第16章:相棒
顧問室を出たシュートは、胸の奥に灯った火を抱えたまま
校庭を歩いていた。
「仲間を巻き込む力が必要だ」
顧問の言葉が何度も頭の中で反響する。
(でも……誰から動けばいい?)
思い浮かんだのは、しっちゃん――松岡だった。
派手さはないが、誰よりも練習に真面目で、
努力を積み重ねるタイプ。
そして何より、シュートの話を真正面から
聞いてくれる数少ない仲間だ。
放課後、シュートは体育館裏でしっちゃんを
呼び止めた。
「しっちゃん、相談したいことがあるんだ」
しっちゃんは少し驚いた顔をしたが、
すぐに真剣な表情に変わった。
「……シュート、悩んでる顔していたもんな。話してみて」
シュートは、顧問とのやり取り、チームを変えたい理由、
全国を目指す覚悟をすべて話した。
しっちゃんは黙って聞き、最後にゆっくり口を開いた。
「焦りすぎだよ、シュート。
気持ちは分かるけど、いきなり全部変えようと
したら反発されるだけだ」
「でも、このままじゃ――」
「だからこそ、じっくりやるんだよ。
周りを巻き込むには、まず“信頼”を作らないと」
しっちゃんの言葉は、静かだが重みがあった。
「シュートはもっと、周りと話した方がいい」
「練習中の声掛けも、普段のコミュニケーションも」
「いきなり戦術の話をするんじゃなくて、
“みんなで上を目指したい”って思わせるところ
から始めよう」
シュートはハッとした。
(俺は……結果ばかり急いで、仲間の気持ちを見ていなかった)
しっちゃんは続けた。
「それと、毎日ミーティングをキャプテンに頼もう。
短くていい。今日の反省と明日の目標を共有するだけで、
チームの意識は変わる」
「ミーティング……」
「あと、週3回は机上でのサッカー戦術をみんなで考えよう。
イメージトレーニングって大事なんだよ。
世界のプレーを見れば、自然と動きが変わる」
しっちゃんの提案は、どれも現実的で、
すぐに始められるものばかりだった。
しっちゃんは、さらに一歩踏み込んだ。
「それと……シュートが言っていた“ポジションの見直し”だけどさ」
「うん」
「この前のワールドカップの決勝をみんなで鑑賞してみんなで考えよう。
マンツーマンだけじゃなくて、ゾーンディフェンス。
それに、トータルフットボールのポジションチェンジ」
シュートは目を見開いた。
「それなら……ポジションの固定概念がなくなる」
「そう。 “誰がどこ”じゃなくて、“状況に応じて動く”チームになる」
「そうなれば、自然とメンバーも変わる」
「キャプテンたちも考えざるを得なくなる」
しっちゃんは、控えめな性格とは思えないほど、
しっかりした声で言った。
「シュート。 チームを変えるってのは、
戦う相手を変えるんじゃなくて、
“チームの当たり前”を変えることなんだよ」
シュートは胸が熱くなった。
しっちゃんは照れくさそうに笑った。
「俺も手伝うよ。相棒だろう?」
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