業炎と疾風
-港 埠頭口-
埠頭と通じる路は、耐爆使用の隔壁によって閉鎖されていた。
「爆薬を増やせ!」
ファルコン・リーダー、コーツ大尉の命令に合わせ、隔壁に取り付いた兵士が指向性爆薬を壁にセットした。
漂う硝煙の臭いと、焦げ具合。既に2度の挑戦がなされた後だ。
「爆破準備、完……」
振り向いた兵士は、そのまま凍り付く。
怪訝に眉を寄せるコーツ。
「どうした?」
自分に焦点があっていない。更に向こうの……。
「困るなぁ、連邦の……」
ゆっくりと肩越しに背後を見る。二人、手配書で何度も確認した、クロウ海賊団『業炎のディアス』と『疾風のレオン』、ゲィツの2ndと3rdのお出ましだ。
「ドアは普通に開けてくれよ」
余裕の笑みを浮かべるコール・ディアス。
最前線で戦うコーツも、危険人物のワースト10入りをする有名人に直接会うのは初めてだ。百戦錬磨の海兵隊大尉は緊張に喉を鳴らした。
「連邦の、騎士の情けだ。今撤退するなら、格納庫で私の部下を殺したことは忘れよう」
クリスティーナがにやりと笑う。
……嘘だな。
「ふざけてもらっては困る。我々腐ってもクラウス大佐揮下の海兵隊だ。情けなど無用!」
コーツの手が上がる。
「撃てぃ!!」
整然と並ぶ海兵15人、一斉にライフルを斉射した。
「来い、守護神シルフィード!」
二人の足下が一瞬閃いたかと思うと、姿が消えた。
轟く銃声の後、兵士達は着弾位置を凝視。
……消えた!?
いや、風を纏ったコールとクリスティーナは高速で兵士の視界の外、隊列の左手へ駆け抜けた。
いち早く気付いたコーツが、速射性能を誇る空挺用ライフル、ジッツァSA-86の銃口を振り向けフルオートで弾丸を射ち出した。
5秒で弾倉内の30発は空に。
「イージス!」
しかし、その全弾が見えない何かに阻まれ、コールの前で停止、地面に転がった。
「く……」
呻きを洩らし、スペアの弾倉を取り出した。その間に……、
「せぇやぁぁ!!」
コールとクリスティーナが入り乱れるように隊列へ。その手には光の剣が。一瞬にして15人の兵士が崩折れた。
「最後だな、連邦の……」
コーツは凍り付く。
……格が違う。
コールが手を組むと、足下に法円が輝いた。
「来たれ、我が神獣イフリート!!」
コーツの背筋に戦慄が疾り、咄嗟にライト・シールドを展開。
……業炎のディアス!
その字を思った時には遅かった。突如空間に出現した紅蓮の炎は、いとも簡単にシールドを浸食し、周囲の鋼鉄ごと焼き付くした。
「ふぅ……」
未だ熱気に陽炎を浮かべる中、コールは軽く息を吐いた。
「ふん、敵ではな……」
すぱんっ、とその頭を平手が張り倒す。
「……ってぇ、クリス!いきなり何をする!!」
頭を押さえて振り返るコールを、眉間に皺を寄せたクリスティーナが睨み付けた。
「基地及び艦内は火器厳禁!」
「おいおいおい、連邦の海兵隊を倒すのにイフリート呼んで文句言うなよ」
「ダメ!剣でかたが付いた筈だ。それに、僕は禁煙させられたんだぞ!!」
……詰まる所、その恨みか。
「悪かった。以後気をつけよう」
クリスティーナは頷いた。
「連邦を相手に気持ちは分かる。……でも、指揮官があまり熱くなるな」
「まったく、俺が後輩に諫められるとはな。団長が見ていたら笑われていたな」
と、コールの通信端末が呼び出し音を響かせた。
「コールだ」
『ディアス、急いでエステールを出せ!!』
CDCのランディからだ。
「何事です?」
クリスティーナの忠言に従い、冷静に問い質す。
『別動隊がおった!動力炉を占拠された!!』
「爆破するつもりか!?」
瞬間的にセリア王女の安否が気に掛かる。
「王女はどうしてますか!?」
『それが……』
不意にランディが言い淀む。
『医務室におられんのです!』
……ライツか!
「サーチ出来ますか!?」
『いえ、混乱しとりまして……』
無理は承知だ。今の状況で個人の判別は難しい。
と、コールの側で風が巻く。
……その手があったか。
クリスティーナがシルフィードを召喚した。しかし……クリスティーナの表情が不穏に曇る。
「……有り得ない」
「有り得ない?」
「反応がない。僕の大気内で反応がないなんて……」
クリスティーナのシルフィードは、同じ空気を共有する空間において、全てを認知する。それが、死体であったとしても、だ。にも関わらず、彼女が反応を拾えない、ということは……。
焦燥を現すクリスティーナに、コールが詰め寄った。
「有り得るか有り得ないかは後回しだ!つまり、王女はどうしたんだ!?」
「つまり……この基地内に王女が居ない」
冷徹で知られるコールの顔が、見る見る青ざめた。
「ここに居ないだと!?」
-エステール-
「王女が居ない~!?」
先輩もへったくれもない。エステールのブリッジで出港準備を進めていたレイ・ハワードは、コールからの通信に思わず声を張り上げた。
「ちょっと待って下さいよ、ライツはどうしたんですか!この非常事態にあの馬鹿……」
『分からん。奴も反応がない』
「何でまた……」
レイは奥歯を噛み締めた。
……野郎、後でぶん殴る!
『私とクリスはこれから基地内を探す』
「あ、俺も行きます」
『いや待て。お前はそこに居ろ』
厳然たるコールの態度にレイは言葉を詰める。
「あ……で、でも……」
『別動隊が動力炉を占拠した。更に巡洋艦2隻が接近中だ』
「それは……」
『或いはこの基地を放棄する。これより順次艦に退避するよう通達した。お前はその指揮を執れ』
レイの表情が悲痛に歪む。
「はい、了解しまし……」
傍らのセンサーが反応し、レイはふと言葉を止めて目をやった。
…200m付近に空間の歪みだって?
見たこともない数値だ。
「ふ、副長、ちょ、ちょっと待って下さい。今……」
急いでモニターを港へ。すると、何もなかった空間に、突如金色の粒子が出現した。




