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第36章:転身

西武担当者は淡々と言った。

「地元商店の入居は想定していません。 

ブランド価値が損なわれます」


しずかは反論した。

「ここは宝塚です。街の生活を支えてきた店を切り捨てたら——」


孝彦が資料を出した。

「こちらが、 第3セクター方式・市民商業施設案 です」


西武担当者は言った。

「……興味深い。 ただし条件があります」


しずかが息を呑む。

「阪急さんは逆瀬川に自社店舗を出さないこと。

 これが参加条件です」


市長応接室

市長は言った。

「西武さんは東京の企業だ。 宝塚への“愛”があるとは思えない。

 街を東京の論理で塗り替えられては困る」


孝彦は静かに頷いた。

「私も同じ考えです」


市長は続けた。

「阪急さんと組みたい。 宝塚を知っている企業と、

 宝塚を愛している人間と、一緒に街を作りたい」


孝彦は資料を差し出した。

「逆瀬川都市開発株式会社」

 ——阪急100%出資の新会社


市長は息を呑んだ。

「……阪急が“表に出ない形”で主導権を握るわけか」


孝彦は頷いた。

「逆瀬川は譲る。しかし、南口と宝塚駅前は阪急が

主導する。そのための布石です」


市長は静かに言った。

「……私はこの案を支持します」


阪急本社・役員会議室

役員たちはざわついた。

「逆瀬川に阪急店舗を出さない……? そんな前例はないぞ」


孝彦は静かに言った。

「“逆瀬川都市開発株式会社”を立ち上げ、

 市と西武の調整役として主導権を握ります」


沈黙。


そして——

「……小林君。 その案、承諾しよう」

孝彦は深く頭を下げた。


喫茶店マック

「社長……上層部は?」


孝彦は頷いた。

「承諾を得た。逆瀬川は“逆瀬川都市開発”が担う。

 阪急は南口と宝塚駅前の主導権を握る」


しずかは胸が熱くなった。

「……街を守れるんですね」


孝彦は微笑んだ。

「君の提案が、道を開いたんだ」


数日後、孝彦は阪急グループ社長の兄に個別の

アポイントを申し込んだ。


「孝彦。要件はなんだ。個別のアポイントとは珍しい」


「先日の、逆瀬川及び宝塚の再開発の提案についてお願いがあります」


「宝塚市長とも話を通してくれているみたいで、勝算は高いとみているが。

どんな件だ」


「阪急グループは逆瀬川再開発に”テナント”は出さないが、人員を出すこと

を、西武グループに条件提示することを了解してほしい」


「うちには、そんな要員はいないし、新たに雇い入れるにも間に合わないぞ」


「大宝デパートの元従業員を全員、阪急グループに雇い入れて、

 阪急グループから出向させることで申し入れたい」


「メリットは?」


 「当社としては現従業員の雇用を確保することと、地域への貢献の

  宣伝効果を狙います。これは宝塚市長にも響くと思います」


 「西武に取っては、元従業員のノウハウ利用によるサービスレベルの確保と

 デパート要員の手配。コストの低減をアピールします」


「わかった。それで進めてくれ。


「で、私に個人アポイントを取った理由は?

 この前の役員会でも上程できた話だが?」


「これは身内としてのお願いになるが、

 新会社開始時の社長は兄さんにお願いしたい。

 阪急グループの本気度を見せるためにも」


 「わかった。で、孝彦は今後どうするのだ」


「東京地区の他店との競争で苦戦していると

 聞いているのでそれに戻して欲しい」


「転勤になるがいいんだな」


 孝彦は、了承し心の中でつぶやいた。

「里美一人を贔屓にするわけではない。逆瀬川の発展のためだ」

「美樹ももうすぐ高校なので私がいなくても大丈夫だろう」


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