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第42章:託された未来

ミッチはシュートをどうやってサッカーを諦めてもらうか

そればかりを考えていた

バスケの練習中も顧問から

「小林、今のパスはなんなんだ」と叱責を受けた。

ずっと心ここに在らずであった。


(この方法しかない)と心に決め

練習が終わると普段を行うミーティングをキャンセルし

洋子先生の教室へ急いだ。


音楽スクールでは洋子先生が他の生徒のレッスンをしていた。

レッスンでない日にミッチがいることに洋子先生は怪訝な表情で

首を傾げた。

声に出さずに「しばらく待って」と口で合図した。


生徒のレッスンが終わり、ミッチを部屋に招き入れた。

「どうしたの?」


ミッチは先生の目をしっかり見つめ

「先生、私“花村紅緒”にはなれないです。自信がありません。

申し訳ありませんが、宝塚テレビロマンへの出演。。いやそれだけでなく

このスクールも辞めさせてください」


「本気なの?あなたは自信がないくらいで宝塚の舞台を諦める

ような女の子ではないでしょう」

「一度、辞めてしまったらあなたの年齢から言うともう二度と

宝塚の舞台は目指せないわよ」

洋子先生は心の中を見るようにミッチの目を見ながら言った。


「はい。それもわかっています。どうしても続けられないのです。

ご迷惑をおかけし申し訳ありません」


「わかりました。宝塚テレビロマンには私から伝えます。

あなたはトップスターへの素質があると思いっていました。

残念です。何があったかは聞きませんが。頑張りなさい」


ミッチは深々と頭を下げ、音楽学校を後にした。

その足で、アルバイトの新聞配達屋に向かった。

「今日限りでアルバイトを辞めさせてください」

店長にそう伝えたミッチに

「しんどかったら少し減らしてもいいぞ」

と言ってくれたが、丁寧に断り、病院へ向かった。


病室のドアを開けると、シュートが微笑んだ。

「ミッチ……来てくれたんだな」


ミッチは紙袋を掲げた。

「今日は……一緒にケーキ食べよ。シュプールの」

二人は静かにケーキを食べた。

甘い匂いが、病室の冷たい空気を少しだけ温めた。


食べ終わったあと、ミッチは言った。

「シュート……私ね、宝塚、辞めたの」


シュートの表情が固まった。

「……ミッチ……なんで……」


ミッチは震える声で続けた。

「宝塚の夢って……私一人の夢じゃなかったの。

シュートと一緒に見てた夢だったの」


「でも……シュートが苦しんでるのに、

私だけ舞台を目指すなんて……できないよ」


シュートは視線を落とした。

ミッチは言った。

「シュート……自分の体が、もうサッカーできないかもしれないって……

本当は気づいてるんじゃないの?」


シュートの肩が震えた。

「……わかってるよ」


「倒れたとき……怖かったでしょ?」


「怖かった。

サッカーがなくなったら……自分が誰なのかわからなくなる気がして……

夢を諦めるのが……怖かった」


ミッチは目を伏せながら言った。

「宝塚は……シュートと一緒に見てた夢だから。

シュートがいないなら……私には意味がないの」


「ミッチ……バスケだけは……絶対に捨てるな」


ミッチは先を促した。

「……どうして?」


シュートは少し笑った。

「俺は……高校に行ったら、

少しはサッカーできるかもしれないって思ってる。

前みたいには走れなくても……少しずつなら」


ミッチは息を呑んだ。


「だから……ミッチがバスケを続けてくれたら……

俺も、もう一度サッカーを目指せる気がするんだよ」

ミッチは震える声で言った。


「……私がバスケを続けたら……

シュートも、またサッカーができるかもしれないって……

そう思えるの?」


「思えるよ」

シュートはまっすぐ言った。

そして——

その瞳に、静かな覚悟が宿った。

「ミッチ……」

「何があっても……元気でいてくれ」


ミッチは息を呑んだ。

「俺がミッチと一緒にサッカーを追いかけられるように……じゃなくて」

シュートは言葉を区切り、


ミッチの目をまっすぐ見た。

「ミッチが……一人でも夢を追いかけられるように。

そのために……元気でいてくれ」

ミッチは泣きながら頷いた。


「……うん……

元気でいる……

シュートがくれた夢を抱えて……

私、生きていく……」


シュートは安心したように目を閉じた。

「それでいい……

それが……ミッチだよ……」

ミッチは静かに泣いた。

その涙は、別れの涙ではなく——

未来を託された者の涙だった。


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