宇宙のドン・キホーテ
-翔龍姫-
ブリッジの扉が開くと同時、その闇の空間に眩い光が満ちた。
「イゾーデ、急ぎ航法システムを立ち上げ!」
「了解しました」
指示を飛ばしつつ、雷は左の耐Gシートへ。肩に抱える京子をシートに収めた。すると、シートより配線が伸び、京子に張り付いた。
「おい……」
「心配いりません。王女を生命維持システムに直結しました」
京子もクマを作る目で、疲れた笑みを返した。
「大丈夫みたいよ。これ……結構調子いいかも」
……強がりを。
見た目にも京子の疲弊振りは明らかだ。が、イゾーデに頼むのが最善らしい。
目を逸らすように、雷は自分のシートに着いた。
「イゾーデ、奪われたシステムのハックは出来るか?」
「完全に取り戻せる可能性は、毎時0.02%の確率です」
「そんな大掛かりなのはいらない。監視システム、一部でいい」
「2分、お待ち下さい」
……簡単に言ってくれるぜ。
思わず笑みを漏らした雷の目の端に、何やらコンソールで格闘する京子を捉えた。
「お前、何を……」
京子はふらりと雷に目を向け、ブイサインを見せた。
「火器管制システムの解除……。イゾーデに……教わった……から」
「だから、今は無理すんなよ!」
再び作業に戻る京子。
「……必要、でしょ」
反論出来ない。
「これ……やったら、あたし休むから……」
頼む他なかった。
「……悪い」
「完了しました」
感傷にひたる暇などない。この衛星は刻一刻と火星に高度を落としつつあるのだ。
正面のディスプレイに各所の分割映像が流れた。その中の一つを探し、雷の目が疾る。
……あった。
「C-11とC-12の映像をアップしてくれ。他は待機」
「了解しました」
C-11、12に映る映像。それは、動力炉内部と、ランディ率いる部隊が今にも交戦を開始しようとする映像だった。
そこには……。
「駄目だランディさん!!」
-動力炉-
「隊長、行けます!」
ランディの前に並ぶ騎士5名。堅く閉ざされた動力炉の扉に向かい、手を翳す。
残るはライトニング・ブレードを構えていた。
「発動!!」
ランディの号令一声、5人の足下の法円が光を放つ。
「イフリート、我らに力を!!」
5人の合わせた火が炎となり、一点集中、扉を熔解した。
「突入!!」
力を放出した騎士5人の後ろより、抜刀隊がランディを先頭に突入。動力炉内で散開した……が、
「居ない!?」
室内に人気がない。見渡すと、床に大きく穴が開いていた。
「逃げたか!」
そうとなれば、
「システムを取り戻せ!」
騎士達はブレードを収め、コントロール・パネルに取り付いた。その中の1人が振り返る。
「隊長!これを」
ランディが急ぎ駆け付けた。
「こいつは……」
動力炉が暴走を始めていた。そして、画面にメッセージが。
「再生しろ」
画面に現れたのは連邦の大尉、ジョージ・マッコイだった。
『はいは〜い、お疲れさん。俺達の用事は終了した。炉心は危険な状態にある。お前さんらも早く逃げろよ。それじゃ』
「ふ、ふざけおって!」
ランディはコンソールに拳を叩き付けた。
「隊長……」
すると、手元の通信に呼び出しの点滅が。
『ランディさん、聞こえますか!?』
雷だ。
「おぉ二代目、待たせてすまんな」
努めて冷静に言葉を返した。
『そんなことはいい!逃げてくれ!!』
ランディは苦笑した。
「それは出来ませんな。未だ港を開けておりません」
そしてランディは部下達に目を向けた。
「お前達は逃げろ」
彼らは茫然と動きを止めた。
『ランディさん、1人で犠牲になる気ですか!?』
しかし、ランディはそしらぬ顔だ。
「港を開けねば、フェスト人は全滅ですぞ。私一人の命で済むのであれば……」
『人数の問題じゃないですよ!他の方法を考えます!!』
「二代目、早く脱出せねば、火星の重力に捕われてしまいます。それに、炉心が暴走しとります。この年老いた頭では即急な代案などとても……」
『だからって……』
「時間の無駄は出来ん。王女もおられよう」
ランディは作業に取り掛かる。
『でも、貴方のような人物が必要なんです!!』
雷の懇願を鼻先で一蹴。
「何を言ぅておる!これからはお前達の時代だろうに」
ふと視線を移す。すると、部下達がコンソールに張り付いていた。
「お前達、今の話を聞いておらんかったのか!!」
部下が笑ってみせる。
「私が覚えているのは、騎士とは死ぬことと見つけたり、ですよ」
「何を……」
「隊長じゃ間に合いませんよ。お供します」
「お前達」
ランディは目頭を熱くした。
……なんということだ。
時代遅れの騎士、宇宙のドン・キホーテ……などと陰で言われたロートルのランディ。しかしどうだ、こんなにも付き従う若者達が居たのだ。
「馬鹿もんが……」
目に涙を溜めるランディから、部下の騎士達はわざと視線を逸らす。
「隊長、さぼってないで急いでくださいよ」
「言われんでも分かっとる!」
ランディは目を拭い、コンソールに立ち向かった。
「システム書き替え完了!」
「港湾施設電力回復!」
準備が整った。
「よし、港を開けろ!!」
港の空気流出。隔壁が動き始めた。




