Good mooning sir
第2部開始となります。
舞台は、より宇宙へ……
第4章 襲撃者
1
時の流れはゆるやかに、ゆるやかに、往きつ戻りつただ廻る……。始まりは終わりであり、終りは始まりである。人と人は呼び合い、そしていつかその地に還る……
火星域におけるダイモス落下と、翔龍姫消失の1時間前……
-地球 野島崎東方800浬 水深約500m-
深淵たる闇、耳に痛みを強いる程の静寂が圧力を以ってこの機内を支配した。
もう、何日経ったのか、すでに考えるのはやめていた。とそこに、赤い光点が閃いた。
「ビンゴ!」
思わず喜びが口を吐く。
「ソフィ、Wake up.」
唐突に正面のディスプレイが瞬き、待ちこがれた言葉が表示された。
『Good mooning sir.』
まさしく皮肉だ。速見 英、いや、フェスト騎士団長、ジョーカー・クロウの口許に笑みが差す。
「よく言うぜ。今が昼か夜かも分かりゃしねぇ」
不時着後潜水。そのまま電装系停止。今のいままで一切の光が絶えていたのだ。
「まずはlight up」
すぐさま機内に光が満ち、ジョーカーは額のナイト・スコープをひっぺがす。
「この光、待ち兼ねたぜ」
ジョーカーが僅かに動くと、足元で何かが音を立てた。
ごみだ。
エステールのシャトル、フェーベのコクピットは食い散らかしのレーションカスが散乱していた。
「情けねぇもんだ。かつてはゲィツの番人と呼ばれた俺が……」
食糧庫の番人と呼ばれていた事実は伏せておこう。
しかし、フェーベの復旧作業に集中していてそれどころではなかったのも事実だ。
「ソフィ、自己修復プログラム起動。動力最優先だ」
『comprehend sir.』
フェーベの持つ修復機能。停止時に発動させると、殆んどの損傷はナノマシンによって修復される。ただ、ナビゲーションAIのソフィがダウンしていると発動出来ないのが難点だ。しかしそれもやっと解決。宇宙に戻るのも時間の問題だ。
「さて……」
それでも修復に時間はかかる。さしあたりやっておくことと言えば、周囲の探索だ。
ジョーカーは操縦席のコンソールに再び向かい合う。
「どうせ、連中居やしねぇしな……」
アクティブセンサーと光学センサーを起動。周囲を探知し始めた。
探査の片手間、ジョーカーは太平洋の旧大陸図を表示した。
「ふふん、なんとまぁ、レムリア大陸西端に不時着か」
伝説の古代大陸、レムリア。現在尚学者達の間で憶測の飛び交う謎の水没大陸だ。現代科学ではその実像にも迫れずにいるのだが、ジョーカーはこの7年、暇に明かせて地図だけは作成していた。
と、アクティブセンサーに反応。この反射率は……。
「金属……沈没船か?」
沈没船のお宝は男の冒険心をかきたてる。しかも現在海賊として生計を立てるこの男には猫にマタタビだ。すぐさまアクティブセンサーのレンジを絞り、全体像を割り出した。
「何だこりゃぁ」
いや、割り出せない。大きすぎる、と言うよりは大陸の一部である。
ジョーカーは眉を顰めた。
……地上構造物?
急ぎ船外灯を集中させ、光学センサーに切り替えた。不純物の多い海底。望遠をかける度、画像は荒れる。しかし、問題の物体表面は辛うじて読み取れた。そう、文字だ。しかも、ジョーカーはそれを読むことが出来た。
「おいおい、何でフェスティマ文字がレムリアにあんだよ」
フェスティマ文字……。フェストの古代文字だ。既に使用する者はなく、ある一部の者か学者以外は読むことの出来ない文字である。無論、ジョーカーは学者などではない。前者、一部の者。フェスト王室と騎士団長、そしてゲィツの間で交わされる公文書に使用されてきた。そんな特殊な文字をよりにもよって地球の、しかも海底に見ようとは。
「ソフィ、移動可能か?」
暫く後、回答はなされた。
『yes sir.reserve engine ready……』
ジョーカーはフェーベをゆっくりと移動。問題の金属反応へ近付けた。
「ソフィ、機関部修復は一時停止。search mode起動」
『search morde ready……』
……まずは年代だな。
X線による測定。即座に解析は終了した。
「はぁ!?」
その数字に奇声を上げ、思わず0の桁を数え直した。
「ちょっと待てよ。これ数字あってんのかよ」
『positive sir.』
0の数は7。
「200万年前って、どーゆーことよ」
そんなジョーカーの嘆きを中断するように、ソフィからの警報が鳴り響く。
反射的にレーダーレンジ拡大。
「くそ……」
その反応は、火星の衛星付近で発生した高エネルギーを感知した物だった……




