第四話 麗人、ついにブチギレるの事
『今宵も月が美しゅうござる!♥ 賊にござる!!♥』
『されど斯様なる白月すら顔を隠すほど透き通る白肌!♥ 可憐なる花も恥じらう秀麗なる面貌!♥ 天下一品の御麗人、発見にございますれば!!♥』
『もはや愛堕にございますれば、今宵は我らのためにあり申す!♥ いざ我ら、情愛の掠奪者と相成ら――』
「死ねぇーっ!!(意訳:死ねぇーっ!!)」
『『『ギャアアアア! まさか骨を抜かれるとは、何と恐るべき絶技!?』』』
〝骨抜き〟の絶技によりて、一瞬で賊徒を撃退した楊が――美肌の透き通る白い顔を、真っ赤に紅潮させ染め上げ、珍しく語気も荒く言い放つ。
「どいつもこいつも、どこもかしこも……何奴も、此奴も! 何処も! 彼処も!! 悪党しかおらぬのですか!? 乱世だからで済まされる話じゃありません! いや、そもそも……そ・も・そ・も!!」
細き身体に全霊の力を籠め、長い足を地に踏みしめ。
美貌の麗人・楊は、決定的な事実を叫んだ―――!!
「私は!!! 男ですから!!!!!」
『…………』
※注釈:〝麗人〟は男性にも使用できる言葉である。少なくとも昔に調べた際、そのように記されてあった。今? 我不知、我不知。とにかくそんな感じとご理解されたし。
さて、声までもが麗なる響きを孕む、されど泰山にまで届こうかという怒声が、闇夜にこだますると――
ようやく楊も落ち着いてきたのか、呼吸を整えつつ賊へと言い聞かせようとした。
「はあ、はあ……ふう。……とにかく、そういう訳です、分かりましたか。人を見かけだけで判断せず、また悪事なども省みて、これからは賊などおやめに――」
『――――いい』
「はい。……は?」
『男でも、いい。男でも……いいっ……! 其れ程までの美貌であれば、もはや男女の如何も些細なる仕儀。ゆえに、我らは……否! ぼくらは……あなたが男だろうと構わないっ……それが、ぼくらの愛なンだッ……心が! 叫んでいるンだッ!!』
「! …………ッ!」
瞳ばかりは少年の如くに、まるで夢見る眼差しで煌めかせる、賊徒たち(※逆説的に、目以外はむさ苦しい賊徒でしかない、と解すべし)。
そんな彼らの真直なる想いに感銘を受けたのだろうか、楊はその細くなだらかな肩を、ぷるぷると震わせていた。
そして柔肌の小さな手で――拳を、握りしめる。
「――ぶっ殺させて頂きます!!(意訳:ぶっ殺させて頂きます!!)」
『望むところにございます!!♥』
『生きて走れる賊活(※賊の活動)もあらば、死して走れる愛もありましょう!♥』
『むしろその手で骨抜きにされるなら本望、どうぞ心の済むまで抜きまくってくださいまし!♥(意味深)』
こうして。
明月に照らし出される夜天の下、麗人、無双の乱舞を披露するも。
――――その時である。
『『『ギャッ……ギャアアアアアアッ!!!』』』
「――――!?」
楊の仕業ではない。全く別の、あらぬ方向から響いた絶叫。
それは、今もなお大量に控える、賊の集団――その後方から聞こえてきた。
続けて、静かだが重圧なる声が、空気を揺らすかの如くに放たれる。
「フム。……見たところ、麗人を取り囲み無法を成さんとする輩どもが蔓延っておる様子。多勢に無勢、武に生きる者として見過ごせぬ――割って入るぞ」




