第15章 シュート動く
市内大会が終わり、1ケ月後から県大代表を決める中体連が始まる。
宝梅中学は近隣5市1町(西宮・尼崎・伊丹・川西・芦屋・猪名川)の
代表チーム16校との阪神大会を戦い、トーナメントで3回勝てば
県大会へ、県大会で3回勝てば、近畿大会へ、
近畿大会の12校の上位5校に入れば、全国大会へ出れることになる。
全国大会に出るには、阪神大会、県大会、近畿大会までのトーナメントで
9連勝し勝ち上がる必要があることになる。
シュートは今回の大会で少なくとも全国大会出場を目指していた。
しかし、宝梅中学の他のメンバーは市内大会優勝で満足しているように
シュートは感じた。
このまま、現在の宝梅中学の実力では難しそうである。
レベルアップが必要なことを一人悩んでいた。
どうやってレベルアップを進めるか?
シュートは2年からの転入のため他のメンバーを引っ張っていくには。
まだ、時間が短かった。
また、宝梅中学のメンバー選考は基本的に、キャプテンと副キャプテン
のメンバーピックアップ後に顧問が承認するような流れで決まるようになっていた。
現在のメンバーとポジションがベストであるとシュートは思っていなかった。
県大会開始前までに数回の練習試合が予定されていた。
この練習試合の間に、ある程度の上位を目指せるチームの形を
作る必要がある。
一人で考えつかれて、ミッチから借りた「ハイカラさんが通る」を
気晴らしに何気なく、読み始めていた。
女の子に流行っている漫画と初めは、あまり興味がなかったが読み進める
につれ、
ヒロインのハイカラさん(花村紅緒)の行動力や強い意志に惹かれ始めた。
また、ヒロインが称えられる
「小さいけれど野に力強くさく、マリンカの花」の
くだりが心に響いた。俺も力強く進んでいこうと。
翌日 顧問のところへ足が向かった。
「どうした、佐伯。珍しいな」
顧問は書類から顔を上げ、椅子を指した。
「先生……話があります」
シュートは深く息を吸い、胸の奥にしまっていた思いを言葉にした。
「僕、もっと強くなりたいんです。
全国を目指すには、今のままじゃ足りないと思っています」
顧問は腕を組み、静かに聞いていた。
「理由を聞こうか」
「市内大会で優勝して、みんな満足しているように見えました。
でも、僕は全国に行きたい」
「そのためには、チーム全体のレベルアップが必要です。
ポジションも、練習内容も、今のままがベストとは思えません」
顧問は少し驚いたように眉を上げた。
シュートはさらに一歩踏み込んだ。
「先生……僕、プロを目指しています」
顧問の表情がわずかに変わった。
「プロ、か。簡単な道じゃないぞ」
「分かっています。でも、本気です。
だからこそ、もっと強い環境で戦いたい。
チームを変えたいんです」
顧問はしばらく黙り、深く息を吐いた。
「……佐伯。
お前がプロを目指すことは否定しない。
むしろ応援したいと思っている」
シュートは顔を上げた。
「だがな――」
顧問の声が少しだけ厳しくなる。
「それは“お前個人の目標”だ。
学校の部活動は教育の一環であって、勝利至上主義にはできない」
「個人の希望だけでメンバー選考の仕組みを変えるわけにはいかない」
シュートは言葉を失った。
顧問は続ける。
「キャプテンと副キャプテンが中心になってメンバーを決め、
俺が承認する。
この流れは、チームの自治と成長のために必要なんだ」
「……でも、今のままじゃ全国なんて――」
「分かってる。だが、個人のために仕組みを変えるのは違う」
「それは教育としても、チームとしても正しくない」
顧問は少し声を柔らかくした。
「ただし――チームが自主的に仕組みを変革することは、
むしろ教育の一環として望ましい」
「仲間を動かすことまで否定するつもりはない。
プロを目指すなら、仲間を巻き込む力も必要だ」
「お前が本気で働きかけて、キャプテンやメンバーが納得して動くなら、
それは“チームの意思”になる」
シュートの胸に、重く、しかし確かな火が灯った。
「……僕、やってみます」
顧問はうなずいた。
「お前の覚悟が本物なら、必ず伝わる」
ここから、シュートの“チーム改革”が本格的に動き出す。
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