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エイダリンダ亭

     第5章 大集合


1


-Jc.アメリアフィールズ-

 惑星リュヒテンの手前、航路上ジャンクションPO・Jc-099アメリアフィールズ。

 惑星リュヒテンが連邦に侵略される以前、王女アメリアが父王に懇願して造られた人工惑星。それがそのまま交易航路上のジャンクションとして流用されていた。

 「ふん……王女っても、アメリアとは大違いだな」

250cc缶のような円筒を回転させて人工的に重力を得るこの惑星、中心軸に港を配し、そこより港湾エレベーターで地上(円筒内円)に降り立つ。自然、エレベーター付近は港湾関係施設、飲み屋が乱立した。

 その飲み屋の一つ『エイダリンダ亭』のテーブルで、義手の男が手配書をちらつかせた。

 「クック……足、降ろさない?」

 目元涼やかなブロンドの女性が、香り立つ紅茶を揺らしながら言い放つ。

 「堅ぇこと言うなよ、ルー」

 「別にいいのよ私は。あんたが義足になったって」

 男は息を詰めてごついブーツをテーブルより降ろした。彼女の手が腰のライトニングブレードに移動したのを確かに見た。

 「おいおい、冗談やめようぜ」

 「あたしが冗談と靴底が嫌いなのは知っているわよね」

 鷹の目ルーテシア。彼女にあっては鉄腕クックも形無しだ。

 ここアメリアフィールズは、中央のジャンクションと比べてあまり治安がいいとは言えない。辺境という土地柄もあるが、商業航路の特性上海賊が多く足を休めた。当然収入の多くも非合法な金銭が横行し、それを取り締まることは破産を意味した。

 鉄腕海賊のロバート・クックとクラレンス・ルーテシアが平然と堅気の店で食事が出来るのもそんな事情からだ。

 「同じ王女でも、7000万の賞金首だぜ。まったく、世も末だな」

 クックは自ら食い散らかした定食の端に手配書を放り出す。

 曰く『生け捕り7000万。クロウ海賊団セリア・フェスト』。

 写真の用意はなく、そこは古風にも似顔絵が掲載されていた。

 「あの時は目前まで追い詰めたってのによ……」

 ルブラン産の紅茶に溜め息を一つ、テーブルのソーサーにカップを戻したルーテシアは、頬にかかる癖のない髪を軽く流した。

 「あんたがグズグズしてたのが悪いんでしょ」

 「言いにくいことをズバズバとよぉ」

 「事実でしょ」

 反論なし……。

 「けどよ、あの二人が生きていた……これも事実だ」

 クックはマグカップに満たされた蒸留酒を大きくあおる。

 クックはもう一枚の手配書をひらひら振った。

 「あのガキが5000万かよ。えらく出世したもんだ」

 閃光のライツ。こちらはきっちり写真に収まっていた。そして、生死不問。

 「オルゲンの船に手を出したんですからね。中々な挑発行為だわ」

 「最近ここいらを賑わしてた海賊がライツだったってぇんだからな。……それにしても」

 クックはマグカップをテーブルにたたき付けた。

 「あそこは俺たちが少し前に通過したんだぜ!!」

 「そうね。惜しいことしたわ」

 「あぁ……護衛付きだってぇから襲撃自粛しちまったなんて、情けねぇ!!」

 「違うでしょ!!」

 ルーテシアの突っ込み。

 「或いは接触出来たかもしれないのよ。オルゲンの日用品運んでた輸送船なんて目じゃないわ」

 「あ……あぁ、まったくだぜ」

 あの時……6ヶ月前、クックも現場に居たのだ。目の前で亜空間フィールドにホールインした翔龍姫。9分9厘手中に収めた宝への道標が、指の間から溢れ落ちた瞬間。艦載機のカタパルト用跳躍システムで行われた強引な跳躍である。誰もが死を確信した。

 「やっぱり死んじゃいなかった」

 ルーテシアはくすくすと笑みを見せた。

 「クック、あんた珍しく嬉しそうじゃない」

 「当たり前だろ。何のためにこんな辺境でくすぶってると思ってんだ」

 鉄腕クック程の海賊なら、本来は中央付近で荒らし回っているものだ。

 ルーテシアの前に突き出し握り込んだ義手がきしりと鳴った。

 「奴はいる。まだこの辺りの宙域にな!」

 するとその義手、左腕から電子音が。座乗艦、ガーヘルトからの通信だ。

 澄ました顔のルーテシアがその親指の一部を、ほいっと引き抜いた。イヤホンである。

 「おいおい……」

 クックの抗議など無視して自分の耳に。

 『お頭!お頭っすか!?』

 ルーテシアは眉間を寄せて一度イヤホンを外した。

 「うるさいわねぇ。ルーテシアよ」

 一瞬の間。

 『あ……す、すいやせん、姐さんっすか。当直のカブっす。この間は友達紹介してくれてありがとうっす。いや、これがホントいい娘で……』

 「そんなこといいから、用件言いなよ!」

 クックが呆れた顔を向けた。

 「女の世話までしてやってんのかよ」

 「有料でね」

 ルーテシアはウィンクをして見せた。

 『それがっすね、さっき半舷上陸組の野郎から連絡があったんすよ』

 ルーテシアの、ただでさえ鋭い双眸が更に細くなる。

 「どこからなの?」

 『6番埠頭っす。あ、そいつ6番埠頭の入管員とデキてましてね……』

 ルーテシアのこめかみがヒクリと反応した。

 「……あんた、カブだったわよね」

 通信電波を通じてルーテシアの殺気は十分に伝わった。

 『いや違いますよ、デキてんのはリグっすよ!』

 ただ、カブはよく的を外す。

 「要点言いなさい!さもないとあんたの大事なモンぶった斬るよ!!」

 思わずクックがマグカップを取り落とし、自分の大事な所をガードした。

 『す、すいやせん!そ、それでですね、6番埠頭に怪しい船が入港したらしいんすよ』

 「怪しい?」

 海賊が『怪しい』と言うのも変な話だが……。

 『白い船体で、外見から推進機関が特定出来ないらしいんすよ』

 瞬間的にあの船が脳裏をよぎる。

 『その船からは若い男と女、二人しか出て来ないらしいっすよ』

 クックとルーテシアの笑みが交錯した。

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