不審船
-銀河連邦ヤハ自治領-
地球を基準にすると、約11.2光年。インデアン座ε星に当たる恒星……それが、自治領ヤハだ。
交易も乏しい、レアメタル採掘を生業にする恒星系である。
もとはヤハ族の王、ハマ・カーリンが治めた小さな国であったが、ここもやはり連邦の波に飲まれた、かつての小国だ。
争いを好まぬ民族性で、武力を以って迫った連邦に対し、王は自らの首を差し出し、民の自由を願い出たという……悲しい過去を未だ人々は心に引きずっていた。
そう、植民地だ。船舶開発に重要なレアメタルの宝庫である第4惑星の前線基地としてのみ、ヤハの可住惑星(第3)が使用されるという……もはや国家としての名残は残していなかった。
その第4惑星L2に構える宇宙島「ワンハイ」の港に珍しい船が入港した。
……いや、あれは艦だ。
辺境の恒星域で審査が甘いとはいえ、鉱物の輸送船の出入りが多い港ではとみに目立つ。
見たことが……。
主任管制官、テムの記憶に何かが引っ掛かる。
「お~い、ラグ」
いかにも暢気な呼び掛けに、欠伸を噛み殺していたラグが振り向いた。
「C-28のカメラ……あいつの船籍分かるか?」
「ちょっと待ってください」
ラグはグラビア系の雑誌を放り投げ、タッチキーを引き出した。
キーを操作するラグはいかにも面倒臭そうだ。
「なんだってんですか?あれにゃぁ多分密輸品ありませんよ」
物資の行き来が主なここでは、関心事はまず積み荷だ。画面に映る、少し古ぼけた艦に積み荷などありそうもない。ただ、単独の戦闘艦であり、多くの傷が気になった。
「密輸船じゃないですね。海賊船ですよ。私のバーボンを賭けてもいい」
テムは小さく笑った。血液の代わりにアルコールが流れているラグが酒を賭けるというのだ、間違いなく海賊船なのだろう。
「なら警戒した方がいいだろ」
しかしラグは肩を竦めるだけだ。まぁ、テムとて同じか。ここの採掘権は全て連邦にある。小作人も同然のヤハ族生き残りとしては、海賊が鉱物を強奪しようと知ったことではない。いやむしろ、ざまぁ見ろ、と言うだろう。
ただ……興味を誘うのだ。
「出ましたよ。審査No.825で通ってますね。発行は……キムですね。あいつぁ通過する物なら猫にだって許可証出しますよ」
自分の冗談が気に入ったのか、ラグはゲラゲラと笑う。
「どーでもいい。船籍と船名だ」
「はいはい……」
妙にせかすテムに呆れつつ、ラグはデータを引きずり出した。
「……ねぇ主任、キールNo.の頭がEllなんですけど、聞いたことあります?」
竜骨……船の背骨のような物だ。製造と同時にキールに刻印される。指紋みたいな物だ。そのNo.の頭は主機関のメーカー名の略が印される。有名な所でFellやPujoなど、他50は数える。そんな中、Ellは管制局員さえあまり見たことがない。
「Ell……あぁ、エルダーザだ。優秀な機関なんだが、商売が下手なんだな、もう潰れちまった」
「へぇ……」
テムの艦船知識は気違いだ。
「確か、一部地域の……」
ふとその目が変わる。
「エルダーザ!?おいラグ、どこの登録だ!それと、名前!!」
血相変えるテムへ、ラグは訝しみつつ読み上げた。
「登録は……フォート・ゼブラ。うっわ、海賊の偽造登録証メッカ。船名は……エルメダス。聞いたことないですねぇ……」
テムは大きく息を吐いた。
……思い違いか。
しかし、気になる。
悠然と通過するその海賊艦エルメダスを見つめながら、もう一度息を吐いた。




