表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/75

亡国の王女

    -埠頭-

 レイから連絡を受けたコールとクリスティーナが埠頭に駆け付けた時には、丁度エステールの救護班がストレッチャーにケイトとロイを載せる所であった。

 「ライツ!」

 その光景の端、イゾーデを付き添わせて、京子を担ぐ雷を見た。

 「ライツ、何があった!」

 コールは雷に走り寄り、その肩を強く掴む。

 「……色々です」

 呟くように言った雷の目……いつもの闊達とした気性を映す光が失せていた。

 「色々で、こんな早く港に着くか!それに、命令では医務室待機だぞ!!」

 もはやそんな命令など、何の意味もなさないことはコールも承知の上だ。

 「副長さん……ごめんなさい」

 「王女……」

 京子が、小さな声で、それでも精一杯言葉を発した。

 「あたしの……せいです」

 「京子はしゃべるな」

京子はかぶりを振った。

 「ロイを……助けられなかった……」

 コールは眉を顰めた。

 「お前達、一体……」

 転瞬雷の瞳が燃え上がる。

 「副長、これは何なんですか!!」

 コールは言葉を詰めた。

 「俺達にもう国はない!連邦を覆そうという気もない!!ただ……ただ平穏にいられればそれでいい。なのに、なのに何でこんなに傷つかなきゃならないんですか!!」

 コールには応えられなかった。連邦にとっての、人種的不安要素、求むべき財宝、その道標。いや……雷もそんなことは分かっているのだろう。これは、迫害であり、狩なのだ。

 「いつになれば安穏と暮らせる……京子だって、望んで王女をやってる訳じゃないんだ!!」

 コールは疲れ果てた京子見た。

 亡国の王女……。これほど辛い物はない。いや、元より京子は国や王位などどうでもいいのだろう。ただ、自分が自分でありさえすればそれで……。

 「ライツ、我々は……」

 コールが口を開いたその時、突如港が激震し、轟音が耳を劈いた。まるで、ダイモスごと火星に墜落したような。

 埠頭のクレーンが倒壊し、頭上からは照明や支柱などが降り注ぐ。

 「く……無事か!?」

 自らも転倒して腰を強打したコールは、激震収まらぬうちに立ち上がる。

 「大丈夫だ」

 「京子も無事です!」

 クリスティーナと雷が続けて返答。

 『副長!』

 エステールのスピーカーよりレイが呼び掛けた。

 「何があった!!」

 『フォクスターの主砲、直撃です!』

 コールは眉を寄せた。

 「まさか……」

 被害が大きすぎる。エネルギー兵器に対する障壁は万全な筈だ。しかも、衝撃をコントロールするイナーシャル・キャンセラー(慣性制御装置)は連邦の機動要塞をも凌ぐ。

 なのに……。

 『それが……防御システムがダウンしています!』

 コールは僅かに呻き、胸元の通信機を取り出した。

 「ランディさん、現状は!?」

 程なくランディからの返答が。しかし、音声から読み取る周囲が物々しい。

 『すまんな。動力炉を占拠されて、システムをダウンされてしもうた。突っ込んだ部隊が二つも全滅してな……。まぁ、しばらく待ってくだされ。システムを取り戻し、港を開けます』

 妙に熱く感じるランディの声音。この感覚は……。

 「ランディさん、あんたまさか自ら!」

 『豪気のランディ、まだまだ戦えますわい』

 ……突入準備、整いました!

 ランディの背後より声がした。

 「貴方まで行くことは……」

 『しかし、あそこを開放せんことには、艦も出せん。副長は残った者を集め、出撃準備をしていてくだされ』

 その話を聴いていた京子が顔を上げた。

 「まさか……ランディさん……死ぬ気ですか!?」

 『おぉ、その声はセリア王女!ご無事でしたか。このランディ、立派に王女の役に立ってみせますぞ』

 「やだ……だめ、死ぬ気なんて……」

 『副長よ、ぬしの勝ちですな。やはり王女は良き王女に育ちました。こんな老いぼれの心配をしてくださるとは……』

 騎士としての覚悟。それを感じるコールは何も言えなかった。

 『王女よ。騎士とは死ぬことと見つけたり。今こそ長年の夢を叶える時なのです。行かせてくだされ』

 「やだ、やめて!」

 すると、その通信が一方的に切れた。いや、これは……。

 「切断です。通信が奪われました」

 イゾーデが冷静に報告した。

 「誰が……」

 いや、奴しか居ない。

 『……聞こえているか?』

 僅かな雑音の後、覚えのある声が流れた。

 ……やはり。

 『こちらは連邦宇宙軍第225独立特務部隊巡洋艦フォクスター艦長、ヨハン・クラウス大佐だ』

 雷たちに緊張が疾る。

 コールは反射的に応答した。

 「野良犬クラウス、久し振りだな」

 『その声は……ディアスか』

 ダイモス内のフェスト人が次々とエステールやリステンに乗り込む喧騒の中、ここだけが異様な緊張に包まれた。

 「この手際、貴方だと思ったよ」

 コールの声には敬意と侮蔑が入り交じる。

 『光栄の至りだ。本当はジョーカーと話したい所だが……時間がない、貴公に伺っておこうか』

 「時間が……ない?」

 『知っての通り、うちの海兵が動力炉を占拠した。システムも乗っ取った。今の主砲の一撃で、その衛星は軌道を変えたぞ。……惑星への衝突コースだ』

 コールと、そして雷たちも息を詰めた。

 『港が開かなければ、全滅。ただ、チャンスを与えよう。無条件降伏と、翔龍姫及びセリア・フェスト王女の引き渡しだ』

 コールの頭に血が昇る。

 「ふざけるな!出来る訳なかろう!!」

 『30分待つ。それまでに答えを出せ』

 そして通信は一方的に終了した。

 「くそっ!」

 最悪の事態だ。

 雷は京子に頷き、歩き出す。

 「ライツ!どこへ……」

 足を止めた。

 「30分待つ?詭弁ですよ。態勢を整える為のね。基地も墜ちる。そして京子は絶対渡さない。なら、俺の行く所は宇宙(そと)……翔龍姫ですよ!!」

 翔龍姫へ向かう雷の背を見つめ、コールは腹の底が熱くなるのを感じた。そう、まったく奴の言う通りだ。自分の不甲斐なさを恥じた。

 ……あの背は、間違いなくジョーカー・クロウの息子の背だ。かつては烈火の隊長として敬愛された、熱き男。

 「ライツ!」

 真っ直ぐな瞳が振り返る。

 「細かいことは言わん。王女を護れ。そして、合流するまで自由にやれ!!」

 「はい!」

 雷はコールに力強く頷いた。

 雷を見送り、コールはクリスティーナの背を叩く。

 「我々も行くぞ」

 「あぁ……」

 マイペースの見本、クリスティーナも感化されているようだ。その背に力が入っていた。

 「レイ、聞いているか!?」

 コールはエステールに向かいつつ声を張り上げた。

 『はい、捕捉してますよ』

 「即応待機。艦内放送で航法2級以上の者をブリッジに上げろ。私もブリッジに向かう!」

 エステール搭乗口は艦内に避難するフェスト人でごった返していた。その中を、コールとクリスティーナは掻き分けるように進んだ。

 「どいてくれ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ