mord X
-翔龍姫-
……近寄れない!
まだ、ミーティアの陰より出られない。砲撃もミーティアに集中していた。
そこに……魚雷。
雷の背筋に異様な感覚が。反射的に逆噴射最大。突然のマイナスGに、京子の視界が赤く染まる。レッド・アウトだ。
「くぅぅぅ」
雷は辛うじてディスプレイに目をやった。
4線の魚雷がミーティアへ。2本、3本と艦の後部を過ぎて彼方へ。
……このまま。
しかし、最後の魚雷がミーティアの船腹に吸い込まれた。
その直後、亜空間ソナーが警戒音を轟かせ、続いて異様な重力変異。
「イゾーデ!」
「ミーティアを中心に空間が……」
一瞬、宙域一帯に歪みの波が疾り……ミーティアが船首と船尾を残し、消失した。
「そんな……」
冷静である筈のイゾーデが席を立ち上がる。
「イゾーデこれは一体……」
「フェスティマの兵器が何故……」
茫然とする3人の目の前、ディスプレイに映る火星の北極冠で、巨大なきのこ雲が立ち昇る。
「強制跳躍させられたミーティアの船体です…」
跳躍弾頭……対象に爆発を与えるのではなく、信管発動によって周辺を強引に、そしてランダムに亜空間跳躍させてしまう兵器だ。
……無駄死にかよ!
「うぅぅあぁぁぁ!!」
翔龍姫が弾幕へ突っ込んだ。
突然の加速。イゾーデは耐Gシートに叩き付けられるように引き戻された。
「貴様らぁぁぁ!」
雷が機を異様な速度で微調整。
京子は耐Gシートに押し付けられ、目に涙を溢れさせた。
Gがきついのではない。
……また、多くの命の灯が、あたしのせいで多くの命が。
弾幕に飛込むと同時、翔龍姫が外洋艦には有り得ぬ機動で跳ね回る。しかし……
「ライツ様、無理です!」
「やかぁしぃ!!あいつらは……」
……俺の仲間を、家族を!!
ディスプレイの機体監視システムが損傷に警告の悲鳴を上げ、外部ブロックが次々に赤く染め上がる。
「保ちません!」
「無理……だよ、あずま……」
京子が、金色に光っていた。
「……セリア王女」
イゾーデは理解した。
「同調……して」
こくり、イゾーデは頷いた。
「コントロールロック、mordXに移行します」
「……な!」
操縦幹が固定。雷のコントロールを拒否した。
翔龍姫は反転、全速で射程を離脱。
「イゾーデ!なに……を……」
隣、京子の耐Gシートが変形を始めた。
シートの基礎部分を残し分裂したパーツは京子を取り込み、完全に円筒形に。
「京子!イゾーデ、何をした!!」
「mordX、翔龍姫の、真の姿です」
京子の意識が一瞬飛んだ。しかし次の瞬間、あれだけ重かった体が解放され、意識を囲む殻が消失した。
……セリア王女、目を、目を開いてください。
イゾーデの声が心に直接語りかけた。
目を開く。
すると、深遠の漆黒が広がった。その中に、赤い惑星と、煌めく無数の星……。
宇宙だ。この宇宙を、直接肌で感じていた。
……怖くない。
それどころか、なんて気持いい、そして……美しい。
……翔びたい。
腕を広げ、前を向いた。
「おいイゾーデ、どうなってる!」
翔龍姫のシステムが勝手に作動し始めた。しかも、見たこともないデータばかり。
『雷、心配しないで』
「……!」
ディスプレイに、京子の顔が映し出された。
「京子、これは……」
『翔龍姫と同化したの。反応は神経と直結してるから速いよ』
「なんだと……」
『フォクスターに近付けるから、お願い!』
翔龍姫の操船システムが反応。微妙なスラスターの噴射で素早く回頭し、流れるように加速した。
-フォクスター-
「翔龍姫反転!再度接近します!」
……やはり逃げたのではなかったか!
「弾幕翔龍姫に集中!足を止めろ!!」
その命令に、砲撃管制が苦渋を示した。
……当たらない!
殆んど大きな動きが見えない翔龍姫に、かすりもしない。
「何をしている、狙いを定めろ!」
ロックハートの激が飛ぶ。
「狙っています!」
焦りが声に。ディスプレイに翔龍姫の機動データが表示された。
「な……」
ロックハートが、いや、クラウスも息を呑む。
「有り得ん」
機動が計測範囲を超えていた。




