出港要請
-アメリア・フィールズ8番埠頭-
2回3回2回7回1回……ガーヘルトの搭乗口を叩く音の回数を数え、バリウスは頷いた。
「間違いねぇ、お頭だ」
しかし、同じくハッチ前に立つドラマドスキーが待ったをかけた。
「え……2回4回からじゃなかったか?」
しかしバリウスは自信満々だ。
「おう、だから、2回4回だったろ」
「え、3回2回だったぞ……」
「ちょっと待てよ、俺は確に……」
すると一つ、ハッチが轟音を立てた。
『馬鹿やろー!どっちでもいいから早く開けやがれ!!』
「……ひっ」
合言葉が台無しである。
「まったくよぉ、うちの艦はどーなってやがる!!」
艦橋に向かってズカズカ歩くクック。後に続くルーテシアは思わず吹き出した。
「馬鹿どもに複雑な数字覚えさせようってのが間違えなのよ」
いやまったく。
ガーヘルトは現在8番埠頭に係留。入港した位置を1mmたりとも動いていない。結局あの騒動に乗り遅れたのだ。
「頭を迎えに来ようってぇ気遣いさえねぇときやがる!」
「それも無理ってもんよ」
逆に言えば、クックとルーテシア、二人だけだったから抜け出せたのだ。
連邦軍の包囲の中、飛んで火に入る夏の虫。しかも、翔龍姫離脱後、宇宙空間まで貫通した宇宙島外板の破孔は、緊急生命維持システムが作動するまで30秒、嵐が吹き荒れた。膨れ上がった風船に穴を開けるようなものだ。その混乱に乗じて抜け出したのだが……。
「ちっくしょう!全て後手だぜ!!」
港の無重力ゾーンを泳ぎながら見た軍用艦。
「あのシルエットは間違いなくフォクスターね」
フォクスターは島内に配した陸戦隊を収容後、すぐさま出港していた。
クックは通路に散らばる配線や工具を蹴飛ばした。
「このままじゃ半年前の二の舞いだぜ!!」
癒えぬ瘡蓋……この老朽艦も、一部のみ新品だ。
6ヶ月前、亜空間ホールにもぎ取られた艦首部分。継ぎ接ぎと油汚れの目立つこの艦で、唯一光を放つ区画だ。
娯楽施設の一部があるのだが、クックは足を踏み入れようとはしない。
「眩し過ぎて、涙が出ちまう」
他の手下も同意見なのか、未だそこは閑散としていた。
「落ち着きなさいよ。相手が亜空間に逃げ込んだんだ、条件は連邦も同じだよ」
失敗に対して口煩いルーテシアが、いやに静かだ。
今は、逆にそれが怖い。
艦の中枢、CICのシステムを抱え込む艦橋。その隔壁がスライドした。
「……だから、あの時砲撃しときゃぁ良かったんだよ!」
「うるせぇ!機関があったまってねぇ状態で撃って、港出られたのかよ!」
「へっ。理屈で逃げんのかよ」
クックが肩を震わせた。
「てめぇら、喧嘩してんじゃねぇ!!」
カロスたちが一斉に振り返る。
「あ、おかし……」
直後、泥だらけの2人に艦橋内が爆笑に包まれた。
「で……センサーで追尾するだきゃぁやってんだろ」
艦長席に着いたクックは、泥だらけのブーツを履いた足をコンソールに放り出した。
「へ、へい……」
顔に痣の生々しいカロスが頷いた。
「ウォードン」
「へ、へい」
航法士のウォードンが、腫らした頬に顔をしかめた。
「航路の設定は?」
しばしの沈黙。ウォードンの頬に痛みがぶり返す。
「……い、今すぐ設定しやす!!」
艦橋から溜め息が漏れそうだ。
……笑わなきゃよかった。
「港湾管制に出港要請を急げ!翔龍姫の消失点へ急行、ホールアウト宙域を探る!!」
そしてクックは立ち上がり、世にも情けない顔の手下を見渡した。
「しゃきっとしやがれ!野郎共、今度こそお宝を手に入れるぞ!!」
「へいっ!!」
海賊共の表情に焔がついた。




