第三話 麗人、賊を討ち抜き商人を救い抜くの事
『ヒッヒイイイイイッ! 賊じゃ……賊の襲撃じゃあ!? 誰か、誰か助けてくだされえぇぇぇぇぇ!!』
『ごきげんよう、渭水の河賊にございます!』
『渭河を制する我らの組織力、どうぞ御覧じあそばせ!』
『河からの奇襲、成す術もなかろうものにございます! 此度も稼ぎは船一杯にて之、重畳! 笑いが止まりませぬのことよ!!』
口調は異なるが、全員、上半身裸の筋骨隆々な悪漢である。
むさ苦しきこと、この上なき乱戦の場において――雰囲気に全くそぐわぬ、その容貌のみで暗雲を引き裂いてしまいそうな、輝く麗人が疾風の如く駆け抜ける――!
「不埒なる行い、見逃してはおけません! 失礼いたします――ヤアアアアッ!!」
『ぐっグワアアアアッ! 骨を抜かれ、大海に棲まう鮹の如くになろうとは!』
『まさに井の中の蛙! 河賊は大海を知らぬ荘子の意を見たり! 御見事!!』
『然らば我らの無知なるは斯様な麗人の存在を不知でいた事! 絶なるは妙技のみならず、天下に鳴り響かんばかりの美貌も也! むしろこの麗人に骨抜かれし事を誇り、賊、潰走するばかりよ――!』
朗々と弁舌を繰り広げつつ(意訳:すごい喋るじゃん……)這う這うの体で船に戻り、渭河の流れのまま去り行く河賊の群れ。
果たして、楊に救われし商人は、両膝をつき手を合わせ、涙ながらに礼を述べる。
『嗚呼、嗚呼ッ……何と慈悲深き御麗人! あなた様のおかげで助かり申した! 何と、何と御礼を申し上げれば良いのやら……!』
「人として、また武を修む者として、当然の事をしたまで。顔をお上げください。どうか清き商いを続けられたし、然らば失礼――」
『ところでワタクシ人買い商にございますれば――御麗人様、よろしければあなたも商品になりませんか? 天下一の値が付きそうやねんな~と商う者の壮心不已。古の呂不韋をすら超えようと野望を抱かせんばかりの、その美貌たるや――!』
「――ハイヤァァァァァッ!!」
『ぎょっギョエエエエエ!? わっワタクシの骨がァァァア! 何故、何故このような御無体を――!?』
「人を品と見るは外道を超えて畜生の道理! 語るに如かず!
(意訳:人間なら人間を商品とは見んわな! もう話すこともねぇわ!)
己が罪業を恥じ、これより先の生は正道を歩まれるよう! では御免!」
『おお、返す言葉もないとは、心の底から正にこのこと……ワタクシの心も渭水の流れに洗われたかのようです。……あの美貌、一体どれくらいの値が付くかな……』
「もう二、三本、抜いときましょうか!?」
『ヒッヒイイイッ! おやめください、そんな……クセになってしまいます!!』
あまり反省は無さそうだが、とにかくもう、その場に留まるのも何なので。
賊を討ち抜き、商人を救い、されど悪徳の骨を抜き――楊の旅は続く。




