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救難要請信号

     2


   6ヶ月後……


 -交易惑星リュヒテン航路 PO-9-

 今やペルセウス腕からオリオン腕にかけて、銀河系の1/20にまで版図を広げたオルゲン銀河連邦。その辺境オリオン腕内ルイテン星、リュヒテンへの主要交易航路がPO-9だ。ジャンクションの少ないこの宙域、俗に海賊航路と呼ばれていた。つまり……襲撃にはもってこいなのだ。

 「艦長……何も戦闘配備までしなくても」

 艦長の目が副長を突き刺した。

 連邦軍護衛艦隊旗艦ホイスト。現在僚艦3艦を伴い、その陣型中央に貨物船を据えての護衛航行中である。

 貨物船シュッテガルド。これが問題だ。船足が遅いのは別として……オルゲン連邦主席、カイト・オルゲン公個人の公用貨物船。つまり、この護衛はオルゲン公直属の任務と言って良かった。

 名誉と同時に賭ける物がある。それは、自らの首。何かあっては、職を失うどころでは納まらない。巡洋艦ホイスト副長のドワイト中尉は過剰反応を口にするが、艦長のクロード大佐とは責任の重さが違いすぎた。

 「副長、ここをどこだと思っている」

 重く言葉を発した艦長の目には、ここ数日来濃くなりつつあるクマが目立っていた。

 無理もない。巡航速度の1/3での牛歩で、その間常に緊張しているのだ。これでは実際に戦闘が起こった時に即応出来そうもない。

 そして、それは乗組員全てに言えた。護衛任務の辛さがこれなのだが、今回は格別だ。ただでさえ最近多発する海賊行為。そこへもってきて、オルゲン公直々に辺境視察。その先遣隊の航路も、公の船なのだから、と交易航路ど真ん中を必ず通れ、と言うのだ。

 これでは狙ってくれ、と言っているようなものである。

 ……公は何を考えているのだ!

 「海賊航路のど真ん中で、ジャンクションまでまだ通常航行で0.5パーセク(約15兆4000億km)はあるんだぞ!!」

 空間跳躍をこなしたばかりで、護衛艦の燃料はカラっ欠だ。燃費の悪い戦闘艦は、次の中継浮遊人工惑星リンドバルグで給油が必須なのだ。

 この間隙が最も狙われ易い。

 ……早く跳躍に入りたい。

 乗組員の願い、そして艦長の願いはそれにつきた。

 それにしても……クロード艦長の不安は最近の襲撃傾向だ。

 狙われるのは連邦軍関係の船舶ばかり。6ヶ月前までは、クロウ海賊団が連邦を目の仇にして襲撃していたものだが……連中はダイモスの惨劇でクラウス大佐に壊滅させられた筈だ。

 脳裏に賞金首の青写真がよぎる。

 その中でも……。

 「まさかな」

 「何か?」

 副長が怪訝な目を向けた。

 「いや、何でも……」

 言いかけた時、レーダーに反応が現れた。

 「キース!」

 ソナーに張り付くキース少尉が振り返る。

 「方位1200より連邦単信call-Eを探知!慣性による無動力航行にて接近する物体あり!」

 宇宙軍共通の救援要請信号だ。クロードの眉間が強く寄った。

 「defcon3より2へ移行!物体の識別急げ!!」

 張り詰めた矢は、デフコン2の発令により勢いよく放たれた。

 「各艦へ伝達!至急密集体型!!アクティブセンサー、方位1000から1400へ集中!!」

 艦長の前にCICデスクが迫り上がり、艦隊の実況が立体投影された。

 「駆逐艦ホライゾに伝令!遭難者収容準備!!」

 「アイ・サー!!」

 Defcon……軍隊用語なのだが、つまりdefense controlの略語だ。1から5までの段階があり、5は安全確保。1は交戦状態。

 2が発令された、と言うことは、交戦準備が為された、ということだ。

 「艦長、シュッテガルドより通信です!」

 艦長はこれみよがしに舌を打つ。

 『クロード大佐、何事かね!!』

 シュッテガルド船長のイェール・ロランだ。連邦議会カルダン上院議員の親戚。扱い難さでは宇宙軍オリオン腕方面軍指令の中将に勝るとも劣らない。

 「前方より我が軍の救援を要請する漂流物を確認しました。よって臨戦体制の密集体型を取り、ホライゾを収容に向かわせました」

 イェールが眉を顰めた。

 『つまり遭難者の救助か。なら何故臨戦体制など……』

 これだから素人は。艦長は大きく息を吐き出した。

 「ここは海賊航路ですよ。しかも最近我が軍の艦船が襲撃を受けたばかり。遭難者の後方に海賊が控えているとも限りません」

 イェールが一度視線を外し、舌打ちした。

 『なるほどな。……その遭難者、無視して行ってくれないか』

 「……は?」

 艦長は我が耳を疑った。

 船乗りに救難信号の類いは絶対だ。海上を往く船舶などは、板子一枚下は地獄、などと言ったものだが、彼等宇宙を往く者にとって、全方位が地獄なのだ。いつ自分がその遭難者になるかも分からない。救助はどんな命令よりも優先されるべき行動なのだ。

 それを……。

 「船長、今なんと?」

 『捨ておけ、と言ったのだ。我等は閣下の積み荷を運んでいるのだぞ。ここでまごついている内に狙われたらどうする。それに……応答はないのだろう。どうせ死んでいるさ』

 「この……」

 腐った官僚を相手にしているようだ。

 「だから警戒もし、駆逐艦を行かせたのではないですか!」

 『呼び戻してくれ』

 怒りと嫌悪が頂点を突き抜けようとした時、

 「艦長、ホライゾと漂流物、接舷!」

 ここぞとばかりに艦長はイェールを無視した。

 「脱出艇か?」

 「いえ、艦載戦闘攻撃機CF-25ライナーです。紋章は……ロジャース、第37艦隊所属!」

 先日消息を絶った護衛艦隊空母、ソルダージの隊がロジャースだ。

 艦橋は緊張に包まれた。

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