれ、火が起こされ、豆と芋が煮られ始めると、若い男たちは同じ匂いの方へ集まった。


 元野盗たちは、井戸から少し離れた崩れた納屋の脇へ座らされた。武器は集め、古参の半端者を二人、見張りにつける。


「武器を隠してたら殴る。逃げるなら今逃げろ」


 ブルーノが言うと、新入りたちは黙ってうなずき、その中の一人が、鍋の湯気を見ながら言った。


「俺たちは、何なんですか」


 ブルーノは答えに詰まった。

 野盗ではない。灰衣でもない。帝国兵でもない。アズールの兵でも、まだない。

 ただ、腹を空かせた若い男たちが、同じ鍋の匂いへ集まっていた。


「知らねえ」


 結局、そう言った。

 丸顔の若者が、椀を持ったまま言う。


「親分軍です」


「違え!」


「じゃあ、親分じゃない親分軍」


「余計に違え!」


 笑い声が上がった。その笑いは、廃村の外まで届いた。


*


 その日の夜には、近くの村で別の話になっていた。

 廃村の大棍棒の親分が、南の野盗を潰した。頭目を殺した。食料と武器を奪った。残った野盗まで手下にした。人数は、もう五十に近いらしい。殺しは、野盗の頭だけだという。火はつけていないという。縛られていた村人と子供は助かったという。


 だが、村人たちが最後に覚えていたのは、助かったことではなかった。

 大棍棒の男が、頭目を一撃で殺したこと。若い男たちが、その男を親分と呼んでいたこと。そして、野盗だった者まで、廃村へ連れていかれたことだった。


「次は、うちの村だ」


 誰かがそう言った。否定する者は、いなかった。


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