至急、増援乞う
-6番街ペイブメント-
店を出ると同時に、京子はゴミのポリバケツを蹴飛ばした。
「さいってぇ!!」
「行儀悪いぞ」
たしなめる雷にしても、別段飛び散るゴミを戻そうなどとは思わない。同じく落胆はしているのだ。
結局ブラントからは変換ソフトの情報は得られなかった。これで外れた情報屋6件目。父、エドワード王への手掛りを手中にしていながら、もう長い足踏みが続いているのだ。
「雷、こーゆー時は気晴らし!美味しい物食べてこ!!」
雷は京子の申し出に頷き、懐より通信機を取り出した。
「一応伝えておかないとな」
雷の同意を得た京子は、今までの苛立ちが嘘のように満面笑みを浮かべていた。
翔龍姫内での食事は生体コンピュータのイゾーデが賄っていた。別段不味い訳ではないが、やはり島での食事は鮮度が違う。どんな時代になろうと、やはり人にはうまい飯なのだ。
『はい、こちらSt.ダークです』
翔龍姫のイゾーデだ。さすがに船名を出す訳にもいかない。偽名を使っての入港である。
「そっちは異常ないか?」
『そうですね……人相の悪い方たちがうろついていますが、何ら問題はありません』
「んじゃ任せた。俺は姫と飯食ってく。食事の用意はいいよ」
『かしこまりました。で……お土産を期待してよろしいですか?』
お土産……つまり、有益な情報だ。
「……それがあったら寄り道しないよ」
『そうですね』
イゾーデからの、申し訳なさそうな返答。それが雷と京子を更にみじめにする。
『お詫びと言ってはなんですが、お奨めのお店を検索致します。どうぞお楽しみください』
「済まない。いい食材見付けたら買って帰るよ」
程なく雷の端末に店の情報がダウンロードされた。
「どぉ?」
覗き込む京子。しかし彼女には全く分からない。
「幸いすぐ近くだ。ケーキのラインナップがお前好みかも」
「な〜いす。そこ、静かなの?」
ごったがえす人混みに辟易気味なのだ。
「落ち着いた雰囲気らしい」
京子はほっとしたような顔で頷いた。
-エイダリンダ亭-
雷がドアを開けた瞬間、騒音と共にショートケーキが飛来。反射的に首を傾け難無く躱す。
「……ぶっ」
その柔らかな甘さを味わったのは、背後の京子だった。
「あ……雷、これって一体」
振り返る雷は込み上げる笑いを寸でで止めた。京子の顔は生クリームで真っ白、ご丁寧に頭に苺がちょこんと乗っていた。
「この店のショートケーキは自家製で、即日完売するらしい。予約不可の、早い者順だってさ」
「ふざけてる?」
「いや、本当だって」
京子の怒りメーターは見た目にも上昇中。珍しく持ち合わせたハンカチを雷が差し出すと、京子は奪い取るようにして顔を拭いた。
「この店はケーキを客に投げてよこすの?」
「人手不足なんだろ」
「それと……何で喧嘩やってんのよ!」
店内の喧騒は二つの勢力に分かれてまっ盛り。所々で銃声までも聞こえた。
「アトラクション……じゃぁないな」
「な訳あるかぁ!!」
「危ない!!」
トマト飛来。雷は咄嗟に京子を横に突き飛ばし、トマトを叩き落とした。そんな京子を狙い澄ましたように、
「……ぶはっ」
バケツの水が襲う。
「えっと……」
「ふ……うふ、うふふふふふ」
視線を泳がせながら不気味に笑い出す京子。帽子は床に落ち、先日切り揃えた髪から水が滴った。
「京子?」
「うきぃぃぃぃ!!」
キレた。
非力を自称する京子が手近な椅子をむんずと掴み、抗争華やかなりし中央へ向けて投げ込んだ。それは、綺麗に放物線を描き、机上に踊り上がって銃を乱射する男を直撃。
「なんてことしてくれんのよぉぉぉ!!」
思わず雷は天井を振り仰ぐ。
「あぁ、我が軍交戦状態に突入。至急、増援乞う。誰でもいいから京子止めてくれぇ~」




