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二階級特進

 -エイダリンダ亭前-

 「ちょぉっと待ってください!」

 彼、ケン・アリエス少尉は、喜々として店に入ろうとする男の肩を掴んで止めた。

 普段着、スタジアムジャンバーを着た姿なのだが、その短く刈り上げた髪といかつい肩周りから容易に軍人と知れた。

 「何でこんなトコに入るんですか?」

 男は渋面で振り返る。

 「うるせぇなぁ。飯くらい食わせろよ」

 ジョージ・マッコイ大尉。連邦軍第225独立特務部隊所属、海兵隊ウルフ中隊長だ。そう、ダイモスへ突入した、ウルフ・リーダーである。

 「飯くらいって……大尉、別に食べるのはいいんですけどね、飲み物はどーするつもりですか?」

 口煩いパートナー、アリエス少尉の正面に向き直る。

 「別に払ってくれとは言わねぇよ」

 「違いますよ。アルコール飲料は駄目だって言ってるんです」

 マッコイの酒好きは有名だ。

 「堅いこと言うなよ。制服着てる訳じゃあるまいし」

 「何着てようが、任務中じゃないですか!!」

 そう、任務中。

 現在海兵隊は二人一組(ツーマンセル)で宇宙島内を潜入捜査中だ。標的は勿論……フェスト残党或いはセリア王女。

 「ったく、しけた任務だぜ……」

 「しけた……ってあんたなぁ……」

 アリエスはそれ以上の説得を諦め、上官の背中に付き従った。

 ……これがあの大尉とは。

 『ダイモスの惨劇』

 そう呼ばれるあの激戦。その中核に居た自分が、よくも生き残ったものだと感心する。あの時、ダイモスの脱出ポッドを短時間で発見し、火星の裏側へ向けて脱出したのだ。着陸と同時にシェルターを設置。ダイモス落下による衝撃で火星は僅かに軌道を変えたそうだ。

 その中を、笑いながら指揮した男、ジョージ・マッコイ。あの時、どこまでも付いて行く決意をしたものだ。

 ……その行く先が飲み屋ですか。

 苦労人、ケン・アリエス。猛火に飛び込むより重い足取りでマッコイに従った。

 雑多な店内、勝手に席を見付けて二人は陣取った。

 「ま、焦るな。俺の勘じゃぁ8割方この島に居る」

 マッコイの楽観的意見に、メニューを渡すアリエスは眉を顰めた。

 ……居るってんなら、もっと真剣に取り組んでもらいたい。

 根拠は6番埠頭に入港した不信な船……と、今日は船籍不明(恐らく海賊)船がやけに多いことだ。

 「この鼻がな、感じるんだ」

 「そーですか」

……酒の臭いにしか反応しない鼻でしょーが。

 マッコイは乗りの悪いアリエスに肩を竦めてみせた。

 「ハンバーグ定食にしよう。飲み物は、と。このローレシアンってのにアルコールは……」

 「入ってます」

 氷のような返答。

 「んじゃぁよぉ、ウィスコンって……」

 「入ってます」

 「この……。したら、チェルビー……」

 「すいません、ハンバーグ定食と白身魚のバター焼き定食。珈琲、マイクロロットのインゾブスプリームを2つお願いします」

 「てめ……」

 すまし顔でメニューを片付けるアリエスを、マッコイの殺人的な視線が突き刺した。当の本人、一切痛痒を感じていない。

 「アメリアフィールズの珈琲は有名ですよ。惑星が近いのと、交易分岐点なんで、いい豆が揃います」

 「いい根性してるぜアリエス」

 珈琲などお子様の楽しむ飲み物だ、と常日頃豪語するマッコイ。憤然と腕を組んで視線を店内に巡らせた。

「まったくよぉ。珈琲のカフェインがアルコールだったら最高なんだがなぁ」

「その時は紅茶にしますよ」

 ……どいつもこいつも。

 マッコイの視線に気付いたアリエスも、それとなく視線を巡らせた。

 店内の客層ときたら、統一性のない服装で腕などには刺青。腰回りに何やら武器を仕込んでいるのも明白だ。

 「我々の目の前で堂々と……困ったもんですね」

 「まったくだ。どいつもこいつも昼間っから旨そうに酒飲みやがって」

 「大尉、そーじゃないでしょ……」

 この店内、恐らく殆んどが海賊だ。天敵とも言うべき宇宙軍、しかもクラウス揮下の海兵隊の目の前で寛ぐなど……。

 不意にマッコイの頬に笑みが差す。

 アリエスは席を立つ上官を怪訝な目で追った。

 「面白い奴を見付けた。ちょいと語らってくるぜ」

 マッコイは席に着く一組の男女に歩み寄る。

 「よぉ、久しぶり。元気してたか?死んじまったかと思ってたぜ」

 マントをはおる男が振り向いた。

 「んだと……」

 向かいの女の目が鋭く光り、男の左腕が机上でごとりと鳴った。

 鉄腕クックと鷹の目ルーテシアである。

 「誰かと思やぁ中尉殿かよ。私服でこの店入るたぁ余裕だなぁ」

 クックの反応を無視して、マッコイはルーテシアの隣に座る。

 「やぁクラレンス、君はいつも美しい。その瞳が特にいい」

 ルーテシアは如才なく笑顔を差し向けた。

 「相変わらず事実を臆面もなく言えるのね。私のファースト・ネームを言えるのもあんたくらいかしら」

 ……お前も臆面ねぇよ。

 クックは思わず口を歪めた。

 「んで、中尉さんが何の用だ?俺たちゃ軍の坊やを相手にしてる程暇じゃぁねぇんだ」

 マッコイは指を振りつつクックのマグカップを掴んだ。

 「二つ、間違えてるぜ。俺は坊やじゃぁない」

 ぐいっとあおったカップ。琥珀の液体がマッコイを満足させた。

 「それと、あんたの腕を斬り落としたおかげで、今は大尉だ。感謝してるぜ」

 「野郎!」

 クックは片目を暝るマッコイよりカップを取り返す。

 第3次海賊掃討作戦。光の航跡事件より増えに増えた海賊連合に対し、連邦がその抱える艦船の多くをつぎ込み根絶を目指した作戦だった。

 その掃討作戦において、単独行で多くの武勲を立てたのがフォクスター……第225独立特務部隊だ。響き渡ったその名も、はぐれ狼のクラウス。それは海賊にとって天敵とも言うべき名であった。

 その実動部隊最精鋭こそが、ジョージ・マッコイなのだ。クラウスの命令の下、巧妙に仕掛けられた罠に嵌ったクック。そのクックと実際に戦ったのはマッコイである。手下の多くと、左腕を失っても逃げおおせたクックもさすがである。

 「クラレンス、落ちぶれた海賊なんて放っておいて、俺と来ないか?」

 「ふふ、魅力的なお誘いだけど……悪いわね。あんたが軍を辞めたら考えてもいいわ」

 「おいルー!!」

 「おいおい、軍も悪くないんだぜ」

 「ってぇかてめぇも俺を無視してんじゃねぇ!!」

 クックが投げつけたナイフを、マッコイは軽く身を引いて躱す。

 「そこの犯罪者、邪魔すんじゃねぇ!」

 「んだとぉ!だいたいてめぇ、何しに来やがった!!」

 「クラレンスに挨拶しに来る以外、何があるってんだよ!」

 マッコイの目は本気だ。

 クックも一瞬言葉を失った。

 ……だからこいつは苦手だってんだ!

 クックは苦虫を噛み潰す。

 「冗談はそのくらいにしておこうぜ、中……いやいや、大尉殿か」

 「まぁ、そうだな」

 「あらジョージ、冗談だったの?」

 クックが一睨み、

 「混ぜっ返すんじゃねぇ!!」

 「あらつまんない」

 クックとマッコイの視線が正面よりぶつかった。

 「艦長から二つ、命令を受けていてな」

 「一つは、訊くまでもなさそうだな」

 翔龍姫探索。

 ここに集まる者の殆んどがそうだ。

 「鉄腕もシケた辺境で宝探しかよ」

 「やかましい。もう一つ、聞かせてみろよ」

 マッコイがニヤリと笑う。

 「三流は無視しろ」

 陶器の割れる大音響。クックの鉄腕一振りで机が粉砕した。

 「てめぇ、五体満足で出られると思うなよ」

 「いいねぇ。俺もそろそろ少佐に昇進してぇんだ。協力してくれ」

 「何なら中佐に特進させてやるぜ!!」

 クックの義手が光を放つ。光の剣と化した義手が、躱したマッコイの背後の柱を両断した。

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