第39章:異変
7月になりました。大詰めを迎えます
県大会の終わり頃からシュートは体に異変を感じていた。
目の前が旧に暗くなる。息があがる。心拍数が跳ね上がる
サッカーの試合のためだと思っていたが、念のため誰にも内緒で
医者の診断を受けに行った。
医者
「精密検査が必要だ。今からすぐに血液、レントゲンをとる」
シュートは大人しく医者の指示に従った。
「来週結果が出る。できればご両親の同席できるように」
シュートは心の中でつぶやいた。結果は一人で聞きにこようと
医者の帰り、いつものシュプールでミッチと落ち合った。
医者の話はミッチにも打ち明けていない。
「台本の読み合わせと、演技が難しくって疲れ果ててしまった」
「今日は私もケーキを食べて、気分転換!太らないように気をつけてと」
「シュートの調子はどう?」
「順調にいけば、去年負けた清水東と決勝で当たる」
「去年のリベンジを果たして、ミッチより先に夢に到達するよ!」
「決勝は10月10日だ」
「今年の国体は兵庫で行われるため、全国大会は地元で
できる」
「あら、私のクランクインも10月10日だよ。応援に行くね」
「優勝したら、その時は二人でお祝いをしましょう」
シュートは大きく頷いた。
近畿大会は全国レベルの強豪が集まる。
上位5チームが全国へ進む。
初戦 1-0、2回戦2-1、3回戦 1-0
そして——
宝梅中は 5位以内 を確保。
全国大会出場が決まった。
ベンチでシュートは小さく息を吐く。
(……全国には行けた。あとは……)
シュートは全国大会前に”一人で“医者に検査結果を
聞きにきている。
「ご家族は一緒でないのか?」
「シングルマザーで時間が取れず、一人で来ました」
「ご家族がいない前で未成年者には結果を伝えられない」
「スケジュールを調整して早々に結果を聞きにくるように」
「あと、激しい運動は厳禁だ」
シュートは守れないことをわかっていたが
「はい、わかりました」
と元気に答えた。
全国大会
初戦、2回戦は接戦を制し上位へ進出。
3回戦準決勝はシードで上がってきた相手は昨年の
優勝校・青森北。
宝梅中は押され続けていた。
しっちゃんは必死に声を張り上げる。
「ライン上げろ! 右サイド寄れ! 落ち着け!!」
しかし、相手の技術は一枚上だった。
後半ロスタイム、1-1。
相手ルーズボールを奪ったしっちゃんの身体は勝手に動いた。
「シュート!! 行け!!」
しっちゃんのスルーパスが、一直線に前線へ伸びる。
しっちゃんのスルーパスに反応し、シュートは最後の力で走った。
左足を振り抜く。ゴールネットが揺れる。
「決まったぁぁぁ!!」
スタンドが揺れた。チームは歓喜に包まれた。
しかし、 その輪の中で、 シュートだけが静かに息を整えていた。
(……苦しい。でも……まだ立てる)
誰も気づかない。
汗の匂いと、勝利の熱気が混ざる狭い部屋。
「キャプテン、今日マジで神だった!」
「次も頼むぞ!」 優勝が見えてきたな!」
部員たちは笑い、
しっちゃんもタオルを投げながら言う。
「お前、最後のあれ……反則だろ。あんなの止められるわけないって」
シュートは笑おうとした。
「……だろ?」
その瞬間だった。
胸の奥が、 鋭く、深く、 何かに掴まれたように痛んだ。
(……あ……)タオルが床に落ちる。
しっちゃんが振り返る。
「シュート?」
シュートの身体が、 ゆっくりと、 本当にゆっくりと、
ロッカーの床へ崩れ落ちた。
「シュート!? おい!!」
しっちゃんが駆け寄る。
「キャプテン!!」 「嘘だろ……立てよ!!」 「シュート!!」
部員たちが取り囲む。
しかし、 シュートの呼吸は浅く、 目は焦点を結んでいない。
「監督!! 救急車!!」 「急げ!!」
ロッカーの狭い空間に、 パニックの声が響く。
しっちゃんは震える手で シュートの肩を支えながら叫んだ。
「シュート!! なぁ、返事しろよ…… 」
返事はなかった。
担架が運び込まれ、 スタッフがシュートを乗せる。
ロッカーの外、 廊下に響くサイレンの音。
しっちゃんは追いかけようとしたが、
足が震えて動けなかった。
(……なんで…… なんで気づけなかった……
俺が……俺がもっと……)
救急車のドアが閉まる。
しっちゃんは、 その音を聞きながら、 ロッカーの前で立ち尽くしていた。
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