賞金首
-シュッテガルド-
苛立ちを隠せないシュッテガルドの船長、イェール・ロランはしきりに親指の爪を噛む。
何かが起きていることは分かる。しかし、詳細がまるで分からない。
「まだクローズ大佐とは連絡取れんのか!」
最初の砲撃の後、続いて先程の重力震。センティストが盾にならなければ、船尾を失っていたのはシュッテガルドだったであろう。
「通常の通信は受け付けられません!」
その目の前で、シュッテガルドの頭上を光芒が駆け抜けた。
ホイスト被弾。
ロランの胸に取り残される不安が疾る。
「役立たずが!!」
「まぁそう言うなよ」
背後、ブリッジの隔壁が開いていた。そこに、連邦のパイロットスーツを着た男が居た。
ロラン以下ブリッジクルーは訝し気な視線を隔壁に向けた。
なぜ、連邦の戦闘機パイロットがここに?
その男はゆっくりとヘルメットを脱いだ。
……若い。
「あの艦長、中々判断早いぜ。まさかあのタイミングで僚艦を撃つとは思わなかった」
「貴様……」
どこでだろう……見たことがある。
「おかげでこの船に乗り込む前に重力震に巻き込まれるとこだったよ」
……乗り込む?
「ホライズのクルーか?」
彼はくすくす笑う。
「似たような質問をされたが、俺は軍人じゃぁない」
格納庫より通信が入った。
『……せ、船長!その男を拘束してください!か、海賊です!!』
ロランは息を呑む。
「海賊ってのも違うんだけどなぁ。あ、大丈夫、一応殺しちゃぁいない」
2000万の賞金首……
「閃光のライツ!!」
ライツはウィンク一つ、ふわりと船長の懐へ駆けた。
-ホイスト艦橋-
主砲、対空砲、魚雷、合わせて108門。その90%が絶え間なく砲撃を続けているというのに、目標であるたった1隻の船はその機動力になんら支障をきたしていない。
「着弾は!?」
「駄目です、追いきれません!!」
相手は駆逐艦クラスの船だが、艦載機並の機動をしていた。
あれでは船内のクルーはGにやられて絶命している筈だ。なのに……。
また、敵艦が閃いた。
「被弾!左舷スラスター80%消滅!!」
「主砲3番、応答ナシ!!」
なぶり殺しだ。既にアクティブ、パッシブ両センサー破損、広域通信システム破損、主機関60%破損、そして、砲撃管制もこれで7割が沈黙した訳だ。
「敵艦、尚も接近します!!」
残るは光学センサーのみ。
艦長の脳裏に6ヶ月前の報告書がよぎる。
あの、フォクスターの第一艦橋を大破せしめ、撃沈寸前まで追い詰めたフェストの遺産……。
「ソナー!特異艦の波紋と照合してみるんだ!!コードは……SS002!!」
「アイ・サー!」
既に記録した敵艦の発する重力波をハント中尉が急ぎ解析。
答えは、数秒で弾き出された。
「来ました!波紋適合!!」
現在この特異艦のコードに登録されている艦は2隻のみだ。
……やはり奴は!
「秘匿名フラメル……フェスト艦、翔龍姫です!!」
ディスプレイに翼を広げたような流麗な白い船体が大映しに。艦橋クルーの背中を冷たい汗が流れた。
軍内部を駆け抜けた噂……連邦の艦では不可能な精密な亜空間跳躍をこなし、砲撃管制のCPUが煙を上げる程の機動で迫る。そして現存の対光学兵器用障壁がほぼ通用しない、ロスト・テクノロジーの産物、反中間子砲。
……そんな馬鹿な!
全てが事実だったとは!!
あのクラウスがかなわなかった相手だ、どうしろというのだ……。
次々に報告される艦の損傷。遂にホイストは生命維持システムを残し、全てが破壊された。
シュッテガルドとホイストが連邦の航宙保安部に保護されたのは72時間後。周辺波動に襲撃者の痕跡は既になく、追跡は不可能に近かった。
シュッテガルドの乗員に死者はなかったものの、オルゲン公視察のための物資はのきなみ持ち去られていた。これは、明らかに挑発行為である。
目撃証言に基づき、2000万の賞金首、クロウ海賊団生き残り『閃光のライツ』は5000万に、『セリア』は7000万に格上げされた。
この時点より、消滅したと思われた翔龍姫と、フェストの財宝伝説の話題は再び海賊たちの心を燃やし始めた。
第4章 「 襲撃者」終
第5章「大集合」に続く




