クロウ
「ライツだと!?」
「フェストか!?」
「財宝!!」
その名を知らない者は、この宇宙ではもぐりである。
「悪いね。邪魔したよーだから、俺たち帰るわ」
焦りを隠し、雷は帽子を深く被り直した。
「そんなこたぁねぇぜ」
マッコイを突き放したクックが、掻き分けるようにして雷の前に出た。
「あんた……鉄腕クックか」
雷は唾を呑み下す。
「一応俺らは初対面だったな。お互い有名人は辛ぇやな」
普段はとぼけていようと、さすがは大海賊の頭である。その威容は他の追随を許さない。
「火星じゃどーも。あんたのお陰で連邦に捕まらずに済んだよ」
クックのこめかみがひくりと反応した。
「そう思うんなら一杯飲んでけよ」
「いやいやいや、俺未成年だぜ」
「一端の賞金首が冷めたこと言うなよ。どうだい、ちょいと情報交換なんかもしながらよ」
……龍皇の航跡。
誰かが入り口のドアをロックした。
「いやだなぁ、役に立つ情報なんか持ってないですよ」
すると今度は、人垣を分けてマッコイが現れた。
「それは、こちらが判断する」
その風体に雷は直感した。
「……連邦軍か」
その声には、怒りと嘲りが入り混じっていた。
「察しがいいな」
……なぁるほど。
雷は周囲を見回して納得した。ここに集まる半数が、粗野な中にも堅苦しさを感じさせる。
「あんたらは……臭う」
思わずクックが吹き出した。
「いいねぇ、同感だ。ライツよぉ、多分俺と気が合うぜ」
マッコイは不快な表情を露にした。
「やめてくれよ。これでも体臭には気を遣ってんだぜ。海賊よりはマシな筈だ。いつ魅力的な女性に出会うともしれねぇしな。なぁ、セリア王女」
京子の心拍が跳ね上がる。
バレてた。
「あ……あたしには秋山京子って名前があんのよ」
「名前なんて、どっちでもいい。我々に同行願おう。ライツの命も保証しよう」
「おいおい、勝手に話進めてんなよ。王女はうちのスペシャルゲストなんだからよ」
クックの横やり。
「おい鉄腕!てめぇも勝手言ってんじゃねぇぞ!」
鈎爪海賊頭目のデビーだ。
「デビー、今連合組んだじゃねぇか」
「それとこれとは別だアホぉ!!」
海賊一同頷いた。
「なるほどねぇ。それぞれ交渉権を主張し、しかも連邦が強引に迫る……と」
クックの義手よりブレードが。
「こーなりゃ早い物勝ちだ!!」
降り掛る10にも及ぶブレード。
雷は京子を引き寄せ咄嗟に叫ぶ。
「イージス!!」
魔力による障壁はブレードを受け止めた。しかし……
「どけゴロツキども!!」
マッコイの声。ウルフ中隊の海兵が四方で組み立て式の砲を設置していた。
それを見た海賊達は慌てて後退。
「撃て!!」
マッコイの号令一下、砲が光を噴いた。光が障壁を捉えると、その効力を相殺した。
「……なに!」
「対フェスト人用新兵器、キャスターだ」
……やばい。
京子をかばってこの人数を相手にする自信はない。
「今だ、かかれ!!」
再び大挙して、今度は海兵と海賊が混じって襲いかかった。
シルフィード!
店内に一瞬風が吹く。
と、黒いマントを頭より纏う影が人垣を飛び越え、ふわり、と雷と京子の前に。腰間一閃、躍りかかった海賊のブレードが全て柄より斬りさかれた。
「邪魔すんじゃねぇ!!」
斬りかかるデビー。
その男は剣でライトニング・ブレードを受け止めた。
「う……」
そう、金属の剣で。巡洋艦の第一装甲板さえも易々と切り裂くブレードを止めたのだ。
「このフェスティウム結晶より鍛えし剣、貴様らに斬れるものか」
フードを上げた……その顔は、
「ジョーカー!!」
クックが叫んだ。
鋭い双眸と皮肉に歪める口。そこを深い髭が覆っているが、その精悍さまでは隠せない。
「てめぇ、生きていやがったか」
押し退けて最前列に出るクックの顔にも笑みが広がった。
「あぁ、香典をもらいに来てやったぜ」
ジョーカー・クロウ。クロウ海賊団頭目にしてフェスト騎士団長、そしてゲィツの1st。そして……
「親父!生きてたのかよ!!」
雷が声を上げた。
「馬鹿やろー。お前がしっかりお京を守らねぇから化けて出ちまったんだよ!」
「だったら草場の陰で見学しとけよ!」
「うるせぇ、草場の陰ってなぁ薮蚊が多くてじっとしてらんねぇんだよ!」
思わず京子はくすくす笑う。間違いない。この掛け合いは英おじさんだ。
「ジョーカーよぉ、親子の対面中悪いんだが、王女さん貰ってくぜ」
クックがブレードを構えた。
「俺は王女の親代わりでな、しかも地球名の名付け親だ」
「何が言いてぇ」
「お前にゃ京子はやれん!!」
クックが振りかぶり、呼応して周囲の海賊がジョーカーめがけて斬りかかった。
ぶわっとマントが旋回。左手で腰の短刀を抜き、剣と共に全てのブレードを器用に受け止めた。
「有像無像ども……数に頼んで誇り高き騎士を倒せると思うか」
ぞわり……クックの背に戦慄が疾る。
「出でよシルフィード!!」
小さな竜巻が海賊と海兵を吹き飛ばす。次いで雷が法円作成。
「出でよイフリート!!」
それは小さく、しかし一瞬で網膜を焼く光を発した。そう、目くらまし。
「くそっ!!」
再び目を開いた時には、フェスト人の姿がない。
……やられた!
店内がざわめいた。
「アリエス!アリエス!!」
マッコイは部下を呼び付けた。
「隊長、それが……」
「なんだ、後にしろ。艦に連絡!フェスト一行発見、増援要請!!」
「だから、聞いてくださいよ!」
「野郎、まんまと……」
身を起こして頭を振るクック。そこに、ルーテシアがそっと寄り添った。そして素早く耳打ち。
「早くしな、追うよ」
クックは無言で振り返る。
「この目からは逃れられないよ。カウンターの奥に消えたのさ」
にやりと笑うクック、ふとマッコイと目が合った。その部下、アリエスの手には特殊部隊用のスコープが握られていた。
「急げ!」
クックとルーテシア、マッコイとアリエスは同時に駆け出した




