本望
-埠頭-
コンクリートで固められた足場に、不意と蛍のような光が出現した。
それは急速に数を増し、中央に向かって渦を巻く。金色に輝く粒子の渦。中心に向かうそれは極大を迎え……激しく発光。鋭く閃光を放つと、唐突に消えた。
いや、何か居る。
「兄貴!ケイト!!」
「くそ、ケイト、呼吸しろ!!」
ハリーと雷……イゾーデとそして、動かぬロイとケイト。その中、未だ淡い光を放つ者が居る。……京子だ。京子はケイトを強く抱き締める。
「いや……生きて……」
ふと、雷が周囲を見回した。
「……え?」
違う。さっきまでの光景とあまりに違う。
「おい、ハル……」
「うるさい!」
ハリーは肩口から腹まで斬り裂かれた兄、ロイにすがりついて離れない。
「ちょっと見ろよ!リステンがいる、エステールも……ここ、港だぞ!!」
さすがにハリーも周囲に視線を走らせた。
「な、に……?」
「俺達に、一体何が…」
「絶対死なせない!」
京子の絶叫。その声に、雷は京子を見た。
「お、おい!」
その、光り輝く姿に言葉を失った。
……まさか京子が!?
何も出来ずにいる雷の前で、京子が一際強く輝いた。
これから起こることは分からない……しかし、想像がつく。
「やめ、ろ……」
「いやだ!あたしは諦めない!!」
もう、直視出来ない程の光球である。
「うぅぅあぁぁぁぁぁ…!!」
ケイトの喉に空いた孔が塞がり、蒼白だった顔に血の気が戻る。
「か……はっ……」
むせるように、ケイトが呼吸した。
「嘘……だろ……」
死んだ筈のケイトが、弱々しくも再び命の鼓動を刻み始めた。
「どいて!」
京子は唖然とする雷とハリーを突き飛ばし、今度はロイに取り付いた。
「お願い、生き返って!」
「止めて下さい!」
再び金の閃光を放ち始めた京子。イゾーデが悲鳴を上げた。
「王女の、セリア様の体が保ちません!!」
は、と雷は我に返った。そうだ、ゲィツを介さずこんな力を使い続ければ……。
「セリアが死んでしまいます‼︎」
「けど……」
雷は躊躇した。一度は死んだケイトが蘇生したのだ。或いはロイも……。
雷にはそれを止めることなど出来なかった。しかし……。
「王女、おやめ下さい!」
「……ハル!」
ハリーが、最も兄の蘇生を願う筈のハリーが声を張り上げた。
聞こえているのかいないのか、京子は力を使い続けた。
しかし、肩口から腹まで両断された傷。僅かに、ほんの僅かづつしか蘇生しない。
……このままでは。
「お願いです王女!止めてください!!」
ハリーの叫びに、今度はかぶりを振った。
「助ける!絶対生き返らせるから!!」
「そんなことをしても、兄は喜びません!!」
遂にはハリーの目を涙が伝う。
「でも、生き返らせられるんだよ!!」
「兄に恥をかかせないで下さい‼︎」
ハリーの絶叫に、京子は息を詰めた。
「兄は騎士です!誇り高きフェストの騎士です!!王女の命と引き換えに蘇ったとして、生きていけますか!?」
京子が愕然と肩を落とし、金色の光は明度を落とし始めた。
「あたしの命なんて……」
「王女の命を救う為に死んだのであれば、本望です!」
苦渋の選択だ。
恐らく、このまま力を使えば蘇生しただろう。しかし、京子の命の灯は確実に……。
肉親に対して、それを選択してのけたハリー。
一瞬放心した京子は、ロイの亡骸にうなだれた。
いやだ……こんなのいやだ。助けられるのに……。なんで、駄目なの?
「あたしの……あたしの命って、何?」
納得出来ない。
「だっておかしいよ……。あたしを助けようとして、死んだのに……ダメなの……?」
京子は雷を睨み付けた。
「王女って、何なのよ!」
その見開く両目より、茫沱と涙が溢れ出た。
「なんにも出来ないのに、犠牲者出してまで生き延びるなんて……そんなのおかしいよ!」
「京子……」
「教えてよ、雷!!」
泣き崩れようとする京子を、雷が抱きかかえた。
「お前は、フェスト人の生きる希望なんだ。……ごめん、だから……ごめん」
後は言葉にならなかった。雷には分かるのだ。京子が何を望み、どうありたいかが。しかし、自分も騎士なのだ。
……京子、ごめん。
後はただ、京子の慟哭だけが辺りを木霊した。
ただでさえ消耗していた京子、感情をも爆発させて号泣したのが効いたか、ぐったりと力が抜けた。
……馬鹿だよ、ホントに。
京子の境遇に憐憫を感じていると……
『ライツ!何やってる、無事なのか!?』
エステールのスピーカーだ。雷は反射的に振り返る。
「レイか!?」
その先輩ゲィツの声に、雷はやるべきことを思い出した。
「レイ、ストレッチャーを2台頼む!」
『おい、王女が負傷したのか!?』
この腕に抱き締める京子の息遣いを確認し、かぶりを振った。
「王女は泣き疲れただけだ。怪我はない。とにかく早く!」
『お……おう!』
そして、唇を噛んで涙を堪えるハリーを呼んだ。
「ハル!ストレッチャーが来たら、ケイトと……ロイを乗せて、一緒にエステールへ行け!」
ハリーは無言で頷いた。
「俺は……イゾーデ、翔龍姫を出す!」




