ヘンドリック兄弟とケイト
-第3連絡通路-
6人が駆け抜けた。
騎士団のハリーを先頭に、ケイト、雷、京子、イゾーデ、ロイ。
「で、ライツ、どこに行くんだ!?」
今更ながらハリーが訊いた。
「ハル、思いっきり先頭走ってボケてんなよ!」
「あ……ご、ごめん」
返事は後ろからだ。雷の突っ込みに、兄のロイが応えた。
「だから、何でロイが謝る!おいハル、港だよ。翔龍姫に乗る!」
ケイトが振り向いた。
「え……でもあたしら、翔龍姫に乗れないでしょ」
翔龍姫のセキュリティーはDNA登録による。今は京子と雷以外、入船すらかなわぬ状態だ。
「エステールに乗れ。どうせ一緒に行動するんだ」
「え……」
ハリーとケイトの目が恍惚と泳いだ。
「エステールに?」
「あたしらが……乗っていいの?」
頬が紅潮していた。仕方あるまい。エステールは騎士団の旗艦だ。今でもエリートにしか乗艦が許されぬ。若手の騎士にとっては憧れの的だ。
「かまやしないよ。別に特別な艦て訳でもない」
「簡単に言ってくれるわよね」
雷は当然エステールが定位置。一般騎士とゲィツとの、嫌でも差を感じる瞬間だ。
「ふっふっふ、構やしないさ。俺、そぉいうことなら、燃えるぜ!」
「止まれ!」
不意に雷が叫ぶ。次いで京子を抱えて廊下に伏せた……直後、壁面が爆発した。
-格納庫跡地-
マッコイはブレードをOffにして大きく息を吐く。
「うちの犠牲は何人だ!?」
最初に駆け付けた騎士達だっただけに、こちらが圧倒的多勢で凌いだのだが……。
マッコイはフェスト人の屍に目をやった。
……敵ながら厄介な相手だ。
剣と妙な術との併せ技に、かなり苦戦した。
「ウルフ中隊、1人死亡、3人重傷です!」
口許を歪めた。銀河系最強などと謳う、連邦の海兵隊が少人数にこの被害だ。
「お前の隊は優秀だな」
ファルコン・リーダーのコーツ大尉だ。
「嫌味か?」
コーツはかぶりを振った。
「いや……。うちは7人やられたよ」
マッコイは眉根を寄せて背を向けた。
「悪かった……」
コーツの手がマッコイの背を叩く。
「構わん。戦闘だからな」
「で、隊は保持出来てんな?」
「あぁ」
「よし、予定通り行こうぜ」
マッコイはコーツに軽く敬礼を送り、整列するウルフ中隊へ向かった。
「ファルコン中隊とはここで別れる。ファルコンは港へ、俺達は動力炉破壊に向かう!怪我人はここで待機、各自責任を負え!」
-第3連絡通路-
一度吹き込んだ爆炎は、渦を巻いて壁の外へと吐き出された。衛星外への貫通孔が開いた証拠だ。
雷達を包むように光が発生し、爆発と乱流より保護した。ヘンドリック兄弟の兄、ロイの召喚した盾である。
「うっひゃぁ。サンキューな、ロイ」
爆炎の引いた向こうに、その爆発孔に人影が多数蠢いた。
……侵入者か!
反射的に行動したのはハリーだった。
「せぇぇぇやぁぁ!!」
腰のライトニング・ブレードを2本、閃光を発して抜き打ち。左手がブレードを弾き飛ばし、右手が相手の胴をなぐ。
「ぐぁぁぁ!」
胴を斬られた男が転倒。その衣服は辺境のカーゴシップ・パイロット(貨物船員)のそれであり、統一のとれた軍人とは程遠い。
「……海賊!?」
するとその孔内より赤い光点が二つ、金の長い髪を流してあの女が現れた。
「いい所に出たわ。久し振りね、ライツくん。それと、可愛い王女様」
人口網膜により、熱源感知も可能な瞳を持つ鉄腕海賊のNo.2、鷹の目……
「ルーテシア!なんでここに!!」
目の前に揃った海賊の姿に、雷はしばし唖然とした。
聞いていたのは連邦宇宙軍だ。鉄腕がここまで嗅ぎ付けたなど……。
ルーテシアは雷の焦りなどおかまいなしに、ウィンクをしてみせた。
「年上のお姉さんを呼び捨ては良くないわよ」
雷の後ろに下がる京子は眉根に皺を寄せた。
「あたし、やっぱあの人嫌い」
するとケイトも頷き、
「それ同感」
「失礼ね。そんなんじゃ、少し手荒になるわよ」
ケイトのこめかみがヒクリと反応。
「上等じゃない。やってもらおうじゃないの!」
勢いよく飛び出したケイトの手に、ライトニング・ブレードが。ルーテシアの胴目掛けて光が疾る。
「姐さん!」
胴を切り裂く直前、蒼いスパークが発生した。
「焦んじゃないよ」
抜き手も見せぬルーテシア、ブレードで受け止めていた。
「あんた、気に入ったよ」
美しくも冷徹な微笑み。ケイトは殺気を感じて飛びすさる。
その床が爆発。ルーテシアの左手首に、スタン・グレネードが巻かれていた。
「えげつないじゃん」
「くたばれ騎士道……ってね」
互いに視線を交わす。
「手出しすんじゃないよ!!」
睨み合うケイトとルーテシア、異口同音に叫んだ。
同時に間合いを詰める。
「我が盟友、シルフィード!!」
風が巻き、ルーテシアを直撃。態勢を崩したルーテシアにケイトはブレードを疾らせる。
「ちぃぃ!」
ルーテシアが左手を翳し、電光が閃いた。スタン・グレネード。爆発がブレードを弾き返し、ケイトはそのまま後転で間合いを空けた。
「ぼぉっとしてんじゃないよ!お姫さん捕まえな!!」
「セリア王女、ライツ……この隙に港へ!」
場が、騒然と動き始めた。
「任せた!」
雷は京子の腕を掴み、敵中突破を試みる。が、京子が動かない。
「だめ雷!置いてけないよ!」
その僅かな間が分かれ目だった。
海賊達6人が一斉に押し掛ける。
「覚悟しやがれ!」
「通すかよ!」
ハリーが両手広げてブレードを疾らせた。しかし、2人がブレードを受け止めた。4人が雷……いや、京子に殺到。
「く……」
京子に止められる雷は出遅れた。
そこに、
「イージス!」
法円が発生、4人の海賊を弾き飛ばした。
二刀の弟、防御の兄。ヘンドリック兄弟の兄、ロイは召喚術を得意とした。
「ナイスだロイ!そのままキープ!!」
雷が手を組むと、足下に法円が光りだす。
「来い、守護神トール!!」
空間が唸りを上げた。嵐のような雷撃が通路を一掃。
「ライツ……防壁が保たないよ……」
得意と言っても一般騎士だ。ゲィツクラスの、手加減した術とて威力が違う。
「く……」
雷が術を引いた。
嵐の終焉と共に、防壁が消失。3人の海賊が黒く焼け焦げていた。残りは……。
「甘いぜ、騎士さんよ!」
「ライト・シールドか!」
ルーテシアも難を逃れ、再びケイトと刃を交わす。
「ハル、ロイ、頼んだ!」
雷は手を組み、広げたそこより光の剣を引き抜いた。すかさず飛び込む海賊の喉元へ突き。
「甘いぜ!」
躱された。しかし、腰より銃を抜き、狙いもそこそこに発砲。海賊は頭に弾丸を食らって吹き飛んだ。
……残りは!?
「いゃぁぁぁ!」
京子の悲鳴が甲走る。
「京子!!」
振り返ると、京子の頭上にブレードが振り上げられていた。
……間に合わない!
「セリア王女!!」
ロイだ。ロイが京子の前に飛び込み楯となる。そのままブレードはロイの体を切り裂いた。
「ロぉぉぉぉぉぉイ!!」
「え……」
目の前で体を裂かれ、ゆっくりと崩れ落ちる姿に、京子は言葉を失った。
ロイ・ヘンドリック。今の今まで自分のために戦ってくれた、優しい青年だ。それが……。
「兄貴ぃぃぃ!!」
ハリーが絶叫した。
海賊は尚もブレードを振り上げる。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
ハリーの投じたブレードが海賊の胸に突き刺さり、振り上げた姿勢そのままに仰臥した。
「うそ……」
京子は息のないロイの前に膝を付き、呆然とその姿を見つめた。
「ロイ!」
「兄貴!」
雷とハリーが駆け寄った。
「嘘だろ兄貴!返事しろよ!!」
その声をケイトも聞き付け手が止まる。
「ロイ!?」
その隙をルーテシアは見逃がさない。
「終わりだよ!」
「……!!」
ルーテシアのブレードがケイトの喉を貫いた。
「ケイト!」
「返すよ!」
ルーテシアによって蹴り飛ばされたケイトの体は京子の元へ。
京子は力ないその体を抱き締めた。耳元で、空気の抜けるような呼吸音が停止した。
「死……な……」
京子の表情が蒼褪め唇が震えた。
思いが、過去の思いが過ぎる。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
京子が金色に発光し、その光の粒子は雷達をも包んでいった。
「な……なんなの!?」
近寄れない。
ルーテシアの目の前で発生した金色の光は、彼女の奥底に恐怖を植え付け、その足を硬直させた。
次第にそれは形を失い、金色の粒子に。そして渦を巻き……唐突に消失した。
「……消えた?」
呆然と立ち尽くすルーテシアの前で、光は消えていた。いや、あのフェスト人の騎士達の姿も消えていた。
「姐さん、どうしやしたか!?」
衛星外部のクレシダから貫通させた繋船ラインより、増援が乗り込んだ。
「いや……」
ルーテシアはかぶりを振った。
……これが、本当のフェストの力?
それはあまりにも強大で、計り知れなかった。
……だから何?
恐れを抱き震える自分に舌打ちし、彼女は振り返る。
「船に戻りな。態勢を立て直すよ!」




