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海賊風情

  -駆逐艦ホライゾ-

 信頼されているのか、やっつけ仕事専属なのか……毎度のことながらたまった物ではない。

 駆逐艦ホライゾの艦長、ガルト少佐は苛立ちをつのらせた。遭難者救助、先陣探索など殆んどの場合、指名されるのはホライゾだ。

 実際のところ、クロード大佐の守備隊時代、座乗の駆逐艦で副長の任にあったガルトを信頼してのことなのだが……。

 「デッキより、収容完了です」

 ガルトは顎を引く。

 「よし、至急遭難者の安否確認。それと所属と階級を明らかに。軍医どのに伝えてくれ。話が出来るようなら、医務室でもかまわん、面会させてくれ」

 「了解しました」

 ガルトの関心は襲撃者だ。この艦載機が何者に襲われたのだろうか。それを明確にしたい。

 「警戒密に!艦隊の陣型まで後退!!」



  -ホライゾ格納庫-

 格納庫に酸素が満たされ、エアロックに緑のライトが灯る。

 「行くぞ!」

 DC(damage control)班に続き、救護班が格納庫の艦載機へ扉を抜けて駆け出した。

 空母や巡洋艦と違い、艦載機発着デッキは1機収容すれば一杯である。

 その狭い空間で、艦内の火消し屋ことDC班が効率よく作業にかかる。もし艦載機が損傷し、爆発の危険があれば彼等は全力で爆発を阻止、あるいは被害を最小限にとどめる努力をする。

 が……このライナーには損傷らしい損傷が全くない。

 「キャスパー先生!」

 DCの班長、ヤン軍曹が大声を張り上げた。

 「無傷っすよこれ。俺らの出番なし。救助活動どうぞ!」

 軍医のキャスパーが頷き救護班の3名と共にライナーに近付いた。

 「班長!」

 ライナーのキャノピーに上がったヤンの部下、バルト伍長だ。

 「どうした!?早くキャノピー開けちまえ!!」

 「いや……それがっすね……」

 バルトは口ごもる。

 「はっきりしやがれ!」

 今にもスパナを投げつけそうな鬼軍曹へ、肩を竦めてみせた。

 「こいつ、無人っすよ」

 ヤンは眉を寄せた。

 「むじん……?」

 「誰も乗ってないんすよ」

 しばし沈黙が流れた後、ヤンは勢いライナーのタラップをよじ登った。



  -ホライゾ艦橋-

 「定位置座標、確認よぉし!」

 航宙士の声が艦橋に響く。

 「あと360秒!」

 密集体型の中へ再び加わるのは入港作業より困難だ。輸送船に合わせた低速とはいえ、LS(光速)の10%は出ているのだ。接近相対速度だけでも0.5%、時速に直して15000㎞/h。神経質になろうというものだ。

 「機関50%へ。陣型固定と同時に再加速!」

 「アイ・サー!カウントダウン、入ります!!」

 デジタルカウンターによるマイナス計測が開始された……そこに、

 「艦長、格納庫のダメコンより内線です!」

 DC班の略だが、裏ではヤン軍曹とバルト伍長のダメコンビ、の略とも言われている。

 この集中力を要する時間とはいえ、現在最も気になる情報の一つだ。

 「こっちに回してくれ」

 即座にヤン軍曹の顔が手元のディスプレイに現れた。

 「問題か?」

 訪ねる艦長へ、ヤンは微妙に表情を歪めた。

 『いや……それがですね、誰も居ないんすよ』

 「なに?」

 艦長は眉を寄せた。

 「熱源反応はあったんだぞ」

 『自分もそれを確認しているか……』

 軍曹の内線が途切れた。

 「デイビス!どうなってる!!」

 艦長の叱咤が通信仕のデイビス准尉に飛んだ。

 「こちらでは何も……管理室では……」

 デイビスの報告を呼び出し音が遮った。艦橋への入室を求める呼び出し。

 「こんな時に……」

 艦長が振り向いた直後、閉じられた隔壁に電光が疾る。

 小さな爆発だったが、その圧力に一瞬乗員の聴力を奪われた。

 「非常事態宣言!!」

 必死と叫ぶ艦長。副長が耳を押さえながら旗艦直通の非常用ボタンを殴り付けた。

 しかし……反応がない。

 「あ、無理ムリ」

 この事態に、何ともそぐわぬ間の抜けた調子。それは、爆発した隔壁からだ。乗員の視線を集める中、白煙より影が抜け出した。

 「通信システムはさっき壊したから」

 パイロットスーツを身に纏い、未だロジャースの紋章を描いたヘルメットを被る男。

 「連邦の軍人ではないな」

 男はくすりと笑う。

 「当たり前だろぉ」

 発砲音。

 艦長が躊躇なく引金を引いた。

 「イージス!」

 発砲と同時に男の足元に法円が光り、プレキャストされた術が発動。弾丸が歪んだ空間に捕えられて床に転がった。

 ……こんな技を使うのは奴らしか居ない!

 艦長以下艦橋要員の背筋を戦慄が走る。

 「軍人じゃないぜ」

 ヘルメットの奥に光る両の目が笑う。

 「海賊風情が……」

 男が指を左右に振った。

 「そりゃ副業。俺は、伝統ある騎士だ」

 眉を寄せた艦長が顎を引く。すると、通路より銃声。空艇用ライフルを構えた5人の海兵が男にフルオートで弾丸を放った。しかし、その弾丸も体に触れる直前、床に転がった。

 「くそ!」

 「少し、寝ててもらうぜ」

 男はヘルメットのシールドを下ろした。

 「そうか!閃光の……」

 艦長の呻き。その目の前で蒼い閃光が男を取り巻き、床に新たな法円を描き出す。

 「来い、我が守護神トール!!」

 嵐のような雷光降臨。ブリッジ内で荒れ狂い、艦の装甲を内側より貫通した。

 圧力差により艦内の空気が一斉に宇宙へ放出。0.8気圧に調整された艦内の気圧が急激に低下した。

 「しまった……」

 艦長の意識が遠退いた。

 いや、艦長だけではない。艦橋内の全員が意識を暗転させた。

 そう、軽宇宙服を兼ねる、パイロットスーツを纏うその男を例外として……。

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