6番埠頭エキスプレス
-Jc.アメリアフィールズ6番埠頭エレベータ-
自転車のスポークのように、中心軸へ伸びるシャフト。通称『宇宙港EXP』のエレベーターだ。地上部分の『6』とペイントされた『駅ビル』へ向けて、エレベーターは時速80km/hで降下、100mかけて減速した。
エレベーター、と言うよりは半径20mのラウンジ、といった趣きのエキスプレスである。そこかしこに配置されたソファに腰を沈める『乗客』達は、到着のアナウンスを聞くと一斉に立ち上がり始めた。
開かれた扉の先……そこからがアメリアフィールズである。
「ってゆーかさぁ、信じらんない」
6番埠頭港湾ビルより吐き出される人ごみの中で、彼女は周囲を一瞥悪態を吐いた。
宇宙船乗り御用達、少しだぼついた「センチネル」のジャケットとジーンズ。目深に被った「ブルーヘブン」のキャップ。どこから見ても貨物船乗組員女性版である。
「さっきからうるさいって」
応じる男も同じような格好だが、さすがにこちらのサイズは合っていた。そしてこの二人に共通するもの、それは……船乗りには若すぎる、ということだ。
人混みにもまれてズレたサングラスを直した彼は、宇宙港6番街のペイブメントを見渡した。
「交易中継点なんだ、人が多いのはしょうがないだろ」
その目は黒いレンズの奥で何かを探して動いていた。
「そんなこと言ってんじゃないわよ」
彼女は眉間に皺を寄せて、道端に設置されたベンチに腰を降ろした。その際傾いたベンチの脚に、さらに嫌悪を示した。
「雷言ってたじゃん、美しい王女の宇宙島だって」
見渡すその街並は……
「これじゃぁ横浜の中華街と変わんないよ!!」
彼……雷は肩を竦めた。嘘ではない。王女は美しかったのだから。
人と車が入り乱れる狭い道。その両脇には妖し気な飲食店が立ち並ぶ。まったくもって、横浜中華街にようこそ、である。
「京子……」
雷はサングラスをずらし、軽く視線を送る。
「何期待してたんだよ」
「そりゃぁ……」
応えかけて、ふと固まった。
「あぁ~!何よこれぇ~!!」
焦った雷、急いで京子の口を塞ぐ。
「大きな声だすな!」
京子は雷の手を払いのけて店の壁に指をさした。そこに貼られた紙を京子は思い切ってひっぺがす。
「な、な、な、何よこれぇぇえ!!」
京子の似顔絵だ。
「だから目立つなって言ったんだよ」
「あたし、こんなに怖い顔してないよ!!」
「そっちかよ」
雷は呆れてベンチに腰を降ろした。
「ってゆーかさぁ、雷のもあるよ。……これ何?」
雷の口より溜め息と共に吐き出された。
「賞金首の手配書」
「……はい?」
2ヶ月である。
あの火星宙域を脱して、京子が意識を取り戻すのに2ヶ月の時を要した。亜空間フィールドに強制的に放り込まれ、ホールアウトした先は地球より32光年離れた、航路もない宙域であった。
しかし、そんなことはどうでも良かった。隔壁より鮮血と共に吐き出された京子。バイタルはフラットラインであった。心停止、そして呼吸停止。即座にイゾーデが翔龍姫の医療システムを起動させ、京子はICUでの蘇生処置が施された。
勿論雷とて無事ではなかった。折れた肋骨が肺に刺さり、眼球も多少の損傷を負っていた。それでも、翔龍姫のシステムは半月で完治させてしまったのだ。
京子も傷は完治したのだが、昏睡状態が続いていた。その間、雷は行動した。イゾーデのサポートを受け、ホールアウトさせられた宙域を探り、ローカルのニュースに耳を澄まし、近場の宇宙島に潜入し、翔龍姫のデータを洗い直し……。
有益な情報が得られないまま、2ヶ月。目を覚ました京子の第一声が「お腹空いた……」だったのはさすがである。
その後1ヶ月のリハビリを経て、京子復活。フェスト騎士団旗艦エステールの行方と京子の父であるエドワード・フェストの捜索をしつつ、補給の為に連邦軍の艦船を襲撃していたのである。
そして先日……オルゲン公の物資を運ぶ輸送船を発見。連邦の侵略を思い出した京子がいきり立ち、襲撃に到った訳である。
「だから、俺達の首に賞金がかかってんの」
「えぇ~何でよぉ。あたし何も悪いことしてないよ!!」
「してるっつ~の!連邦の軍艦沈めたり、オルゲンの船強盗したり……」
「悪党から物奪うのは悪いことじゃないはずよ」
京子はきっぱり言い切った。
「……左様でございますか」
しかし京子はふと文面に目を止め、にやにやと笑い始めた。
「なんだよ急に、気持悪いなぁ」
京子は数字に指をさす。
「あたしの方が賞金高いよ」
「なに!?」
雷は京子より手配書を奪い取る。
「ちょっと待てよぉ、何で京子の方が……」
「ふっふっふ、あたしの勝ち?」
雷は舌打ち一つ、手配書を京子に返した。
「お前の方が凶悪ってことだ。さ、行くぞ!」
「凶悪!?こんなに人畜無害なあたしが……って、待ってよ!!」
さっさと脇道に消えた雷の背を、京子は慌てて追い掛けた。




